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光る骨の剣  作者: k_i
第3章 麓の村
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 麓の村は、さほど規模の大きな村ではなく、数十人が暮らし、村人が来る冬のための備えや準備に行き交い、また、外の町や村との行き来もあり、人々の生活の匂いが色濃く感じられた。

 家々の暖炉から煙が立ち昇っているのが見える。

「いい村ね。ちゃんと人がいる」レーネは村に着くと安心した表情でそう呟いた。

「変な言い方だが、まあ十日近く峠を彷徨ってくれば誰でもそう思う」

「やっと人心地が着いたわ。ユミテでは……」

「ユミテ? ってどこだ。そこから来たのか」

「い、いいえ」

 レーネはそのことについては口を噤んだ。

 ハガルはちょうど見張り番を交代するときだったということで、その労いと、それにこの時期に厳しい峠を越えてきた旅人へのもてなしも兼ね、その晩は宴が開かれることになった。

 会場となる村長家に続々と人が集まった。

 ミコシエは騒がしい場はあまり好まないため、席を隅の方にしてもらった。レーネは、村の女性や、ハガルの仲間の木こりらにも囲まれ、打ち解けた様子で話をしている。

「あっちのにいちゃんと恋人同士かえ。きれいな娘さんだねえ。ハガルもそろそろ、嫁をもらうことを考えたらどうだい?」

「ばあちゃん。その話は、しないでくれ」

 その内、メインディッシュである鳥の丸焼きがミコシエの前にも運ばれてきたのだが、ミコシエはそれにナイフを入れて驚いた。その大型の鳥は、何か黒い赤ん坊のようなものを飲み込んでいたのだ。それは、ユミテの空に見た人鳥に似ていた。丸焼きにしたので、誰もそれに気付かなかったのだろう。ミコシエは無論それを食することはせず、人にも言わずにそのまま残した。

 宴も程々に、ミコシエとレーネは明日には発つ予定で、旅程について話し合った。

「オーラスに行くには、大沙漠を越える。これには、砂漠船に乗る必要がある。その便は、テイーテイルという町から出ているな」

「私も、その町のことは聞いていた。そこそこ大きな町らしいね」

 一つ、レーネにとっては喜ばしいことだったが、テイーテイルに向かうことを告げると、そこまでハガルも付いてきてくれると言う。半年に及ぶ見張り番も終わったので、一度町へ羽を伸ばしに行こうと思ったというのと、テイーテイルには幾度か足を運んだことがあるのでついでに案内をすると言う。

 ハガルは、明るく気さくなだけではなく思慮も持ち合わせていた。彼の明るさは、これまでの旅で疲れたレーネの心を随分、和ませた。ミコシエも、それはいいことと思えたし、一緒にいて目障りに思う男でもないと思った。

 

 

 翌朝、宿泊した村長家の外に出ると、すぐ近くの道端で村の子ども達がはしゃいでいる。

 見れば、狼の仔をいじめているらしい。ミコシエは、それがさきの戦闘で親を亡くした魔狼の仔だと気付いた。魔狼の仔は牙を剥いて低く唸っている。

「やめておいた方がいい。そいつは、魔狼の仔だ」

 ミコシエは子どもらに、食いついてくるぞ、と付け加えて注意した。しかし子どもらは、

「げっ。じゃあもっといじめようぜ!」

 と、棒切れで仔を叩こうとすごむ。

 そこへハガルも出てきて、「今のうちに殺した方がいいかもしれんな。すぐ、大きくなる」と言った。すると魔狼の仔はまた、ミコシエに向かって体当たりするように駆けてくる。ミコシエは身構えたが、仔はミコシエの前で速度を落とし、足に擦り寄るのだった。

「なんだこいつ、変なやつ」

「にぃちゃんになついたぜ」

「せこいな。助けてもらおうってのか」

 子どもらは口々に言うが、ミコシエの足にぴったり張り付いているので、どうともできず、「行こうぜ!」と行ってしまった。

 ハガルもその仔の様子を見て殺すわけにもいかず、ミコシエに「どうする? 村では飼えないし、おまえのペットにでもするか?」と言うのだった。

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