開戦 勇者魔王ガールズ激突
━美郷視点━
「問題です!魚が驚いたよ?さてどうなった?」
一体彼らは何をしているのだろうか?
「あら、ギョッとするくらい難しい問題ね♪」
「だな。俺なんて思わずうおって言っちまったぜ。」
「神経を逆撫でされた気分である。」
「ジェダー優勝!」
何だか気味が悪いくらい仲の良い勇者と魔王だ。名前は確か修弘君と弘昭君か。
弘昭君の方は正直生理的嫌悪感で君付けするのすら嫌なのだけれども、まあ淑女としてそれを表層に出すわけにはいかないだろう。
「で、これは一体何なのよ?」
場所は昨日と変わらず公園内。弘昭君に『昨日と同じ場所で』と呼び出された為にやって来たら、何やら二人は神と死神も交えてコントの様な事をやっていた。
っていうか、なんでアエルディーから『ヒロアキが昨日の公園に来て欲しいと言っています』とか言われるのよ。
「あ、美郷ちゃんキター!」
急に嬉しそうに叫び声をあげて飛び上がる弘昭君。とりあえず気持ち悪い。
「随分仲良くなったみたいだな。俺がいなくなった後に何してたんだよ?」
修弘君の方がそんな相方の様子にちょっと引いた様子でそんな事を言う。
って言うか、仲良くなんてなって無いし!
「え~とね。美郷ちゃんを地面に拘束してあんな事やこんな事をしてたんだぜ。」
「わーヒロアキったら大胆ねー♪」
いや確かに拘束されたし、色んな事弘昭君から教えて貰ったけど!
「何をわざわざ如何わしい言い方してんのよっ!」
「如何わしいだなんて美郷ちゃんたら如何わし~ってかエロい~俺は嘘なんて一言も言ってないもんねー」
うざい、キモい、ボコしたい……でも私の実力じゃ敵わない事は昨日証明されちゃったし……
まあ単なる武力だけじゃあ魔王には勝てないっていう良い経験はさせて貰えたかもね。
「そうか弘昭。お前はもう俺の友達じゃない様だ。」
「辛辣!?修弘が辛辣だよ!?」
「いつもの事よね♪」
「いつもの事であるな。」
修弘君の方は比較的常識人?でも弘昭君と二人セットにしておくと、結構悪ノリするっぽい雰囲気もあるのよね……
「それで?わざわざアエルディーを伝令役なんかにして私に何の様よ?」
そう云えばさっきからアエルディーが静かである。
公園に着いてから一言も発していないのではないだろうか?
「まあまあ美郷ちゃん。実はもう一人声掛けてる人がいるんだよ。その人が来るまでさ、もうちょっとお話しない?」
もう一人?誰?
「それにしても美郷さん早いね。弘昭、確か俺の設定した集合時間は一時間後だった筈だが、ちゃんと伝えてあったのか?」
一時間後?そんな話は聞いていない。だから私はすぐに家を出発してここに来たのだから。
そう思って弘昭君の方をちらりと見た。
「てへぺろ。」
……
「殺しても良いのかしら?」
「どうぞどうぞ。」
「待って!?なんで修弘ったら大親友である俺を簡単に売っちゃうの!?」
「自分から大親友なんて言う奴に心当たりはないな。」
「うっそーん。」
私は全力で握り込んだ拳を弘昭君の下腹部に叩き込んだ。
ドゴォ――なんて小気味良い音が私の耳に届き、弘昭君は音も無くその場に崩れ落ちた。
「オゴゥゲフゥガハァ……ちょ、まじ……が……ひ……」
もんどりうって地面で悶え苦しむ弘昭君を見ていると少し気分が優れた。
「洒落じゃない威力だったな。」
「ミサトって手加減を知らない性格みたいね♪」
「た、立てな……まじ、ゲフゥ……」
良くない汗を流し始めた弘昭君を見ていると少しやり過ぎたかな?と思わなくもない。
「いえ、どうも彼は喜んでいるようですよミサト。喜んでいると言うか、悦んでいると言った感じです。」
公園について、やっと初めてアエルディーが口を開いた。って、最初に言う事がそれなのかこの神は……
「待てや貴様!確かアエルディーと言ったな!俺が喜んでいるだって!?」
やっと回復したらしい弘昭君がアエルディーの発言に食ってかかる。
そうよね。いくら弘昭君でもあの威力で殴られて喜ぶ筈が……
「その通りだ!良く分かってるな!」
ズコーって馬鹿みたいな表現だと思っていたけれど、まさか自分で味わう事になるとは思ってもみなかったわね。
「そうでしょう?この身はアエルディー。以後ミサト共々お見知りおきを。」
そんな慇懃な態度でアエルディーは弘昭君と修弘君に一礼した。
「ハッハッハ!なんかアエルディー面白いじゃん!俺、気に入ったぜ。仲良くなれそう!」
どうやらアエルディーは弘昭君と仲良くなる最適なタイミングを計る為に黙っていたようだ。
その甲斐あってか既に弘昭君の心を鷲掴み。私の嫌いな人間から仲良くなるなんて随分と厭味ったらしい事で嫌になる。
「弘昭……お前、やっぱり馬鹿だなぁ……」
修弘君は何か察する所あってか呆れ顔だ。
「何だと!?アエルディーの事をどんだけディスろうと勝手だが、俺の事を馬鹿にするのは許さんぞ!?」
「ああ、すまなかっ――って、結局自分本位かテメェ!」
修弘君がスコーンと弘昭君の引っ叩く。自然体な友達同士の付き合い方って感じでそう云う意味では好感のもてる二人ではある。弘昭君は生理的に無理だけど。
「アハハハ!お二人とも面白いですね。これは一本取られました。」
そんな二人のやり取りを見て、アエルディーは屈託なく笑う。(見た目だけは)非常に純粋な笑顔だ。
「お!ウケたぞ修弘!もっとやろう!」
「勝手にやってろ。」
「良し分かった!
HEY!ちょっと聞いてくれよ。昨日さぁ、デップの奴がケチャップを大量に道に巻き散らかして行きやがったのさ。」
「いや本当に始めてんじゃねぇよ!しかもなんで語り出しがアメリカンなんだよ!お前にアメリカンジョークの何が分かるんだよ!」
修弘君、怒涛の三連ツッコミ……ノリノリ過ぎて怖い。アエルディーはその中世的な顔立ちに似合わずゲラゲラ笑ってるし……
「さて、何だかんだ一時間が経ったな。そろそろ約束の時間だぜ。」
「え?もう!?」
修弘君の言葉に驚いて時計を確認すると本当に私が公園に着いてから一時間経っていた。
時間を忘れるくらい彼らのやり取りに私とした事がのめり込んでいた?
何だか微妙に納得いかないけど、でも悪くない気分……かな?
「ほんとノブヒロといると退屈しなくて良いわー♪」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
「戦う必要が無くなってしまうな。」
「いや、それは違うよジェダー。俺と修弘がガチで勝負したりするから、こういうグダグダな駄弁りも楽しくなるんだぜ?ようはメリハリだよメリハリ。」
そう云えば私はなんで魔王を親の敵のように思っていたのかしら?
アエルディーが私の所に来て、魔王が現れたから勇者としてそいつを倒して欲しいとかわけの分からない事を言い出して……
乗り気じゃなかったけれども、あまりにもアエルディーが鬱陶しいから何とかしてこのくだらない茶番を終わらせようとして……
弘昭君を見つけた時にはやっと終われると思ってカッとなっちゃったんだったかしら?
「まあまあミサト。もう少し肩の力を抜いて楽しんでくださいよ。」
「(だから、私はあんたみたいなのが嫌いなのよ。)」
「それでしたら以後気をつけます。私は本当にこの人間界を楽しみたいのですよ。」
「(?)」
なんだかアエルディーらしくない殊勝な態度だった。中世的な端正な顔立ちを本気で反省しているかのような表情に染めて、まるで本気で謝っているかのようだ。
「いえ、彼らを見ていると、なんだか勝負に拘っているのもバカバカしくなってきましたし……」
「(それには同感だけど……)」
「あ、でも、ジェダーを倒して上を目指すと云うのも悪くはないですかね。」
「(どっちなのよ……)」
まあどちらでも良い。なんだか少しだけ、今までよりもアエルディーの事を嫌いじゃなくなるかも知れない――なんて、そんな事を思った。
「あ、来たみたいだぜ。って、なんかヤバいくらい美人じゃね!?」
そんな弘昭君の言葉で我に返り、釣られるように公園の入口の方に目を走らせた。
そこで視界に飛び込んできた人物を見て、私は度肝を抜かれる羽目になる。
「そういや言って無かったな。中瀬谷美由紀さんだ。」
「フフフ。貴方が寺門弘昭さんですか?修弘君から御噂はかねがね窺っております。」
「え!?どんな噂?ねぇねぇどんな噂?」
「そうですねぇ、何でも『火のついたタバコを五本逆に咥えた状態で火を消さずにジュースを飲む事が出来る』とか?」
「うっそまじで!?俺ってそんなこと出来ちゃうの!?本人である俺がびっくりだよ!でもやっちゃうぞ!――って、そりゃ承○郎さんの特技じゃないですかー!」
「そもそも俺は弘昭の話なんてしてないしな。お前の名前くらいはまあ呼ぶ時に言ったが。」
「ちょっと待てよ?中瀬谷ってあの中瀬谷か!?」
「そうですね。多分その中瀬谷です。」
彼らの話はどんどん進行しているが、私はあまりにも驚き過ぎて言葉を失っていた。
彼らに呼び出されたらしき彼女、中瀬谷美由紀は、私の一番の親友なのだから。
「あら美郷じゃない。お元気?」
「元気よ元気。聞くまでもないでしょ?」
「それで美郷はどうしてここに?」
「それは私のセリフよ!」
なんて言うけれど、私にはもう分かっている。分からない筈がない。美由紀だってそうだろう。そうなのか、私の真の対戦相手になる魔王は……美由紀なのね。
「あれー?なんか御二人さんただならぬ関係だったりするのー?」
弘昭君の呑気な声は殆ど私の耳には入ってこなかった。
「ただならぬと言いますか……ただれた関係です。」
「ってコラー!なんで乗っかるのよ!ここはシリアスな場面じゃないの!?」
「ただれた!?ただれた、女の子同士……ハァハァ、良い!凄く良い!!」
「ヒッ!」
なんか弘昭君興奮してる!?怖い怖い怖い!!
「やっぱ予想通りだよな。そうじゃないかとは思ったんだ。出来過ぎだ。質の悪い少年漫画だってもう少し展開を練るぜ全く……」
「事実は小説より奇なりでしょ♪」
「ま、神の力とかライトノベルでだって敬遠されるワードだよな。」
「あら失礼ね♪」
修弘君は既に観戦モードに入っているようだ。片手にポップコーンでも持っていそうな勢いで傍らの神様と会話している。
「美郷、貴女が相手なのね?」
「そうらしいわね。残念ながら。」
私と美由紀は二人どちらともなく歩み寄り、そして二メートル範囲内に近付いて、そして私は美由紀の死神を視認した。
「フフフ。ザクシー。今回は私が勝ちますよ。」
「ハッ!小便垂れの小僧ガ!やれるものならやってミロ!」
怒号の様なその死神の声とともに、私と美由紀の戦いが幕を開けた。
というわけで、美郷VS美由紀始まります。
なんだかなーいまいち展開がなー
思ってたのと違う……orz
修「自分のセンスの無さを自覚するべきだな」
どうせ全部修弘が悪いんだし別に良いかー
修「うおぉい!」
ま、格好良い技でも考えながら今回はこの辺で。
またよろしくお願いしますね^^