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幸せなスポットライト

悪いことというのは、やたらたて続けに起こるものだ。ここ数日、僕の周りではろくなことが起きていない。頭を抱えるほどの問題ではないが、こういう時に行く場所は決まっている。そう、あの雑貨屋だ。


『お、いらっしゃい。』

「はい。」

『どうしたの、元気ないね?』

「いえ、別に。」

『…そう?』

「はい。」

『…』

「…」

『…話す程でもないってことか。』

「…はい。大したことじゃないんです。ただ、その大したことないものがいっぱいあるんです。」

『なるほど、分かるよ。』

「いい事って続かないのに、なんで悪いことはこうも連続して起こるのでしょうか。」

『んー…。あっ。』

「ん?」

『いいのがあったよ。そんな君にピッタリなスパイス』

「本当ですか。」

『うん!待っててね。』



そう言って店主さんは、お店の奥から何かを持ってきた。それはどうやら、鉄製の卓上ライトのようだった。


「…これは。」

『これはねー、ライト。』

「それは分かります。」

『あ、この赤サビはデザインだから本物じゃないよ。』

「へぇ、そうなんですか。」

『さて、このライトをだねぇ』

「…はい。」


店主さんはライトをつけると、それを突然僕の方に向けた。


「うわっ!」

『あっはっはっは』

「ちょっと何なんですか!眩しいですよ!」

『でしょ。このライトは…君の幸せを照らすスポットライトだからね。』

「…幸せ?」


優しく微笑んだまま彼は、ライトを下に向け話し出した。


『…コイントス、って分かる?』

「コインを投げて裏表を当てるやつですよね?」

『そ。いい事と悪いことっていうのはそれと同じ、起こる確率は½—さ。』

「…でも」

『うん、君は言ったよね。いい事は続いては起こらない癖に悪いことは連続するって。』

「はい。」

『実はね、連続してるんだよ。それは君が気が付かないだけ。』

「気が付かない?」

『うん、人の心はステージなんだ。そのスポットライトはひねくれていて、悪いことばっかり見せようとする。』

「そう…なんですか?」

『うん、例えば…お出かけした時、いい天気で予定通り進んだ日より、雨が降ってサイアク、って記憶の方が残りやすいのさ。』

「それは確かに。」

『悪い記憶っていうのは、普通の日常にプラスで何かが付いて悪い記憶になるから普通の記憶より残りやすいんだね。』

「…でも」


店主さんは、その後に僕が言おうとしたことを察したのか、小さく頷いた。


『…さっきさ、ライトで照らされてどうだった?』

「えっ、眩しかった…ですけど。」

『そう、眩しいよね。』

「はい。」

『そういうこと。』

「はい?」

『幸せってとても眩しくて、急に照らされると見えないんだ。ゆっくり照らされていかなきゃいけない。』

「はぁ。」

『元から明るいステージ。要するに、ある程度幸せじゃないと幸せって見えないんだ。』

「…ある程度幸せじゃないと見えない…」

『だから…ね?』


彼は消えたライトをこちらへ向け、ゆっくりゆっくり明かりを強めていく。


『朝ごはんは…美味しかった?』

「…はい。」

『今日はとってもいい天気だよね。』

「そう…ですね…」

『今日の服、キマってると思うよ。』

「ありがとうごさまいす…」

『今回のスパイスは…気に入ってくれた?』

「はい…」

『そっか。よかった。』


僕に当てられたライトは、眩しかったけれどとても心地よかった。なんだ、こうして見てみると幸せって、案外近くにあったんだなぁ…



『…っていう話でした。ちゃんちゃん。』

「元気が出ました。」

『本当?それはよかった。』

「…あの、そのライト」

『あ、えっとね、1400円だよ。』

「買います。」

『毎度ありぃ!あ、オマケ付けとくね。』

「あ、ありがとうごさまいす。」


家に帰ってライトを出してみた。袋の中にはイチゴ味の飴が入っていた。美味しい。幸せな気持ちだ。確かにいい事が連続して起こった。明日からも頑張れる気がした。


『人生に少しだけ、変わった風味を与える店、LIFE SPICE。またのご来店を、心よりお待ちしております…』

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