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神勇者と死神魔王  作者: 柳条湖
嬉し恥し初デート!?編
7/18

勇者は心の機微に敏感です……か?

 ――数日が経過した。

 弘昭は事ある毎に「でっかい事をやろう!」などと宣言していたが、何度繰り返してもそれが冗談への切れ込み口以上になる事は無かった。

 結局、神の力を使っても所詮中学生たる俺達に出来る事など限られており、どう考えても現実的ではない案ばかりが跋扈する一切の生産性も無い俺と弘昭の会話から得られた教訓と言えば『人間身の丈に合った行動をするのが良い』という至極当然のモノだった。

 言ってしまえば、俺達の頭ではでっかい事の具体案が到底思い付かなかったという事である。

 それでも何とか出た案を一部紹介すると、『神の力を使って世界中の首脳陣を洗脳し、文字通り世界征服をする』から始まり、『悪人と云う悪人を地球上から抹殺』とか『いっその事“悪い事をする”という概念を消し去ってしまう』とか『逆に善人を全員ぶっ殺そうぜ』とか『皆で一つの存在に溶け合うってのはどうだ』とか……etcなどなど

 迷走し過ぎも甚だしい。


「えー、では授業の最後に少し応用問題をやってみましょう。」


 どうやら教師は今回の数学の授業の締めに入っているようだ。

 梅雨は少し前に開け、夏休み前の最後の難関――すなわち期末テスト――を目前に控えたこの時期にして教師のこの発言とくれば、これはもうテスト範囲――と言うかテスト問題を教えてくれると公言している様なものだ。

 実際、この教師は授業でやった問題の数字だけを変えてテストに出す事で有名である。


「そうですね……今日は7月6日ですか……では、出席番号6番の神林君。どうですか?」


 指名されてしまった。

 今回は余所見をしていたりとかはしていなかった――考え事はしていたけど――ので、特に意味のある指名ではないだろう。

 ってか、日付で選んでるしね。


「……」


 ただ、ランダムで選ばれたという事は、つまり問題に見合った実力を有する生徒として選ばれたのではないと云う事で、すなわち授業を全く聞いていなかった俺に解ける様な難易度の問題でない事は明白だった。


「(分かるわけねー……)」

「良い気味ね♪」

「(そもそも俺に考え事をさせる原因を作ったのはシェアリーなんだが!?)」

「そんな事知らないもん。ノブヒロが悪いんだもん♪」


 なんだか凄く身勝手に責任を押し付けられた気がする。


「(まあいいや。だったらまあ俺が悪くても良いからさ、あの問題の答え教えてくれよ。)」

「だが断る♪」

「(でしょうねぇっ!!)」


 駄目だ……シェアリーは当てにならん……っていや、ちょっと待てよ?


「(そんな事言って、シェアリーにも分かんないんじゃねぇの?神様って奴も意外と大した事無いな。)」

「なんですってーっ!!♪」


 乗った!?こんな単純で安い挑発に乗った!?

 それにしても怒った感じの時にもその歌う様な上機嫌な口調は変えないんだ!?


「良いわ!そんなに言うならそこのチョークを持って黒板の前に立ってみなさい♪」


 言われるがままに立ち上がり、チョークを持って黒板の前に立つ。

 するとどうした事だろう、俺の手が自動的に動き、淀みなく黒板に数式を書き連ねて行くではないか。

 ほんの数秒――俺は自分の意志と切り離された右手の動きに気持ち悪さを感じていた時間――経過後、黒板には授業を聞いていなかった俺でさえ息を呑んでしまうくらい完璧な回答が書き連ねてあった。


「ふん、どうよ♪」


 そっぽ向きながらもどこか得意げな雰囲気を発すシェアリー。


「(ああ、流石は神様だ。疑って悪かったよ。)」

「分かれば良いのよ♪♪」


 シェアリーの上機嫌が三割増しになった気がした。

 なんだろう……実は神様ってとっても扱いやすいんじゃ……?


「正解です……ふむ、神林君はちゃんと授業を聞いていたんですね。」


 どうやらランダムのフリをした悪意ある選別だったらしい――が、実際授業を聞いていなかったので反論はしなかった。ちょっと反省した。



                    ☆



 今日も全ての授業――はなぶさな言語と書いて『英語すいみん』と読む授業とか、ことわりの分野として読みは『理科あんみん』な授業とか、やしろに出会うと書いて『社会ばくすい』とルビ振る授業とか……――が終わった。


「修弘君、今日は凄かったね。」


 帰宅する為の準備をしていた俺の背後から、ふいに声を掛けられた。

 俺はその声の主が誰なのかは分かっていたけれど、しかし――いや、だからこそ、溜める様にゆっくりと振り返り、本人を確認した。


「ああ、好美か。」


 果たして想通り、学校内どころか日本国内でだってずば抜けた頭脳と容姿を併せ持つ秀才美少女であるところの三浦好美その人であった。

 可憐で清楚、性格は温厚で物静か、人当たりも良く友人は多い、とまるで大方の男性の描く理想の女性像を体現したかのような美少女。

 相当に頭も良く、学校の試験程度はほぼ全て満点、全国模試の成績でも常にトップファイブを競う程だと云う屈指の秀才――天才でないところがミソ――少女である。

 ちなみに好美は俺の幼馴染であったりするのだが、今説明したように好美の存在はそこらの男子生徒には到底手の届かぬ高嶺の花であり、俺などと云う一般庶民が軽々しく声を掛けられる相手ではないのだ。

 小学校の高学年前くらいまでは一緒に遊ぶ事も多かったが、こうして成長した今、挨拶くらいはするけれども特段親しいとまでは言えない関係にまで落ち込んでしまった。


「(ってあれ?この説明、前もした事ある様な?)」

「大丈夫よ。時間軸的にはまだ説明していない事になっているわ♪」

「(神様だからってメタな発言しないのっ!!)」

「全ての次元を超越した女神。それが私なのよ♪」

「(これが弘昭とかだったら『厨二乙』で済む発言なのにっ!?)」


 実際に女神なのだから性質が悪かった。

 だが、今はシェアリーに構っている場合じゃない。


「俺の何が凄いって?今日は一日寝てた記憶しかないんだけど。」


 思いっきりぶっちゃけてしまった。


「数学の時だよ。最後の問題。」


 ああ……俺が思いっきりシェアリーチートに頼ったやつか……

 そう言えば他の人には俺がアレを自力でやったように見えるんだよなぁ――とか、なんだかとっても遣る瀬無い気分になった俺だった。


「あれね、私分からなかったんだ。修弘君のお陰でスッキリしたんだよ。ありがとね。」


 やめてくれ……胸がズキズキと痛むじゃないか……

 ――ちなみに胸がズキズキと痛んでいる理由は、勿論罪悪感から来る物もあるのだが、それ以上に周りからの『なに三浦さんを呼び捨てにしてんだゴラァ!!』とか『親しげに三浦さんと話しやがって……爆発すれば良いのに』とか言いたげな男子生徒の熱い視線がグサグサと俺に刺さりまくっているからである。当の本人である好美は全く気付いていないようだが。


「それでね、修弘君が良ければなんだけど、一緒に勉強しないかな?分かんない所を教え合ったりとか、したいな?」


 ――グハァ!?

 そこで上目遣いとか反則ですたい!

 いや、でもごめんなさい!

 俺が好美に教えれる事なんてないです!

 一緒に勉強したら間違いなく俺が教えられるだけになりますです、はい!

 まあそれはそれで素敵なシチュエーションですがね、そんな事したら嫉妬に狂った男子生徒達の手によって、翌日には俺はコンクリ詰めで東京湾の底ですよっ!?

 とまあ、ここまでが予想外の好美の上目遣い攻撃によって動揺した俺の思考である。

 そこから、次のシェアリーの発言によって俺はさらに動揺――ここまで来ると最早動転・・と云って差し支えない――する事になる。


「ねぇねぇノブヒロ、このヨシミって言う子ね、


   ――ノブヒロの事好きみたいよ♪」


「(………………ッッ!?)」


 思いっきり思考が停止した。

 小説で言うと前後が改行されてる感じに強調されたシェアリーの物言いに俺は完全にフリーズしていた。


「ノブヒロもちょっとメタじゃな~い♪」

「(そう言う問題じゃねーーーー!!)」


 やっと思考は復活したが、相変わらず俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「(ハァ!?マジで!?そんなわけない!!あり得ない!!好美が俺の事を好きだって!?まさかっ!!ねぇよ!!あの好美だぞ!?並居るイケメン男子からの告白を素気無く断った伝説すら持つ好美だぞ!?告白は予約制で一年先まで一杯だとか噂されてるあの好美だぞ!?5教科500点満点で600点取る女と言われるほどに頭の良い好美だぞ!?)」

「ノブヒロ詳しい~♪」

「(この学校にいる生徒ならみんな知ってる噂だっつーの!大体、好美が俺の事好きだとか、そんな事あったら天地神明が引っ繰り返るわっ!!!)」

「そんな事言っても、私引っ繰り返って無いも~ん♪」


 天地神明:天地の神々。すべての神々。天神地祇(ちぎ)。「―に誓う」――Yahoo!辞書より

 確かに、シェアリーも含まれるのか……


「修弘君?」


 傍から見たら一人百面相をしていたであろう俺に好美が不安そうに話しかけてくる。

 瞬間、クラス中から飛んでくる刺し殺さんばかりの熱視線。『テメェ、三浦さんと話している時に考え事とか千年早ぇ、死ね!』とか『大体、三浦さんと話すとか一万年早ぇんだよ、死ね!!』とか『そもそも三浦さんに名前呼ばれるとか一億年早ぇわ、死ね!!!』とか言いたげである。


「ああ、いや。何でも無い。えーと?一緒に勉強する話だっけ?」

「うん、そうだよ。」


 俺が話を聞いていた、ってか覚えていたと云うだけで、なんて嬉しそうな笑顔を作るんでしょうねこの子は……

 こんな顔されたら惚れてしまうやんけー!!――と叫びたい所だ。

 しかしまあ、どうしたもんか……

 俺だって健全な思春期男子だ。

 こんな可愛い子にお誘いされてしまっては、それはもう心の底から湧き上がってくるテンションの昂りを抑えつけるのに現在進行形で苦労している。

 そりゃもう、1も2もなくこの話に飛び付きたい所だけど、それを俺の自制心がギリギリで抑えている。

 その理由など語るまでも無い――俺は『クラスメイトに殺された、それも嫉妬で』なんていう仕様も無い死因で死にたくは無い。

 いや、そもそもどんな死因でも死にたくは無いんだけど、それは兎も角、このまま好美との勉強と云う嬉し恥かしイベントに踏み込んでは明日の朝日が拝めるか分かったもんじゃない。

 俺だって男だから、女に命を賭ける物語なんかにロマンを感じはするのだけれど、如何せんここは現実で、命は一つしかないのだから冷静に考えなくてはいけない……

 ――と、そこまで考えて俺はちらりとシェアリーを見た。


「うん?何かしら?♪」


 そうだったー!俺は現在進行形で非日常の真っ只中でしたーっ!?

 なんか死にたくないっていう俺の問題解決しちゃった気がするー!?


「駄目……かな?」


 再度好美の上目遣い攻撃。

 ――グッ!?

 危ない……危うく一発で頷いてしまうところだった……

 ふと、思う所あって周りを見渡してみた。

 相変わらず、授業は終わったと言うのに、俺に殺視線を送るのに忙し過ぎて帰宅していない男子生徒多数――お前ら暇だな~とは言わない。

 その殺視線に込められた意思をシェアリーの力を使って読み取ってみた。

 『誘いを断るとかして、三浦さんを悲しませたりしたら殺す』――『誘いを受けるとか、そんな羨ましい事したら殺す』――『そもそも誘われるとか、羨ましいから殺す』――『三浦さんと話すとか、妬ましいから殺す』――

 ――俺にどうしろと言うんだろう……?


「のっぶひろ~あっそぼっうぜ~~!!!」


 そこに救世主が現れた――いや魔王だけど。

 そう、そいつの名は弘昭。空気が読めない奴の最大の言い訳――『敢えて空気読まない』を地で行く男。

 最高に場の雰囲気を読みとる事に長けているくせに――いや、長けているからこそ、どんなシリアスな場面すらもコミカルに変えてしまう男だ、こいつは!


 むむ!?」


 おっと、どうやら弘昭もこの教室に漂う尋常じゃない空気を察したようだ。

 そうだ!俺と好美を中心に形作られるハートと髑髏が交差した様な何とも言えない雰囲気をコミカルにブチ壊してくれ!


「あ、そうだ。俺今日、見たいアニメがあったんだ。そういうわけで修弘!お前なんかと遊んでいる暇は無いのだ。では!」


 逃げたー!?

 『敢えて空気を読まない男』が場の空気を察して逃げたーー!?

 御蔭様で余計に場の空気が混沌カオスになったーーー!?


「じゃあ明日さ、丁度土曜日だし、図書館とかで良い?」


 俺はもう何だかどうでも良くなり、気付けばそう好美に告げていた。


「うん!」


 シェアリー顔負けの物凄い笑顔で頷かれた。

 背後から露骨に聞こえた舌打ちは、しかし聴こえなかった事にしようと思う。


「面白い事になりそう。ヒロアキにも教えなきゃ♪」


 そんな不穏なシェアリーの呟きは幸か不幸か俺の耳まで届かなかった。

 こうして、俺の人生初デートは学校屈指の秀才美少女と図書館で勉強と相成った。


「でも続かない♪」

「(続かないの!?)」

「さぁ?♪」

「(無責任!?)」


 いや続くからね!?

ついに三浦好美が本格参戦です^^

『神勇者と死神魔王』における我が三大お気に入りキャラの一人です!

もうテンション上がりまくりです。

今回自分でもびっくりするくらい文章がガンガン進んだんですよね。

この先もこんな風に書けたら良いんですけどね^^;


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