ワリエーラ解放戦・四日目(2)
ミコシエは、ホリルのもとへ向かった騎馬隊二十騎の後を追う。
「ミコシエさま早くぅ! 騎馬隊はもう敵とぶつかってますよお!」
ミコシエを追い越して幾らかを先を走る、クーがぴょんぴょん飛びながら急き立てる。
「く、……はあ、はあ。走りは、ちょっと……無理があったな……はあ、はあ」
騎馬隊は、ホリルらの隊を後ろから挟み込もうとする敵を打ち払う。
「どけえっ魔物ども!」
「ぬおお、邪魔はさせん!」
敵もそう簡単には退かない。
「ぐぅわっ」
敵の刃を受けた一人が血しぶきを上げ、馬から振り落とされる。
敵味方が打ち合うところへ、クー、ミコシエが駆けてくる。
「ああっ、ミコシエさま、助けてあげ――」
魔物達の足が兵を踏み潰していく。兵からはもう声も上がらない。
「ぬう、そいつはもうだめだっ、ミコシエ殿っ、彼の馬を! 敵に奪われぬ内にどうか!」
分隊の長が叫ぶ。
「では……借りるぞ」
魔物達を何とか振りほどき暴れる馬に、ミコシエは飛び乗った。
「ミコシエさま、わたしも後ろに!」
身軽な動きで、クーがその後ろに飛び乗る。
「ほらっ、くれてやる魔物ども!」
クーの投げナイフが取り縋ろうとする魔物数体に突き刺さる。ぎゃっ。悲鳴を上げてのたうつ魔物達。
「お、おう……っと」
「ミコシエさまバランスしっかりね。後ろは私に……ほらもういっちょ! 任せて」
一騎がやられたのみで、他は敵を押し分け、かなり距離が開いているホリルらの一隊の方へ馳せている。
敵もまだ数は多く、ホリルらの方目がけて追いすがっている。騎馬隊はそれを目がけて突撃する。
「よし、私らもあれへ続くぞ!」
「はい!」
クーの投げナイフで敵を近寄せず、一気に数百メートルを馳せた。途中、敵に付き纏われている騎馬兵の脇を駆けながらにミコシエも敵を斬りつけていく。
「ミコシエ殿! かたじけない!」
そうして遅れをとっていた三騎を救って前方の騎馬隊へ追いついていく。
「ミコシエ殿、こなれたもんですな」
並走する騎馬兵が感心している様子。
「フム。馬上からの眺めは、やはりいいものだ」
「へへー、ミコシエさま、ちゃんと乗りこなせてますねえ。安心」
「聖騎士も、元々は騎士だからな。一通りの訓練は受けているのだ」
「ミコシエ殿、前方に!」
「おらぁぁぁぁぁ」
棍棒を持った巨体の魔物兵がどすどす向かってくる。
「らぁぁぁ死――ギャッ」
魔物兵の眉間に、ナイフが突き立つ。
「ていっ」
動きが止まった巨体の首をミコシエの剣がすぱっと刎ねた。
「あは、私達ふたりで、無敵だあ!」
「おいおい、そんなに投げて無駄にしなくていい。一体どこに何本しのばせている? まだこのくらいなら……」
「どこにしのばせている? 知りたいですかね? ふふ。秘密……
と、あっミコシエさま、腕に血が……」
「……。いつの間に」
「ほらあ。なーにがまだこのくらいならですか? ミコシエさまだって、そこまで余裕はないでしょう。ほらちょっと見せて……」
周囲の騎馬兵はめいめいに、無駄に馬上でいちゃいちゃしよってと羨ましく思うのだった。
ミコシエらは間もなく、前方の騎馬隊に合流した。
「おおミコシエ殿。もうホリル殿の一隊が見えますぞ!
後は敵の騎馬隊か……くっ、いかん、ほとんど取り込まれる寸前だっ」
後方にいる人間の兵達が後ろから斬られ、次々と落馬していっている。ホリルの姿はここからでは群がる敵と戦塵で見えない。前方でも敵と打ち合っているだろう。
「おうお前ら、一刻も早く敵を突き崩せえっ! ホリル殿を助けよ!」
「お、おおお! 勇者様ぁ!!」
二十騎は奮迅の勢いで、ホリルらを後ろから突く敵を更にその後ろから突いた。敵騎馬隊は壊滅。後はホリルらの隊の生き残りと協力して前方の敵を討ち果たした。
「ぬおお。な、何とか……味方を助けた。も、もしもう少しでも遅れていたら……!」
分隊長は冷や汗を拭く。
「ホリル! 無事か」
最前列にいるホリルのもとへ、ミコシエは馬を馳せた。
「あ、ああ! ミコシエさん! よ、よくぞ……僕は無事ですが、すみません、後ろの兵達がどうやら随分……」
ホリルは馬上で顔を俯ける。戦塵に塗れているが、傷は負ってはいないようだ。
「後方は拓けた。戻ろう。自軍本隊とは距離が離れすぎている」
「は、はい……すみません」




