でっかい事をやってみたい
この世には不思議な事など一杯ある。
例えばそう、ナスカの地上絵なんて分かりやすい例だろう。
誰によっていつどうしてどのようにして書かれたのか分からない謎の地上絵だ。
それら全てに理由を付けて解明しようなど、神ならざる人間の身では分不相応というものだろう。
「ああ、あれ?あれはね♪」
「(いや言うなよシェアリー!なんかもう色んな物が台無しになる気がする!!)」
まあつまり何が言いたいかと言うと、半壊状態ってつまり到底使えない状態という意味では全壊と何が違うんだ?――ってくらい半壊状態だった校舎が一回瞬きする間に綺麗さっぱり直っていたとしても、何も不思議じゃないってことだ。
具体的に言うと、俺と弘昭の戦いによってボロボロだった校舎及び校庭を修復するイメージを頭で思い浮かべた結果、文字通り元通りというわけである。
――別に韻は踏んでないよ。
「えー、そうですね、この問題を……じゃあ三浦さん、三浦好美さんお願いします。」
「はい、答えは――」
教師に指名され、クラス――いやいや学校屈指の秀才少女が完全無欠にして万全満点な解答を教師に告げている。
そう、今日は昨日から見て翌日――俺がシェアリーと出会ってから二日目の朝と言う事になる。
昨日、校舎を修復して弘昭と別れた後は、特に何事も無く帰宅し、飯食って風呂入って寝て、そして再び今日学校へ通学してきたというわけである。
まあ風呂の時には一悶着あったが……あまり語りたくないので、風呂に入る前の俺とシェアリーの会話だけをここに抜粋しておこう。
――なぁ、シェアリー?
――何かしら?♪
――風呂に入りたいんだが……
――入れば良いじゃない♪
――恥ずかしいから、その、なんだ?出ていてくれないか?
――嫌♪
――だからさ、恥かし
――嫌♪
――あの
――嫌♪
――……
――嫌♪
――問答無用かよっ!
とまあ、こんな具合であった。
結局、俺は金髪美女(空中浮遊の巫女服羽衣纏い)に見られながら全裸で湯船に浸かると云う罰ゲームなんだかご褒美なんだか分からない状況になってしまった。
シェアリーは人間じゃないんだと自身に言い聞かせる事で何とか自我は保った――もうお婿に行けない……
「はい、よろしい。」
そうこうしている内に好美が問題に答え終わっていた。
「えー今好美さんに答えて頂きましたように、このタイプの問題は――」
教師が問題の解説を含みながら授業を進めて行く。
今日も授業は退屈だった。
☆
「でっかい事をやろう!」
放課後の事だ。
機能と同様に下駄箱から外靴を取り出して履き替えた所で弘昭と鉢合わせた。
特に用事も無かったので、帰宅途中に近所のファーストフード店―名前を出せば誰でも知ってる世界的に有名なハンバーガーショップ―に立ち寄った。
その時の会話である。
「開口一番に訳わかんねーよ。何が言いたい?」
とりあえずは弘昭の話を聞いてやる事にしよう。
まあ、こいつの言う事など毎度ロクな事ではないのだが。
「だからでっかい事だよ!折角神の力なんて言うエライ物を手に入れちゃったわけだし、ここらで一丁パーっと人生に花咲かせようぜ。」
人生に花を咲かせなくても、こいつの頭の中はお花畑に違いない。
「まあ言いたい事は分からんでもない。で、具体的には?」
「それを二人で考えようと言っているんだ。馬鹿か?それともアホなのか、お前は?」
イラッ。
「アハッ楽しそう♪
戦うのも良いけど、そういうのも有意義ね♪」
シェアリーは乗り気っぽい。
「ふむ。勇者と戦うだけが全てではない……か。」
ジェダーも肯定の意思表示だ。
「ふん。仕方ないな。お前がそう言うのなら乗ってやろう。」
歯向う理由も無いし、俺も面白いと思うから反対はしない。
「うん。で、提案なんだけど――」
ほう、既に案があったか。
俺は少しだけの期待を胸に弘昭の言葉に耳を傾けた。
「大きい事って言うのは、小さい事の積み重ねで出来てると思うんだよね。
だからさ、まずは小さい事を積み重ねて大きな偉業を為すって事にしたいんだ。
ま、大事前の小事って奴かな。」
言葉の使い方は間違えているが、言いたい事は通じた。弘昭にしては真面目な意見だ。
となれば、弘昭が言いたいのは、ボランティア活動とかそう云う小さい事を積み重ねて行こうと云う事だな。
「とりあえず神の力を使ってここで食い逃げをしようと――」
「悪事かよ!しかも小さい!神の力を使うには余りにもやる事が小さ過ぎる!!」
思わず大声で突っ込んでしまった。
周りにいた客にギロッと睨まれた――ごめんなさい。
「お前、それを積み重ねて大きな犯罪でもやるつもりか?」
反省し、小声でボソボソと弘昭に話しかけ直す。
「馬鹿だなぁ修弘は。ここは先払いだから食い逃げなんて出来ないんだぜ。」
「分かってるよ!」
こいつに馬鹿と言われると、滅茶苦茶腹立つ。
「ふん。聞いて驚け。最終的に、俺は、この力で……」
文節ごとに強調しながら弘昭は言葉を紡ぎ、そこで一旦貯めて――
「世界征服をして魅せる!」
今ほどこいつがアホなんだと思った瞬間は無かった。
しかも『みせる』の発音が『見せる』ではなく『魅せる』だった辺りとか微妙にムカつく。
「とまあ、冗談は置いといて。」
「……」
冗談だったのか……開いた口が塞がらないとはこの事なのだろうな。
「あぁ、踏むといけないから机の上にな。」
「いや、俺が黙ったのは冗談の置き場を心配に思ったからではないからね!?」
今日も弘昭はハイペースである。
「机の上だからな、安定してるしな。」
「うん?」
何が言いたいんだ?
「これじゃあ落ちないぜ。」
これが漫才だったら「いい加減にしろ。どうもありがとうございました~」とか言う場面なのだろうか……――なんて、得意げ顔をした弘昭を見てそう思う。
「死ね。」
「ちょっと辛辣すぎない!?」
いや、弘昭にはこれくらいが丁度良い。
「まあ、真面目に冗談は置いとくとして、俺が言いたいのはだね――」
やっと本題か……
「カラオケ行こうぜ。」
「俺帰るわ。」
「待って!冗談だから!!話を聞いて!ね!?」
「ええい縋り付くな!鬱陶しい。」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だったとは……
これは最早馬と鹿に失礼と言えるレベルである。
「でっかい事はどうした!?」
「いやーめんどくさいかなーって。」
どうやら最初から茶番だったらしい。
弘昭らしいと言えば弘昭らしいのだが、付き合わされる俺からすれば堪ったものではない。
「この勇者と魔王が戦うゲームだけどさ――」
急に話が変わる。
どうやら本当に本題に入るつもりのようだ。
「『勇者魔王ゲーム』が分かりやすくて良いわ♪」
「じゃあそれで。」
いや、シェアリー、話の腰折るなよ……
「この『勇者魔王ゲーム』さ、勝利条件は何でも良いわけ?」
「……勝利条件とは?」
「例えば、俺と修弘がジャンケンして、それを持ってしてどちらかの勝利とかでも良いの?」
「構わぬと言えば構わぬ。とは言え、それでは退屈であるな。」
退屈って言い切ったよ……
「あれ?言ってなかったかしら?この『勇者魔王ゲーム』って神の暇潰しなのよ♪」
「人外の力を与えられたって云うのに、その理由がそれかよっ!」
本当にいい迷惑だ。
「まあ別に戦わなくても私達は楽しければ基本的に何でも良いわ♪」
「うむ。」
楽しそうな笑顔を一切崩さないシェアリーも、口数の少ないジェダーも、俺達を勇者だの魔王だの訳の分からん事に巻き込んだ理由は『楽しむ為』というただそれだけだったようだ。
「それで、最初の話なんだよね。」
「何の話だったっけ?」
分かってはいるが、一応問い返してやる。
「でっかい事をやろう!!」
芝居掛った仕草で弘昭はそう宣言した。
やれやれ……こういう自由奔放な所とか、マジで尊敬はしている――が、それはそれとして……
「あの、申し訳ないのですが――」
非常に苦い顔をしたアルバイトであろう店員さんが俺達に声を掛けて来た。
☆
非常に遠回りな言い方だったので意訳して伝えると、要は『お前ら五月蠅い。帰れ。』とのこと。
あれだけ大声でギャーギャー騒いでいれば仕方ない。
「よっしゃー!じゃあ今からちょっとゲーセンでも行かね~?」
店を追い出されても弘昭は非常に元気である。
「良いけど、どうせ格ゲーだろ?」
「あそこのゲーセンで最近『罪の歯車』の新作が導入されたらしいんだよね。」
やっぱり格闘ゲームだったか……
――ちなみに『罪の歯車』とは、弘昭お気に入りの格闘ゲームのタイトルの一つである。気持ちよく繋がる連続攻撃とハイスピードなバトル展開が売りらしい。
「しょうがねぇな。付き合ってやるよ。」
というわけで、俺と弘昭はゲームセンターに足を向けた。
「ねぇねぇゲーセンってなぁに?♪」
「神様に知らない事は無いんじゃないのかよ?」
「やーねー、そういう揚げ足を取る男は嫌われるわよ♪」
「そんな楽しそうな顔で『嫌う』とか言われてもな……」
「良いもん。修弘の記憶から適当に調べるから♪」
ちょっと待てコラ。
「ふむ……遊技場のことであるな。」
「いやまあ、日本語に直すとそうだけどさ。ジェダー、そうじゃなくね?」
「む?では一体どういう……」
「ゲーセンはなぁ……ゲーセンはなぁ……ゲームセンターなんだぞー!!」
「……遊技場ではないのか?」
なんか向こうは向こうでジェダーと議論している。
って言うか弘昭よ、それでは何の情報も増えていないではないか。
☆
「ヤッハッハァ!俺に勝てる猛者はいないのかなぁ!?」
まるで水を得た魚である。
なんせ弘昭はこの格闘ゲーム『罪の歯車』が大得意であり、携帯ゲーム機移植版ではコンピューター設定をMAXまで上げても物足りないという兵であるのだ。
今も対戦相手であるコンピューターが操作しているキャラクターを弘昭の操るキャラクターがボコボコに叩きのめしている。
一旦空中に打ち上げられたらもう最後、まだ四割強残っていた体力ゲージを空中で削り切ると云う荒業まで披露しているほどだ。
「お?挑戦者だって。よっしゃ!叩きのめしたるぜ~。」
そんな絶対強者たる弘昭はこの辺りのゲーセン界隈ではそれなりに有名で、この手の対戦可能な筺体では挑戦者が後を絶たない――まあ、今日は全然いないみたいだが……
ちなみに戦績は498戦498勝だとか。
「よし!勝ったぜ!!」
あ、499戦499勝になった。
「修弘!掛ってこいや!記念すべき500勝目を飾る敗北者はお前だぁ!!」
ふぅ――と溜息をつき、俺は反対側に回る。
ここに100円を投入すれば自動的に向こう側―弘昭が座っている側―との対戦が始まる。
「なぁシェアリー?」
正直、俺は弘昭ほど格闘ゲームには自信が無い。
まともにぶつかれば、俺は100回勝負しても1回だって弘昭には勝てないだろう。
だからと言って、みすみす500勝目を弘昭にプレゼントするのも癪だ。
そんなわけで――
「面白そうね。やっちゃいましょう♪」
幸い観客もいないという事でチート発動。
――体力ゲージが5割を切った瞬間完全回復、必殺技ゲージ常時フルチャージ、攻撃力3倍、防御力3倍、移動速度三倍、操作性向上2倍。
これで負けるとはどういう状況なのだろう、というくらい完璧な強化状態をイメージした。
結果は――
「クックック。甘いぜ修弘。」
「チッ。」
画面には大きく『DRAW』の横文字――すなわち、引き分けである。
「お前が神の力で俺を負かそうとするのは読んでたからなー、俺も使わせて貰ったぜ。」
時間残り1秒、このままだったら体力差で俺の勝ちかと思いきや、最後の最後でお互いの体力が全回復し、引き分けとなった。
恐るべきはこの性能差でも互角だった弘昭の実力の高さか、それとも俺の下手糞さか……
どちらにせよ、格闘ゲーム上では引き分けでも、その実は俺の敗北であると言わざるを得ないだろう。
――弘昭め……今度借りを返してやるぜ。
「さぁて、満足したし、帰るか。」
「俺は苦い思いをさせられたんだが……」
「良いじゃない。こういう心理戦も勇者と魔王の戦いにあっても良いと思うわ♪」
「うむ。まこと愉快であった。」
やれやれ――といつもの仕草で嘆息した。
こうして『勇者と魔王の戦い in ゲームセンター』は幕を閉じたのだった。
さて、いきなりグダッたぞ?大丈夫か?
いや、ごめんなさい。
最近どうにも文章が出て来なくていけません。
大まかなストーリーは頭にあるのにどうしても文章が付いて来ないんですよ。
どうしたらいいですかねぇ^^;
修「勇者と魔王がゲームセンターで戦う話って言うのはどうなんだ?」
弘「良いじゃん。新鮮で。」
シェ「どうかしら。私は楽しかったけど♪」
ジェ「良いのではないか?」
修「お前らはそうだろうよっ!!」
はいでは、今度ともよろしくお願いいたします。