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20140410『最初の1週間:弐』

……




 ……思い出すと、いまだに動機と発汗が酷くなる。


 ……まぁ、そんな『切っ掛け』で、私達は親交を深める事となった訳だが。



 あの時も、隣を歩く『彼女』を見ながら、私は頭を悩ませていたものだ。




 ───『ユーリ』は、不思議な魅力を持った女の子だった。



 けして、客観的に見て『美人』と言う訳ではない。


 無論、即座に切って捨てる様な不細工では無いのだが、女性として見た時に即座に感じる魅力的な部分と言うのは、いささか以上に薄かったと思う。


 敢えて端的に言ってしまえば、『胸』は小さめだったし、『目』は一重で、『スタイル』に関しても『お腹』、『腰』、『太もも』の肉付きはそれなりにあった。


 ……正直、街中で見かけても一瞬だけ目線をやって、それで終わる。 そんなレベルだったと思う。



 ……では、性格的な部分、精神的な魅力の方はどうだっただろうか。


 先の一幕でも分かる様に、物怖(ものお)じしない明るい女の子、と言うのが第一印象……だった様に思う。


 同時に…………何処かに感じる『暗い影』とでも言うべき所が、どうにも気になる。 とでも言えばいいのだろうか。



 人の目を見る時に、様子を伺うように僅かながら上目遣いになる癖。


 親しくない人間や、苦手な人間に対して見せる距離感。


 ボーッとしていたかと思うと、敏感に背後の気配に反応する時もあれば、逆に触られるまで全く気付かずに大声を上げて驚いていた事もあった。



 それでいて、『服装』はどうにも……『無防備』とでも言えばいいのだろうか。



 胸元が大きく開いた〈シャツ〉を、良く着ていて。


 足の付け根ギリギリまで見えている様な〈ホットパンツ〉や、〈ミニスカート〉を頻繁に着る。



 ……その『不安定さ』に、つい目がいってしまう。 そんな印象。




 ……客観的に見た場合の魅力で言えば、同じクラスになった『別の女の子』の方が、よっぽどクラスのアイドルとでも言う様な見た目だった。 笑顔も明るく、声もハキハキしていて、スタイルも良かった。


 ……もっとも、そちらはクラスのヤンチャ坊主共のグループに所属していて、接点などほぼ無かったが。 後で知ったが、そのヤンチャ坊主の一人と付き合っていたらしいしな。



 だがまぁ、そんな言ってしまえば客観的魅力に欠ける『ユーリ』には、私が異様に惹き付けられる『何か(・・)』が在ったのは間違いない。


 ……会って数日で、私はほとんどベタ惚れ(・・・・)とでも言うべき状態に(おちい)っていたのだから。




  □




「───んで、その後やってみました? 昨日すすめた『アレ』」


「……ん? あ、ごめん。 ちょっとボーっとしてた……何だって?」



 横合いからジロジロと、『ユーリ』の体を眺めながら考察していたせいで、何かを話しかけられた瞬間に反応できなかった。


 やってしまったと思いつつも、何を話し掛けてきたのか再度尋ねた俺だったのだが。



「んもー。 『チバ』さん……『モ・テ・な・い』……でしょ?」


「ッ!?」



 ……そのものズバリの現状を、半眼でボソリと呟く様に言われた時の俺の動揺と言ったらない。


 端的に言っても、相当滑稽だったのではないだろうか。


 もちろん、好意を向け始めている相手に言われた、と言う事も重なったと弁解したいが……いや、やめておこう。 恥の上塗りになるだけだな。



 俺の驚いた姿を見て満足したのか、軽く笑いながら『ユーリ』はてってってと軽いリズムで、こちらを放置して先に行ってしまう。



「にゃっはっは、冗談ですよッ!」


「ちょ……」 


先に(・・)『コンビニ』行ってますねー」



 住宅街の連続した細い路地は、少し先行されただけであっという間に相手の姿が見えなくなる。


 俺が一瞬躊躇(ちゅうちょ)してる間に、『ユーリ』の姿は路地の先に消えていた。



 ……まぁ、それでも問題は無い。


 『ユーリ』が先行したのは、学校のすぐ横にある『青』がイメージカラーの大規模コンビニエンスチェーンだからだ。


 今までの数日間でも、そこに寄って何かを買ったり、買わなかったりする事が日課となっている様だった。



 そう考えた俺は、やれやれと溜め息をつく訳でも、あちゃーと頭を抱えるでもなく。 ただ何も考えずにそこに向かう。



 ……俺は、別に物語の登場人物でも、ましてや主人公でもない。


 ただの、もうすぐ30歳が目前になる、一人のにわかオタクのオッサン未満だ。



 何も変わった事が起こるでも無い、平凡な学校生活を送るだけの。



 …………少なくとも、自分ではそう考えていた。




  □




「───あ、おっそいですよー! 待ちくたびれちゃったんですけどッ!」



 おそらく、『ユーリ』に遅れる事数分。


 まだ日差しも柔らかい春の日に、走るでもなく数分歩いただけで汗もかく筈も無く。


 何の気なしに、コンビニの入り口をくぐった俺を待っていたのは……『ユーリ』からの文句だった。



「……え、ちょっと待って。 俺が悪いの?」



 論理の飛躍についていけなかった俺は、思わず素で疑問を返してしまう。


 それに対する『ユーリ』の返答はと言えば。



「なーのーでー、ワタシはこの新発売の『抹茶オレ』を所望します!」



 と、ビシッと音がしそうな勢いでレジ横の看板を示す。 大袈裟な動きでも全く動きに遅れる事のない『胸』に軽く目線が行きつつも、指の先を確認してみれば。



「……これ、まだ発売してないんじゃない?」


「……ヘッ?」



 『ユーリ』が示した看板に表示されている、『抹茶オレ』の写真には。


 『5月初旬発売予定!』の文字が。



「……あ、あららー」



 気の抜ける声を上げながら看板を確認した後、大袈裟にガックリと肩を落とす『ユーリ』の姿。


 同時に、大きく開いた胸元からチラリと見えた『黒い布地』の姿。



 ……こう言う所が、かなり無防備だな。



 何て事を思いつつも、ゴソゴソとポケットから〈財布〉を取り出した俺は、中身を確認する。


 自分用の昼飯代を除いても、それなりに余裕があるのを確認してから、『ユーリ』に声を掛ける。



「んで、『抹茶オレ』以外なら何が良い?」


「……ふぇぃ?」



 一瞬呆けたような声を出した『ユーリ』が、目線を私の手元と看板の間で数度往復させてから、ニヤッと笑いながら言う。



「じゃあ、『ロイヤルミルクティー』でッ!」



 遠慮も何も無い、一番値段の高い商品の注文に、思わず。



「……普通、良いんですか? とか聞かな───」


「───良いんですッ!」


「……あ、そ」



 疑問系では無く、断定系の宣言に、それ以上突っ込む事に疲れた俺は。 店員に声を掛けて、そそくさと注文する。


 その場で()れるタイプのカフェテリア? メニューだったのだが……実は俺、今まで一度もこの手のメニューを注文した事がなかった。 その為、とりあえず店員に渡されたカップを右から左、『ユーリ』に手渡してそのまま店を出た。



 そのまましばし、コンビニの前を走る細い県道を通り過ぎる、まばらな車の流れをボーッと目で追っていると───



 ペトッ



「うわらばッ!?」


「わッ、ちょ、危ないです!」



 唐突に首筋に感じた『冷たい感触』に、思わず手で振り払いながら前に数歩飛び出る。


 何事かと振り返ってみれば。



「あー、ちょっとこぼれちゃいましたよ……もったいない!」



 左手の指先で、UFOキャッチャーのアームが摘むように〈カップ〉を持ちつつ、何かで濡れた右手をパタパタと振っている『ユーリ』の姿が。


 驚きで少々頭がフリーズしていた俺も、どういう事か段々と理解してきた。


 思わず半眼で、『ユーリ』の事をジロリと見てしまう。



「……誰のせいだ、誰の」


「えっと……『チバ』さん?」



 悪びれずに小首を傾げる『ユーリ』に、俺は一つ溜め息をつくと先に学校に向かって歩き出した。


 すると、すぐに後ろからてってってと軽いリズムが聞こえてきて。



「にゃはは、冗談ですよー。 はい、『チバ』さんも飲みますか?」


「……ん?」


「ほらほら、遠慮せずどーぞ! 美味しいですよ?」


「……じゃあ、一口だけ」



 『ユーリ』が、ほれほれと擬音が見えそうな位押し付けてきたので。


 安いカップや缶のミルクティーの、だだ甘い味が苦手なんだが……等と思いながらも、渋々突き出されたストローから、一口だけミルクティーを口に含む。



 ズズッ



 ……すると、口に広がるミルクの風味と、紅茶の味……甘みは、ほとんど感じない。 ん? 無糖なのかこれ……?



「……へぇ、悪くないな」


「でしょー」



 俺の感想を耳にした『ユーリ』が、楽しそうにしつつストローをそのまま自分の口に───



「あ」


「ふ? ふぁんです?」



 特に拭う訳でも、躊躇する訳でもなく。


 『彼氏』でも何でもない男の使ったストローで、そのままミルクティーを飲む『ユーリ』。



 その小さめの唇に、つい数瞬目線が奪われる。



「……いや、なんでもない」



 ……あーッ! それが無防備だっての……!



 慌てて『ユーリ』から目線を引き剥がし、進行方向を向いた私の耳に。


 横から聞こえてきたのは。



「『チーバ』さんッ! ありがとです! ごちそうさまでした!」


「……ま、一回くらいなら」



 素直に礼を言ってくる『ユーリ』に、つい目線を向けられない。



 高校生のガキじゃないんだぞ、何て自分に言い聞かせつつも。


 まともな恋愛をしてこなかったから、仕方がないね。 何て言い出す自分も居る。



 何とも言えない無言のまま、てくてくと数歩進んでいく。



 だから───



「……えー、毎日じゃないんですか?」


「勘弁してくれッ!?」


「にゃははははッ!」



 ───冗談めかした上目遣いで、ニヤニヤと笑いながら言ってくれた言葉のおかげで、俺はようやく『ユーリ』の方を向く事が出来たんだ。






 全く……年下相手に、何てザマだよ……?







……幸せ

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