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光る骨の剣  作者: k_i
終章
49/53

ミコシエの世界

 三、四、五、……と姿を現す黒ぼやけた影の獣達。

 今、霧は白い粒子のようになって世界を覆い、白い地平と白い粒子の中、家々だったものは遠くかすむ影となっている。ミコシエが出てきた酒場も、ただの真っ黒い影でしかない。

 エルゾッコは、ミコシエより数歩前に出て、したしい敵達と向かい合い低く唸っている。もう、一飛びに飛びかかれる距離だ。

 しかしエルゾッコはミコシエが戻ったのを見ると、自らミコシエの隣まで後退る。

「エルゾッコ。これは私の敵だ。私のしたしい敵……譲ってくれるのだな」

 わう、エルゾッコは頷く。

 よし。

 ミコシエは、躊躇わず一息に剣を抜いた。白い霧の中で、光る。

 と、したしい敵への距離が一度に狭まる。ミコシエは一瞬何がどうなったのか驚いたが、そのまま、すぐ目の前に迫ったしたしい敵一匹に目掛け斬り払った。

 敵は、斬れた。

 ミコシエは剣を抜くと同時に、したしい敵へ一気に跳躍していたのだ。自分で気付くよりも前に。

 どさり、と、確かな手応えがあり重さのある黒い肉の塊が、白い大地に落ちた。真っ二つに、斬れている。

 ミコシエの手に光るその剣は、幻の剣のように消え失せることなく、しっかりミコシエの手にある。

「目が……覚めるようだ……」

 ミコシエが感嘆の声を上げ、気付くとしかし他のしたしい敵達は既に姿を消してしまっていた。

「なに。まだまだこれからだ」

 ミコシエは微笑を湛えた口元で呟き、足元の黒い肉を足で踏み付け、すり潰すように何度も地にこすり付けた。

 エルゾッコは首を傾げ、その黒い肉片を見ている。

 気付けば、白の粒子は細かい霧に戻っており、周囲に黒い瓦礫の街並みが見えている。

 振り向くとそこにも家の影があるが、もう明かりはともっていない。立て看板は倒れ、廃墟でしかない。

 ミコシエは何も言わず、エルゾッコを従えて、また歩き出した。どこへともなく、しかしその足取りは今はしっかりとして、どこか嬉々として。



 ここは私の世界だ。紛れもなく。ミコシエは、思う。

 実際のところ、オーラスを滅ぼした魔王の手下達が、今はもうその大都は崩壊するに任せてワント四州やあるいはもっと奥の洞窟や山脈の深くへ戻っていったのか、それとも、もしかしたら今もまだ人間と魔王の戦いは続いているのか、本当はホリルは亡くなってなどいなくて、クー達と一緒に山脈の向こうで戦っているのか、わからない、それに、そう、どうでもいいことだ。……と。

 ミコシエは今、手にしたその光る剣の斬れ味にただ、酔っていた。いいや、まだ、これからだ、まだ……まだ……

 ミコシエは、目の前の白い粒子の中に現れるしたしい敵を斬り、その肉の深くまで斬り、地に斬り伏せては、また現れるしたしい敵を斬り、斬っていく。したしい敵もまた、この戦いを楽しんでいるのだ。ミコシエをどんどん奥深く、奥深くへいざなうよう、現れ、斬られ、現れる。

 時折、白い粒子がただの霧に戻ると、ミコシエは既にオーラスの正門を出て、段々と、砂漠の方へ向かって歩いているのだとわかった。

 霧が白い粒子に変われば、砂漠は、まっさらでまっ平らな白の大地となる。

 黒い家々だった影は既に一切見えない。白い粒子の中に次々とぼんやり浮かび上がるのは、したしい敵達だけ。

 斬り、また、斬り、ミコシエはただひたすら斬って先へと、白の大地を歩いた。

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