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FUTURE WAS COME マビノギオン  作者: 昕燻司
3/3

日常

 若戸が銃鑑賞に区切りがついた頃、時刻は既に一九時を回っていた。気が付くと、キッチンの方から、ほのかにビーフシチューの香りがしてきた。それに気が付いたと同時に、妹・アヤメの若戸を呼ぶ声がした。

今そちらに向かうことを言い、ショットガンを戻すために立ち上がろうとする。しかしどういったことか、ショットガンの銃口を上に杖ついて立ち上がろうとしてしまったため、立ち上がる瞬間に勢いよくネックレスをフロントサイトに引っ掛けてしまった。すると忽ちネックレスの鎖が切れてが弾け飛び、鎖を通していた指輪が床を転がっていった。

しまった。こんなことなら、ショットガンなんて弄らなければ良かった――…おいおい、それは死んだ父からの形見なんだぞ。そんなにコロコロ床を這っていい代物じゃない。

溜息と共に気持ちを整えてから指輪に手を伸ばした時、前のめりによろけてしまった。体を支えるために一歩前に歩を進めた。


 ――パキ。 音がした頃には、右足の裏に例えようのない激痛が襲った。

「――ッ?!??!!??」

 突然の痛みに動くこともできなかった。次に動いた時は、足の裏を確認してその残骸に落胆した時だった。太い軸に螺旋を描くような美しい彫刻が拵えてある、日本じゃ売ってなさそうな代物だった。というのも、ショッピングモールの通路で展開している、独特なデザインの装飾品が売られた店に、似たようなものも売っていたから、日本で買ったという線は拭えなかったのだ。それにしたって、目の前で指輪が壊れている事実に変わりはなかった。

父に貰った指輪は、てっきりシルバーの類だと思っていたものだから、たった一度踏ん付けただけで破損するほど、こうも脆いものだとは思わなかった。

 あぁ、お願いだから、ちょっとだけでいいから時間を巻き戻してくれないかな。なんて願っても、このご時世、タイムマシンが出来ただとかなんとかニュースでは言っていたが、そんな大層なものを手に入れる頃には皴枯れたジジイになってるに違いない。はぁ、こういった時に何の力も使えない現実はつらい。セーブロードは存在しない。ふと、ゲームの世界に逃げたくなった。

 あぁ、もういっそのこと、江戸時代とか、それぐらいまで時代を遡ってしまいたい。


 そう、本当に、些細な願いだったんだ。

突如として、暗闇が若戸を呑み込んだ。

「えっ、な、何」

 自分でも引くほど間抜けな声を出して唖然としていると、ふと、臓物が浮き上がる感覚がした――いや、それは臓物だけじゃない。それに気づいたのは、体が前のめりになるのを感じた時だ。

体ごと。 まるで自分の身体が僅か数グラムしかないかのように、ふよふよと浮いている。いや、性格には飛んでいる、なのか。

前方から、穏やかな風が髪を撫でていく。どうやら、何かに吊るされているようではないみたいだが、一応上を見上げる。すると辺りは光に包まれる。辺り一面同じ真っ白な景色の中、上も下も解らなかったが、へその向いている方向を下として首を上げると、そこには七色の空間が広がっているだけだった。

 この不可解な現象に次第に慣れつつある自分が怖い。

人間という生き物は、〝異変〟から〝慣れ〟までが早い生き物だと、理解するまでにそう時間はかからなかった。確かに、これならば、ライトノベルの主人公特有の場慣れの速さに納得がいく。

 突然、十三匹の妖精のような、翼の生えた小人のようなものが前方から飛び込んで来た。それは、状況を理解できていない若戸の周りを、ひらひらと嘲笑うかのように飛び交った。声は聞こえない。だが確かに、そう感じたのだ。

確か、何処かのラノベでは、〝エルフ〟と言ったか。あの、空想の産物が目の前に現れ、ふわふわと浮いていたというのに、自分の感性の中では、まるで精巧なVRでも見ているような感覚だった。

 奇妙な体験も、徐々に指先から馴染んでいった。そしてそれが体中を巡った時、若戸の身体は、ビックリするほど嘘のような、御伽話のような、そんな爽やかな風の流れる森に投げ出された。

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