大目付篇③ 「老いる鬼の失脚-天々保改革-」
「この物語に登場する人物・歴史などは一切が妄想です!」
【第三話】
「老いる鬼の失脚-天々保改革-」
老中・水野忠国の天々保改革の下、
目付や南町奉行として取り締まりを行っていた鳥井洋蔵。
庶民から取締りの厳しさから“もののけ”と呼ばれていた。
しかし、彼に邪魔な存在がいた。
改革に批判的態度を取り、規制緩和を図る
北町奉行の遠山禁影四郎さんである。
そこで改革発案者の老中・水野忠国を囲い込み
名目上、地位の高い「大目付」の役職を与え、転任させたのである。
・・・そんな出来事から1年後
北町奉行から大目付になって2年が過ぎようとしたある日のこと
禁四郎さんの元に、突然の来訪者が現れた。
禁四郎
「これは老中・水野様、わざわざ足を運んで頂かなくても
呼びつけて下されば参りましたのに」
水野
「いや、散歩の途中で通りがかったので・・・
改革反対派のお前がどうしてるか顔を見たくてな」
禁四郎
「相変わらず手厳しいですね。」
水野
「とはいえ、出世してるんだ文句あるか?」
禁四郎
「いえ、老中に歯向かう気など元からありませんよ。
ただ、庶民の、幕府のためを思ってのこと故、ご無礼をお許し下さい」
水野
「そうか・・・(やはり熱い男だったようだな。)」
禁四郎
「水野様、最近よからぬ噂を耳にするのですが?」
水野
「やはりお前の耳にも届き始めているか・・・
実はな『上々知令』なるものを考えた。」
禁四郎
「『上々知令』?」
水野
「最近、清ノ国が戦で敗れたのを知っているだろ?」
禁四郎
「はい、なんでもクスリがらみの戦だとか。」
水野
「近頃は我が国の近くも外の国の船が領海へ入ってくることが
度々増えてなぁ、いつ上陸してくるか分からない!
その上、外の国との関係が崩れて戦にでもなったら大変だ。」
禁四郎
「それでその内容とは?」
水野
「現在、領海を管理しているのはその土地の大名旗本だ。
幕府とはいえ勝手に手が出せない。そこで、ある一定の領域を指定し、
そこに入る土地を持っている大名旗本には代替地を渡す代わりに、
土地を幕府に返上させる。これで幕府が直接の管理をするというものだ。」
禁四郎
「なるほど、水野様らしい考えですね。
しかし、それでは大名旗本も黙っていないでしょう?」
水野
「その通りだ。その中でも老中・土居敏位 (どいとしつら)が厄介で
反対派の筆頭だ。」
禁四郎
「どうやら噂は本当になるかも知れませんね」
水野
「噂?どんなのだ?」
禁四郎
「水野様の「暗殺計画」ですよ。」
水野
「ほう」
禁四郎
「最初は不可能だとは思ったのですが、ことの内容を知り、
可能性が出てきました。これはかなり危険です。」
水野
「首謀者などの目星はついてるのか?遠山?」
禁四郎
「証拠はございません。
ですが密偵の話では、恐らく外の国と関係のある人物かと」
水野
「なるほど。幕府内だけでもかなりの数がいるが反対派で間違いはないだろう。
それに今回の事で大名旗本が動いているに違いは無い。
だが目の届かぬところが多過ぎる!」
禁四郎
「そうですね。しかし、そこまで計算はされていたのでは?」
水野
「・・・お前は食えない奴だ。せっかく顔を見に来てやったのに!」
禁四郎
「あなた様ほどのお方(強硬派)が、取り乱したりするとは思えません。
演技が過ぎましたな、見てるこっちが恥ずかしい。」
で本題は何でございますか?」
水野
「ならまた辱めてやろうか?」
禁四郎
「申し訳ございません。
で、本題は何でございますか?」
水野「それはな・・・・・・」
その後、「上々知令」を発布するか否か、幕府で会議の場が開かれたが
老中・水野忠国は現れなかった。そして欠席のまま土居から
「上々知令撤回」の幕命が出され、忠国は老中免職となり、
「上々知令」と共に「天々保の改革」も終焉した。