これが人生初デート!
冗談の様な良い天気とは裏腹に陰残な気分の中俺は目を覚ました。
昨日の騒動も最早昨日の事――という事で、つまりは今日は例の『待ちに待った好美とお勉強会』当日である。
「未だ納得いかん……本当に好美が俺の事を好きだって?
ねーよ、と言いたいんだが……」
開口一番、俺はシェアリーに訊ねた。
「うーん……昨日はアッサリ『好き』って言ったけど、実際神様な私には人間の気持ちってよく分からないのよね♪」
なんだかやけに自信無さ気なシェアリーの返答だった。
「意外だな。自信満々に『大好きよ♪』とか答えると思ったのに。」
そうしてくれれば寧ろ嘘だと断ずる事も出来たのに。
「そうねぇ……私がヨシミから読みとれたのはね――
ノブヒロを見てるとなんだか息が苦しくなって、近寄ると心臓が跳ね上がる様で、でもそれは苦痛じゃなくて、気付いたらノブヒロの事を考えている自分を自覚して、思わずノブヒロを目で追い掛けちゃったりして、自然とノブヒロの傍にいたいと思ってる自分に気付いて――」
「何それ怖い!?」
ギャルゲーかっ!――ってくらいの愛され具合だった。
好感度メーターが完全に振り切っている。
そんなに好美と関わった覚えは無いのだが……
「まあ良いじゃない♪」
良くないからこうして考えているわけだが。
「そうなの?人間の美的感覚はよく分からないけど、ヨシミって凄く可愛いんでしょ?ノブヒロは不満なの?♪」
「いやそうじゃなくてだな。そりゃ好美クラスの美少女に好意を寄せられる事に何の不満があるかと言えば、そりゃ何の不満も無いどころかむしろそれ以上無いってくらい最高に良いって感じなんだけど――」
問題はそれ以前の事なのだ。
「だからさ、俺は、あの好美が俺の事を好きだなんていう話が信じられないわけよ。」
想像してみてくれ。
クラスどころか学校屈指の美貌を持ち、頭も良く、運動も出来、友達も沢山いる――だと言うのに、彼氏はおらず、数多くのイケメン男子からの告白も受けない美少女の好意が向いている相手は自分であると云う状況を。
こんな状況に身を置く様な人は少ないだろうからイメージし辛いだろうが、それでも想像してみてくれ。
想像できたか?どうだ?信じられそうか?
答えなど聞かずとも分かっているさ――この状況をイメージできるようなイケメンは、そもそもに置いてこんな状況になりはしないだろう。
となれば、答えは全てにおいてNOのはずだ――ってか、YESと答える事の出来る人間は爆発すれば良い。
「私、冗談は言うけど嘘は吐かないわ♪」
その関西人みたいな言い草が一番信用できないんだよ!!」
っと、これは関西人に対する偏見かも知れないけどさ。
「でも本当だもん。ヨシミはノブヒロの事を好きなんだもん♪」
「いや、そんな拗ねた様な言い方されても……」
「様なじゃないもん。拗ねてるんだもん♪」
「じゃあもう少しそれっぽい喋り方をしてくれませんかねぇっ!?」
これ以上シェアリーと討論していても何も進展しなさそうだ。
仕方なく諦めて、俺はとっとと身支度を整える事にした。
「フフッ、計算通り♪」
「ん?シェアリーなんか言った?物凄くあくどい顔してるけど……」
ちなみに現在時刻は午前9時30分。そして集合場所と時間は図書館前に午前10時。
まだ朝飯も食べていないどころか身支度も整えていない――ってか、布団の上から動いてもいない。
「勿論、何も言ってないわよ♪」
「今まさに嘘吐いたなっ!?嘘だろ!絶対今『計算通り』って言っただろ!ちゃんと聞いてたんだからな!!」
俺とシェアリーのやり取りはまだまだ続きそうだった。
「何の事かしら?ちょっと何言ってるか分からないわ♪」
「ああもう!!そう云うネタはいらねぇーーーーっ!!!」
☆
結果から言えば集合時間には間に合った。
からかい続けるシェアリーを尻目に俺は布団を蹴飛ばして起き上がり、服を脱ぎ捨て、前日の内に用意しておいた私服に着替え、しかし歯磨きや髪型など身嗜みには気を使い、この時点で神の力を使えば楽勝だった事に気付いて落ち込んで、そして速攻で立ち直り、朝食として用意されていた食パンを一切れ掴んで口に押し込みながら家を出発、集合場所まで全速力で駆け抜け現在に至る。
時刻は午前9時59分。集合時間の1分前――いや、秒単位で考えればもっとギリギリだっただろう。
――ってか、移動も神の力を使えば良かった……俺は馬鹿だ。
「ゼェゼェ……おはよう……ごめん……待った?」
当然の様に好美は先に図書館前で待っていた。
格好は学校指定の制服。どうやら『公共施設利用の際は制服でなければならない』という、もはや縄文土器並みに古臭い校則を健気に守っているようだ――特色するほどの事もないシンプルオブシンプルな私服の俺は若干申し訳ない気分になる。
そんな俺が息も絶え絶えに挨拶と謝罪と定番の質問を一度に口にしても、好美はその朗らかな笑顔を崩す事は無かった。
「ううん。大丈夫だよ。二時間くらいしか待ってないし――」
「ごめんなさい!!」
一も二も無く俺は土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。
でも、どちらかと言うと、集合場所に早く来て女を待つのは男の役割な様な気がするなぁ……
「そんな、謝らなくて良いよ。私が好きでした事だから。集合時間にも間に合ってるし、修弘君が謝る事なんて何にも無いよ?」
と、好美のありがたいお言葉。
「ありがとう。でも、何で二時間も前に?何か他にやる事があったとか?」
俺はその好美の好意に感謝しつつ、そう尋ねた。
「だって、修弘君を待たせたら、悪いじゃない。」
「ごめんなさい!!なんかもう、俺でごめんなさい!!!」
再び全力で頭を下げた。
図書館前で美少女中学生に全力で頭を下げる男子中学生――とてもではないが言葉に出来ない絵が完成した。
「なんで謝るの?アハハ、変な修弘君。私ね、待つのは得意だけど、待たせるのは我慢できないの。だからそんなに修弘君が気にする事は無いんだよ?」
物凄く良い人だ!?
「ちなみに真相は、ノブヒロに合うのが待ち遠しくて、つい家を早く出過ぎちゃったみたいよ♪
ニ時間という時間は、恋する少女にとって永遠にも似た長い時間であり、そして一瞬よりも短い時間でもあったみたい♪
恋焦がれるってこういう事を言うのよね♪」
「(シェアリーは俺に追い打ちを掛けて来るのをやめてくれないっ!?)」
確かに、楽しみな事を待ってる間は長く感じるけど、いざその楽しみがやって来るとそれまでの待ってた時間はあっと言う間だった様に感じる事ってあるよね。
だからってニ時間はやり過ぎだ。
そしてそんなに待ってたって云うのに、この屈託の無い嬉しそうな好美の笑顔はもっとやり過ぎだ。
――コ・ロ・ス・ゾ
何か、聞こえた気がした。
うん?なんだろう……背筋に言い知れない悪寒を感じるが……気のせいか?
「あ、それはヒロアキの心の声ね。私とノブヒロの会話みたいな事をノブヒロとヒロアキの間でも出来るようにした技だって♪
確かヒロアキは『念話』って名付けてたわ♪」
「(気のせいにしといて欲しかったっ!?)」
と云う事は、現在弘昭はどこかに隠れて俺を監視しているという事か……
――鋭いな。
いや、そんなこと誰だって分かるし。
――見せつけてくれるぜ修弘よ。今日はお前らの図書館デートをしっかりと見物させて貰うからな。しっかりと笑わせてくれよ。
そんなこったろうと思ったぜ!
――ちなみに俺は『三浦好美様ファンクラブ』創設者にして名誉会長なんだが、そこんとこよろしく。
知るかっ!!
――ちなみに今日のデートの様子は週明けの月曜日に細部まで洩らさずクラスメイト達に報告させて貰うからな。安心してデートしろ。
安心できる要素が一つもねぇ!?
――冗談だ。
どこからが!?
――安心してデートしろ。の部分だ。
最後だけかっ!!
――こんな感じでデート中に良い雰囲気になったら邪魔をするからよろしく。ではでは、オーバー
そして弘昭からの通信は切れた。俺はキレそうだった。
「まあでも、待たせちゃったからさ、ごめんな。」
色々と考えた結果、何も考えない事にした。
「そうかな?うんでも、修弘君がそう言うなら、そうだね。許してあげる。」
と、好美はニッコリ微笑んでそう言った。
「修弘君もあんまり相手を待たせたくない人なんだね。優しいね。」
「え、あーいや、別にその……」
「謙遜しなくても良いんだよ?そう言うの素敵な事だと思う。」
なんだろう、このむず痒い感じは……
物凄い遣る瀬無さと凄まじい罪悪感に包まれそうだ。
「でも、修弘君も相手を待たせるのが気になるなら、そうだね、次は絶対に集合時間ぴったりに来る事にしよっか。」
「そうしてくれると助かるかな。」
今さりげなく次のデートの約束まで取り付けられたような気がするけれど、何も考えない事にしていた俺は何も考えなかった。
――ぬ゛~修弘め゛~好美ちゃんと仲良く話なんかしやがって~、ファンクラブ会員に殺されてもしらね~ぞ~、こうなったら毒電波を送ってやるう゛~~~俺の毒電波よ届け~~~~~
弘昭から毒電波が送られて来ていたようだが、俺はそれを受信しなかった。
「じゃあ行こ。」
と、好美に促され、俺は一緒に図書館の入り口のドアを潜ったのだった。
シェ「続くわ♪」
修「まじで!?」
まじで!?
修「なんであんたまで驚いてんだよっ!!」
いやー……予想外です。
修弘がヘタレなせいで想像以上に文章が長くなってしまったぜ。
修「俺のせい!?俺が悪いの!?」
というわけで、この反吐が出るくらい甘ったるい修弘と好美のデート話はもう少し続きます。
修「酷い言い草だな、おい!それに俺からすればそんな甘ったるい展開は無かった気がするんだが!?」
あらーこんなこと言ってますよ奥さん。
自覚ないって最低ですわよねー
修「その口調は何なんだ!?」
はいはい、そんなわけで、続きますよ。
今後もよろしくお願いします。
修「流すなよチクショーーー!!!」