人間に祈りを捧げるネックレス
カランカラン…
軽やかな音と共に扉が開く。僕は、またこの店に来てしまった。
『おや、いらっしゃい。また来てくれたんだね。』
今日も店主はいつもの場所に。僕を見るととても嬉しそうな顔をした。
『それで、今日はどうしたの?何か探してる?』
「いえ…そういうわけではなくてですね…」
『…そっか。わかった。それじゃあ、おまかせでいいかい?』
「はい…お願いします…」
店主は、にやりと笑うと、鼻歌交じりに僕を手招きした。
僕の前に出されたのは、十字架のネックレスだった。大理石でできているのだろうか、重みがあり、綺麗な白色をしている。
「…これは?」
『ネックレス。結構気に入ってるんだこれ。』
「はぁ…」
『それにほら、この裏のところ。英語で【神の加護を】って書いてあるんだよね。カッコイイよね』
「そうですね。」
『…』
「えっ?終わりですか?」
『あはは。冗談だよ冗談。…さて、』
「…」
『君はさ、神様って…信じてる?』
「神様…ですか?」
『うん。神様。』
「…微妙です。けど、宗教とかには入ってません」
『そっか。私もだよ。』
「それで…なんなんですか?」
『神様ってさ…すごいんだよ。7日で世界を作ったんだよ?』
「そうなんですか。」
『ま、7日目は休んでたらしいんだけどさ。』
「はぁ。」
『…なんで神様って…人の形してるんだと思う?』
「えっ?」
『聖書には神に似せた生物が人間って書いてあったけどさ、禁断の果実を食べて知性を得るアダムとイブはそれまで他の動物と一緒だったんだよ?』
「それじゃあ、なんで人みたいなんですかね?」
『君はどう思う?』
「…そうですね、神は元は形がなくて、この世界で一番力のある生物の真似をして人間を導いたとか…」
『…ふぅん。面白い考察だね。私、結構それ好きかも。』
「あ、はい。ありがとうございます」
『けどね、本当の理由は違うんだ。』
「本当の理由?あるんですか?」
『あるよ。』
「それは…何ですか?」
『それはね?』
『人間が、神だからだよ。』
「…はい?」
『人間は神様なんだ。だから神様は人の形なんだ』
「ど、どういう意味ですか?」
『最近さ、自然が少なくなってるじゃん?』
「そうですね。それで地球温暖化とか。」
『それって要は、この地球の自然と環境を支配してるんだよ。』
「…少し違くないですか?」
『動物同士、弱肉強食のハズなのに人間は道具を使って自分より強い動物を殺すんだよ。』
「…はぁ」
『それって、神だから動物の枠から外れてるんだよ。』
「…」
『数の少ない生物を保護して数を戻す。自然を破壊もできるし保護もできる。自身の寿命も伸ばせるし、新たな素材も作れる。』
「…それは」
『それは、そう。人間こそが全知全能の神だからだよ。何でもできる。何にも負けない。それが神さ。』
「それじゃあ、人間は無敵なんですか?」
『うーん…そうでもないと思うな。』
「えっ?」
『無敵の鎧と無敵の鎧がぶつかれば砕けるよね?』
「…そうですね。」
『無敵を殺すのは…無敵なんじゃないかな?』
「無敵を殺すのは…無敵…」
『人間を殺すのは人間…』
「それじゃあ僕らは…」
『自分で死ぬ。自滅自滅♪自分で終わる運命だよね』
「…いつもと感じ違いますね。」
『そんなことないよ?』
「いや、普段はもっとこう、不安にさせるようなことを言うじゃないですか。」
『…そう思う?』
「えっ?」
『さっき言ったけどさ、神は神に似せた生物の人間を作り上げたんだよ?』
「それが…何ですか?」
『世界を作り上げた神が、自分に似た生物を作り出すんだから、君は神である人間に“似せて”作られたんだよ?』
「…それってつまり…」
『…いつから自分が神に等しい人間と思ってたの?』
「…えっ?」
『なーんてクローン話はどうだろう』
「…僕は人間ですよね?」
『えっ?』
「怖いからそういうリアクションやめて下さい!」
『あはは。けどさ、そしたら私も人間っぽい生物だよね』
「…そうですね。」
『そしたら、やっぱり神様は僕らを見てるんだなぁ』
「…えっ?」
『だって、自分で作ったんだから監視くらいするでしょ。遊んでるのかもしれないけど。』
「あの…そのネックレスいくらですか?」
『えっ?結構高いよこれ?2000円だよ?買うの?』
「…神の加護が欲しくなりました」
『…そか。毎度ありっ』
少し勢いで買ってしまった。家に帰って十字架を握ってみると、その先に、前に買ったスノードームが映った。
神に作られ…監視され…弄ばれる…
僕は…一体なんなんだろう?その疑問からまた、僕はあの雑貨屋に足を踏み入れる事になってしまうのだった。
『人生に少しだけ違った風味を与える店、LIFE SPICE。またのご来店を、心よりお待ちしております…』