映し出すもの
明日からは、仕事はない。
でも、貯金もあるし、寝床ろもある。
僕は、旅に出た。
気のままに。
車に乗って。
色んな所に行った。
世の中、こんなに広いんだ。
ある都心で電車に乗る。
テレビでしか、見たことのないような美男子、美女が、電車に普通に乗っている。
都心だから、みんなが、みんな、そうなのか?
いや、そうではなかった。
普通の人は、至って普通だ。
そんな旅を続けて、僕は、誰からも何からも、束縛されず、
自分の好きなように、
自分のなりたい格好で
自分の思うままに、
過ごしていた。
いつからか、自分に魅力を感じていた。
鏡を覗きこむ、僕。
そこには、昔、好きだったロックミュージシャンに似ていた姿が、映っていた。
「何か、歌えよ」
声がした。
振り向くが誰も、いない。
僕は、呟く。
「ねぇ、僕は、輝いて見えるのかい?」
自分で、そう呟いて笑った。
あの日、車で仕事をしていた時。それこそ、ビジネスマンヘアーで、大きめのスーツを着て、働いていた。
安定は、あったが、それ以外は望めない生活。
それを、思い出して心が少し痛んだ。
トイレがしたくなり、用をたしたあと、もう一度、鏡を覗きこむ。
また、声がした。
「鏡を覗きこんで、そこにある全てが、好きになれなければ、愛は・・」
僕は、振り向いて叫んだ。
「愛は、どうなるんだよ!」
誰もいないトイレに、僕だけの声が響いた。




