騎士団の任務(3)
ふぅ~、何とか間に合いました!
玄関のドアをノックする音がした。ようやく、城塞都市ギルン行きの馬車が来たようだ。
私がドアを開けると、小柄な老人がいた。はやくも団員たちは、荷物を運びこんでいる。
「すまんの。 少し遅れてしまって」
老人は、髪の毛のない頭を掻きながら、小さく笑った。
「いえいえ。 どれくらいで着きますか?」
馬車へと移動しながら、老人に尋ねた。
「半日くらいはかかるかの~。 一刻を争うという事で、一番早い馬で来たわけじゃが…」
馬車は片側が出入り口となっていた。その他の面は、小窓があり外の様子が見える。
私が一番奥の席に座り、それに続いて団員達も座った。
「それでは、ギルンへ…、はっ!」
老人の掛け声とともに、馬たちも声を上げ走りはじめた。
ギルンへ向かい始めてすぐ、クレアが私の膝元に移動して来た。私の横にいるセリアが、怒るのではないかと思ったが…。上の空といった感じ。
昨日の夜に受けた衝撃が残っているのか…。あえて私は、触れないことにした。
ふと小窓の外に広がる景色を眺めてみた。見えるのは緑色の木々、そして灰色の空が広がっている。少し雨も降っているようだ。
私が城塞都市ギルンに訪れるのは、初めてではない。と言っても、今回で二度目。
あの時も、こんな曇り空が広がっていたな…
室内に目を戻すと、フレッドと目があった。
「まさかこんな形で、あの都市に行くことになるとは思いませんでした。 もう、行く事すらないと思っていたんですが…」
フレッドは複雑な表情をみせた。
「そうだな、まさか向こうから依頼をしてくるとは思わなかった」
フィオル騎士団の団員は、全員が有名であるが故に、一人一人が何かしらの複雑な過去を持っている。
私の膝元でうたた寝しているクレアも、半ば放心状態のセリアも、仮眠をとっているエドガーも、そしてフレッドも例外ではない。
「踏ん切りはつけたはずなのに… どうにも気乗りしないというか…」
ため息をつきながら、両手で頭を抱えている。
フレッドにとってギルンという国は、初めて自分の行為が間違っていると気付かされた国であり、その行為によって被害を受けた国でもある。
彼にとっては、トラウマも同然なのだろう。
「向こうから直接的に任務の依頼をしてきたんだ。 きっと、恨まれてないだろ」
「そうですかね…」
そのままフレッドは目を閉じ、うつむいた。
いつのまにか、馬車を打ち付ける雨音がだんだんと強くなっていた。
次話はフレッドの過去を書こうと思います。
おそらく、3話くらいの予定です。
その後に、本編の方に戻りたいと考えています。