20140403 『5年目の正直:参』
…………
……ふぅ。
……その後の『4年目』は、丸々『一年』ただひたすらに仕事だけをして……いや。
正確には……『10ヶ月間』、だったな───
□□□
「───なんや? 仕事、辞めたいんか?」
「……はい。 この『一年ちょっと』、まともに勉強をしていないので……出来たら、春に復学するまでに復習をしておきたいんです」
「それは、仕事しながらやったらアカンのか? 勉強なんか、簡単なモンやろ?」
「……流石に『朝から晩』まで働いていると、時間が取れなくて」
「……しゃあないな。 ただ、『次のバイト』が入るまでは辞めるん待ってくれんか? 出来るだけ、はように探すから」
「……分かりました」
□
……本当の満員電車を除けば、ラッシュ時の電車にも何とか乗れる様になっていた私は、この頃には午前中も仕事に出る様になっていた。
ただ私が働いていた鍼灸整骨院は、施術に関わる人間が『院長』と私の二人だけだった。
一応、夕方までは受付でパートのオバさんも居たが、施術には関われない。
それなり以上に繁盛していた事もあり、人手不足も甚だしく。
再三、もう一人はバイトを雇って欲しいと伝えていたが、返事はいつも芳しくなかった。
しかし、先の事を考えて今の会話をしたのが、そう…………確か『初夏』の頃だった。
常連の患者さんも居る。
良くしてくれるご近所さんも居る。
鍼灸整骨院の入っているビルの大家さんも、釣りに行っては美味い魚をご馳走してくれた。
……だが。
□
「───『院長』」
「お、なんや?」
「大分前に言っていた、『新しいバイト』って………」
「……あー、あれな。 スマン、求人は出してるんやけど、中々来んのや。 もーちょい待ったって」
「…………分かり、ました」
□
……この会話が、『晩秋』だ。
私が居なくなれば。
院長もだが、何より患者さんに迷惑が掛かる。
そう考えた私は……待つしか、なかった。
□
「───院長」
「お、今年もよろしゅうな!」
「……」
「ん? どないしたんや、元気無いな?」
……私が黙っているのを見て、声を掛けてきたのは……確か受付のオバさんだったか。
「───ちょっと院長! 『チバ』ちゃんに、『お年玉』か何かちゃんとあげてるん!?」
「おとしだまぁ? んなモン、貰う年ちゃうやろ! なぁ?」
「アホかいな! 普段からずっと頑張ってる上に───」
「───『チバ』ちゃんが卒業しても、このままココで働くんやろ!」
「…………うーん、しゃあないなぁ」
ガシャ、チーン
「ほれ、『お年玉』や。 けどな、貰うモン貰たんやから───」
「───『今年』も頼むで!」
「……ありがとう、ございます」
□
……それから、何とか『1ヵ月』は働いたと思う。
だが…………それ以上は、もう無理だった。
私は。
給料日の数日前、とある出勤日の朝。
生まれて初めて、『無断欠勤』をした。
……もっとも。 結局それから2ヶ月程、連続してしまうのだが。
連続無断欠勤の序盤で、何度か院長から電話が掛かってきたが、布団の中で私が動かないで居ると。
母が断りを入れて電話を切っていた。
チラリと端から目を覗かせてみれば、母がこちらに背を向けて音がしない様に溜め息をついているのが見えた。
そして、そのまま……何も言わずに放っておいてくれた。
……院長とは、その後しばらく会わなかった。
とある『理由』から後日会う事になるのだが…………今はまだ置いておこう。
2月と3月の、2ヶ月の間。
多少の復習と、ただひたすらに『マインスイーパ』をするだけで、ロクに外出もしない様な生活を送った俺は。
茫々と無駄に長く伸びた〈ヒゲ〉を軽く整えて。
多少カッチリとした〈スーツ〉を身にまとい。
『5年目の正直』を果たすべく、2014年4月3日の早朝───『学校』に向かったのだ。
……改めて、自己紹介をしよう。
私の名前は『チバ タツヤ』。
しがないただの三十路男であり。
『奇跡』を経験し、『地獄』を実感している──────『当事者』だ。
……ここまでが、前置き