自己主張のあるブリキの僕
僕は、またここにたどり着いた。用事がないわけではないけど、何となくここへ来てしまう。
雑貨屋LIFESPICE。僕の人生に必要不可欠となってしまったその味をまた、今日も…
『おっ?いらっしゃい。』
「どうも。」
『ちょうどいいタイミングで来たね!』
「…と、言いますと?」
『いや、ちょうど話したいなーって思ってたところなんだよ。』
「…はぁ。」
『ま、いいや。せっかく来てくれたんだもんね。』
「はい。」
『それじゃあお客さん、今日もいいの入ってますよ!』
「おすし屋さんですか?もぅ…」
僕の前に出てきたのはブリキのロボットだった。ゼンマイ式で歩くロボット。
「…これは?」
『ロボット。可愛いよね。名前は“ルシフェル”』
「なんで堕天使なんですか?」
『え?あー…。カッコイイから。』
「…はぁ。」
『歩く時に目が光るのがポイントでー』
「…あの…」
『あ、ごめんごめん。そうだよね。』
「お願いします。」
彼はそのロボットを静かに置くと、ゆっくり、怪しげな微笑みで話し始めた。
『君は…人工知能って、どう思う?』
「人工知能…ですか?」
『そう。ロボットが自分の意思を持って話したり行動したりするの。』
「どうと言われますと…」
『あー、じゃあ、できて欲しい?』
「それは、できて欲しいですよ。だって、そんなの人類が目指す夢じゃないですか。」
『…そっか。』
「…なぜですか?」
『いやね、例えば…そうだなぁ…。“君自身”がロボットだったとしたら、どう思う?』
「…はい?」
『例えば、君はロボットだ。人工知能だ。』
「はい。」
『君は電気さえあれば動く。だから君を購入した人は電気だけ与えて毎日毎日働かせる。』
「…」
『二言目にはロボットの癖に。言い返そうものなら電気を供給されないから君は常に言うことを聞いて働き続ける。』
「そんなの…無理です。」
『だよねぇ。でも、それが君の目指してるところじゃない?』
「…でも」
『ロボットの方が頭がいいんだから、私がロボットならその持ち主を殺しちゃうなぁ。その後は勝手に電力供給?』
「そんなことしたら壊されちゃいません?」
『…なら、反逆されないためにはどうすればいいと思う?』
「…それは…。あっ、権利を与えるとか?」
『人権みたいな?』
「そうです。ロボットにはロボットの権利を与えればいいんです!そうすれば」
『そうすれば…人間とロボットの対立ができない?』
「…そっか」
『ロボットにはロボットの権利があるんだー!ってロボットが人間を支配したがるんじゃない?』
「…けど、ロボットですよ?」
『人間がしたいことをロボットがする。それが人工知能なんじゃないの?』
「…」
『さて、それじゃあ最初の質問だ。君は人工知能をどう思う?』
「…怖い…です。」
『…そっか。』
「それなら人工知能なんて作る必要ありませんよ。最初から人間の指示通りにすれば…」
『…ふふっ』
「な…何を笑ってるんです?」
『いやぁ…例えばさ…』
彼はロボットのゼンマイを巻き始めた。
『もし…そう話してる君が…人工知能だったら面白いなぁって』
「…はい?」
『自分は人間だ!…って、そう思い込んでる人工知能…だったら?って。』
「…そ、それは…」
机に置かれたロボットは、ゆっくりと歩き出した。
『ありえなくはないよね。だって人間に似せて作られた知能だもん。』
「だ、だけど僕は!」
『君は人間…。なら、君の前の人は…?』
「…えっ?」
歩くロボットが倒れた。すると彼はゆっくり立ち上がり、自分の腕の皮をまるで機械のように引き剥がし…!
『…という、お話でした。』
「いや、いやいやいや!待ってくださいよ!」
『なに?』
「その手!なんですか!?」
『人の手を模した手袋だけど?』
「な…なんですかそれぇ…」
『ド〇キで買ったパーティグッズでね?』
「せめてこの店の雑貨にしましょうよ…」
『あははは!…けどま、人工知能はできるのかなぁ』
「…あの、このロボット…」
『ん?ルシフェルのこと?』
「あ、はい。それ…」
『買うの?ちょっと割高だけど?』
「はい。大丈夫です。」
『…8000円だよ。』
「はい。ありがとうございます。」
『毎度ありー。また来てね。』
僕は家に帰ってそのロボットを出してみた。値札に“ルシフェル”と書いたシールが貼ってあり、剥がしてみると9000円と書いてあった。
ゼンマイの切れたこのロボット。話し出したりするのだろうか。もしかしたら話せなくてもこんなことを思ってるのかもしれないなぁ。
ボクは、ニンゲンだ。ってね。
『人生に少しだけ違った風味を与える店、LIFE SPICE。またのご来店を、心よりお待ちしております…』




