AFROU-阿歩郎-⑥ 「伝説の浪人・前編」
「この物語は、登場人物や団体・歴史などはフィクションでござる!」
ワタシは、目を覚ますとそこは海岸だった。
どうやら清ノ国の近くから泳いで日本に向ったが
途中で疲れて気を失い流されたようだ。
取り合えず周りを見渡す限り、日本には間違いない。
何故なら先ほどからワタシを棒で突付く子供たちが日本語で会話している。
ああ、もっと突付いて!強く!もっと~!
ズブッ!ぴゅ--- (血の音)
「痛てぇーなッ!コノガキどもッ---!?」
どんな世界にもルールがある。
痛いだけで良いなんてことはない、加減は必要だ!
今のうちに教えて置かないと将来ダメになるわね、どこ行ったのかしらあの子たち...
そんな中、乳母車を押す浪人が近くの丘の上でワタシを見つめていた。
まっ、この美貌と若さとテクニシャンぶりを見れば落ちない男はいない。
きっと目を奪われて動けないのね?ならワタシからGO---!
バシュッ!タタタタタタタタタタタタッ!ド------ン!バジッ!
「はじめまして、ワタシは...あれ?名前なんだっけ?」
【AFROU-阿歩郎-】
どうやらワタシは名前どころか、自分の生年月日、家族構成やペットの名前
住所、職業、卒業アルバム、何時、何分、何秒、地球が何回周ったのかすら
思い出せないことに気づいた!?
うぬぬ、過去にあった数々の栄光の日々を思い出せないだなんて!?
ああ、ワタシはなんて不幸なのぉ--!
「あのー?」
「はい?」
「さっきから心の声が口から出てますけど?」
「あら?それは失礼近松門左衛門!」
乳母車を押していた浪人は若く、年は10歳と言う。
どうやらワタシには若すぎるボーイのようだ。うむ、残念。
何故、乳母車を押しているかと言うと、【伝説の浪人】を探して旅をしているらしい。
それ以上、この時には教えてくれなかった。
「それにしてもあなたは相当な武芸者では?」
「どうしてそう思うの?」
「だって、あの海岸からここまで990尺 (300m)はありますよ。
一瞬で飛び上がったと思ったら、走って僕の目の前に。」
「うーん、どうかしら?過去の事は何も覚えてないのよ」
「カッコイイなぁ、昔は振り返らない。常に前を見て生きているって訳ですね!」
「いや、言った通りの意味よ。」
「僕もいつかそんな人になりたいですねぇ...」
「人の話聞けよ!ボクちゃん?
アンタ、エスカレーターの黄色い線を踏んで挟まれるか挑んで怒られるタイプね?
もしくは、手すりに身を乗り出して途中にぶら下がってるのにゴ---ンって頭打って
大泣きするタイプよ!すべて経験談だけどね。」
「僕の家は貧乏長屋でして、両親は病弱でなかなか働けなくて、
弟たちもまだ小さく、育ち盛りだし、食べ物もなくて大変なんです。」
「人の話聞かない上に身の上話を始めたわよ、この子!?」
「早く両親や小さな弟たちを楽にさせたくて、丁稚奉公に出たんです。」
「んー、まぁ、偉いわね。」
「だけど、お世話になった呉服問屋の家族が変ってまして」
「世の中、変った奴なんて沢山いるわよ、ワタシは普通だけど」
「呉服問屋は仮の姿でして、夜な夜な代官屋敷に忍び込んでは金品を取ってくるんです。」
「それって強盗?」
「一度、立ち聞きしたんですが、悪代官と言われている所を探しては忍び込み、
逃げ切れないと分かると、そこの隠居なされている大親方が印籠を出してるみたいです。」
「印籠?どこかで聞いたことあるわね?」
「誰が印籠を出すかで揉めていたようです。
出すとどういうわけか皆が膝ま付いてしまう不思議なものらしいです。」
「それでどうしたの?」
「はい、あまりに印籠が気になり、一度は見てみたいと屋敷の中を探しました。
すると運悪くそこを見つかり逃げてきた次第です。」
「へぇー、そうなの。それは大変ね。」
「だからもう戻れないのです!このままでは家族に仕送りも出来ません!
早く【伝説の浪人】を見つけたいのです!」
「うーん。まず『へぇー、そうなの。大変ね。』で
ツッコミ諦めてるのに気づいてくれないかな?
「運悪く」ってアンタが悪いんでしょう。
ところで印籠を探さなければ生活環境は厳しかったの?どうなのよ?」
「朝は9時から夕方5時まで働き、3食飯つき、週休2日で年に
2度のボーナスで我慢してたでしょうね」
「アンタ馬鹿なの?どんだけ住み込みで好条件なのよ!」
「あっ、あとたまにお使い頼まれてお釣りを頂いたり、お茶菓子を頂いたり程度です。」
「アンタの程度より態度の方が問題あるわよッ!
ほんとに10歳なの?大体裏で仕事していても悪いことしてないじゃないのよ、そこ!
それにアンタが勝手に逃げただけに聞こえるけどね。
向こうさんはアンタを止めに追いかけただけでは?
まぁーいいわ。で、そんな程度の条件を蹴って【伝説の浪人】はアンタに何してくれるの?」
「僕を一流のホストにして貰うんです!」
「なッ!?」
-つづく-