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神勇者と死神魔王  作者: 柳条湖
神との出会い編
2/18

神との出会い そして勇者へ

 ――それは不思議な夢だった。

 まるで空中に浮いているかのような浮遊感と確かな足場を感じるだだっ広い何も見えない虚空の空間。

 例えるのなら、エレベーターに乗って高層ビルの頂上から下降する状態で壁と天井を取っ払ったらこんな感じになるのではないだろうか。


―あなたは今日から勇者よ。


 ふいにそんな声が聞こえた。

 俺はそれにただ答える。


「なんでやねん。」


 思わず関西弁になってしまった。


―神に選ばれたからよ。貴女は神に選ばれた神勇者として魔王を倒さなければいけないの。

「余計になんでやねん。」


 訳が分からない。

 勇者とか魔王とか、最近はライトノベルでだって敬遠される様なワードを並べるんじゃねーよ―と言いたい。


―理由なんて何でも良いの!兎に角君は今日から勇者になったから!地球のどこかにいる魔王を探し出してやっつけてね♪

「嫌だよめんどくさい。大体、地球のどこかってアバウトすぎるだろ!やってられっか!」


 こんなわけのわからない夢を見るなんて、もしかして俺って相当終わっているのだろうか?

 ……やばい!不安になってきた!!


―めんどくさいとか言っても駄~目♪もう決定事項なのです♪あなたは私に選ばれた勇者。だから魔王を探して倒さなければいけないのです♪


 こんな妄想してしまうなんて……あぁそうだ。起きたら学校へ行く前に病院へ行こう。それが良いな、うん。


―覚えておきなさい。私の名前は


 そこで俺は目を覚ました。



                    ☆



 ――ジリリリリ!!ジリリリリ!!

 時代錯誤な目覚まし時計の音が木霊する。

 耳を劈くその音は、俺が手を限界まで伸ばしてギリギリ届かない絶妙な位置で鳴り響き、寝起きな俺の脳髄を容赦なく攻撃する。

 この猛攻から逃れる為には、心地良い布団の中から這い出て、そして体を起こし、目覚まし時計の脳天に一撃を叩き込まねばならない。

 そんな労働基準法を完璧に無視した様な激務は、まだ目覚め切っていない朦朧とした思考では不可能だ。

 よって、完璧に意識が覚醒するまでのもう少しの間、俺はこの攻撃を耐えなければいけない。


「私が止めましょうか?♪」


 それは俯せに寝ている俺の頭の上から聞こえた。


「ああ……頼ん…………だ……Zzz……」


 その言葉に俺は何も考えずに答えた。

 ほんの数瞬の後、目覚まし時計の音は止まる。


「……Zzz…………っ!?」


 流石に違和感を感じて飛び起きた。


「あ、起きた?おはよ~♪」


 一人の女性と目があった。

 美しい女性だった。

 優美と表現するのが正しいのだろう造形の整った顔には、はち切れんばかりの笑顔が張り付いている。

 この世の全てが楽しくて仕方が無いかのような、嘘偽りの混じりっ気の無いその笑顔に思わず俺の動悸が速くなってしまう。


「なん、だよ……お前。」


 何とか捻り出せた言葉はそれだけだった。


「私?私は神よ。神様。女神。ゴッデス。何でも良いわ。名前はシェアリー。覚えてないかしら?♪」


 「ふざけんな」とつい口を突きかけたが、しかしシェアリーと名乗ったその女性が―女神云々は差し置いて―普通の女でない事は明白だった。

 まず宙に浮いている事からして普通でない。

 それにセミロングの透き通るように綺麗な金髪も、ここが日本の一般家庭の、それもたかが中学生の寝室である事を鑑みればあり得ない事だ―ちなみに俺にそんな彼女ガールフレンドはいないし、そもそも彼女ガールフレンドがいた覚えも無い―。

 服装は白い小袖に緋袴を履く巫女装束。そこに自身の体を取り囲むようにフワフワと漂う羽衣を纏っている。その様相は、その美しさも相まって天女のよう。

 シェアリーと名乗るこの女が女神であるという事も強ち嘘ではないのかも知れない。


「覚えてないかって……どういう意味だ?」


 もっと他に聞くこともあるだろうに、俺の口から飛び出た質問はそれだった。

 自分の度胸の無さを恨みたい。


「そのままの意味よ。ちゃんと名乗ったでしょ?夢の中で♪」


 夢?……あれ?どんな夢を見たのか全く覚えてない。なんだかとっても疲れたような気はするけれども、内容は一切覚えていない。


「忘れちゃったの?仕方ないわね。もう一回教えてあげる。私の名前はシェアリー。貴方を勇者に選び、魔王を倒すための力を与える女神よ♪」


 う~ん……結局、女神云々が眉唾なんだよな。

 他にも考えるべき事はあるのだろうけれど、何だかんだで色々と混乱していた俺は聞き流してしまった。


「女神ねぇ……何か証明できたりしないのか?」

「貴方は自分が人間であることを証明できるの?♪」


 見事に返されてしまった。

 我思う故に我有り――なんて、哲学で乗り切れるようにも思えないし、どうにもシェアリーとかいう自称女神に対して口論で勝てるような気がしない。


「修弘~?起きてる~?」


 ふいに部屋の外から声が聞こえる。

 いつまで経っても部屋から出てこない俺を怪訝に思って、そして結論俺がまだ寝ていると思い込んで起こしに来たのだろう俺の母親の声だ。


「ご飯を作ってくれてるみたいよ。行きましょう、勇者ノブヒロ♪」

「とりあえず、その呼び方はやめてくれ。」


 扉の外にいるであろう母には聞こえないよう小さな声で呟いた。


「分かったわ。行きましょう、ノブヒロ♪」


 「やれやれ」と嘆息して、俺は自分の部屋の扉を開けた。

 母はすでにそこにはいなかった。



                    ☆



「今朝は少し寝坊だな修弘。それに着替えてもいないじゃないか。

 お前が学校に遅刻するのは勝手だが、母さんの美味しい朝御飯を時間が足りないなどと言う理由で残すのは許さないぞ。」


 リビングに行けば、既に母は俺と父の朝食の準備を始めていた。

 リビングに入った俺に真っ先に声を掛けてきたのは言うまでもなく父親である。


「嫌だわアナタったら。褒めても何も出ませんよ。ほら修弘も、そんなところでボーっとしてないで、さっさと座って食べちゃいなさい。」


 人の良い笑顔で父を軽くあしらう母の姿は中々に熟練された専業主婦そのもので、毎朝のこの年になっても未だ衰えぬラブラブ光線には息子として辟易しているのだが、今日に限ってはそんな事を考える余裕もないほどに驚愕に包まれた。


「え!?」


 思わず父とシェアリーの顔を見比べてしまった。


「どうしたんだい、母さんが僕に告白された時のような顔をして?

 そんな何もない・・・・所と僕を見比べたりしたりして、もしかして蚊でもいるのかな?」


 俺の真後ろにプカプカ浮いているシェアリーとかいう自称女神の姿が見えていない……のか?


「心配しなくても、私の声はノブヒロにしか聴こえないし、私の姿はノブヒロにしか視えないわよ♪」


 どうして、なんてテンプレートな疑問は頭から吹き飛んだ。

 ただ一つだけ、もしかして本当に女神なのかも知れないという疑惑だけが俺の脳内を支配していた。


「ほら、修弘。冷めちゃうでしょ?早く食べなさい。」

「そうだぞ修弘。母さんの美味しい朝御飯が冷めたりしたら勿体無いだろう。」


 そんないつも通りの夫婦のやり取りを受けて、俺はほとんど放心状態で朝食を口に運んだ――全く味がしなかった。


「母さん、今日は修弘が冷たいよ。」

「仕方ありません、年頃なんです。あの子にも色々ありますよ。」


 とは、食べ終わってリビングを出て行く俺の背中で交わされた夫婦のやり取りである。



                    ☆



「あ~……着替えたいんだが、部屋の外にいてくれないか?」

「嫌♪」


 一言どころか一文字で切って捨てられた。


「いやだから……」

「嫌♪」

「あの……」

「嫌♪」


 取りつく島も無いとはこの事である。


「私は神だからノブヒロの裸を見ても何も感じないもん♪」

「いや、シェアリーさんは――」

「呼び捨てでいいわ♪」

「シェアリーはそうでも良いかも知れないけれど、思春期真っ盛りの俺が女性の前で服を着替えるというのは些かというか何というか……」


 ぶっちゃけ気まずい。


「私に裸が見えなければいいのでしょ?♪」

「そりゃそうだけど……」

「えい♪」

「!?」


 一瞬、俺の着ていた寝間着に金色のエフェクトが掛かったかと思いきや、一瞬にして服装が変化していた。

 そう、青と黒のコントラストが描かれた寝間着から、ベタ塗を失敗したかの様な色で塗りつぶされた漆黒の学生服へと。


「じゃ、行きましょうか。あ、ノブヒロの言葉は思うだけで私に伝わるから大丈夫よ♪」


 俺の心配を先取りしたかのようにシェアリーが言う。

 この時点で、俺はシェアリーが女神であることに対し、ほぼ全ての疑いを捨てていた。



                    ☆



 通学路――地元の中学校に通う俺の通学手段は徒歩であり、既に死語認定されていてもおかしくない様な、そんな名前のつけられた道程を歩いている。

 周りには同じ中学に通う仲間たちの顔もちらほらと見える。

 どいつもこいつも「来年には受験に自由なんて奪われて無くなるんだから今のうちに楽しんでおこう」とでも言いた気な表情で風を切って歩いている。


「(で、さっきはバタバタしてて聞き流しちゃったけど、勇者が何だって?それに魔王がどうこうって聞こえた気がしたんだが……)」


 とりあえず、心の中で思ったことがシェアリーに伝わるという事の実験と同時に気になる事を尋ねてみる。


「暇を持て余した神々の遊びよ♪」

「(そんな人間のジョークが通じるとはね。で、実際のところは?)」


 あまりそっち系のネタに詳しく無い俺はシェアリーの冗談をアッサリ流して核心を訪ねた。


「ゲームなのは間違いないわ。特に名前も付けられてないんだけど、便宜的に『勇者魔王ゲーム』とでも呼びましょうか♪

 つまりね、神である私が選んだ人間が勇者、同じく死神が選んだ人間を魔王として、勇者と魔王を戦わせようっていうゲームよ♪」


 迷惑千万極まりない。


「(つまりなんだ?俺はシェアリーに選ばれて勇者になったわけで、地球のどこかにいる死神に選ばれた魔王を探し出してやっつけろ……と?)」

「そういう事♪」


 思いっきり項垂れた。

 分かり易く言うと『OTZ』ってくらい膝から崩れ落ちた。

 周りから奇異な目線を向けられたけどそんな物に構ってられないくらい落ち込んだ。


「あ、でもでも、私だって可能な限り力を貸すし、女神の私の力が使えるって凄いことなのよ♪」


 シェアリーが何かフォローするように言っているが、面倒臭さMAXの俺には届かない。

 だが何時までもグダグダやッているわけにもいかないのでとりあえず学校に行こうと思いっきり立ち上がった――その時だった。


「グゲッ!?」

「あ……」


 後ろにいたらしい人の顎に思いっきり頭突きを喰らわせてしまった。


「マサヤン!?」


 そいつの友達らしきピカソ絵画みたいな髪型の男が驚いた声を漏らした。

 俺の頭突きを受けて吹っ飛んだ土木作業機材みたいな髪型をした男、マサヤンとやらが立ち上がり、凄味を聞かせた表情で俺に迫ってくる。


「おいどうしてくれんだよテメェ。顎の骨が砕けたじゃねぇか!」


 普通に喋れてますが!?


「おい、こいつ攫っちまえ。」


 マサヤンとやらの言葉と同時、先のピカソ絵画みたいな髪型をした男と日本庭園みたいな髪型をした男に俺は両脇から挟み込まれ、逃げれないようにがっしりホールドされて路地裏の方へ連れ込まれた。

 アーッ!でなことを祈りたい――え?何を言っているか分からないって?世の中には知らない方が良い事もあるのさ。


「とりあえず治療費と慰謝料出してもらおうか。」


 よく見たら彼らが着ているのは学ラン――つまり、この不良気取りの三人組は俺と同じ中学の生徒と言うことか……


「断るね。そんな素敵センスな髪型の人達に払う金なんかねぇよ。」


 と、虚勢を張ってそう答えた――そう、虚勢・・を張って……

 顎がガチガチと震える、膝が嗤う、手汗は尋常じゃない。

 そう、基本チキンな俺は、初めて関わる不良と言える人種に対し思いっ切りビビッていた。

 当然、そんな俺の内心を正確に見抜いているであろう不良は、勝ち誇った様に不敵に口元を歪めた。


「そうか。痛い目を遭いたいらしい。」


 マサヤンが右拳を握るのが見えた――気がした。

 時の流れがやけにスローに感じる。

 まるで本当に時間が遅くなっているかの様な……?


「『想像し創造せよイメージ』!それが勇者たる貴方が私の神の力を使う条件よ♪」

「(……イメー…………ジ……?)」


 そんなシェアリーの言葉が何故か脳髄の奥に染み渡った。

 咄嗟のことで何が何だか分からなかった俺は、兎に角何か想像しなければと焦り、そして不意に思い浮かんだ映像は、目の前にいる不良を爽快に殴り飛ばす自分の姿だった。


「……え!?」


 バゴンッ!と凄まじい音が響いた。

 気付けば、俺は右拳を突き出した姿勢で固まり、マサヤンはその拳を顔面に受けて三メートル以上ノーバウンドで吹き飛んだ後、突き当りまで地面をゴロゴロと無様に転がり、そこでグッタリといている。


「(これって……)」

「『スキル』――私が貴方に、ノブヒロに与える力。上手に使ってね♪」


 『スキル』ね……なるほど。


「マサヤン!?」

「おい?どうした!?」


 あまりにも突然の事だっただけに、残りの不良二人は一拍遅れて状況に気付き、吹っ飛んだマサヤンに駆け寄った。


「生きてる……けど、お前……一体、何しやが……った?」


 不良の一人―ピカソ絵画みたいな髪型の方―が震える声音で俺の方を振り返りながら問い掛けてくる。

 恐怖を感じている人間とはこんなにも分かり易いものかと云うくらい声は裏返って、脚はガタガタと震えている。

 先程までの俺の様だ。


「何をしたんだろうね。教えて欲しいか?教えてやるよ。その頃にはお前ら三人ともそこに仲良く寝転がっているだろうけどな。」


 再びこの不良二人を爽快に殴り飛ばす自分をイメージする。

 刹那の後、現代アートの様な髪型の不良三人衆は、仲良く路地裏の地面に接吻する破目になっていたのだった。


「神の力か……便利なもんだ。」


 こんな力が使えるのなら、多少面倒事に巻き込まれるのも悪くない――と、そんな風に思った。


「『スキル』はノブヒロのイメージ次第でどこまでも威力が伸びるわ。ただのパンチで銀河系ごと吹き飛ばす事も可能よ♪」

「まじで!?」


 ただ、まあ調子に乗り過ぎる事だけはやめておこうと、この時胸に刻んだのだった。

ここ最近は無かった素早い更新!

やっぱり僕の作品の中でも特に力が籠っていた作品だけに思い入れが違います。

『微妙な勇者と最強なヒロイン』の方が嫌いというわけではないのですが、最近迷走気味だったので、少しこちらの方を進めてリフレッシュしてから、そちらの方も進めて行きたいと思います。

『微妙な勇者と最強なヒロイン』の方を読んでくれている読者さまには申し訳ないですがご了承ください。


では、次回は死神に選ばれた少年の話になります。

次回もよろしくお願いいたします。


なお、評価感想コメントなど随時受け付けております。

一言だけでも結構ですので、気楽な気持ちで感想など残していただけたらと存じます。

よろしくお願いします。

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