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神勇者と死神魔王  作者: 柳条湖
嬉し恥し初デート!?編
9/18

好美のデートプラン

 ここに至るまでに色々な事があったが、しかし忘れてはいけない。当初の目的は勉強であった事を。

 授業中に出題された難易度の高い問題を俺が――シェアリーに頼って――解いてしまった事により、俺の事を勉強が出来ると勘違いした好美が、俺に「一緒に勉強しよう」と提案してきた事が事の始まりである。

 だが、俺の成績はどう足掻いても中の中から脱する事は出来ぬ程度のものであり、俺の頭の出来など所詮知れている。

 つまり「一緒に勉強する」という当初の目的を、俺と好美という天地ほどにも能力に差がある二人で達成できるかと言えば、それはもう甚だ疑問――まあ端的に行ってしまえば、無理である。


「だから、それはヨシミがノブヒロに話し掛ける切っ掛けとして使っただけだってば♪」


 とは、シェアリーの談だが、それを鵜呑みにするほど俺は間抜けではない。

 好美ほどの人間が俺に恋慕の情を抱くなど、これはもう何かしらの策略があるのだ。

 例えばそう、俺を籠絡して、最終的には有り金全部巻き上げる美人局みたいな。


「恋に理由なんてないって人間の言葉にもあるじゃない。ノブヒロは疑い過ぎよ♪」

「(別に本当に美人局とまで疑ってるわけじゃないけどさ。事ここに至ってもまだ信じられないよ。)」

「ちなみにヨシミは雰囲気が良い感じに行ったらこのまま告白するつもりみたいよ♪」

「(それ先に聞いちゃったら台無しだよっ!!)」


 現状、俺と好美は一つのテーブルに向かい合って座り、互いにノートを広げている。

 とは言っても、俺の勉学能力も然る事ながら、何よりこうしてシェアリーが只管に邪魔をしてくるので到底集中など出来はしない。

 そして、悪い事はもう一つ……


――突然だが修弘よ、恋と愛の違いについてどう思う?


 いや、知らねーよ!

 恋愛って云うくらいだから同義語だろ!


――いやいや、事はそう単純じゃないぞ。なんせ二字熟語の構成ってやつは実に八種類にも分けられるんだからな。

 お前の言う『恋愛』はその構成の中で言えば『岩石』みたいに似た様な意味を合わせた二字熟語と云う事になるが、ここで『恋愛』とは『上下』みたいに真逆の意味を合わせた二字熟語だとして考えてみるとどうだろう?『恋愛』って言葉が物凄く深い物に思えないか?


 どうでも良いわっ!!――と、俺は心中でツッコむ。

 そう、シェアリーだけでなく弘昭までもがこうして訳の分からん哲学もどきを語って来るのである。

 弘昭はその人柄通りお喋り好きであり、よくこうして『弘昭流哲学』を語って来たりする。

 その九割九分は中身が無く、まるで学の無さを垂れ流す様な世迷言であるのだが。


「でね修弘君、この問題はここでこんな風に式を誘導して解いて行けるんだよ。」

「ああ、なるほど。」


 そんな好美の解説もまるで頭に入ってこない。気の無い返事をするばかりな俺であった。

 どうにか好美の言う要点をメモ取る事は出来ているので、最悪後で確認する事にしよう。


「あ、ごめんね。そう言えばさっきから私ばっかり喋っちゃてたよね?」


 不意に好美がそう言い始めたのは勉強開始から二時間ほど経過してからだった。

 正直に言わせて貰えば、俺は散々シェアリーにからかわれ、そして弘昭に鬱陶しくなるくらい哲学を聞かされ続け、それらに対して心中でこれでもかとツッコんでいたので、実はそれほど『喋っていない』という感覚は無い。

 しかし、その二人のせいで俺は好美に適当に相槌を打つだけになっていた事を考えると、俺と好美のやり取りはここまで只管に好美が俺に喋り続けていただけという構図になるのだろうか?


「つまんないよね。」


 落ち込んだ様子で謝る好美。


「ああ、いやそんな事は無いよ。好美の話、結構為になるし。こっちこそごめんな。ちゃんと話は聞いてるから。」


 むしろ謝るべきは好美の話を聞いていなかった俺であるので、ここはそうフォローしておいた。

 ――話は聞いてなかったけど……


「修弘君の得意科目って何なのかな?」


 不意に好美がそう切り出してきた。

 意図が読めなかったので、俺はその質問に普通に答える。


「社会……ってか、日本史かな。あれは覚えるだけだし、そんなに難しくない。」


 事実、俺は日本史だけは得意なのである。

 とは言っても好美ほどではないのだが、まあ学校の試験くらいならそれほど苦労無く点数を稼ぐことのできる科目である。

 どれくらい得意かと言うと、数学では平均点をやや下回る程度の実力であるのに対し、日本史であれば俺は平均点を15点以上――ちなみにこの時の学内平均点は65点だった――上回る事もあるくらい。


「ああ、そうなんだ!」


 少し嬉しそうな顔をして好美はそう相槌を打った。


「私、社会はちょっと苦手なんだよね。」


 確かに好美は社会系の科目が苦手だったりする。

 どれくらいかと言うと、他の科目が全国で1位2位を争っているのに対し、社会だけが全国で10位くらいを彷徨っているくらいに社会を苦手としている――うん、泣きたい。

 これが好美が全国模試でトップになれない原因だったりするのだが、しかしまあ凡人には与り知らぬ世界での話だ。


「何か良い勉強法があったら、教えて欲しいな。」


 学校内レベルで真ん中辺りにいる俺が、全国レベルでトップ争いをしている好美に教えられる事があるとも思えないんだがなぁ……


「関連付けたりとかさ、年号だったら語呂合わせとか、勉強をやってる中に遊びを盛り込むって言うの?そしたら上手く行くんじゃない?」


 仕方なく、俺が普段からやっている方法を伝授してみる。

 こんなもの別に俺じゃなくても普通の奴なら誰でもやってる手法だし、今さら好美に役立つとは思えないけどね。

 だが、好美にとってはそうではなかったらしい。


「え?それって……例えば?」


 まるで天啓を得たとでも言いたげに輝いた表情で好美が俺に詰め寄ってきた。

 青天の霹靂と言うべきか――まさかこんな反応をされると思っていなかった俺は思わずたじろいだ。


「えーっとだな……1192いいくに作ろう鎌倉幕府みたいなの、知ってるでしょ?」

「うん知ってる。」

「これで遊ぶんだよ。」

「どうやって?」


 純粋に疑問に思っている様子の質問。

 どうしよう……こんな空気で言っても滑るような内容の物しか無いんだけど、言うべきだろうか?

 しかし、期待で満ち満ちているこの好美の瞳を裏切れん……

 ――クッ……八割方滑るだろうけど仕方ない!


「平清盛が太政大臣になった年は?」

「1167年よね?覚え方とかあったっけ?」


 ここで渋ったら完璧に滑る!

 恐れずに、行け!!


「平清盛は1167いいむなげ。」

「クスッ」


 ウケた!?まじで!?


「へー、面白いね。他にもあるの?」


 しかも食いついてきた!?


「割と有名なネタなんだけどさ、本能寺の変が何年だったか知ってる?」

「……?1582年だよね?」


 どうやら好美はこのネタも知らない様だ。


「織田信長は1582いちごぱんつな本能寺の変。」

「プックスクス、アハハハハ。」


 思わずと云った様子で噴出して笑う好美。

 邪気のないその笑顔は見ているだけで人を癒す何かを持っている。


――修弘よ……俺は悲しいよ。


 何がだよ。


――お前は今まで俺から何を学んできたんだ?


 お前から学ぶような事があったとは思えんが……


――我が親友足る男だと思っていた修弘が、まさかデートで女の子相手にそんな寒いボケをかますとは……俺は一友人としてお前を軽蔑する!蔑視する!!侮蔑する!!!


 そこまで言われるほどの事かっ!


――ええい黙らっしゃい!好美様相手にそんなつまらんボケを言い放ち、あまつさえ笑わせるとはっ!その罪、万死に値する!!……そして好美様の笑顔は百万ドルに値する。


 お前今最後に何をさり気無く呟いた!?


――世界の真理さ。


 もう良い……弘昭と話してると疲れる。


「そうやって覚えるんだー。へー、なるほど効率が良いね。私なんて、単に年号と起こった事だけを覚えちゃってるから、結構苦労してるんだよ?」


 だが、それで覚えていられる好美が賢過ぎる。

 俺みたいなのは覚え易さから色々工夫して、やっとの事で覚えていられるって言うのに……


「凄いね。今度から私もやってみよっと。」


 好美はニコニコ顔でそう告げた。

 どうだろう……将来、好美から社会系科目の苦手意識を取り去った者として俺の名前が残ったりしないんだろうか?


「勉強、ちょっと疲れたね?」


 話に一区切りついたところで、不意に好美がそう切り出してきた。

 まあ俺はシェアリーと弘昭のせいで、最初から精神的にバテバテだったが、しかしそれは言わずにおく。


「終わりにしようか?」

「そうしてくれると助かる。」


 そう言うわけで、このたびの図書館勉強会はここで終了となった。



                    ☆



 時間的にも丁度いい事もあって、そのまま昼食も一緒に――と云う事になった。

 やや強引に好美に押し切られる形だった様な気がするのは言うまでもない。

 無論、中学生たる我々の資金力には限界があるという事で、学生によく利用されるファーストフード店での昼食である。


「着々とヨシミのデートプランをなぞってるわね♪」

「(まじで!?この状況、全部好美の計画通り!?)」


 どうしよう……対面の席に座って朗らかに微笑む純真な少女が、何だかやけに腹黒い人間に思えてきた……


「間違ってないわよ。ヨシミはノブヒロの勉強能力を完璧に把握しているわ♪

 その上で、こうして一緒に勉強という建前で計画を練り、修弘が授業中に難問を解いたのをきっかけに計画始動ってわけね。全てはヨシミの掌の上よ♪」

「(何それ!?マジで怖いんだけど!?)」


 だけどまあ何だ?腹黒というよりは、むしろ策士って感じだろうか?

 ここまで物事を計画的に運ぶ能力は、まさに孔明も真っ青と云ったところだろう。


「修弘君は何を食べる?」

「は、はい!?」


 シェアリーとのやり取りに夢中になっていたところに不意に声を掛けられた俺は思わず竦み上がり、声が裏返ってしまった。


「どうしたの?」

「い、いや……」


 可愛らしく傾げて俺を不思議そうに見つめる好美。

 その仕草にも時めくモノはあるが、それ以上に俺の胸を早鐘のように打つ心臓の脈動は、殆どが恐怖によるものだったとハッキリ感じ取れる。

 先のシェアリーとの会話のせいで、好美の挙動一つ一つがやたらと恐ろしい物に思える。

 今回の勉強会の場所を図書館と指定したのはそもそも俺であり、それにしたって好美の急な誘いにテンパった俺が半ば投げやりに決めた事だ。

 ――それらが全て計画通りだって?そんな馬鹿な……


「……?変な修弘君。ねぇ、何食べる?」


 どうやら対して疑問に思わなかったようで、好美は先と同じ質問を繰り返した。


「そ、そうだな……俺は無難にハンバーガーセットにしておくよ。ドリンクはコーラで。」

「あ、じゃあ私もそれにするね。飲み物は……うん、私もコーラで。」

「かしこまりました。」


 俺と好美の注文に笑顔で対応してくれた店員が、その注文の内容を奥の厨房の方へ伝えている。

 その間も俺は自分が感じる恐怖を払拭すべく、シェアリーの言葉に反論していた。


「(全部計画通りって無理があり過ぎじゃないか?いくらなんでもここまでの展開を読み切るなんて、某死のノート遣いや某絶対遵守の人でも不可能だぜ?)」

「その二人はどちらも想定外の状況に弱い事で有名よね♪」

「(いやまあ、想定外の状況に強い・・っていう人が一体どれだけ居るものなのか?とか、シェアリーにはこういうネタも通じるのかよ。とか色々ツッコミどころはあるが――とりあえず、シェアリーは何が言いたいわけ?)」

「簡単じゃない♪」


 と、シェアリーは実に楽しそうに言った。


「単に好美は行く先や言動、その後の展開についてあらゆる状況を想定して計画を練っていただけよ♪

 具体的には好美は今日一日のデートプランについて実に462パターンものデートプランを立てていたのよ。中学生のデート程度で起こりうる不測の事態なんて、この462パターンから逸脱する様な物は存在しないわね♪」


 戦慄とはこの事を言うのだろうか?――俺の背筋を走る寒気は決して気のせいではないのだろう。

 これはもう頭が良いとかそういう次元の話ではない――っていうか、そんなこと人間の頭で可能なのか?


「お待たせいたしました。」


 そんな店員の言葉で俺は我に返る。


「ありがとうございます。」


 好美はそれに朗らかに対応しながら、俺たちが注文した品の乗っているトレイを受け取っていた。


「じゃあ修弘君、席の方に行こうよ。」

「あ、ああ。」


 俺達は開いている席を探してそこに向かい合わせて座った。

 中途、「俺が運ぶよ」と好美からトレイを受け取った事は我ながら良く出来た男らしい対応なのではなかろうか。


「それでね、この前ね――」

「へーそうなんだ。」


 その後は取り留めも無い話で過ごした。

 これと云った中身のある会話でもなかった様に思えるが、ただ、好美が明らかに俺を飽きさせないよう気を使った話題を提供している事には気付いていた。

 弘昭があれで中々人の心の機微を気にした話題選びをするので、それと付き合って来た俺だからこそ分かったのだと思う。

 愉快で楽しくて、それであって相手を飽きさせない程度に違和感無く話題を切り替えていく――所謂『会話能力』と云うものは一朝一夕で身に付くものではない。

 本当に好美は頭が良いのだ、と気付かされた一瞬だった。


「あ!大変!もうこんな時間だよ。」


 気付けば時計は午後6時を指し示していた。

 昼食にとファーストフード店に入ったのが昼の1時ちょっと前だったから、5時間近くもファーストフード店に居座ってしまっていた事になる――店員さん達にとってはいい迷惑だった事だろう。


「楽しい時間はすぐ過ぎちゃうね。」


 そう言って笑う好美に、俺の心臓は思わず跳ね上がる。

 実際、何時間も話し続けて、その間退屈を感じなかったと云うのは物凄い事だ。


「好美は、今日は楽しかったか?」

「うん!すっごい楽しかったよ。」


 好美は満面の笑顔で俺に応えた。

 そんな笑顔を見せられたら、もう腹黒いとか策士とか、そんな事はどうでも良くなった。


「修弘君は……どうかな?私と二人で、その……楽しかった?」


 今度は好美が、先の満面の笑顔とは打って変って不安そうな声音でそう尋ねてきた。

 それに対する俺の答えは、当然決まっている。言うまでもないが、しかし言葉にしなくちゃ伝わらない事もあるしな。


「楽しかったよ。基本的に嫌いな勉強だって楽しく感じたくらいにはさ。」


 ただまあ、恥かしがりな中学生たる俺にはそれくらいの返事が限界だった。

 それでも好美は凄く嬉しそうな表情で頷いてくれたがね。


「また、その……誘っても良いかな?今度は、勉強とかじゃなくて、遊びに。」

「ああ。良いよ。」


 とりあえずのところはそうだな……やたらとキャーキャー五月蝿いシェアリーや、やたらギャーギャーと騒がしい弘昭を鎮める方法とか、考えるとしようかな。

これにて『嬉し恥し好美と初デート編』は終了です。

いやー……その、なんですかねぇ?

とりあえず、修弘は死ねって事でおk?


シェ「オッケー♪」

 修「『オッケー♪』じゃねぇしっ!!」

 弘「異議なーし」

 修「お前も乗るな!!」


我ながらセンスの無いラブコメを書いたもんだぜ……

ヒロインの主人公に対する好感度メーターが振り切っているのはまあ定番としてもだよ君。


 修「な、なんだよ?」


ヒロインから自分に向けられている好意を疑いまくる主人公ってのはどうなんだ?


 修「それ絶対シェアリーのせいだろ!!」

シェ「私悪くないもーん♪」

 弘「そうだ。全て修弘が悪い。」

 修「俺に味方はいないらしい……」


というわけで、三浦好美の登場でした。

かなりのお気に入りキャラなのでこの先もちょいちょい登場させる予定です。

修弘と好美の関係は上手く行くのか!?それは僕にも分からない。


 修「せめてお前は知っとけよ!」


ではでは、今後ともよろしくお願いします。

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