表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光る骨の剣  作者: k_i
第7章 新しい勇者の戦い
39/53

アジェリレーエへ

 敵の陣地。

 涼しい夜風が吹き、魔物兵の死骸が、喉を斬られ、心臓を貫かれ、首だけのだの胴体だけのだのが、100……200、と転がっている。野営灯も全て倒れて灯かりもない。動くものは一つもない。


 その真ん中を、どす黒い血がこびり付いた剣を手にぶら下げ、ミコシエが一人歩いていく。

「……踊りすぎた、か……。剣、もう、斬れんな。要らん。そもそも、こんなもの、もう……」

 ミコシエは剣をその場に放り捨てる。

 魔物の死骸の中に、一匹、片手を失いつつも生き残った魔物兵が蹲って、ミコシエを見て言った。

「う、うう、く……狂っていやがる!!」

「一匹残っていたか」

 ミコシエはただそう言い、剣を拾おうともそちらを向くこともしなかった。

 魔物兵は、ミコシエが今や丸腰なのに、立ち上がると、ぎゃあああああと叫び、闇の中へ消えていった。

「ああ。風が、涼しい……」

 ミコシエは、味方の陣地に戻ろうというのか、ただどこへともなくなのか、とぼとぼと、そのまま敵陣を抜けて風に揺れる夜の草地へ歩み出していった。


 夜の草地には方々で虫の声が小さく聴こえ、よく見れば蛍のような光が其処ここで舞っている。

「光、か……」

 それを見るともなく、歩きながらミコシエは呟く。

 羽虫のような妖精のような小さきものが、光を散らしながらミコシエの周りを飛び交い、アナタハナニヲサガシテイルノ……? アナタハナニカヲサガシテイルノ……? と囁きかけてくる。

「……」

 ミコシエは答えない。ただ、まっすぐに歩いていく。

 草地の精霊だろうか。其処ここに光って舞っているのは、このもの達らしい。

 キイテモムダダヨ……コノヒトハサガシモノヲワスレタ……コノヒトハナニヲサガシテイタノカワスレタ…… 精霊達は囁き合いながら、ミコシエの周りを飛び交ってついてくる。

「……」

 ミコシエの目は、ぼんやりただ前を向いている。

 アワレ……アワレダネ……クスクス、クスクスと小さく笑いながら、精霊達はミコシエを離れてまた方々で舞い始めた。

 中には、激しくぐるぐると気が違ったように舞っているものもあり、地面で折り重なって震えている光もあり、それは、精霊同士が交尾をして絡まりもつれ合っているのだった。キャッキャと甲高い声や甘い声、喘ぎや呻きがあちこちに聴こえている。

「……」

 ミコシエの目には、そんな精霊達の乱交会の様子も映ってはいなかった。

 足元で交わっていた二匹の精霊を靴の先で引っ掛け蹴飛ばしても、気付くこともなかった。

 ギャッ! ナニスルノ! マジワリノジャマスルナ! ウスノロ! 怒った精霊が飛びついて頭を何度か引っぱたいても、ミコシエは気付きもせず、ぼんやりとその目の内に映っている灰色の土地を前へ前へ、歩いていく。


 ミコシエが草地を横切り、精霊達の不思議な光も遠ざかると、大小の岩がごろごろと転がる荒れた土地が広がっていた。

 ミコシエはそこを強く吹く風に頬をさすられ、ようやくふと気付いたように、辺りを見渡した。

 すると幾らか離れた、岩が倒壊して傾いた柱のように立っているところに、何かが隠れているようだと気付いた。

 殊更注意深くもなくそこへ近付くが、相手の方はこちらに気付くこともなく、その影で何かひそひそと、話している様子。

 ミコシエはさすがにそこに堂々入っていくことはせず、その岩の反対側に周って、その声に耳を澄ました。


「散々だったな……」

「皆、やられちまった……隊長も討たれた……」

 どうやら、さきの陣地を逃れた魔物兵か、二、三匹がここに隠れたものらしい。


「あの男、狂人だぜ……」

「強いというか、ただ、狂ってやがる……狂ったように、剣を振り回しやがって……」

「……どうせもうワント四州はだめだ……ニンゲンの手に落ちる……」

「ああ、そうだ、それより、……様は、逃げおおせたのか? ……」

「……ああ……様なら、無事、……」

「……様は、……ジェ……ーエ……行きなさる……」

「……そうか、あのお方は、ア……リレ……エ……に……」

「アジェリレ……エ……」

「……もう、ここには戻ってこんだろうな……」

 ひそひそ……ひそひそ……

 それから後は、ひそひそ声で何を話しているのか、全く聴き取ることはできなかった。


 ミコシエは、「アジェリレーエ……」と、さき聞いたおそらく地名、を呟き、その生き残りどもはそのままに、そこを後にした。

 一人またとぼとぼと荒野をただ歩いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ