孤高の弓兵(2)
すみません、遅れました。
本格的に更新が遅れます…
「おめぇも大きくなったもんだなぁ。 昔はダグラスの金魚のフンだったのによぉ」
じいさんの唯一の友である、ユアンに背中をバシバシと叩かれる。
この年齢層は、やたらとスキンシップが多いと思う。それに加えて力が強い。
「昔と何もかわっとらんさ。 まぁ少し、ほんの少しはまともにはなったがな」
じいさんは豪快に笑いながら、地図を見ている。
すごくアットホームな感じだが、今は傭兵としての任務中だ。それも大国同士のぶつかり合いで、死ぬことだってあり得るのだが…
「でもよぉ、今じゃあフレッドも名が売れてると思うぜ。 何たって弓の使い手としては、右に並ぶものはいねぇって話だろ!」
「弓に関しては、こいつに並ぶ奴はいないだろうな。 だが、剣を構えたときのへっぴり腰ときたら…」
「そ、それは関係ないだろっ!」
じいさんの横に並ぶことが出来るほどの実力が付いた。少し前から、じいさんの仕事を手伝うようになっていた。
死にかけたこともあったが、今となっては良い思い出…でもなかったりする。
「そろそろだな。 俺とユアンは東側の部隊に入る。 フレッドは西の部隊に入れ。 西側から攻めて、相手の物資を使い物にならなくしてこい。 できるな?」
「もちろん」
じいさんとユアンを含めた部隊は東の方へ走り出した。それをきっかけに、仲間の部隊が一斉に動き出した。
敵国の物資が保管されている西側の拠点までは、そんなに遠くはない。警戒をしながら進んでいくが、敵兵の一人すら出てこない。
不自然だな。そう思いつつも、素早く目的地へ急ぐ。
あっという間に敵の拠点に着いたが、物資だけが置き去りに敵兵の姿は見当たらなかった。
「どういう事なんだ?」
この状況に居合わせた全員が首をかしげている。だが、敵がいないのは都合がいい。作戦通りに物資に火をつけた。
そして燃え盛る敵の拠点を後にする時だった。一人の男が…、全身を真っ赤に服を染めた男が、よろめきながらやってきた。
すぐに駆け寄ると、前のめりに倒れこんできた。男を抱きかかえると、あっという間に自分の服まで赤く染まった。出血量が尋常じゃない。
応急処置をと考えたが、おそらく手遅れだろう。
「あんたはどこの部隊だ! 誰にやられたんだ!」
「わ、私は…、東の部隊の…、ゴホッ…ゴホッ」
男は吐血しながら小さく呟くように答えた。
「それで…、何があったんだ!」
「東の部隊…は、孤立…して、壊滅…」
そこまで言い終えた男は、力尽きたのか首がガクッと落ちた。
男を地面に横たわらせながら、情報を再度確認する。
東の部隊が壊滅状態…東の部隊だって…
じいさんとユアンがいる所じゃないかっ!?
急いで仲間を呼び寄せ、男の話を伝えながら東の部隊のいる方角へ走る。無造作に生えた草木をかき分け、力の限り走り抜ける。
…何かイヤな予感がする。
でもあの二人に限って死ぬ事は…、そう、そんな事は無いはず!
東の部隊のいる地点まで、もうすぐという所だった。よく見知った顔が現れた。
ユアンさんだっ!
あの人が生きているなら…、じいさんも!
だんだんと近づくにつれて、ユアンの体に不自然さが感じられた。歩き方もどこかぎこちない。右腕で左ひじのあたりを押えながら…、左腕のひじから下が…ない!?
「ユアンさん! いったい何があったんだ! それに腕が…」
布を巻いて出血を押えているようだが、地面に赤い血だまりができている。顔はからは血の気が引いて、歩くのがやっとのようだった。
ユアンのもとへ駆け寄ると、彼は俺達の走ってきた方向に目くばせした。
「ここに生存者はいない。 退却するぞ…」
ここに生存者はいない…
ここに生存者はいない?
…じいさんは?
(そこからどう帰ったのか、その後戦争がどうなったのか、何一つ覚えていない。ただ一つ覚えているのは、じいさんとは会えないという事だけだった。)