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パンが無ければ本を読めば良いじゃない!  作者: 水無月せきな
福智「パンが無ければ本を読めば良いのよ!」
2/50

立花「俺に二度の敗北は無い……なんてな」

「えー、紫式部は……」

 その後の授業。

(早く終われ早く終われ……)

 授業そっちのけで、俺はただひたすらに念じ続けていた。

 原因はと言えば、さっき飯を食い損なったせいだ。

 教室の一番後ろ、教壇から見て右から二番目に座る俺は、ちらりと福智――この状況を作り出した元凶――の方を見た。俺の右斜め前に座る福智の手は先生の板書とシンクロしながら動き、的確にノートを取っていることを示していた。

「ここを……福智さん、訳してください」

「はい」

 指名された福智はすぐに立ち上がり、よどみなく答えて座った。

 いつもの福智だ。

(あれは何だったんだ?)

 やっぱり俺は夢でも見ていたんだろうか。いや、それにしてはあまりにもリアルすぎるだろ。そうなると、アレは現実に起きたということなんだが……

 依然として納得できないまま、俺は無事に第二戦を迎えた。

 築南高校の昼休みは第一と第二の二つに分かれていて、それぞれ40分、20分となっている。この第二昼休み――通称「二昼」――になると、売店に食糧が補充される。俺が期待するのはそれだ。追加直後の購買に滑り込み、第一昼休み――通称「一昼」――の敵を討つのが今回の作戦だ。

 授業が終わるや否や教室を抜け出し(ちゃんと授業終わりの礼はして)、3階から1階まで下りる。短い休み時間の間に(あれば)食糧を確保し、腹を満たして授業の準備まで終えられればミッション・コンプリート。

 2年1組の教室は校舎北棟で、売店のある校舎南棟とは別の棟だ。だが階段のすぐそばの教室だから、そこまで不利ということもない。

(さぁ、どうだ?)

 これから数時間の命運を握る購買の仕入れ状況。売店に辿り着いた俺が目にしたのは――

「よっしゃい!」

 レジのおばちゃんがびっくりするのも構わずガッツポーズ!

 なぜなら、数段ある陳列棚の最上段。その中央にメロンパンが並べられていたからだ!

 どうやら追加している最中だったらしく、他の商品も並べている最中だったが、そんなことはどうでもいい。

 ひとまずの安寧が俺に訪れた!

 メロンパン1つを無造作に手に取り、レジへと持って行く。

「ありがとうね~」

「うっす」

 すっかり顔なじみになったレジのおばちゃんと、にこやかに笑顔を交わしてレジを後にする。

(勝った……)

 何に勝ったのか、そもそも一度負けたじゃないか……なんて、そんな野暮なことは気にするな。

 俺は達成感を感じながら教室へ戻ろうと足を向けた。

 その時、

「おっ」

「………」

 福智に遭遇した。

 俺がアクションを起こす間も無く、福智は俺の脇を過ぎ去る。そして俺と同じようにメロンパンを取ってレジを済ませ、また俺の脇を足早に通り過ぎて去って行った。

 ほんの数十秒の間のことだったが、俺と福智の間に会話はおろか目さえ合うことは無かった。俺を避けていたようではなかったから、単純に俺が視界に入っていなかったんだろう。

(まあ、お互い空腹なのは同じだからなぁ)

 きっと空腹に耐えるのに精いっぱいで見えなかったんだろう。

 ウンウンと1人で頷きながら、足早に歩く。

 教室に戻った俺はメロンパンを食べながら、無事に次の授業の準備まで終えた。

 俺に二度の敗北は無い。覚えておけよ? ……なんてな。

 その後の授業中もチラチラと福智を見たが、一昼の時のような異常な様子は見られなかった。ホームルームまで終えて放課後になっても福智は普段通りだったから、俺は結局昼休みの謎の追究を諦めた。

 夜になって寝るころには、昼休みのことはもう忘れていた。

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