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〔風見と子猫〕

テスト前日、偶然風見を見かけた清美。後をつけてみると…



 第3章〔風見と子猫〕  



そして、1学期最後のテストの日が近づいて来た。


相変わらず、清美は寝る間も惜しんで勉強し、風見の方はというと、夏休みに入ると短編映画の撮影に入るということで、エーサクの面々は勉強よりも、部活に精を出していた。


憂稀にいたっては、テストの事など、もうどうでもよくなっていた。



テスト前日の放課後、清美が帰っていると、コンビニから出て来た風見を見つけた。


「あれ?風見君の家って、こっちの方だっけ? もしかしたら、誰かの家で勉強するのかな?」


少しだけ気になった清美は、風見の後をつけた。


少し歩くと、川のほとりで泣いてる少年がいた。風見は少年に気付くと、土手を下り少年に近付いて行った。


「おい、どうした?なんかあったのか?」


ぶっきらぼうな言葉遣いだか、ちゃんと片膝をつき少年の目線まで頭を下げ、頭をなでながら尋ねた。


小学校低学年ぐらいであろう、風見は少年が泣き止むのを待って、もう一度理由を聞いた。


少年の話しによると、昨日、母親に買って貰ったばかりの帽子を風に飛ばされ、川に落ちたという。


風見が川を見渡すと、かなり流されてはいるが、まだ急げば届く距離に帽子が浮かんでいた。


風見は帽子を確認すると、靴と靴下を脱ぎ、なんのためらいもなく、ジャブジャブと川に入って行った。


幸いここの川は、流れも緩やかで、深さも1番深い所で膝上辺りだ。


隠れて見ていた清美は、


「ちょ、何やってんのあいつったら、もう夏だけど川の水はまだまだ冷たいのに…」


清美の心配をよそに、風見は約30分かけて、帽子を拾ってきた。


「ほらよ、大切な帽子なんだろ、次からは気をつけろよ。」


「ありがとう、お兄ちゃん」


少年は眩しいくらいの笑顔で風見を迎えた。


風見は少年に帽子を手渡すと、肩に手を置き、


「いいか、人はな1人で生きていけないんだ。困った事があったり、苦しい事があったら、回りの人に助けを求めろ、助けを求めるのは恥ずかしい事じゃない、逆に助けを求められて無視するほうが恥ずかしい事なんだ。

次は、君が困ってる人を助ける番だ。君は助けられた時の嬉しさを経験したからな。その嬉しさを他の人に与えるんだ。

とりあえず、家に帰ったら、お母さんの手伝いをしてみるといい。お母さんは毎日君の為に、いっぱい頑張っているから。今度は君がお母さんを助けるんだ。きっとお母さんも君と同じように、嬉しいと思うはずだから。」


風見は少年の頭をポンポンと叩くと、少年に家に帰るように言った。


少年が見えなくなると、びしょびしょのズボンのまま風見は歩き出した。


「なによ、あいつカッコつけちゃって…」


清美は少し離れて隠れながら、風見の後をつけた。


風見は土手を少し歩くと、川の上を電車が走っている橋があった。風見はその橋げたの下に下りて行った。

そこには、1つのダンボールが置いてあり、その中から小さな鳴き声が聞こえる。

風見が近づくと、鳴き声はますます大きくなっていった。ダンボールの中にいたのは子猫が3匹、ニャ~ニャ~と元気な声で、風見に向かって鳴いていた。

風見はコンビニの袋から、缶詰と水と皿を取り出すと缶を開けダンボールの中に置いた。

鳴き声はすぐに止み、子猫達は夢中で食べた。

隠れて見ていた清美は、


「あ~、子猫だ。カワイイ~」


清美は猫が大好きだった。犬派か猫派かと聞かれたら、即答で猫派と答えるほどだ。


清美は子猫が見たかったが、風見をつけて来た事がバレるのが嫌で、出ていけなかった。


そんな清美の気持ちをよそに、先に声をかけたのは風見の方だった。


「水川、そこにいるんだろ、出て来いよ。子猫見たいんじゃないのか?」


清美はビクッとして、柱の陰に隠れたが、観念して出て行った。


「いつから気が付いていたの?」


清美の問いに風見は、


「川で帽子を拾っている時かな。お前は可愛いから目立つんだよ。」


「か、可愛い…?そ、そんなことない!」


清美は真っ赤になって下を向いた。


「ほら、こっち来てみろよ、可愛いぞ。」


「う、うん…」


清美はうつむきながら、風見に近寄った。


清美がダンボールを覗き込むと中から「二ャ~ニャ~」と元気な声が聞こえた。


「キャ~!可愛い~!!」


清美は1番手前にいた子猫を抱っこして、


「この子達、どうしたの?捨て猫?」


「そうみたいだな。昨日、撮影のロケ地を探してる時に、こいつらを見つけたんだ。放っておく訳にもいかないから、今日草村に頼んで、飼い主が見つかるまで世話をしてもらうように頼んだんだ。あいつの所にも猫がいるから、まあ、飼い主に似て無愛想な猫だけど。」


「私もお母さんに頼んでみようかな…?


「ホントか?!水川!助かる。」


風見は、清美が抱いてる猫ごと抱きしめた。


「か、風見君?!」


清美は風見を押し返そうとしたが、猫を抱いてるので両手が塞がり、されるがままだった。


「風見君、風見君てば、子猫が潰れちゃう…」


「あ、ゴメンゴメン。つい…」


風見は慌てて、清美から離れた。


「ふぅ~」


一息ついた清美は、風見の肩越しに、段ボールから出た子猫が歩いてるのを見つけた。その子猫は真っすぐ川に向かって歩いていた。


「ちょ!ちょっと風見君!あれ!」


清美は風見を呼び、子猫の方を指差した。


「ヤバいだろ、あれ!」


風見が振り返った時には、子猫は岸壁まで行き、川を覗き込んでいた。


「落ちるなよ~!」


そう言った瞬間、風見の体は子猫のすぐそばまで行っていた。そして風見が腕を伸ばしたその時、子猫はバランスを崩し川へ落ちて行った。


「くそっ!」


風見も伸ばした腕をさらに伸ばそうと、体ごと子猫に向かっていった。


そして、右手が子猫に触れた瞬間、


「ボッチャ~ン!!」


風見は、頭から川に落ちて行った。


「風見君!!」


すると、すぐに風見は川から顔を出し、


「だ、大丈夫だ。子猫は無事だよ。」


と、子猫を抱えて、清美に見せた。


「もう、ビックリした~」


風見は川から上がると、シャツを脱ぎ、ギュ~ッと絞った。


「か、風見君…!」


初めて見る、男子の裸に、清美は赤くなり後ろを向き、空を見上げた。


「あれ?雨…?」


いつの間にか、小雨が降っていたのだ。


薄暗い橋げたの下、2人が気付かないのも無理もない。


「どうしよう…あたし傘持って来てない…」


「なんだ、傘持ってないのか。ほら、これ貸してやるよ。」


風見はカバンの中から、折りたたみ傘を取り出すと、清美に渡した。


「え?でも、風見君が濡れちゃうよ。」


「アハハ、これ以上どこが濡れるっていうんだい。」


風見は笑いながら言った。


たしかに全身ずぶ濡れの風見は、もう濡れる場所がない。


「それにいざとなったら、これを使うから。」


風見が取り出したのは、大きなビニール袋だった。


「これに穴を開ければ、簡易カッパになるから大丈夫。ほら、もう帰らないと雨が激しくなるかもしれないから。それに、明日テストだろ、ど~せ、お前の事だ夜遅くまで勉強するんだろうけど、ほどほどにな。」


清美は、ハッとテストの事を思い出し、


「そ、そうよ。明日のテストは絶対負けないんだから。じゃあ、私帰るね。」


清美は子猫をダンボールの中に戻すと、


「バイバイ、子猫ちゃん、またね。」



清美が家に着く頃には、雨が本降りになっていた。清美は、お風呂に入りながら今日の出来事を思い出していた。


「あいつ、ちゃんと帰ったのかな…でも、ちょっと以外だったな。結構良いとこあるじゃん。」


そして、抱きしめられた事を思い出し、顔が赤くなった。


「男子の体って、あんなにガッシリしてるんだ…」


さらにシャツを脱ぎ上半身裸の風見を思い出し、ただただ真っ赤になる清美だった。


お風呂から上がると、机に向かい勉強しようとしたが、風見の姿が頭に浮かび勉強どころではなかった。


「いけない、いけない。こんなんじゃ、またあいつに負けちゃう。」


清美はテストの事だけ考えようとしたが、勝負の相手が風見である、否応なしに風見の姿が頭に浮かんだ。


「ちょっとカッコよかったな…」


清美本人も気付かない、無意識に出た言葉だった。


「明日、傘のお礼を言わなくちゃ。勝負は勝負、借りは借りだからね。」


そう自分に言い聞かし、また風見と話せる事が、少し嬉しいと思う清美だった。



そして次の日、テスト当日、学校に風見の姿は無かった…









この出来事をきっかけに、清美の恋が加速して行くのであった。

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