気になる事は沢山あるさ
俺の人生は一体どこで間違えたんだろうか。
そんな事を誰だって一度くらい考えた事があるんじゃないだろうか。
大きな失敗をした時とか、小さな失敗が積み重なった時とか……
「命の危機に陥った時とかさ。」
「?……何を言っていますか?」
美由紀は俺の発言に怪訝な表情をして首を傾げた。
「いやさ、俺の人生はどこへ向かっているのかなって思って、ちょっとね。」
「フフ、なんですか?またお喋りですか?」
「俺の人生に間違いなど無い」なんて言う人もいるかも知れないし、人生が立った一度きりである以上何がどうなろうとも間違いなどある筈もないのだが、それでも考えざるを得ない。
「もし俺が勇者になんてならなかったら、俺はここでこうしているように雑草に絡みつかれて拘束される日が来ただろうか……なんてさ。」
断言できるがそんな日は来ない。
だったら、こうして美少女の前で緊縛されるのも悪くないのではないだろうか……いや、これは悪いに決まってるな。俺は弘昭のような特殊な趣味嗜好は持っていないのだから。
「戯言がお好きなようですね。しかしよろしいのですか?その『死絡みの草』から抜け出せなければ、ここで勝負は終わってしまいますよ?」
「いや、それはもう問題無い。この技はもう無いも同然だ。」
「へぇ。」
美由紀は不敵に微笑んで見せた。まるでその程度はやってもらわなければ困るとでも言いたげだ。
もっとも、仮に俺がここから抜け出せなかった所で、彼女の『勇者魔王ゲーム』が終了する事はありえない訳だが。
「素早く身体全体を拘束し、四肢の力を奪い、そして絞め殺す技『死絡みの草』ね……発想が貧困だな。こんな技は勇者になって三日で思いついたぜ。」
まあ彼女の魔王歴がどんなものかは知らないけどさ。
「やるかシェアリー!」
「良いわよ♪」
イメージは至ってシンプル。
ただ俺に絡みつく邪魔な雑草を焼き払うだけのイメージ。
「燃えろ。」
――ボッと云うまるでライターの火でも点けたかのような小さな音がしたと同時、俺に絡みついていた雑草は全て燃え尽きた。
「勇者相手にこの手の拘束技は通じねぇのさっ!」
地面に両足つけた俺は颯爽とポーズを決めつつそう言い放った。
……………………
………………
…………
……
「………………あら、そうですか。」
予想以上に反応は鈍かった。というか、思い切りだだ滑りしていた――恥ずかしい。
「クス、失礼。でも私は『魔王らしい技を考えた』と言ったのですよ?」
――ゾクリとした。
悪寒の走る笑顔だった。美人だが、いや美人だからこそその笑顔から受ける寒気は尋常なものではないと言えるだろう。
「『死絡みの草』の真骨頂はここからです。」
美由紀との距離は二メートル強。未だその絶妙の距離感を美由紀は詰める事をして来ず、彼女に憑く死神を視認できていないが、しかし彼女がどんな動きをしようと確実に対処できる自信のある距離でもある。
ならば、しかと彼女の動きを観察し、真骨頂とやらを見抜いて対処し、しかる後にこちらの本命を決めて沈める。これで行こう。
……………………
………………
…………
……
先ほどとは違う嫌な緊張感が場を静寂に包みこむ。
どこから来るか……
『死絡みの草』というネーミングから察するに植物に絡んだ技である事は疑いようも無いが、先程のように足元の雑草が俺に絡みついてくる気配はない。
「なんでミユキは近付いて来ないのかしら?♪」
「(シェアリー!なんか緊張感とか色々と台無しだよ!そう云う疑問は後に回そうよ!どうでも良いでしょそんな事っ!)」
「えーでも需要よ?いくら技で勇者と出会うよう調節したって言っても、それにしたって確認くらいしようとするのが普通じゃない?♪」
「(言われてみればそうかも知れないけどさ!
そもそも俺は『瞬間移動』でこの場に来たわけだし、俺が勇者である事は疑いようがないだろ?
それで、遠距離からジワジワ嬲り殺そうって算段なんじゃねぇの?魔王っぽくさ。)」
自分で言って、しかし違和感を感じる話ではあった。
俺を最初に拘束した時だって、俺に近付こうとしたようで、俺の話に乗っかる様に足を止めてそこから近付いては来ない。
近付くタイミングを逸したと言ってしまえばそこまでだが果たして……
「クス……」
まるで俺の考えなどお見通しと言わんばかりの表情で美由紀はクスリと笑って見せる。
「考えは纏まりましたか?では、行きますよ。」
どうでも良いけどちょっとテンポ悪いよね。
そこはやっぱり間をとったりせず怒涛の攻めがあった方が進行もスムーズ――って俺は何を考えているんだろう?
「ゲッ……」
そんな無駄な事を考えていたらまたしても彼女の技の対応に出遅れた。
俺が油断していた不意を突き、先程俺が焼き払った筈の雑草がいつの間にか復活し再び俺に絡みついてきたのだ。
それにしたってこの単調な攻撃……「魔王らしい」だなんてお世辞にも言えないが……
「いい加減にしやがれ!こんなもん食らうかよっ!やるぞシェアリー!」
「良いわよ♪」
俺もいつまでも相手の攻撃ばかり待ってるわけじゃない。俺の方から攻めに転じさせてもらうぜ。
「ラァ!」
まずは俺の右腕に絡み始めていた雑草を強引に引き千切る。勿論、ただの腕力ではなく、俺自身が引きちぎる様子をイメージした技でである。
「『瞬間移動』」
一瞬で美由紀の背後に回り込む。彼女は振り向く様子を見せない。当然だろう。音速を軽く超え、光速すら置き去りにする神速の移動を予備知識無しで追える筈がない――「特殊相対性理論から言って光の速度を超えたら時間を退行する筈だ」なんて無粋なツッコミは言いっこなしだぜ?神の力は何でもアリなのだ。
このまま『神の鉄槌』を叩き込んで決着をつけてやる。
そう意気込んで拳を握る俺は一つ――いや、実はいくつか忘れている事があった。
白熱し過ぎて忘れていたと言っても良いかもしれないが……
「あらあら残念。終わっちゃいましたね。『意死絡みの草』は御預けです。」
俺の拳が彼女の後頭部に届くその刹那、彼女はあっけらかんとそう言い放ったのだ。
「これは一体どういう事ダァ!!!!!」
雄叫びの様なその怒号と共に、俺と美由紀の戦いは終わりを告げたのだ。
その凄まじい叫び声に思わず怯んで技を解除しちゃったのはシェアリーには内緒だぜ?
☆
「ほんとノブヒロったらビビりなんだから♪」
まぁ、日常的に俺の心の中を読む神様に隠し事なんてする意味は無いのだけれどね。
「クスクス。申し訳ありませんね。実は貴方が私の相手である勇者でない事は何となく察していましたの。」
と美由紀は唐突にそう口火を切った。
「勿論最初は勇者なんて一人しかいないと思い込んでましたし、貴方が私を倒しに来た勇者だと思っていたのですよ?
でも、私が魔王だと分かった時の貴方の反応を見て、これはどうも私の相手の勇者は別にいるようだと察したのですよ。」
場所は移され彼女の家、中瀬谷家の応接室。俺の様な一般庶民では到底足を踏み入れる事すら敵わないであろう――叶わなかった筈であろう、その一室に招かれていた。
あの雑木林から歩いて20分、日本のどこにこんな敷地があるのかと言えるレベルの大豪邸であった。
「私としましてはそこで切り上げてしまっても良かったのですが、私のせっかちな死神様が――」
その部屋の中で俺と美由紀は向かい合って座っている。メイドさん(まさか実在していたとは)に淹れられた紅茶からはやけに香ばしい香りが漂っている。
「ザクシー?ザクシーよね?久しぶりねー!元気してたー?♪」
「ぐ、グゥ……」
ちなみに美由紀の云う『せっかちな死神様』は何やらシェアリーに追い詰められて部屋の隅っこまで追いやられている。
「えー私のせっかちな死神様が『早く戦え早く戦え』とせっつくので仕方なく、ね。」
美由紀の言い方は言外に「分かってくださるでしょう?」と言っていた。
「まあ、分かりましたよ。だからあんなに技から技への繋ぎが妙にテンポ悪かったり、俺の時間稼ぎに乗っかる様な真似をしたんですね。」
「そう云う事です。まあばれてしまえばそこで終わってしまうんで、それまではついでに技の試し打ちでもしてみましょうと思ったんですよ。」
俺に露骨に距離を詰めようとしなかったのもその為って事か。
それにしても、随分とまぁ腹黒い事だ。気付かなかった俺も俺だが……それ以上に美由紀に憑いてる死神も死神だ。気付けよ。
「アハハ~♪ザクシーザクシー♪アハハハハハハ~♪」
なんかシェアリーが超上機嫌である。
なんだろう、あのザクシーとか言う死神と知り合いなんだろうか?
「ち、近付くナァ!!」
「何か行ったかしら?♪」
「すいまセン何でもないッス!」
むしろシェアリーの方が嫌な先輩って感じだ!?
それにしてもザクシーとやら……何だかシェアリーに対して妙に腰が引けてて非常に情けないキャラになっているんだが、普段はそんな事無いんだよね?
思わずビビっちまうような怒号を飛ばす格好良いキャラなんだよね?
削ったばかりの鉛筆のように逆立った赤髪に、子供程度なら睨むだけで殺せそうなその鋭い眼光、巨象だって怯むであろう怒号の様な渋い声、筋骨隆々と表現すべきムキムキの体躯、長年の修行鍛錬を思わせる袖の無いボロボロの空手着の様な胴衣――歴戦の勇士を思わせる威風堂々としたまさに格好良さの権化たるその姿が、シェアリーに恐れをなして部屋の隅で委縮しているなんてそんな事は無いよね?
「冗談じゃネェ!ありえネェ!!どういう事ダ!!!」
声だけは相変わらず凄まじく迫力があるのだが、如何せんシェアリーによられて涙目では半減である。
「クソッ!俺の敵はアエルディーの糞野郎じゃネェか!なんだってこんな……大体ミユキ!テメェ分かってたならなんで……」
ザクシーが美由紀に詰め寄ろうとする。
「私はやめようとしましたよ?それに、この烈神ザクシーに敵う者などどこにもいないと豪語していたのはどなただったかしら?」
おやぁ?今気になるワードが出ましたよ?『烈神』ですって。
「それは、しかし……まさか『魔性の女神』が出て来るとは全く思っていなく……」
はい~『魔性の女神』?またしても気になるワードが……
「それに、こいつは……」
「何?『こいつ』?♪」
「シェアリー様は神界最強クラスの……」
『神界最強クラス』!?何それ胸熱じゃんっ!?そして何気に様付け?
待て待て待て!色々一気に来すぎて整理しきれん!
「え~と……」
「あ、すいません。えっと修弘君でしたね。私も色々と混乱しています。ちょっと間を置いてまた後日、詳しく話し合うと云うのはいかがでしょう?」
「あ、じゃあそれで。」
既に大分混乱の極みにあった俺は、そんな美由紀の言葉に何も考えずに頷き、そのまま彼女の家を後にしたのだった。
我が家まで『瞬間移動』でさっさと帰った事は言うまでもない。
ま、やっぱり修弘、貴様に格好良いシーンは無い!
修「俺が一体何をした!?」
なんていうかさ、僕って主人公を格好良く描くのが苦手みたいなんだ。
やっぱり特徴の無いその他大勢を主人公に据えるってのは難しいよね。
修「その皺寄せが俺に来ているわけだが?」
何ていうの?ざまぁwww
修「おいコラ!」
ま、今回で貼りたい伏線は全部張れたし、やっと物語を進めて行けるかな?
とりあえず勇者魔王ガールズを何とかして行かないとね。
修「そのワードはリメイク前を読んでないと分からないよな!?いや分かるか?分かるだろうけど、ネタバレ的にどうなんだ!?」
大丈夫っしょ。誰も気にしないよ。
というわけで、今後もよろしくお願いします!
修「なんか軽いなぁおい!」