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いただきます

『命をいただきます』


それがボクが聞いた最後の声だったと思う。


***


ボクは四人兄弟の末っ子として産まれた。


お父さんは兄弟全員違うらしく見たこともなかったけど、僕たちには大好きな母さんがいたから気にならなかった。


兄弟達とはご飯の時は本気で闘ったけど、それ以外の遊ぶ時間は野山を駆け回ったりして遊んでくれた。


ある日一番上のお兄さんの誕生日の前日、母さんが僕ら兄弟を集めて大事な話をした。

ボクたちの一族は一定の年齢になったら親元を離れて旅に出なくてはいけないらしい。

一番上の兄さんは以前からその話を聞いていたらしく、ボクたちがざわざわする中、口を結んでじっと黙っていた。


寝る前にボクは一番上の兄さんの所へ行き「兄さんと会えなくなるのは寂しい」と言ったら「お前もいずれ旅に出るんだよ。そんなんじゃ他の兄さん達に笑われるよ」と兄さんに怒られた。

その後に兄さんは優しく笑って何も言わずに優しくポンポンと頭を叩いた後に「おやすみ」と言って寝てしまった。


翌朝早くに兄さんは順番にみんなを抱き締めると「いってきます!」と元気な声で別れを告げて朝霧の中に消えていった。


翌日からは家族四人の生活になった。

二番目の兄さんはご飯の時に一番大きい肉を食べることが出来て喜んでいたが食べている最中に「こんなにたくさん食べれないや」と下の兄弟に分けてくれた。


でも、ボクたちもいつもより沢山の取り分があったとは言え、胸が一杯であまり食べられなかった。


それから数年が経ち順番に上の兄さん達が全員旅に出て、一人ぼっちにも慣れてしまったある日の寒い冬の夜に不思議な夢を見た。


それは母さんと兄さん達と会ったたこともない父さん達が一同に介して楽しそうにおしゃべりをしていた。

食卓には見たこともないようなご馳走が並び、母さんも大きな声で笑っていた。


翌朝、母さんにその話をしたら、少し驚いた後に嬉しそうな顔で「いつかそういう日が来ると良いね」と呟いた。


***


そしてボクの旅立ちの日が来た。


「行ってくるよ母さん」


「行ってらっしゃい坊や。お兄さんたちに会ったらよろしくね」


ボクはなんとなく気づいていたんだ。

もう母さんには会えないこと。


家を出ると旅立ちの前に必ず立ち寄る施設があり、そこで旅立ちの年齢に達したボクと同年代の子と一緒になった。

何処にこんなに居たのかと思うほど沢山の同年代の子供達が集まっていた。

旅立ちの前には断食をする決まりだったので、お腹が空いたと悲しそうな顔をしている子もいたけどみんな元気で健康だった。


集められた部屋では温かい白湯(さゆ)を出された。

空腹のお腹に染み渡るように広がるそれを飲むと、部屋の暖かさも相まって一人、また一人と徐々にみんな眠ってしまった。


どれ程眠っていたのだろうか、気づいたらボクは一人ぼっちで大草原の真ん中にいた。

回りを見回しても誰も居ない。さっきまで大きな部屋で同年代の子供達と一緒にいた気がしたんだけど……


仕方がないので暫く草原を当てもなく歩いていくと、そんな時に聞こえたんだあの声が。


『命をいただきます』


穏やかな感じがするその声が辺りに響くと、目に写る景色はまばゆい光に変わり、ボクの身体を包むと天へと昇っていったんだ。


そこにはあの日夢で見た兄さん達と父さん達が笑顔で笑いあっていて、ボクに気づくと優しく出迎えてくれたんだ。


***


これはむかーしむかし。遠い昔のお話


これはまだ人間が神様の食料だったときのお話。

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