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神勇者と死神魔王  作者: 柳条湖
神との出会い編
5/18

神勇者『神林修弘』VS死神魔王『寺門弘昭』

 魔王?そりゃなんだ?勇者の敵か?勇者って誰だ?俺か?俺は何だ?一般人?いや、勇者?待て待て俺は何でも無いその他大勢の筈だろ?でも今朝から勇者だったっけ?朝の登校の時に不良三人を相手に無傷で潜り抜けたのは誰だ?俺だ……俺か?本当に俺か?そんな馬鹿な事ってあるか?でもあったのか?じゃあ俺は勇者か?敵は誰だ?勇者の敵は魔王なのか?魔王は誰だ?弘昭か?弘昭って誰だ?俺の親友?にして魔王?魔王って何だ?勇者の敵か?――以下省略。


「ふぅん。アッサリだな。世間って奴は狭いぜ。」

「そう言う事もあるのだろうな。」


 混乱して堂々巡りな思考を繰り返していた俺とは裏腹に、弘昭の奴は冷静に自分の傍らにいる黒フードの男と喋っていた。


「で、勇者はどこだ?ってか勇者って何だ?魔王の敵か?」


 前言撤回。あまり冷静ではないようだ。


「茶番は良いわ♪」


 そこでまさかのシェアリーがバッサリと言い切った。

 それを言ってしまえば、もうこの『勇者魔王ゲーム』からして茶番だと思うのですがねー。


「さ、魔王よ。ぶち殺しましょ♪」

「物騒だな、おいっ!」


 ちなみに弘昭が俺に追いついて来たのは下駄箱を出て割とすぐであったので、無論現在俺達がいるのは校内である。

 下校すべく校門に向かう途中の生徒達が「何だ?あいつら?」的な視線を容赦なく注いでくれている。

 シェアリーの声が周りに聞こえない以上、俺と弘昭が訳の分からない話をしているように見えるのであろうから仕方ない。


「へぇ。お前の神様、スッゲェ美人だな。」


 そんな時、不意に弘昭からそんな事を言い出した。

 どうやら漸く混乱が覚めて現状を自覚し始めたらしい。


「ありがと。私の名前はシェアリーよ、覚えてね♪」


 その弘昭の言葉にシェアリーは機嫌三割増しで答えた。


「お前の……死神か?そいつは恐ろしく恐ろしいな。」


 対して俺は弘昭の背後にいる黒フードの男を見ながら言い返す。


「……ジェダーだ。」


 男――ジェダーは不愛想にそう名乗った。


「じゃあ自己紹介も終わった所で魔王を殺しましょ♪」

「なんでそうシェアリー血気盛んなの!?」


 周りの人目も憚らずに思いっきり叫んでしまった。

 まずい……今後の俺の立ち位置が『痛い奴』になってしまう――と、不安に思って周りを見渡すと何故か誰一人として周りにはいなかった。


「え?」


 思わず間抜けな声を出してしまう。

 まだ時間は午後五時前。

 帰宅部にとっては帰宅時間だが、部活動をやる人間だっているし、まだもう一時間授業があるクラスだってあるはずだ。

 だと云うのに何故、周りには人っ子一人いない?


偶然にも・・・・今日は運動系の部活動は全て出稽古で、偶然にも・・・・今日は文化系の部活の顧問全員に急用があり、偶然にも・・・・今日は他の生徒全員が見たいテレビがあって、偶然にも・・・・今日は今からの授業は無くて、そして偶然にも・・・・今日は仕事の無くなった教師が全員帰った――とすれば、全ての問題は解決されると思わないか?」


 疑問に思って周りを見渡している俺に、弘昭がしてやったり顔で訳の分からない事を言い出した。


「『人払いキープオフ』ってとこかな。我ながら良いセンスしてるぜ。」

「つまり何だ?誰もこの場所には近づいて来ない結界みたいなもんか?」

「そんな感じ~。」

「いや、いきなり緩い感じになられても……」


 だがまあ大体分かった。


「で、なんでわざわざ人払い?」


 「殺し合え」とかシェアリーの訳の分からん妄言の類だと思っていたが、どうしてそれを助長させるような行動をするんだ?


「例えばさ、自分の実力にスッゲー自信のある格ゲーがあるとしよう。」

「?」


 どうでも良い事だが、こいつの例え話は格闘ゲームである事が多い。


「コンピューターの設定を最強まで上げても物足りない位だ。」

「ん~まあそう言う事もあるかもな。」


 まだ話が見えてこない。

 何が言いたいんだ、こいつは?


「対戦相手が欲しくなるだろ?

 自分の強さを存分に見せつけて優越感に浸れる相手か、それとも互角の実力で勝負の駆け引きを存分に堪能できる相手か、そのどちらかが欲しいだろ?」

「まあ、分からなくもない。」


 少し言いたい事が分かってきた。


「この神の力――まあ俺のは死神の力だけどさ、比べてみたいと思わないか?」

「ハン。つまりテメェは俺をぶちのめして優越感に浸りたいんだな?」

「嫌だなぁ、修弘ったら野蛮~。勿論、互角の勝負がしたいに決まってるじゃないかぁ~。」

「言ってろ。」


 弘昭の言葉で少なからず俺にもやる気が湧き上がってきた。

 こうなったら一丁やってやろうという気分にもなる。


「シェアリー、やったろうじゃん。」

「やったー♪♪」


 なんだか凄い嬉しそうだった。

 はち切れんばかりの笑顔だったシェアリーの表情が張裂けんばかりに輝いている。


「そう言うわけだジェダー。良いよな?」

「……無論。異存は無い。」


 そんなこんなで、勇者こと俺と、魔王こと弘昭の戦いの火蓋が切って落とされた。



                    ☆



 いくらなんでも校舎前では手狭であるという理由で校庭の方へ移動した。

 その場所で、俺と弘昭は10メートル程度距離を開けて対峙している。


「地球のどこかにいる魔王ね。こんなに身近にいては運命を感じるな。」

「うわっ!やめろよな!俺には心に決めた人がいるんだ!お前の気持ちには答えられないよ!!」

「いや、赤い糸的な運命ではないからね!?」

「むしろ紅い意図?血液的な意味で。」


 いや、訳わかんねーし。


「さて、始めっか。」

「ギタンギタンかケチョンケチョンか選ばせてやろう。」

「なんでそんなノリノリなの!?」

「銀杏かけんちん汁か好きな方を選ぶが良い。」

「だから訳わかんねーって!強いて言うならけんちん汁かなぁ!?」


 いつまでもグダグダしていては始まらないから、俺の方から仕掛ける事にする。

 始めるとは既に言ったんだから弘昭も卑怯とは言うまい。


「シェアリー?」

「大丈夫なんでも行けるわ。好きなようにぶちのめして良いわよ♪」


 神のお墨付きも出た所で、一丁派手に行ってやろう。


「喰らいやがれ!」


 思い浮かべるのは――現代アートの様な髪型をした不良三人衆を殴り飛ばした時と同じ――弘昭を殴り飛ばすイメージ。

 先に付けた名前に従って言えば、そう――


「『神の鉄槌ゴッドパンチ』!!」


 ――バシィッ!という轟音と同時、俺の拳が弘昭の顔面に届く。


「せっかちだな。」


 果たして、ダメージは無かった。

 どころか俺の拳は弘昭に届いてもいない。

 弘昭は何でも無い表情で俺の拳を右掌で受け止めていた。


「そんなんだから早漏とか言われるんだぜ。」

「いや、言われた事ねーよ!!ってか、早漏とか言うなっ!!!」


 その姿勢のまま、思わず弘昭の言葉にツッコミを入れてしまった。


「んじゃあ、こっちのターンっと。」

「クッ……っな!?」


 弘昭からの攻撃が来ると悟り、咄嗟に退こうとしたが、しかし弘昭に俺の腕ががっしりとホールドされて動かない。

 殴り掛った俺の拳を弘昭がただ受け止めた掌で握りこんでいるだけなのに、どうしてこうもコンクリートで固められたように動かないのか。

 神の力で単に握力が強化されているだけだと俺が気付いた時には回避は手遅れだった。


「『死神の鎌デスサイズ』!」


 弘昭の左手が手刀の形を作る。

 その腕で俺を突き刺さんと弘昭が振りかぶる。

 ――ヤバッ!?


「ラァッ!!」


 裂帛の気合と共に、俺は全力を以て弘昭の右腕を振り切る――が、回避は間に合わない。

 弘昭の繰り出す―恐らくは必殺級の―突きが俺の胸元を抉らんと迫ってくる。

 咄嗟に頭に思い浮かんだのは、弘昭の手刀を蹴りで相殺する俺のイメージ。

 即座に体が俺のイメージ通りに動いた。


「うおっと!?」


 弘昭が驚いた声を出して飛び退く。

 想定外の反撃であったろう俺の蹴りは、相殺どころか弘昭の体勢を崩すほどの威力を発した。

 突き出した左腕を外側に蹴られる形になった弘昭はその勢いを殺さずに俺からバックステップで距離を取った。


「やるな。」

「お前こそ。」


 互いに称賛の言葉を相手に向ける。


「ならこいつはどうだ?」


 そう言うと同時、弘昭は大量の空気を思いっきり吸い込んだ。

 ――何が来る!?


「ノブヒロ!?耳よ!!」


 シェアリーの切羽詰まった声。

 シェアリーの言葉はかなり断片的だったが何とか意図は通じ、俺は即座に両手で耳を塞いだ。


「スゥゥゥ……『こ・の・ボケがァァアアア』!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぬ……ぐっ!?」


 弘昭から発せられたのは到底人間には出せるはずのない絶大な音の壁。

 トラックの全速力での追突すら凌駕するであろうその音圧は、校庭の地面を抉って弘昭を中心に巨大なクレーターを作り出す。

 その被害は校舎の方にまで達しており、築80年の校舎の壁には亀裂が走っている。

 弘昭の最も近くにいた俺はと言えば、とてもではないがそんな暴圧には耐えきれず、耳を塞いでいた為に防御姿勢も取れずに5メートル以上吹き飛ばされて、無様に地面で背中を打っていた。


「フゥ……ハハ、大した威力だろ?俺の声を何兆倍にも拡大させたんだぜ。」


 一息ついた後、弘昭が今の『スキル』がいかなる物であるかの説明をくれる。


「『衝撃的破壊音バインドボイス』――それがたった今思いついたこのスキルの名前だよん。」


 ――「たった今思いついた・・・・・・・・・」ね……

 なら俺も仕返さないとな――と考えながら、俺はゆっくりと体を起こす。

 そうしながら必死に自分の中で弘昭を倒すイメージを作り上げる。


「今度はこっちの番だ。覚悟しやがれ。」

「やれるもんならやってみな。」


 踏み込む姿勢を取る。

 前屈み状態で両足に力を入れ、一気に爆発させて加速度を得る姿勢だ。


「喰らいやがれ。」

「やってみやバガフッ!?」


 弘昭の台詞が途中で止まる。

 後方からの不意な衝撃を受け、堪えられずに吹っ飛んだ弘昭は見事に顔面から地面にダイブした。


「『瞬間移動テレポーテーション』ってとこか?」


 その速度たるや光速を超えてまさに神速。

 目の前にいながらにしてほぼ同時に弘昭の後ろにもいると云うほどの速度で回り込み、後頭部目掛けてハイキックを喰らわせたのである。

 言ってみれば単に足を速くしただけだが、バトル漫画なんか例に上げるまでも無く、相手より速い事はそれだけで絶対的な強さたり得るのだ。


「むぅ……やりおる。」

「いや、ジェダー、感心してないでね!?」


 弘昭がそんな事を叫びながら、半ば地面に埋もれていた頭を引き抜いて立ち上がる。


「油断ね♪」

「いや、シェアリーは俺の方を褒めてくれないかなぁ!?」


 わざわざ決めポーズまで取ってるのに俺が間抜けみたいじゃないか。

 え?どんなポーズかって?――……各人の想像にお任せする。


「荒ぶるノブヒロのポーズなのよね♪」

「そんなジョークが神様に通じるのもどうかと思いますけどね!?荒ぶってないよ全然っ!」


 これで俺がどんなポーズを取ったのか一発で分かった奴は俺とは友達になれない。

 俺はそっち系のネタに詳しくは無いのだ――いや、信用ならないかも知れないけど本当に詳しくは無いんだよ!?弘昭が何かにつけてそんな事言うから俺も覚えちゃっただけだからね!?

 でもまあ、俺と弘昭の仲が良い事を考えると、むしろ大親友になれるのかも知れないが。


「最っ高だぜ修弘ォ!こうなりゃトコトンやるしかねぇよなぁ!!」

「なんで急にテンション上げてんだよ……」


 目の前で露骨にテンションを上げる奴がいると、むしろこちらのテンションは下がる法則――お分かりいただけるだろうか?


「ここでやらなきゃ漢じゃねー!俺の燃え滾るソウルを受け止めろぉぉおおお!!」


 何故かここで弘昭咆哮。

 「トコトンやるしかない」とか言いながら、どうやらここで大技一発けりを付けるつもりのようだ。


「『魂炎の葬送デッドエンドスピリット』ォ!!!!!」


 それがいかなるスキルなのか見定めてから動いても良かったが、下手をして巻き込まれても困るので、仕方なく俺は同等以上のスキルをぶつけた力比べに持ち込む事にする。

 イメージはそう、全力の力を以て巨大な壁を打ち抜くようなイメージ――ただし、膨れ上がる様な圧倒的な力ではなく、集約される一点突破な力で。


「吹き飛べぇぇえええ!!!」


 弘昭から発せられた荒れ狂う炎の津波が、地面すらも焼き払いながら俺を巻き込まんと迫ってくる。

 余程のイメージをつぎ込んだのか――というか、発動する為に自分の体力を使うイメージでもしたのか、それとも単に力み過ぎただけなのか、スキルを発した弘昭自身は息も絶え絶えになっているが、それだけこの技で決着を付けきる自信があるのだろう、その顔には勝ち誇った表情が張り付いている。

 だが、既に俺もスキルを発動している。スキルの名は――


「『穿つ神の槍グングニル』!!」


 北欧神話の神オーディーンが持つと云う百発百中の槍の名を付けた。

 神の力で神の槍とはトンチが効いてるわ♪――とはシェアリーの談である。


「ラァァアアア!!!」


 右手を構えながら俺は迫りくる炎の津波に単身突っ込んで行く。

 弘昭はそれで勝利を確信したようだが、俺だってこの場で勝利を確信した。

 弘昭の発した炎の津波に向かい、俺は思いっきり右手を突き出した。


「「俺の勝ちだっ!!」」


 俺と弘昭の二人の声が重なった。



                    ☆



 結果のみをここに記そう。

 俺のスキルは確かに効果を発し、俺は炎の津波を一点突破で貫いた。

 弘昭は完全に油断していた為に迫りくる俺に対処する余裕は無かったはず。

 俺の攻撃が弘昭に届く――しかしそこで、届いただけで終わりだった。

 弘昭のスキルも決して少なくないダメージを俺に与えており、俺のスキルは弘昭に決定的なダメージを与えられなかったのだ。

 最終的にどうなったかと言えば――


「くぅ~惜っしぃ~」

「そりゃ俺の台詞だっての。」


 両者同時K.O.というわけで、二人で折り重なるようにしてその場に倒れ込んだ。


「良い勝負だったわ。またやりましょうね♪」

「健闘であった。」


 神と死神はそれぞれの言葉で讃えてくれた。


「これ、簡単には決着つかねぇなー……」

「まあ長く楽しめて良い感じじゃね?」


 俺の諦観にも似た言葉に返された弘昭の言葉はある意味真理であると云えた。


「この先もこんなエキサイティングな戦いが楽しめるってんなら、勇者も悪くないな。」


 ここからが俺と弘昭の戦ったり協力し合ったりする長い長い『神勇者と死神魔王』生活の始まりだと、この時はまだ全く分かっていなかった。


「今日の所はこんなもんだろ。もう帰ろうぜ。」


 単に学校から帰ろうと云う程度の気軽さで俺は弘昭に向けてそう言った。

 だが、弘昭はどこか茫然としたような表情のまま動かない。

 どうかしたのかと思って弘昭と同じ方を見れば――


「あー……」

「どうしようか……これ?」


 俺達の戦いの余波を受けたせいで、見るも無残な荒れ模様を呈している校庭と、半壊状態の校舎がそこにはあった。

というわけで、神勇者と死神魔王の時間軸的には最初のバトルでした。

やっぱりこういう話は楽しく書けますね^^


戦闘描写など上手に出来ていましたでしょうか?

技名は格好良かったでしょうか?

情景描写は分かり易かったでしょうか?

不安を挙げれば切りがありません。

評価、感想、コメント、アドバイスなどありましたら是非お願いいたします。

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