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光る骨の剣  作者: k_i
第5章 オアシス
24/53

 三人は、オアシスホテル・レストランの野外席にやってきた。部屋を予約し、今から夕食である。

 すると、周囲の視線を感じ、人々の声が聞こえる。どうやら、龍が去って船が再開されたということと共に、龍を倒してオーラスへ向かう勇者がオアシスに来たという噂が、広まっているらしい。

 レストランでも、特別席にどうぞ、と案内された。

「ねえ、これってなんか」

「うん……どこから漏れたんだろうな」

 ひそひそ話が聴こえ、常に視線を向けられ、何となく落ち着かない食事になってしまった。

「なーんか、がっかり。これじゃこの後のお楽しみもできないっか」

「ちょうどいい。今日は目立たないよう、出歩かず、さっさと眠ってしまおう」

「つっまんないの」

「勇者というのも、大変なものなのだな」

「全くですね……」


 *


 一方、勇者の噂を聞きつけた者のなかに、こういう者達もいた。

「おうよう。こういうのはどーだい? 勇者を人質にして、多額の身代金を要求しようじゃねえか」

「勝てるか? 相手は勇者だし、仲間もいるだろう」

「なぁに、勇者だとか言ってもまだ、ひよっこよ。野盗のプロで長年食ってきた俺達が、負けるわけねえだろ」

「誰に身代金を要求する?」

「オーラスの司祭連中だろうな。勇者の仲間なんざ、大した金も持ってねえだろう。儀式前に、勇者に死なれちゃ、なあ? 世間にも知られたくないだろうし、秘密裏に事を進めりゃ、金を持て余してるようなあいつらだ、すぐ金を渡してくれるさ。大金が手に入るんだ、おれたちはこの大陸からはおさらばすればいい」

「なるほどな、今までのなかでも危険だろうが……こりゃ上手くいけばでかいな。

「へへ……だろう」

「じゃあ、具体的にどうする?」

「こんな一オアシスの宿だ。警戒は固くないだろう。問題は、お供の二人か」

「見たか? どんなやつだった」

「一人はまだケツの青そうな小娘だが、もう一人の傭兵風の男、手強いかもしれん」

「俺も見たが、傭兵風って、何、あんなひょいのが強そうか。なら、あいつはおれに任せな」

「なあ、じゃあおれには娘の方を任せてくれるか、げっへえ」

「ふん、わかりやすいやつだな。いいだろ、おまえ以外に、あんなロリっ子が好みってやつはおらんわ」

「おい、待て。おれ゛はひょろ男のけつのがいい。あれは、おれ゛にくれ」

「……」一同は一瞬、沈黙するが、そいつの好みを知らないわけでもなかった。

「……わーったわーった、好きにしろ。まあ、じゃあとりあえず倒すのは、俺とおまえと二人がかりだ。その後は好きにしていい」


 *


 すでに日は暮れ、夜である。

 ミコシエとクーは、到着時に言っていた通り、夕食後も場所をホテル内に移し、バーで軽く食事を頼んでいた。ホリルは、一風呂浴びて部屋に戻っている。 


 勇者を狙う襲撃者達は、こなれた様子でホテルに忍び込んできていた。

「おっ? 勇者の姿がないぞ」

「けっ、なんでい、あの二人できてやがったのか」

「予想外だな。あいつら、勇者のお守りを放棄していちゃついてやがるとは。とにかくこりゃ、勇者の方は楽勝だぜ。行こう!」

「ま、待゛て……」

「何だ?」

「あ゛いつの、けつ゛……」

「あ、ああ……そうだったな」

「おう、おう。俺も、あのいちゃつく二人がむかついてきたぜ。俺はやつがけつを犯されてる目の前で、女の方を犯してやりてえな」

「ったく。仕方ないな。わーったわーった。じゃ、同時に動こうぜ。勇者は俺達で十分だ。おまえらは、二人を好きなようにしな。ま、最終的に息の根を止めといてくれると助かる」

「うへへ。首しめると、よくしまる……」

「くっくっく、おれぁ死姦が基本だからよ。任せな」

 野盗の頭目ら、勇者ホリルを狙う三人は、上階の方へ去っていった。


  

 *


「せっかく温泉があるんですから、入っていきましょうよう」

「それは、しかし、……ううむ。どうせ、皆揃ってからオーラスに行く際、またこのオアシスを通るのだ。そのときでいいではないか」

 ミコシエは、温泉ではなく、各階に備え付けの普通の風呂で済ましてさっさと寝るつもりだ、と言う。

「ええー……」

 一人で入るのはさみしい、むなしい、とだだをこねるクー。

「あのなあ。わかっていないのかもしれないが、私は聖騎士であり、女性の肌の露出は、その、あまり、困るのだ」

「あはは。しどろもどろになってる、可愛いミコシエさま」

「少し、酔ってろれつが回らぬだけだ」

「酒はいいんですか、女はだけだけど酒は。聖騎士のルールってやつを、今から温泉でみっちりと教えてくださいよう」

「ほら、もう一杯どぞ」

「う、うむ……」

 クーも、しっかり飲んでいる。

「あ、クー。今、飲んだな。おまえ……」

「やーあ。あたしの祖国では、あたしの年ならもう、飲んだっていいんですよう。それに何を今更、もうこれ四杯目ですって」

「……よし」

 ミコシエは立ち上がる。

「はっ? どこへ」

「温泉だ」

「やっほー。楽しいなあ、行きましょう!」

 

 *


 残った二人はそれぞれの目的で、ぎらつく目でミコシエとクーの様子を見ていた。

「ぐへへ。もう、いって゛いいか゛?」

「お、ちょい待て……あいつら移動するな。ははぁーん。どうやらやつら、温泉に行くようだ。こりゃあ、チャンスだ。とことん無防備になる上に、脱がす手間もなくなるからな」


 *


 温泉場に着くと、着替えは男女別なので、ミコシエとクーは一旦別れた。着替え室には今、他に人の姿はない。

 ミコシエは服を脱ぎ、温泉へ出ようとしたところで、女の着替え室の方からクーの悲鳴が聞こえてきた。ミコシエは着替え場に踵を返し、剣を取って駆けつけようと思ったが、そのとき着替え室にのっそりと巨漢が入ってくる。

「ぐへへへぇ、けつ゛、けつ゛出せぐへぇ」巨漢は、剣を構えている。が、下半身は裸だ。

「なっ……しかし温泉に浸りに来た、というわけではなさそうだな」

 巨漢は、ミコシエに襲いかかってきた。ミコシエは剣を取ることも叶わずに、巨漢の腕に掴まれるのを何とか逃れ、巨漢が入り口を塞いでいるため仕方なく温泉のなかへと移動した。

 クーの方も、着替え室で襲われた相手から逃げてこちらへ来たらしい。

「おい、クー!」

「あっミコシエさまぁ!」

 温泉の脇には幾本かの木が茂っており、クーは身軽にその上へと身を移している。ミコシエはひとまずクーが無事だったことに、ほっとする。

「ミコシエさま! 助けて、やっ、み、見ないでっ」

 クーは裸で、襲撃者はクーの上っている木の下からうひひと笑いながら、まじまじと見上げている。

「クー。そのまましばらく待っていろ」

「そんなあ! 助けてくださいよう。あーっ、下のやつの視線が気持ち悪いっ視姦されるぅっ」

「死姦してやるっ! 下りてこい!」

 ミコシエを追ってきた巨漢が、風呂場に姿を現す。巨漢もすでに全裸だ。

「……」

 ミコシエは、改めて巨漢に向き合った。

 剣を持っていないミコシエ。剣……か。ミコシエは巨漢が自身に飛びかかってくる刹那に思う。自身にとっての剣とは。剣で、あのしたしい敵たちや、それにこないだの悪霊たちも斬り、倒すことはできなかった。竜は言っていた。あのしたしい敵を斬ることのできる剣がある、と……それは。ミコシエは、今自分がぼんやりとした幻のような光る剣を手にしていることを知る。光る、剣……? 今まさにミコシエに飛びついてきた巨漢に向かい、それを振るうていた。

 巨漢の手はミコシエに触れない。巨漢は言葉もなく、その体は真っ二つになってミコシエの両側に裂け、落ちた。「なっ」クーも一瞬、何が起こったのかと目を見開き驚いている。

「き、斬れた……だと。何だったんだ、今のは」

 しかしその光る剣はまだ、ぼんやりと形を保ってミコシエの手に、ある。ミコシエはそれをそのまましっかりと握り直すと、クーを襲おうとしているもう一人の襲撃者目がけて駆けた。

「うおっ。貴様、いつの間に武器をっ」襲撃者はミコシエに向き直り構えたが、体勢を整えられないまま、ミコシエの一撃を受けた。

「斬れた……か」

 いや、斬れていない。斬る前に、ミコシエの手の光る剣はほとんど輝きを失って、消えてしまっていた。

「うっ、ううっ無念、……あ、ああっ? 俺、生きてる?」

 襲撃者は斬られたと思ったのだろう、しゃがみ込んでいたが、傷がないことに気付き、立ち上がる。しかしそのときには背後に回っていたミコシエの拳を受け、倒れた。

「はぁはぁ……。剣以外の戦いは、不得手なのだ……

 クー! 大丈夫か? 下りれるか」

 思わず、ミコシエは上を見上げてしまう。

「うっ」

「きゃああ! いやだぁミコシエさまっ」

 クーは木の枝にしがみ付いたが、色々と隠し切ることはできなかった。

 とりあえずミコシエが反対側を向き、その間に木を下りるクー。

「ミコシエさま、また、そっと反対側を向いてください。あたし、着替え室に行って服着てきます」

「早く、行け。近くにもう敵の気配はない。クーが風呂場を出たら私もすぐ着替え室に行く。ホリルのところへ向かうぞ」

「あっ。そっか……ホリルの方にも、もしかして……急ぎましょう!」


 *


 部屋には、ミコシエが先に駆けつけた。しかし時すでに遅し、ホリルの姿はなかった。

「しまった、これはしまったことになったぞ」

「ミコシエさま! ホリルは?」

 クーがやって来る。急いで着たのだろう、着衣が乱れてほてった肌が覗けている。

「クー」

「はい、ミコシエさま?」

「その、……もう少し、着衣を正してくれ。私は聖騎士。女子の肌の露出があるのは」

「なーに。あはは。さっきしっかり、見たくせに!」

「すまん」

「見たのね」

「うむ……」

「ふぅん」

「それより、ホリルを探そう。まだ、遠くには行ってないはず」

「えっ、あの馬鹿。勇者のくせに、さらわれたの? なさけな……」

 二人が、その場を離れようとしたとき、廊下の向こうから近づいてくる者があった。ホリルだ。

「ホリル!」

 二人はホリルの名を呼んで、近づいてくる彼のところへ駆けた。

「いやあ、心配しましたよ。突然、複数人の襲撃を受けたので……ミコシエさん、クー。よく無事で」

「一人で、その襲撃者達を撃退できたのか」

「はい。相手は、盗賊風の三人でしたが……僕だって、伊達に腕を磨いてきてはいませんから。今、宿の人に伝えて、すでに警備兵が連行していきました」

「そうだったか。……正直、腕を見くびっていたな。ホリル、立派な勇者だ」

「そ、そんなあ。まあ、そりゃ墓所では相手が相手だったので、力をお見せできずにお恥ずかしい限りでしたが」

 ミコシエはそれから二人の着衣の乱れに気付き、もしかして……と、慌てた様子を見せた。

「クー、あ、あれほど、ミコシエさんを誘惑するなと、言ったのに!」

「いや、ホリル。違うんだ、温泉に入ろうとしたところ、こっちも襲撃された。二人、片付けた。油断していたな。武器がなかったので、苦戦してしまったが」

「そ、そうでしたか。すみません……その、じゃあ、……やっちゃったわけじゃないんですね?」

「何をだ」

「やってないよー」

 翌朝、三人は眠い目をこすって、朝一の便は見送りそれでも何とか午前の便でテイーテイルに戻るのであった。

 ミコシエらがテイーテイルに戻って二日後、レーネとハガルらも無事、薬草を持ち戻ってきてくれた。これにより、勇者一行の僧侶シシメシの容態も回復に向かう。医師によると、彼は驚異的な回復力を見せ、数日で歩けるようになるだろうとのことだった。

 改めて、一同は、オアシスを越え、いよいよオーラスへ向かうことになるのだが……。

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