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〔草村と豪華マンション〕

緑のエーサク 〔水の想い…風の歌…〕編



第6章〔草村と豪華マンション〕




憂稀と清美が火花を散らしていると、目の前に大きなマンションが姿を現した。


「ほら、着いたよ。」


「うわ~!でっかい~!」

「大きい~!」

「スゴイなぁ~!」


風見のマンションの2倍はあるでろう、あまりに立派過ぎて、草村以外は入るのをためらう程だった。


草村はいつもの通り、普通に玄関に入って行ったが、他の4人はあまりの立派な玄関に、お互いの制服をつまみ、恐る恐る草村の後に続いた。


そう、草村は一応、社長令嬢なのである。草村の親は、小さいながらもアニメ制作会社を経営していて、このマンションの上半分は草村の親が所有していて、自宅兼仕事場も兼ねているのだ。

小さいとはいうものの、何本も有名なアニメを手がけており、その名は結構有名だった。


草村達がエレベーターを待っていると、下りてきたエレベーターに、この立派なマンションには似つかわしくない男性が何人か乗っていた。無精髭を生やし、髪はボサボサ、ヨレヨレのシャツ、眠そうな顔。

しかし、その男達は草村を見るなり、


「お帰りなさい、お嬢さん。」


一斉にあいさつしたのである。


「ただいま。どう?はかどってる?」


草村の問いに、1人の男が、


「アハハ、今日も徹夜ですよ。その前に、みんなで腹ごしらえに行くんです。」


「そう、頑張って。」


草村は手を振り、男達を見送った。


草村達がエレベーターに乗ると、憂稀が、


「ねえねえ、草村さん、あの人達は知り合いなの?」


「うん?ああ、うちのイラストレーターの人達なんだ。今、1本作ってて、かなり忙しいみたい。たまにあたしも助っ人に呼ばれるかな。」


そして、草村の自宅がある階にエレベーターは止まった。

草村の自宅はマンションのワンフロアをぶち抜き、そこにそれぞれの部屋を作り生活していた。


エレベーターを降りると目の前に表札のある扉があったが、草村はそれをスルーしほかに何個かある扉の1つに向かった。


「あれ?草村さん、玄関はあっちじゃないの?」


友生が、さっきの扉を指差し、草村に尋ねた。


「ん?あれは正面玄関なんだけど、あそこから入ると、あたしの部屋まで遠いからさ、直通のドアを作ってもらったんだ。」


「どんだけ広いねん…」


思わず、関西弁でツッコミをいれる憂稀だった。


確かに草村が向かった扉には「IKUE’S room」と書かれてあった。


扉を開けると、小さな玄関っぽい所があり、そこに1匹の猫が、でん!と座って草村の帰りを待っていた。


「え?!この猫が、風見君が拾った可愛い子猫?」


憂稀が驚いたように言った。


「そんなわけないだろ、ダイスケはうちの猫だよ。」


「へ~、ダイスケ君って言うのか、大きいな~」


友生が頭を撫でようとすると、大きな体をゆっくり起こし、部屋の奥に入って行った。


「あ~あ、行っちゃった…」


友生ががっかりしてると、草村が、


「ああ、そうそう、ダイスケはメスだから。」


「え?メスなのにダイスケ?なんで?


「面白いから。」


友生達はあっけに取られ、草村のセンスについていけない友生達だった。


「お邪魔しま~す。」


草村に続き、友生達も部屋に上がった。


広い部屋の本棚には、おびたたしい数の漫画が、ぎっしりと入り、机の上には、パソコンと書きかけの漫画や原稿用紙が散らばっていた。


「スゴイなぁ~、見たことない漫画がいっぱいある。」


友生は床に置いてあった漫画を手に取り、パラパラと中を見た。


「な!?なんだこれ?」


友生はすぐに本を閉じ、床に置き直した。


友生が読んだ本はBL本だったのだ。


友生はもちろん、ここにいる全員がBL本を見たことがなかった。

しかし、よく本棚を見てみると半分以上がその手の本で埋めつくされていた。

4人はお互いの顔を見ながら、どうしたらいいのかわからないでいた。


その時、隣の部屋から草村が大きなゲージを持って現れた。中からは小さな鳴き声が聞こえた。


「連れてきたよ~。」


草村の声が終わるやいなや、清美が駆け寄り1匹の子猫を抱き上げた。


「ぶっちゃ~ん、元気だった?綺麗なお部屋で良かったね~」


清美が抱いた猫は、昨日風見に抱きしめられた時に抱いていた猫だった。


子猫を抱き上げ、ほお擦りしている清美を見ていた憂稀は、


「ぶっちゃん?」


「ねえねえ、水川さん、「ぶっちゃん」て?」


友生も不思議そうだった。


清美は子猫を友生に見せて、


「ほら、ここ、ここ、ここにぶちがあるでしょ。だから「ぶっちゃん」」


清美が抱いていた子猫には、ひたいの真ん中に黒い点があったのだ。

テンションMAXの清美に、少し引き気味の憂稀は、


「水川さんて猫好きだったんだ。」


清美は少し冷静になり、1人ではしゃいでいた自分が恥ずかしくなった。


「あれ?でも水川さんて、今日初めて子猫見たんじゃないの?」


友生が不思議そうに尋ねた。


「う…い、いや、じ、実は昨日、たまたま、偶然、ばったり、風見君と会って、子猫を見せてもらったの。それでお母さんに頼んで、子猫を飼ってもいいか聞こうと思ってるの。」


「水川さん、その子猫飼うの?」


憂稀のライバル心に火が着いた。


「じゃあ、私もお母さんに頼んでみる。」


「ダメだよ憂稀は、憂稀の家にはもう犬がいるんだから。」


友生が、なだめるように言った。


「じゃあ、友生が飼う。」


「え~!?ボクが飼うの?そりゃあボクも飼いたいけど、お母さんに聞いてみないと…」


「まあ、引き取り手が現れるまで、ここで世話してるから、いつでも会いにくればいいよ。ダイスケも、母性本能が目覚めたのか、よく一緒にいるからさ。隣の部屋がダイスケの部屋なんだ。」


「え?部屋があるの?」


「ちょっと見てもいい?」


友生と憂稀は興味津々だ。


「ああ、いいよ。でもダイスケの機嫌を損ねないように。」


「うん、わかった。」


友生はゆっくりと、部屋の扉を開けた。清美と香も一緒に覗いていた。


「うわ!広い!」


「私の部屋より広いんじゃない?」


全員、あまりの広さに目を丸くした。その広い部屋の隅に寝ていた、ダイスケがムクッと起き上がり、迷惑そうに、

「ニ゛ャ゛~~」と一言鳴いた。


「あ、ゴメンゴメン。起こしちゃったね。また来るね。」


清美がダイスケに謝って、ゆっくりと扉を閉めた。


清美は、ずっと子猫を抱いていたので、子猫は清美の腕の中でぐっすりと寝ていた。


「わ~、寝てる顔も可愛い~」


香も子猫は好きなようだ。


「あたしも飼いたいけど、お母さん遅いときもあるし、子猫が1人ぼっちになるからな~」


その時、香は部屋にある時計に目が行った。


「あ、もうこんな時間だ、あたし帰らないと。」


時計の針は7時近くを指していた。夏になり、日が長くなったとはいえ、窓の外は少し薄暗くなってきていた。


「ホントだ、私も帰らないと。」


清美は抱いていた子猫にキスをして、


「バイバイ、ぶっちゃん。きっとまた来るからね。」


そう言って、寝てる子猫を起こさないように、ゆっくりとゲージの中に戻した。


「じゃあ、ボク達もそろそろ帰ろうか。」


友生が憂稀を誘い、帰る用意をした。


「じゃあ、草村さん、私達そろそろ帰るね。」


「ああ、また明日。」


草村はいつも漫画を書いてる椅子に座り、手を振り清美達を見送った。


マンションを出た清美達は、草村の金持ちぶりに改めて驚かされていた。


「凄かったね~」

「ダイスケの部屋にはビックリしたよ。」

「一体いくつ部屋があるんだろうね。」

「子猫可愛かった~」


4人は家に帰るまで、草村と子猫の話で盛り上がっていた。


次の日、テスト2日目、やはり風見の姿は学校になかった。


「やっぱり、今日も休みなんだ…」


清美は少しがっかりしていた。そして、夏休み前にテストの結果が発表された。


そこには、誰も予想しなかった順位が張り出されていた…






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