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皮肉と魔術のフラジール  作者: 宇後 筍
一章:アリウム・ギガンチウム
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第4話:遺跡探索(1)

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 地下遺跡。亡き古代王朝の遺したそこは、今や森に埋もれ廃墟と化して朽ちるのを待つのみである。地下特有の黴臭い匂い。崩落して地上から射す光が灯りとなって辺りを照らしている。吹き込んだ風が埃を舞い上げて空中にばら撒く。そこは既にヒトの領域にあらず、お互いを喰らい合う獣や敵性生物モンスターしかいない。そんな中に、招かれざる影が三つ。男が二人、女が一人。いずれも人間族ヒューマである。


「こんなとこにホントに宝があんのかよ」


「古代の魔導具が眠ってることが多いのよ。儲かるわよ?」


 冒険者エクスプローラー。遺跡や迷宮、秘境を探検し、そこに存在する未知を発見する彼ら命知らずをそう呼ぶ。この三人組も、そうであった。古代文明には、未だ人類が成し得ない超常的な仕組みのテクノロジーが、眠っていることがある。学者にとっては遺跡にある数々の品、あるいは遺跡そのものが何かしらの研究に立つこともあるのかもしれないが、彼ら冒険者にとっては眠っているお宝こそが、より直接的に言うのであればその売却金額が重要なのだった。


 だが、そこに棲んでいた者からすれば、幾万年前にヒトの領域だったとしても、そこに如何なる財宝が眠っていたとしても、皆等しく自らの縄張りの入ってきた侵入者でしかない。冒険者達の何人もが同業者を出し抜くべくこうした遺跡や未探索地域へ探検に出かけ、そして戻らない。冒険に困難が待ち受けているのは、大昔の英雄譚と同じである。


「おい、気を付けろ。そこに何か(・・)いる」


 その中の一人、アトミが指揮棒タクトを振って、五十メートルほど先を指し示す。素材が黒檀、銀の装飾をあしらった高級そうな一品だ。そんなものを冒険に持って来るのは、馬鹿な道楽者か、物好きの魔術師しかいない。そして彼は、後者であるようだ。見る者が見れば、彼の体の中を魔法の素となるオドが溢れんばかりに練り上げられ、うねっていることが分かっただろう。


「ったく、斥候が形無しね。これでも感覚は鋭いつもりなんだけど」


「魔術師ってのは、本当に何でも出来るんだな」


「お褒め頂いて光栄だが、いかんせんモンスターについては良く知らなくってね。無駄口叩く余裕があるなら、こいつが何なのか教えちゃあくれないか?」


 縄張りを侵されたその異形は、敵意を漲らせ、三人の前へ姿を現す。蝙蝠のような薄い皮膜を広げた羽。毛に覆われた顔の中心では大きな瞳がぎょろりと彼らを見据えている。異様に痩せた人体のような、ピンク色の胴体と手足が二足で立つ。鋭い犬歯を剥き出して唾を撒き散らしながら威嚇している。


羽剥鬼スキニーロブよ。噛み付きと爪に注意! 飛んだり跳ねたりするからしっかり動きを見ること!!」


「了解。俺と標的の間に立つなよ。巻き込むからな『No.6:Tease(牛刀)』」


 指揮棒の銀の装飾が淡い緑の光を帯びる。周囲のマナに感光し、魔法の起動を始める。上から下にすっとなぞられた指揮棒の軌道の通り、空気が裂ける。音もなく現れたそのかまいたちは、標的に向かい不可視のまま飛んでいく。風の魔法、『切り(ウイン)裂く(ドカッ)ター』に酷似したそれは、彼の魔法研究によるオリジナルなのか威力も発動速度も桁違いである。


「ギッ!?」


 だが、野生の勘か偶然か。羽剥鬼スキニーロブはその直線的な軌道を避け、魔術師の男を睨む。その魔法の威力を脅威に感じているのは明らかであった。避けた後ろで壁にくっきりと切れ目が入る。前傾姿勢となり後衛に位置する魔術師へ攻撃を仕掛けようとした、その時である。


「余所見すんなよ、寂しいじゃないのさ」


 その隙に回り込んでいたもう一人の男、双剣使いのジョゼが、横から羽に向かって双剣を振るう。致命傷とはなり得ないが、機動力を奪うのが目的だろう。強力な魔法を行使する魔術師がいるのであれば、魔法の一撃を当てればそれで終わりだからだ。


 だが、そもそも純粋な人間族(ヒューマ)は腕力も敏捷性も他種族には及ばない。それ以上に野生としての闘争を続けるモンスターに対しては、言うまでもないだろう。羽剥鬼はあっさりと避けて鋭い爪で反撃を行う。剣を突き出した形の男は体勢が崩れている。到底かわすことは出来ない。


「避けろ!!」


「大丈夫よ」


「ギギャッ!?」


 突如怯んだ羽剥鬼。その老人のように皺だらけの細い腕には、トマホーク。アルビーナの投げ斧がその右腕を半分引き千切るような形で突き立っている。モンスターにも痛覚はあるらしい。泣き声のような悲痛な叫びを上げる。


 そしてジョゼは、それを全く疑っていなかったように動いていた。見事な信頼関係である。刃渡の短い双剣とは思えないような鋭い太刀筋で二対の羽を切り飛ばし、魔術師の名を呼ぶ。


「アトミ!!」


「ここまでされて外すかよ……『No.8:Bullet(虫喰い)』!」


 土の魔法により椰子の実型の弾丸を形成。風の魔法により射角、スパイラル回転を加え空気抵抗を抑える。火の魔法で推進力を与え、それを爆発的な速度で打ち出す。薬莢は付いていないために火薬の弾ける音はしない。


 土手っ腹に風穴を空けた羽剥鬼スキニーロブが倒れる音だけが遺跡に響いた。決着である。


「こりゃあ、探索も捗るぜ」


 ジョゼの下手くそな口笛が響く。アトミの初めての遺跡探索は、まだまだ始まったばかりである。


羽剥鬼スキニーロブ


地下や洞窟などの陽の射さない場所に棲み着くモンスター。肉食で、臆病だが縄張り意識は強い。名前の由来は森などに棲息している皮剥鬼スキンロブに見た目が似ていることから。


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