20140403 『5年目の正直:壱』
大丈夫……大丈夫……
…………ああ、クソ……今度は大丈夫だろうか……?
去年みたいな『失敗』を繰り返すハメになったら……いや、考えるな。
大丈夫だ、俺は『友達』を作るのは得意だろう?
それに、最悪の場合、仲良くならなくたって良いんだ。
俺はもう、『2年分の単位』は取得している。
『休学』している間に増えた単位も、『夜間部の授業』を受ければくれると先生も言っていたじゃないか。
重荷だった『仕事』だって……逃げ出して、辞めた。 時間はたっぷりある。
……大丈夫、大丈夫だ。
2ヶ月の間で伸びた〈ヒゲ〉だって、初見で舐められない助けになる筈。
少なくとも、軽く見られる事は無い筈だ。
大丈夫……大丈夫───
ガラガラガラッ
───ッ! 来た!
「ふぁーぁ。 今年もオレが一番…………あら?」
「……えーっと、初め、まして。 今年度の授業からご一緒する───」
「───『チバ』、と言います」
□□□
……私にとって。 この『初顔合わせ』は、失敗できないイベントだった。
この医療系専門学校の『鍼灸科』は、通常3年で資格を取得できるカリキュラムを組んでいる。
『天才』は言わずもがな。
『やる気のある秀才』も、『やる気の無い秀才』も、『やる気のある凡才』も。
まともに授業を受けていれば問題なく進級し、最終的には国家試験に合格できる…………流石に『やる気の無い凡才』は、無理だけれど。
とは言え、諸般の事情で単位や出席日数が足りない人間は出てくる。
そういう人間は、『留年』と言う形で翌年に足りない分を補う事も可能だ。
……最大で『6年間』までなら、だが。
この時の私は、『5年目』。
これ以上『休学』すれば、後が無くなる。
加えて、『資金面』でも限界に来ていた。
この専門学校の鍼灸科は、
入学金で『109万』。
各種〈服装〉や〈道具〉の類がおよそ『10万』。
年間の授業料が『120万』。 それが3年。
つまりストレートに卒業出来たとしても、資格を取得するまでに合計『479万』は出費する事になる。
私が自衛隊時代に貯めた金は、およそ『350万』。
金の無い親が、何とかやりくりして捻出してくれた『80万』。
さて、簡単な『加減乗除』のお時間だ。
『350+80-479=?』…………そう、『-49』となる。
つまり、最初から私には『49万』の不足があったと言う事。
これをどうするか?
まぁ簡単な話で、アルバイトをして学費に回していた。
最初は、全国チェーンを展開している某『ドラッグストア』でアルバイトをしていた。
しかし、比較的遅めの勤務時間が多い事、体力的に厳しい事、各種薬の知識を勉強しなければならない事、鍼灸師としての経験には何も寄与しない事、等々の理由により1年生の9ヶ月程で辞めた。 時給は良かったのだがな。
ああ。 辞めた理由には、新しく『鍼灸整骨院』でのアルバイトの口が見つかった事、も一つの理由だっただろう。
……だが、ここでも私は深く考えなかったせいで、無駄な苦労を背負い込む事になった。
そもそもこの時点の私は、実家から1時間半掛けて通学していた。
ドラッグストアはその通学経路上にあり、移動時間はほとんど問題なかった。
しかし、新しい職場の鍼灸整骨院は、ちょうど『実家』、『学校』の2点と『正三角形』の位置になる場所にあり……もう、分かるだろうか。
実家から学校まで1時間半、学校からバイト先まで1時間半、バイト先から実家までも……1時間半。
疲れるに決まっている。 遅くなるに決まっている。
何故、選んだのか。
……ああ、そうだ。 『ドラッグストア』を辞めるのに都合が良いタイミングだったから、何も考えずに飛びついたのだ。
年下の店長、年下のブロック長、年下の後輩。
話も、趣味も、会話も。 何も噛み合わない職場。
滑舌が悪い私に、プラス一品を必ず勧めろと言う指示。
致命的に、向いていなかった。
……少し話が逸れたが、もう少しだけココを掘り下げる。
新しい職場の鍼灸整骨院だが、ここもここで問題があった。
そもそも私は、人と会話するのが苦手だった。
そんな人間が、日々訪れる様々な患者と面白おかしく会話出来るだろうか?
出来る訳が無い。
それでも、将来的に勤務する事になれば必要なスキルだと、必死になって対応した。
トンチンカンな受け答えをして、患者を逃がした時もあった。
ドジをして、院長から説教を受ける時も多々あった。
あわや医療ミス、なんて事も数回あった。
それでも出来る限り、誠実に、必死に働いた。
結果、どうなったか。
蓄積した疲労により朝から学校に行けず、昼からの仕事だけに行く日々になっていた。
全く……本末転倒だ。
とは言え、そうなれば出席日数も足りず、危険な事になっていく。
俺は何とか喰らいつこうと。 毎日眠い目をこすりつつ、朝の電車に乗っていた。
───そう、『あの日』も…………いつもの様に。
□□□
「───止めて下さい!」
グイッ
「へ?」
「この人──────『チカン』です!」
───訳が…………分からなかった。
………………え?




