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ドームの中の僕

僕の前に出されたのは、スノードームだった。中にはマフラーを巻いた少女が、雪遊びをしている人形が入っている。


「あの…これは?」

『スノードームだよ?綺麗でしょ?』

「は…はい。綺麗…です。」


僕は困惑していた。人生を変えるとか大風呂敷を広げられた後にスノードームを出されて『綺麗でしょ?』とか言われてもそうですね。しか言えない。一体このスノードームが何なのか、全く分からない。

そんな僕を見て、その人は嬉しそうに笑っていた。


『いいかい?このスノードームの中の少女は…君だ』

「はい?」


何を言っているのだろうかこの人は。本当に訳が分からない。まさかこのまま変な宗教に勧誘されたり、君を救うためとか言われてこれを買わされたりするんじゃないだろうか。少し不安になってきたその時、その人の言う『人生のスパイス』という物の意味を知ることになった。


『さて、ここで質問だ。このスノードームの中には少女以外に何が入ってる?』

「えっ?えーっと…何も無いです。」

『そうだね。このスノードームには少女の人形と、雪のようなラメしか入っていないね。』

「…それが何なんですか?」

『これが、今の君。ということさ。』

「えっ?」

『今君はこのスノードームに閉じ込められている。この空間に君以外の物はなく、孤独だ。』

「…えっと…お言葉ですが流石に僕も友達くらい居ますよ?」

『それはこのラメだね。』

「はい?」

『君が友達だと思っているもの。君が見てきたもの。それらは全てこのラメだ。』

「…どういう事ですか?」

『君が今、生きている空間はこのスノードームだけで、今まで見た物、触れた物、話した物、感じた物。その全てはこのラメだった、ってことさ』

「…はぁ。」

『君が歩いてきた道も、君が住んでいる家も、君が今いるこの雑貨屋も全て、スノードームに映ったもの。君は1度もこのドームから出てないのさ。』

「ドームから…出てない…?」

『私もただのラメだし、今君がまじまじと見つめているこのスノードームだって本当は存在しない。』

「それじゃあ僕は…なんなんですか?」

『この少女…だね。何にも知らずにこのドームの中で楽しそうに雪遊びをしてる。』

「何も知らずに…」


『…君は…生まれてから今まで、ずーっとこのドームの中で、自分の見ている物が偽物だとも知らずに、幸せに暮らしてきたんだよ…君が触れてる物も偽物。今まで話をした人も偽物。今まで食べた物も感じた物も悩んだ物もみーんな!!偽物なんだよ。』


その言葉を聞いた瞬間、僕は急に怖くなった。今見ている物、今触れている物がもし本当にラメなんだとしたら、僕は今まで何をして生きてきたのか。


「…どうして僕は…このドームの中に?」

『それは…僕らがスノードームを飾るのと同じ理由じゃないかな?見てて楽しいから。』

「見てて…楽しい…」

『いつ気がつくのかなー?いつまで偽物の人生を歩むのかなー?って、見てるんだよ。』


僕は、このドームの中で、まるで金魚鉢の金魚のように、誰かに見られ、生かされてきた…ということ?だとしたら今も…


『いつ…気がつくかな?』

「えっ?」

『いつになったら…気がつくのかな?』

「僕は…僕はずっと…」

『そう…君はずっと…』

「このドームの中で…誰かに見られて生きてきたのか…?」

『ふふふ…ようやく…気がついた?』

「そんな…それじゃあ僕は一体…なんなんだ!」




『…なーんて話が、あるかもしれない』

「何なんですかこれは」

『もしかしたらそうかもしれないって話だよ』

「そんなわけないじゃないですか。」

『うん、多分そんなわけないと思うよ?』

「じゃあ何で」

『僕らは現に、スノードームを見てるんだもの。もしかしたらって思ったら、なんだか楽しくない?』

「楽しくないですよ。そんな怖い話。」

『うーん、そう?それは残念。』

「…このスノードーム…いくらですか?」

『1500円だよ?買ってくれる?』

「…はい。」


僕はなぜか、スノードームを買ってしまった。家に帰って取り出してみると、ラメは綺麗に輝き、中の少女はより一層楽しそうに見えた。しかし、僕にはそのスノードームを、素直に美しいと思えなかった。


僕が見ているスノードーム。その僕を囲うようにまたドームが存在し、それを見ている人がいる。そんな気がしてならなかった。


そして僕は、より一層あの雑貨屋さんで色々なものを見たいと思った。



『人生に少しだけ違った風味を与える店、LIFE SPICE。またのご来店を、心よりお待ちしております…』

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