20140403 『出会い:壱』
深い記憶から、浅い記憶へ……
「───へぇ! 『チバ』さん、元自衛官なんですか!?」
「あははは……いやぁ、もう退官してから丸々4年は過ぎてますからね。 今はもう、ただの『メタボ』ですよ」
「いやいや、結構ガッチリしてらっしゃるじゃないですかー」
「『ウシロダ』さんこそ、かなりガッチリしてらっしゃいますけど、何かスポーツを?」
「いえ、ボクのコレは筋トレですね。 鍛えるのが趣味なんですよ」
「おお、そうなんですかー」
……よし! 何とか、ファーストコンタクトは上手く行ったんじゃないか?
身長は俺と同じ位の170cm前後だが、体格と挙動は明らかにトレーニングを積んでいる。
このガタイと落ち着き、加えてこの朝早い時間に登校してるって事は、向上心も高い。
確実に、クラスの中でも『中核』か、『一目置かれてる』タイプの人間だ。
後は、この『ウシロダ』さんを足がかりに、クラスのいくらかの人間と交流しておけば、ある程度馴染めるだろう。
……流石に2年連続で休学したら、俺の事を知っている人間も少ないと思うけど……いや、例え知っていても気にしなければ良い。
俺には、何の後ろ暗さも無いんだから。
□□□
……そう考えた私は、その後もしばらく彼、『ウシロダ ヨウト』と雑談を続けた。
美容師の彼女が居る事、既に『柔道整復師』は持っている事、クラスの他のメンバーの事、等だ。
ああ、そう言えば年が同じで今年『29歳』だと言う事を伝えたら大分驚いていた。 まぁ、老けて見られる事は日常茶飯事だ。
雑談では特に、クラスの他のメンバーの事については非常に参考になった。
前にも少し書いたが、意外とこの業界は『ヤンチャ』な層の人間も多い。
とは言え、3年になっている時点である程度以上の真面目さは期待出来るが、面倒臭くない保障は何処にも無いのだ。
……もっとも、彼の話を聞く限りではそこまでヤンチャな人間は居ない様で、一安心だった。
後は『モトフジ』と言う人と『ヤマタカ』と言う人が、既に柔道整復師の資格を持っている上に、向上心に溢れたトップクラスの秀才と言う話だった。
この二人も、通学の時間の関係と勉強をする為に早く来ると言う話だったので、気に留めておこうと思った時だった。
□□□
ガラガラガラッ
「うぃすー。 『ヨウト』お疲れ……ん? そっちは? 知り合い?」
「あ、『モトフジ』さん。 いえね、この人今年度同じクラスになるんですよ」
「あ、そうなん?」
『ウシロダ』くんと向かい合って座っていた俺は、背後のドアの開く音と共に歩み寄ってきた相手を確認した。
身長は高めの……175cm前後ってトコか。 肉付きは細めで、特に鍛えられている感じは無い。
特に背筋を伸ばしている感じは無く、猫背気味だが言動から見て確固とした自己を持っているタイプ……なるほど、この人が『モトフジ』さん、か。
「あ、はじめまして。 ちょっと休学していて、今年度から復学する『チバ』と言います。 また色々伺う事もあるかと思いますんで、よろしくお願いしますね!」
「どもども、『モトフジ』言います。 まぁ、答えれる事やったら答えますんで、気にせずどうぞー」
「ありがとうございます!」
□
『モトフジ』さんとのファーストコンタクトも無事に終えた私は、その後に来るであろう『ヤマタカ』さんを待ちつつ、もう少し二人と雑談させて貰おうとした。
だが、次に聞こえるドアの開く音。 それは…………もう来たのか、と当時の私はそう思いつつ、ドアの方を振り向いた…………そこには、そう『アイツ』が居たのだ。
延々と人の邪魔をしてきやがった、あの───『クソヤロウ』が───
□
ガラガラガラッ
「───あ、おはよーん。 今年もよろしくー」
「おー、おはよーっす」
「おはよッス」
「ども、初めまして」
□
……妙に間延びした、イライラする喋り方をする『クソヤロウ』が……いや待て、違う。
……その感情は、『今の私』の主観から『記憶』を掘り出しているからだ。
確か……当時は…………そうだ。
……身長は175cm弱程度、全体的に脂肪の付いた体格だが、動作自体に遅さは感じられない為そこまでの肥満ではない。
間延びした喋り方に、カバンに付いているあのキーホルダーは……当時から流行りの『艦○○』が付いていた。 確か……そう、第6駆逐のネームシップだったか。
……広義では間違いなく『ご同類』、か。 うん、仲良くやれそうだ!
………………そう。 最初は、こう感じたんだったな。
………………クク。 ハハハ。 『仲良くやれそうだ』、か。 全く───
───見当違いも甚だしい!!
何度、そう何度『事故』に見せかけて突き落としてや………………いや、待て。 落ち着け、まだだ。
まだ、早い。
まだ───『彼女』も来ていないんだ。
□
「───へぇー、そりゃ大変だったねぇ。 ま、僕はそんなに成績は良くないけど、データとかの扱いは得意だから何かあったら言ってね。 コピーくらいならすぐ出来るし」
「いやぁ、助かります! その時はお願いしますね!」
「ほいほーい」
……カバンの中から、当時は今ほど普及していなかったと思う『タブレット端末』を取り出し、『携帯バッテリー』につなぎながらヒラヒラと手を振る『クソヤロウ』を尻目にしながら。
ガラガラッ
「おはよー」
「はよざいまーす」
「どうも、初めまして! 今年度から───」
□
俺……いや私は、段々と数が増えていくクラスメイトになるであろう面々に、出来るだけ挨拶をしていったのだった。
………………思い出したくも無いが、仕方ない