南町奉行篇⑥ 「鬼の悪霊退治」「決行前夜」
「この物語は勝手気ままなフィクションです。」
【第七話】
「鬼の悪霊退治」
季節は梅雨、ようやく春の暖かさが体に馴染んだ頃にやってくる。
湿気の多い生温い風は体に纏わりつくと、人一人を背負ってるかの様に
重くだるく感じてしまう。そして何故か思い出したかのように古傷も痛み出す。
「百姓くらいだろう、この時期の雨を喜ぶのは...」
でもその百姓のお陰で飯が食えるのも事実である。
足元は朝からの雨でぬかるみ、水溜りが無い所を探す方が難しい。
傘を差しても、笠を被ろうと雨は地面からの跳ね返る。
着物は雨と泥、それに汗でずぶ濡れだった。
「ついてない日は、どこまでもついてないのかも知れないな」
そう思うのも仕方が無い。ただでさえ老中・水野忠国の命でこの天気の中を
歩いているのにも関わらず複数の虚無僧に囲まれていた。
「おいおい、こんな雨で視界も足場も悪いってのに、
それに一人相手に何人がかりだ?」
その中の一人が答えた。
「それは我々の邪魔するものは誰であろうと葬るまでだ。」
「五、六、...九人かぁ、八人なら末広がりで縁起が良いってのに、
やっぱついてないわ」「ほう、人を無視する余裕があるとは
肝が据わっているな、だがここで終わりだ!」
一人の男の合図で一世に八人の虚無僧が、尺八をこちらに突き立てる。
「仕込みか!?」四方八方から同時に刀が一点に集まる。
...が、「ぎゃぁぁ!!」「きゃつは何処だ!?」虚無僧衆は仲間一人を刺していた。
標的の姿が無い。「おまえら詰めが甘いよ」一斉に声のする方へ虚無僧衆は向く。
見知らぬ男はそこに居た。近くの民家の屋根の上から見下ろしながら
「昼間っから堂々と襲ってくるのは大したものだが、
こちらも堂々と歩いてるんだ。どっちも罠を用意するだろ?」
見知らぬ男の笑みを危険と察したか、虚無僧衆は構えに入った。
互いの背中を合わし、周りから来る敵と対じするために...
「ぐわっ!」虚無僧衆の一人が倒れた。それと同時に雨も激しさを増し、
味方見方の区別も危うくなってくるほどだった。
最初に話した虚無僧の中の男は言い放つ。「どうやら策が筒抜けだったか、
しかし我らも後が無い。故にただでは帰らぬ!」「なら土産だ!」
その声と同時に男は倒れた。
どんな強国であろうと中心人物を失った場合、統率は取れなくなる。
残りの虚無僧衆四人は必死に逃げていった。そして一人残った虚無僧に、
屋根の上から男が降りて話掛ける。
「向こうだけでは無く、こちらも筒抜けなんだ。あまり無茶はしないで下さいよ」
「肉を切らせて骨を絶つ!まぁ、斬らせたのは向こうのお仲間だがな!」
「あんたが死んだら誰が俺らに金払うんだ?」「そっちの心配、お前らしいな。」
「ずぶ濡れだ!早い所、風呂にでも入りに行きましょう。」
「ああ、分かったよ、南町奉行所にな。」
つづく
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【第八話】
「決行前夜」
水野「お前ら、汚いなっ!風呂行って来いっ!」
四郎「水野様、危険な仕事をして来たのに労いの言葉も無しでございますか?」
水野「ふん、今は上司だ。責任を押し付けてお役御免!になるまではな!」
四郎「水野様、自虐的でございますね。」
水野「いい加減、吹っ切れるわっ!それに感謝の言葉なんぞかけないぞ!」
四郎「嫌でも言わせますよ、そのうち。」
水野「良いから風呂行って来いっ!」
--------------------「入浴中」--------------------
水野「やはり今回も鳥井の者か?」
四郎「その様です。虚無僧衆の一人を捕まえて吐かせました。」
水野「どこまでも腐った奴だ。自分の地位にしか興味がないのか...」
北祭「自分を守るためなら手段を選ばず、上司の水野様も切り捨てたくらいですからね」
四郎「北祭、例の廃寺の件はどうなった?」
北祭「ええ、それが活動丸に行かせた所、失敗に終わったそうです。」
四郎「失敗?」
北祭「はい、なんでも以前、何かしらの罪で捕まった一族が住んでいるらしく
“副将軍”と名乗ってるお爺さんがいるそうです。」
四郎「なんだそれは?ゴロつきか盗賊か何か?」
北祭「さぁ、何でも“うっかりの男”のお陰で落ちぶれたので探しているとか」
水野「奉行所から人を出せばどうにかなるであろう?」
四郎「下手に動くと鳥井が何をしてくるか分かりません。それに・・・」
水野「それに・・・なんだ?」
四郎「元罪人とはいえ、無下に追い出すのも心が痛みます。」
水野「どこまでも甘い男よ、そんなことでは大事は果たせぬぞ?」
四郎「これが私のやり方ですから。」
水野「・・・好きにせい。今回はお前に任せてる。」
四郎「(丸くなったのか、それとも何かあるのか、この鬼は・・・)」
北祭「それとですが、廃寺は無理でしたが作戦は順調です。」
四郎「では阿歩老にもそう伝えて置いてくれ」
北祭「御意!」
水野「私は夜霧に紛れて城に一度戻る。あとは任せたぞ!」
四郎「水野様もお気をつけて!」
つづく
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【あとがき】
Q:囲まれた禁四郎は、瞬時に近くの虚無僧衆と入れ替わる
芸当を見せたがどうやって?
①雨の中で虚無僧を利用し、視界の悪さから死角を突き、入れ替わりを果たす。
②その場に倒れこみ泥と一体化!刺された虚無僧は偶然入っちゃった、テヘッ!
③通常の3倍の速度で動く禁四郎。
Q:屋根の上にいた男 (北祭)は、なぜそこに居たのか?
①敵の注意を引き付ける為。 (人数の少なさを逆手に取る心理戦)
②雨に濡れても泥汚れは嫌いだから。
③猿と何とかは高いところが好き!
Q:策が筒抜け、では何故決行したのか?
①誰の差し金か裏付けるために危険を冒してまで行った。
②妖刀・女王様の切れ味を試すために行った。
③悪条件に置かれた自分が勝てばいかにも主人公らしいから。
Q:廃寺にて何をしようとしていたのか?
①今後の行動に置いてとある人物との接触を図りたかったから
②リフォームして劇的にしたかったから。
③無駄な賽銭泥棒。