試験からの解放……そして新たな出会いは……
『散々な結果だ』なんて、文語でしか見た事が無く、それをまさか口語で語る機会が来ようとは終ぞ思っていなかったが、しかし俺は今回の期末テストの結果を持って、それを『散々な結果だった』とそう評する以外にはなかった――無論、良い意味で。
「(全教科満点はやり過ぎたーーーーーっ!!!)」
「私は悪くないもん。ノブヒロに訊かれた通りにあの暗号の答えを教えてあげただけだもん♪」
暗号って……そりゃシェアリーから見りゃそうなんだろうけどさぁ……
「(いやしかし……思いっきりカンニングを疑われるとは思ってもみなかった……)」
「まあ実際、カンニングだし♪」
グフッ!――俺は心に250ポイントのダメージを受けた。
ちなみに俺の心のヒットポイントの最大値は300である……致命傷だった。
「(行為の過程はそうだが、しかし収束する結果を考えた時、シェアリーの知識――すなわち神の力は神勇者たる俺の実力そのものであり、そして試験と云う物が対象者の実力を測る物である以上、この結果はもう完全完璧に俺の実力が発揮された上での物であると、そう云う他あるまい!)」
「難しい言葉でカンニングを正当化したわね♪」
シェアリーに誤魔化しは通じないのだった。
勿論カンニングの証拠がない以上、御咎めなどあるわけも無いのだが、しかしカンニングという行為は疑われた時点で信頼度を地の底の底にまで落としめてしまう物だったらしく、クラスメイトや教師からの疑いの目線は如何ともし難いものだった。
そして、実際に俺は――理屈は兎も角俺の心情的に――カンニングと云う行為に手を染めてしまっているわけで、だからこそ皆の責めるような視線は見事に俺の心に突き刺さるのだった。
「あっしたから~なっつやっすみ~だぜー、イェ~イ!」
もう一人の全教科満点を取ってしまった馬鹿――寺門弘昭が、今の俺の気分など何処の吹く風と云わんばかりな上機嫌で調子っぱずれな歌を歌っていた。
ちなみに今回の期末テストの全教科満点者は三人。
言うまでも無く、俺と弘昭と、そして三浦好美である。
好美は俺が図書館での勉強の成果を発揮したと思ってか随分と嬉しげだった。
「なんでお前そんなに機嫌良いんだよ!カンニングを疑われたんだぞ!?」
「偉い人は言いました!『イカサマ!バレナキャ!俺様殿様!チェケラー!』」
「どんな偉い人がそんなハイテンションでラップを刻むんだよ!」
先程長ったらしい集会――所謂終業式と云う奴だ――を終え、まさに今校門を潜り校舎外へ出たその瞬間から夏休み開始と云う事もあり、周囲も浮足立ち、いや色めき合っているようだ。
俺からすれば、カンニングの疑惑から逃げるような形で長期休暇に入ると云う事もあり、どこか浮かれ気分にはなれないのだが、しかしそうは言っても夏休み。楽しみと言えば、まあ楽しみである。
「あ、ちなみに誤解してる様だから言っとくと、カンニングを疑われてるってのは修弘の被害妄想なんだぜぃ。」
「へ?」
え?どゆこと?
「周りの視線が痛い、とかさっき言ってたけど、それって普通に妬みの視線なんだぜ?なんせ修弘さ、満点取った云々で随分と楽しげに三浦好美様と会話してたらしいじゃん?」
どうでも良いが、こいつが『三浦好美様ファンクラブ』創設者にして名誉会長と云うのはギャグでも何でもなくガチな話だったわけで、日常会話でも三人称は様付けだった。
「って云うか、ぶっちゃけ人が満点取ろうが零点取ろうが他人事、つまりはどうでも良いわけ。だって人の点数なんて関係ねーもん。自分が自分に必要な成績を取れてればそれで満足ってのが中学生としては普通なスタンスなわけよ。
修弘だって今までさ、好美がカンニングしてるんじゃないか?なんて疑うどころか考えもしなかったろ?」
「それは確かにそうだが、しかし好美は普段の学習態度からして優秀と評価されているわけで、普段は馬鹿丸出しな態度で授業を受けている俺とは天地ほどに認識の差がある筈なんだが……」
「教師側の認識の話?それだったら、最近の自分の行動良く思い返してみたら?」
最近の自分の行動?
「だって修弘さ、ここ最近授業中に出される難問とか結構答えたりしてたろ?」
あ!そう云えば、それがきっかけで好美との図書館デートに発展した事もあったっけ……
「何が言いたいかと云うと、教師人の間でも『最近神林の奴頑張ってるな』みたいに評価は鰻登りだったんだぜよ?」
「いきなり口調を変えて何を言い出すんだか。それじゃあ生徒側からの冷たい視線は説明できても、教師側のあの冷やかな疑いの視線は説明できないじゃないか。」
「だからさ、それは修弘の被害妄想なんだって。」
被害妄想?あれが?そうは思えないんだが……
「カンニングしたって云う自責の念が強過ぎてそう見えるだけで、実際は『良く頑張ったな』的労いの視線だった筈なんだぜ?」
「おいおいマジかよ。何を根拠にそんなこと言い出すんだよ?」
「ジェダーに訊いたんだぜ。」
「どうせそんなオチだと思ったわっ!」
でもまあ、ジェダーに訊いたと言うからにはそれは本当なのだろう。
どうにもこうにもスッキリしない感じは拭えないが、特段気にする必要もないと分かれば安心はするのが人間と云うものだろう。
「はぁ……まあいいか。」
「まぁいいのだ。」
何が『まあ良い』のかは分からないが、兎にも角にも悩みの種は払拭されたと考えて良いのだろう。だったら、深く考えれば考えただけ損と云う物だ。気楽に行くべき……かな?
「(う~ん……楽観し過ぎか?足掬われっかな?)」
「悲観して足が竦むより良いんじゃないかしら♪」
「(上手い返しだが、若干二番煎じっぽい空気を感じるのは俺の気のせいか?)」
「気のせいよ♪」
断言されてしまった。神に断言された以上それは気のせいなのだろう。
「よっしゃー夏休みだー!何すっかぁ?海とか行くかー。ちょっと待ってろよ。今ジェダーで良い場所ググるからさ。」
「我は検索サイトでは無き故。」
やがて俺と弘昭は校門を潜り、夏休みの宿題と云う地獄もあるがそれはまだ先の事だと高を括り、そして弘昭は夏休みの遊び場をググった。
「地の文と見せかけた修弘の心の中での言葉遊びも私は決して見逃さないわ。ちょっと強引に纏めたわね。35点ってとこかしら♪」
「(心読むなよ!放っとけよ!その上駄目出しに辛口評価!さらには貴重なジェダーの低テンションツッコミシーンを何事も無かったように流していくなよ!)」
見事な四段ツッコミを決めてしまった……
「ああそこ、あまりテンションを上げ過ぎないように。序盤から飛ばすと後でバテちゃうぜ。今年の夏は遊び倒すんだからさ。
予定が目白押しだ。一日20項目はこなして行かないと遊び尽くせないぜ?」
お前はどんだけ遊び倒す予定なんだ!?」
弘昭と云う人間の底力を俺は今だ甘く見ていたらしい。
「とりあえず、その景気付けに今から一丁バトるか!試験の終了祝いも兼ねてさ!」
「何の景気付けだよ……だがまあ、そうだな。派手に技をぶっ放すのも悪くないかもな。」
なんだかんだと言って、俺も弘昭も試験期間中に溜まりに溜まったフラストレーションを発散させたいだけなのであった。
☆
安全上の都合とか言う訳の分からない理屈により大半の遊具が撤去され、寂れた広場と化したその公園で俺と弘昭は向かい合って立つ。
「こうして戦うのは二度目になるわけね♪」
「そういうこった。これからは週一くらいでこういう場を設けるのも悪くないかもな。」
週に一回勇者と魔王が殺し合う……
字面にすると凄まじい光景が思い浮かぶようだが。
「……それは良い。」
「楽しそうじゃん。ま、そうは言ってもどうせ今後戦う事はもうないけどな。」
ああ、そうだな……確かにそうだ、違いない。
「「今日で俺が勝つからな!」」
その言葉が合図だった。
すでに日常で様々な神の力の使い道を試していた俺たちは、まるで手足のように神の力を使うことができるようになっていた。
いや、下手をしたら――むしろ手足よりも上手く神の力を扱えるかもしれない。
「新技試すか!なあシェアリー!」
「ハァイ♪」
新たなる俺の技……そうだな、名付けるならばそう――
「んー?人がいるじゃない!なんでいるの?ちょっとアエルディー!どういう事?」
技を発動せんとするまさにその刹那、俺でも弘昭でもシェアリーでもジェダーでもない声がその場に轟いた。
俺としては緊張感が高まったその瞬間に割り込まれたような物なので、思いっきり脱力してしまったりしたのだが、まあ内緒だ。
「おいおい弘昭、ちゃんと『人払い』の結界刻んだんじゃなかったのかよ?」
「あっれーおっかしぃな。おいおいジェダー、ちゃんとしてくれないと困るぜ。」
「む、我の力は問題無くヒロアキの中に流れておるが……」
ジェダーも訝しげな声を出している。
どうやら、弘昭の結界の方に問題があるわけではなさそうだ。となると……
「折角、神の力っての試してみようと思ったのに興醒めよね!まったく、誰のせいかしら!」
まだ遠めに輪郭が見える程度に距離が開いていると言うのに声がここまで届いている。
よく通る声、しかも声の大きいタイプの人らしい。
「……一つ良いか?」
「だが断る。」
俺と弘昭の元には既に風に運ばれてきた声が届いている。
その声が女性らしきものである事は既に分かっているが、そんな事は問題ではない。
「今、明らかに神の力とか言ったよな?」
「その前にはアエルディー……だったか?人の名前を呼ぶようなイントネーションでそう言ったように聞こえたが?」
無論、アエルディーなる名前を持つ存在の姿は確認出来ない。
俺の視界には少しずつこちらに近づいてくる女性の姿があるのみだ。
「シェアリー……確認したい事がある。」
「何かしら?言っても良いわよん♪」
どうやらシェアリーはかなりご機嫌な様子。語尾に無駄な可愛らしさが追加されている。
「神や死神の数は人間と同じ位……そうだな?」
「そうね♪」
「その中でシェアリーの言う勇者魔王ゲームというものの存在を知っているのはどれくらい?」
「ほぼ全員ね♪」
OKだ……大体分かった……
「この神様の暇つぶしとやらは結構な頻度で行われてるんだな?」
「そうであるな……人間の時間感覚で換算すると、年に10回程度行われているのではないか?」
弘昭もジェダーに確認をとっている。
その上で言うなら、この勇者魔王ゲームが一年程度では終わらない事を鑑みても、神勇者と死神魔王のペアはこの地球上に結構な数いる事になりそうだ。
「んで、あんた達、誰よ?」
その女性は気付けば俺達の目前まで迫って来ていたのだった。
うーむ……更新、滞り過ぎだな……申し訳ない。
いや、本当に申し訳ない。
大学の方が忙しすぎて、全然PCに触れる機会がありませんでした……
修「申し訳あるじゃないか……いや、これは申し訳ってか言い訳かも知れんが。」
シェ「ノブヒロったら、そう言う事は思ってても言っちゃだめよ♪」
言ってください!どう思われてるか分からない方が地味に傷付くから!
と、兎に角、この先もリアルの方が忙しくて更新は遅いと思われますが、どうにか見捨てる事無く今後ともよろしくお願いします!