表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神勇者と死神魔王  作者: 柳条湖
神との出会い編
3/18

死神との出会い そして魔王へ

視点が修弘以外の時は必ず章の始めに━○○視点━とつけます。

章の始めにそれが無ければ━修弘視点━だとお考えください。

ちなみに誰かの視点から修弘に移る場合にはちゃんと━修弘視点━とつけます。

 ━弘昭視点━


 ――それは異様な夢だった。

 押し潰されそうな重圧が場を支配し、まるで猛吹雪の中にでもいるような、一寸先も見えない視界と暴風が容赦なく俺に叩きつけられている……様に感じる。

 なんとなく、俺にはこれがただの夢ではないように思えた。


―貴公は今この時より魔王となる。


 腹の底に響く様な重低音と、耳を劈く様な超高音を両立したかのような声が俺にそう告げた。

 ――そんな馬鹿な、と一笑に付すような真似を俺はしない。まずは話を聞こう。


「で、どういう事?」

―今後、神に選ばれた勇者が貴公を殺しにやってくる。それを迎え撃つのだ。


 オーケーオーケー、なるほど分からん。


―む?分からんか?

「いや、言いたい事は分かる。理由が分からん。後、意味も。」


 勇者?魔王?ファンタジーか?ファンタジーなのか!?

 俺は大好物だぞ!


―何でも良い。兎に角迫り来る勇者を倒せ。

「オッケー。」


 楽しそうだから何でもいいや。

 どうせ夢だろうし。


―覚えておくが良い。我が名は


 そこで俺の夢は途切れた。



                    ☆



 ――チャリチャリラララ~♪

 携帯電話から最近の流行りらしいハイテンポな曲調の音楽が流れてくる。

 言うまでも無い事だが、目覚まし機能アラームである。

 俺は微睡む脳髄に活を入れ、跳ねる様に飛び起きた。

 そして、そこにいた何かと目があった。


「……」

「…………」

「………………」

「……………………」


 よし、状況を整理しよう。

 まずここは俺の部屋だ。

 漫画やら小説やらの本が二行二段でギュウギュウに詰まったブロックが四つついている本棚が四つ並び、その隣にある勉強机にはパソコンが我が物顔で鎮座している。

 床は畳だ。その上に敷いかれた布団の上で俺は今目を覚ました。

 ちなみに畳と布団の間には俺の愛と勇気が隠されているのだが、それについては言及しないようにして欲しい。

 間違いなく俺の部屋だ。蟻一匹分の異分子さえ通さぬ完全完璧なマイルームである。

 そこに何故か、一枚の襤褸布があった。

 より正確には襤褸布と表現するしかない程にボロボロな漆黒のローブを纏った何者かがそこにいた。

 痩せ細った顔つきは髑髏とも表現するべきなのだろうか、窪んだ眼窩がやけに恐ろしい。

 唇が扱け、歯茎の肉が削げ落ちてガタガタになっている歯が丸見えである。

 ローブの袖と裾からはみ出ている手足の指先は骨と見紛うほどに細く、そのくせ黒ずんだ爪だけが異様に長い。

 俺には―その実が何であれ―そいつが死神であるかのように思えた。


「目覚めたか。」


 その声も年季の刻まれた潰れたような嗄れ声。

 だと言うのに、なぜだか不思議と温かみも感じさせる声で、どことなく俺の中にあった恐怖心が薄らいでいくのが分かった。


「え~と……どちら様?」


 とりあえず、言葉になったのはそれだけだった。


「我は……死神である。覚えておらぬのか?」


 予想通り死神だった――のはまあ良いとして、覚えている?何を?

 そういえば、何か夢を見ていたような気がするけど……どんなだったっけ?


「まあ良い。我が名はジェダー。貴公を魔王に選び、勇者に対抗する力を与える死神だ。」


 これは夢なのだろうか?――と、何だかんだでいろいろと混乱した俺はそう思った。


「ま、良いか。面白そうだし。」


 夢でも現実でも何でも良い。

 俺は日々が楽しければそれでオールオッケーだ。


「とりあえずは朝飯だ。めしめしめっし~♪とな。」

「では行こう。魔王ヒロアキよ。」

「お、良いね~それ。格好良いじゃん。」


 まあでも恥ずかしいから、普通に呼んで欲しい。


「御意。」


 俺は素早く身支度を整えると、自分の部屋から出たのだった。



                    ☆



「はよ~でーす。」

「おぅ、弘昭おはよう。」


 我が家では朝食は居間で食べる。

 挨拶しながら居間に入った俺に最初に挨拶を返してきたのは親父だ。


「ってあれ?見えてない?」

「何がだ?」

「何、って……これだけど?」

「何も無いが?」


 ジェダーを指差して問う俺に、不思議そうな顔をして首を傾げる親父。


「あら弘昭、寝惚けているの?」

「こいつは年中ボケている様なものだけどな。」

「あらそうですわね。」

「「ハハハハハ。」」


 仕様もない無い話に夫婦二人で笑い合う。

 そんな事よりも、問題なのはジェダーが二人に見えていないと言う事だ。

 まあこんな姿の奴が見えてしまったら、それこそ平和な一家庭の朝食風景が一転してパニック映画さながらの阿鼻叫喚の絵図になること受け合いなので、そこはまあ良かったと言う他ないのだが。


「我の姿はヒロアキ、貴公以外には視えぬし、我の声も貴公以外には聴こえぬ。」


 なるほど――と、聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「ヒロアキの言葉は思うだけで我に伝わる故、そう構えずとも良い。」

「(こういうこと?)」

「そうだ。」


 念話とか云う奴なのだろうか。


「似て非なるものだが、その解釈で良い。」

「(そうかい。)」


 ひとまず細かい事は後で聞く事にして、この場ではジェダーとのやり取りは切り上げた。


「さて、朝食にしましょう。弘昭、食器を運ぶのを手伝って頂戴。」


 余談だが、御袋は一流料理店の元料理長であり、その料理の腕は言うまでもなく超(×3)一流である。

 朝っぱらから惜しみなく腕が振るわれた豪勢な料理が食卓に並んで行く。

 これで家族の月の生活費を20万程度に抑えているというのだから、我が御袋ながら末恐ろしい程の会計能力である。

 ちなみに親父は親父で職業医者という豪気っぷりで、月々の稼ぎは……無粋な話はやめておこう。


「うめー!!」


 そんな事を叫びながら舌鼓を打つ。

 朝食にどんな表現技法かと思うかもしれないが、御袋の料理はまさしくそう表現するのに相応しい。


「ごちそうさまでした。」


 手を合わせ、礼儀正しくそう告げる。


「はい、御粗末さまでした。」


 御袋の笑顔でそれに応えてくれた。

 我が家では御袋こそが正義。まああれだ――『カカア天下』というやつだ。

 親父は親父でそれなりに厳格な性格であるのだが、それでも御袋には頭が上がらない。

 その辺の事情は――まあ、機会があれば三々五々語るとしよう。


「では行ってらっしゃい。」

「行ってきまーす。」


 そう答えて、無口な親父と朗らかに笑う御袋に手を振って、俺は学校へ行くために家を出た。



                    ☆



 空は青い。雲は白い。太陽は眩しい。


「素晴らしき天気!」


 だと言うのに……


「空気を重くするなよジェダー。」


 そう、こんなにもいい天気だと言うのに、俺の背後からフワフワ漂いながら付いてくる死神が全ての空気を陰残な物に変えている。

 お前怖いねん!――と言いたい。


「む、それは我にはどうしようもない。」


 心底申し訳なさそうな声でジェダーは答える。


「ああ、違う違う。マジレスいらない。

 今のは俺からのネタ振りなんだから、そこは『俺か?俺のせいなのか!?』くらいの反応を返してくれなきゃ駄目だぜ。

 ツッコミスキルが無くてもそれくらい言えるだろ?」

「……申し訳ない。」

「だー!もうっ!!」


 死神は案外ノリが悪い。

 死神って言ったらさ、もっとこう……ヒャッハー!な感じだと思ってたぜ。


「ま、いいや。で、聞きたい事があんだけどさ。勇者とか魔王とか、何?」


 聞こう聞こうと思っていて、聞きそびれていた内容だった。

 ちなみに現在、まだ朝早い時間である事もあってか周りに人は疎らだ。

 部活で朝練があるのであろう奴らの姿がちらほらと見える程度。

 だから話を聞かれる心配も無いし、俺は普通に声を出してジェダーと喋っている。

 知り合いに聞かれてもどうせ『まあ弘昭だし……』という程度にしか思われないだろう。

 そう云うキャラで通してきたし。


「言ってしまえは遊戯である。」

「カード?」

「違う。ならばゲームと言い変えよう。」


 この時点でジェダーの言わんとしている事は何となく分かった。


「神が選んだ勇者と死神が選んだ魔王の二人が戦う。我らは戦う人間に勝つ為の力を与える。

 で、勇者が勝てば神の勝ち。魔王が勝てば死神の勝ちである。」


 人間にとっては迷惑千万な話だ。


「そうでもない。勇者や魔王は戦っている時以外、例えば日常などでも神の力を自在に行使できる。」

「それがどう魅力的なのかいまいちピンと来ないんだが?」


 神の力とか言われてもねー。


「試してみれば良い。」


 そう言うとジェダーは、その骨ばった指である方向を示した。

 そこにいたのは――12日の木曜日の翌日に出没する殺人鬼の様なお面を被り、12日の木曜日の翌日に出没する殺人鬼の様なチェーンソーを握った、12日の木曜日の翌日に出没する殺人鬼の様な――何かだった。便宜上、以後『12日の木曜日の翌日に出没する殺人鬼』を『ジェイソン』とする。


「(違うよジェダーさん。あれはSATとか自衛隊とかに任せるべきな何かだよー……)」


 あまりにもな光景に思わず言葉が出なくなった俺はジェダーに心中で声を掛けた。


「ハー……ハー……」


 なんかハーハー言ってるー!?超こえー!!


「しかしあのまま放置しては周りの人間に襲いかかり、大惨事を引き起こす可能性もあるな。」


 思わず焦って周りを見る。

 閑静な住宅街――こんな時に限って周りには地平線の果てまで人っ子一人いなかった。

 まあ街中だし地平線なんて見えないけどね。


「(つまり、あれは俺が倒さねばならないと?)」

「そうだな。」


 何が悲しくて街中で怪人と遭遇エンカウントしなければならないんだろう……?――と溜息を付きながら俺はジェイソンの様な何かに近付いた。


「ハー……ハー……」

「ちょいちょいオッサン。こんな静かな住宅街で一体何をやらかそうってんだい?」

「ハー……」


 ギャー!睨まれたー!!なんかギロッて擬音が聞こえそうなくらい凄い眼光で睨まれたーー!!って、うわー!!何も言わずにチェーンソー振り被って襲いかかって来たー!?

 そのまま振り下ろされるチェーンソーが俺の額を切り裂くその瞬間、まるで時間が止まったかの様に、そのジェイソンの様な何かの動きが止まった。


「『想像し創造せよイメージ』……それこそが魔王たる貴公が我が力を使う条件である。」


 そんなジェダーの声が直接脳の中へ響き渡った。

 刹那、俺の脳裏に閃いた映像は、手刀でチェーンソーを叩き折る俺の姿だった。


「へ?」


 その間抜けな声は俺の物か、それともジェイソンの様な何かの物だったのか……

 バキッという音で現実に帰って来てみれば、俺は手刀を振り抜いた姿勢で固まり、ジェイソンの様な何かが持っていたチェーンソーは根元から完全にポッキリ折れていた。


「へー。これが神の力って奴か。」

「正確には、死神の力であるがな。まあ同義である。」


 さらに新たなるイメージ。

 俺の手刀がジェイソンの様な何かを刺し貫く映像を脳裏に浮かべる。

 数瞬の後には、現実が俺のイメージした通りの状況になっていた。

 勿論、ジェイソンの様な何かの体どころか服にすら傷一つ付いてはいない。


「意識のみを刈り取る俺の手刀。そうだな……『死神の鎌デスサイズ』と名付けよう。」

「名付けるのは良い事だ。それによって『スキル』の発動がよりスムーズになる。」


 そこは「厨二乙」とか言って欲しかった所だが、それよりも――


「スキル?」

「神の力を使った能力の事だ。今の『死神の鎌デスサイズ』などがそれに当たる。」

「あーつまり、勇者もこの力を使って来るから、相手のイメージ力をより上回った方が勝つという事か。」

「その通りだ。」


 なるほど。これは結構楽しそうだ。


「ま、これからよろしくな。ジェダー。」

「うむ。」


 神の力の使い方も分かった事で、一気に機嫌を良くした俺はルンルン気分で学校へ向かうのだった。

 ちなみにジェイソンの様な何かは誰かの迷惑にならないよう、『殺人鬼 餌を与えないでください』とだけ書いた紙を額に張り付けて、道の隅っこに転がしておいた。


「一つ注意なのだが、ヒロアキのイメージ次第では銀河系ごと丸々吹き飛ばす事も可能なので留意するように。」

「何それ怖い!?」


 とりあえず迂闊に使う事だけは避けようと心に決めた。

予告通り今度は死神魔王『寺門弘昭』の視点でした。

視点にして始点とはこれいかに?……すいません滑りました。


前章と対比させる形で描かれていますが、どうでしょう?

二人の主人公の性格の違いが上手く出ているでしょうか?


評価、感想、アドバイス、コメント等々、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ