勉強?いやいやお話しましょう
あの好美との衝撃デートから早幾年月―その実は1週間程度―が流れた。
その間、好美からのこれと云ったアプローチも無かったので俺は少し安心していたのだが、そもそも学生としてはそんな場合ではなかった事につい昨日気付かされてしまった。
何があるのかと言えば――
「超!超!!超々々々々々々々々チョーダリィーーーーーーーーーーーー!!!」
「大絶叫どうもありがとう。だから死んでくれ。」
「文脈おかしくない!?」
そう期末試験である。
もともと優秀とはとても言い難い成績を残している俺と弘昭なのだが、かと言ってまったく勉強していないのか――と言えばそう言うわけでは決して無く、こうして放課後に二人集まって勉強会を開く程度には勉強もしている。
要は単に、俺も弘昭も頭の出来はそれなりに残念と云う事である。
後はまあ、俺と好美の――名目上は図書館で一緒に勉強となっている――あのデートの様子を思い出してもらえればそれで良いだろう。
「ってか、弘昭五月蝿ぇ!!」
まあ弘昭の気持ちは分からなくもない。
勉強なんて、現在中学二年生――すなわち青春まっただ中である所の俺達にとってウザったい事この上ない物であるのは百も二百も承知の上だ。
だがしかし、だからと言ってこの勉強会の言い出しっぺである弘昭が真っ先に投げ出すと云うのはどうした事だろう。
「修弘と勉強しててもつまらーん!!」
一発殴りたい。
いや、そもそも弘昭の誘い文句からして『つまらない修弘と一緒に勉強すれば他にやることも無いから勉強が捗ると思うんだ!女の子と勉強したらそっちに集中行っちゃうもんね!』――とか、心の底から死ねば良いのに……
まあ俺と好美の図書館デートをディスっている事は明白である。
わざわざ俗語を用いたくなるくらい、この時の弘昭は鬱陶しかった事をここに追記しておく。
「勉強って何ー?楽しい遊びなの?♪」
「そうか、シェアリーにはこれが遊びに見えるのか……それは最高にハッピーで何よりだ。」
シェアリーはシェアリーで大した皮肉っぷりだった。
ちなみに現在俺と弘昭は、我が神林家の俺の部屋にて火燵机――炬燵機能は無論停止。布団も取っ払ってある只のテーブルである――を挟んで向かい合わせに座っている。
俺達の他には誰もいないので、俺達は普通に声を出してシェアリーやジェダーと会話している。
「ふむ……知識と素養を身に付けさせるための教育と、その効果がどれほど生徒側に浸透しているかを確認するための試験。その試験に成績や順位といった漸進性や競争性を付与する事によって、教育内容がさらに浸透しやすいよう工夫がなされている……と云ったところであるか。なんと合理的で効率的なシステムだ。人間も侮れぬな。」
「その侮れない人間を作ったのは神様じゃないのかよ!」
ジェダーは良く分からない所に感心していた。
「兎に角!もう勉強には飽きた!疲れた!やる気を失った!従って、急速な休息の必要性をここに宣言いたします!」
相変わらずマイペースな弘昭である。
「じゃあ休憩がてらにお話ししましょ♪」
今までも充分以上に自由すぎる会話が繰り広げられていたのだが、それについて指摘するような野暮な真似はしなかった。
「まあそう言うなら一つ訊きたい事がある。」
「何かしら?♪」
俺自身が勉強以上に気になる事が出来たからだ。
「さっきジェダーがさ、『人間も侮れない』とか言っただろ?それに対して弘昭が『人間を作ったのは神様じゃないのか?』みたいなツッコミをしたわけだ。」
「そうね♪」
「実際のとこどうなんだ?人間ってのは神様――つまるところシェアリーが作ったわけ?」
「ん~結論だけを先に言うと、私ではないわね♪」
この世の全てを作り賜うは神の御技である、とかそう云うのは無いのか?
「天地創世は神によって行われた――とかそう言う訳じゃないの?」
「正しくもあり、間違っているとも……いや、正しいと言えば正しいな。」
ジェダーが意味深なようで、その実俺の疑問を肯定してくれた。
「話すと長くなりそうねぇ♪
とりあえずは、そうね……神様って私だけじゃないって理解だけで良いんじゃないかしら♪」
「同様に、死神も我だけでは……ない。」
まあそれについては、何となくそうじゃないかとは思っていたけどね。
「じゃあ神様とか死神ってどれくらいいんの?」
弘昭は話題が勉強から大いに逸れた事が嬉しいのかここぞとばかりに話題に乗っかって行っている。
「人間と同じくらい、かしら♪」
「60億超!?」
八百万の神もびっくりの人数――ってか神数である。
「つまり、世界とか人間だかを作ったのはその沢山いる神様の内の誰かってわけか。」
「そうよ♪」
アッサリ肯定。
「じゃあさじゃあさ、その天地創世の神様は、その沢山いる神様を統べる絶対神的な立場なわけ?
ほら、神様の上に界王様がいて、その上に大界王様がいて、界王神様がいて、大界王神様がいる――あの某龍玉物語的な?」
弘昭はなおも神と死神に食ってかかる。
そろそろ、勉強再開としても良い時間なのだが、しかし俺も話が気になってしまい、ついつい聞き入ってしまった。
「それは違うな。神や死神にも格付けと呼べる物はあるが、だからと言って人間で云う『王』の様な支配者や統治者と呼べる者は存在しない。」
「人間的に言うなら『神界』ってところかしら?基本的に自由で奔放なのよね♪」
「何その天国っ!?」
弘昭が興奮しているが、俺はそれよりもジェダーが発したあるワードの方が気になった。
「格付け……って?」
「言ってみればランキングね♪
神や死神としての神格の違いで一位から最下位まできっちりとランク付けされてるわ♪」
何だろう……神界って人間界より恐ろしく殺伐とした世界な気がしてきた……
もし人間でそんな事をしたらどうなるのだろう……恐ろしすぎて想像もしたくない……
「じゃあさ、この世界を作った神様ってのはどれくらいのもんなわけ?」
弘昭はそんな事気にもならないとばかりに質問を続ける。
勉強をせずに済むかも知れないと思ってか非常に楽しそうだ。
「ふむ……第48位の神だな。」
「え゛っ!?それって結構スゲくね?」
弘昭の驚愕も最もだろう。
なんせ60億超いるらしい神様の内の上から48番目。
これで驚かずに何に驚くと云うのだろう。
「ちなみに名前はキリスティーっていうのよ♪」
「へぇ――ってあれ?なんか聞き覚えがある気がするんだけど……」
キリスティー……キリスティー……うーん、出てきそうで出てこない……何だろう、この既視感は……
「キリストじゃね?三文字も一致してるし。」
「ああそれだ!」
そうキリストだ。どうも似たような語感の言葉がある様な気がしたんだよな。うん、スッキリした。
「じゃあ、もしかしてキリストって神勇者だったとか?」
「正解♪」
「「まじでっ!?」」
俺と弘昭の驚愕の声が見事にハモッてしまった。
「え?そういう宗教的なの絡んじゃって大丈夫なの!?」
「私には関係無いしー♪」
「開き直りっ!」
もしかして俺は今、歴史の根幹を揺るがすような話を聞いているのではないだろうか……
「勇者魔王ゲームやってるのってシェアリー達だけじゃなかったのか。」
「……まあ、そうであるな。」
もしかしたら、俺達以外の勇者や魔王に出会う事もあるかも知れないって事か……まさかな。
「神の子キリストなんて謳い文句も満更的外れってわけじゃなかったんだ。」
「産まれて来る前から神勇者として見初めておいて、名前まで自分好みになるよう仕向けるなんて趣味悪すぎよね♪」
「あれぇ!?そう云う話だったの!?」
「ふむ……むしろ違ったのか?」
面白いくらい驚くポイントがシェアリー達と噛み合ってなかった。
「そう言えばさ、シェアリーやジェダーの神格ってやつはどれくらいなの?」
その弘昭の質問の瞬間、シェアリーの表情が悪戯っぽい物に変わる。ジェダーの放つ雰囲気もどこか楽しげな物に変わっていた。
「フフ……内緒♪」
「うむ。知る必要性の無い事である。」
そんな事を言われたら余計に気になるところだが、どんなに質問してもきっとシェアリーは答えてくれないんだろう。
それじゃあ聞き続けても無駄なんだろうな。
「分かっているじゃない、ノブヒロ♪」
「心読むのはやめてくれる!?」
「前向きに検討するわ♪」
「その言葉は『絶対に対応しません』って意味だぞ!?」
どうやらこの先もシェアリーは俺の心中の吐露の盗み聞きを続けるようだ。
「って、いやちょっと待てよ?」
シェアリー達の話も一段落というこの段階になって、弘昭がやけに切羽詰まった表情で呟いた。
「ん?どうした弘昭。珍しく焦った顔をしているな。」
それはいつも飄々としている弘昭には珍しい表情だった。
何かに失敗したような絶望と、成さねばならない何かがあるような渇望を綯い交ぜにしたようなその表情に、しかし俺には思い当たる節が………………………………
………………………………
………………
……ある。
「話に夢中ですっかり勉強の事忘れてたぜ。」
「やけに楽しんで会話してやがると思ったら忘れてただけかよっ!!」
何て奴だろう……
「どうしよう……試験って……」
「明日だっつーの!!」
だからこうして弘昭は焦ってわざわざ俺の家で勉強しようなどと言い出したのでは無かったのだろうか……
「結局殆ど勉強してねー!!畜生……これも全部修弘のせいだ!」
「そして言うに事欠いて全部俺の責任かよっ!!」
口論は白熱し、さらに時間は削れていく。
「え?ノブヒロ達って勉強する気があったの?♪」
「あったよ!むしろ今までやらなかった分、少なくとも俺は気力十分だったよ!」
「おい修弘!俺にはやる気が無かったみたいな発言は控えて貰おうか!」
「ああ、すまん――じゃなくて!お前、やる気あったのかよ!」
「無かったわ!!」
「じゃあ口を挟んでくるんじゃねーーーーっっ!!」
口論は白熱し、さらに(ry
「知識の吸収など、必要な時に必要な分だけ行えば良い。役に立たぬ知識など、そこいらの蟲にでも食わせてしまえば良い。」
「いや、ジェダー……そうは言ってられないのが学生なんだよ。」
「ジェダー良い事言った!そうだぞ!高校で習う事がなんの役に立つんだ!9割9分は知識のゴミ箱行きじゃないか!!」
「言ってはならぬ事をっ!?」
口論は白熱(ry
「こんな事言い合ってる場合じゃねー!よりにもよって明日の科目は社会……それも範囲は地理だよ!完全暗記物じゃねぇかっ!」
「公式の暗記と数式の理解が必要な数学よりはマシだな。」
「ねぇねぇ♪」
「なんだよシェアリー?」
「この日程表を見るとね、明日は数学と社会みたいよ♪」
「「ギャーーーーーーーーーーーッ!!!」」
結局、この後何の勉強もされる事は無かったという――
☆
試験当日。
「(まったくわからねぇ……)」
「アハハハハ。ノブヒロったら、おっかしー♪」
シェアリーがやたら上機嫌なのは腹が立つが、そんなもの気にならないくらい俺は焦っていた。
全く分からない。それはもう、教科書の片隅に見た記憶がある――とか、そんなレベルですらなく分からない。
例えるなら、白紙の紙を渡されて「それを好きなようにしろ」と言われるくらい何をして良いか分からない。
「(あのさシェアリー、物は相談なんだが……)」
「ん?なぁに?♪」
俺は心中で「今回だけ、今回だけ」と念じながら、とあるチートを用いようとしていた。
それは別に今さら説明するまでも無い。以前授業中にも使った手だ。
「(教えてくれ。)」
「良いわよ♪」
シェアリーの放つ完全完璧な答えを名前欄以外白紙の答案用紙に刻みながら、俺は今度こそはきちんと勉強しようと心に誓うのだった。
一年後の自分が今回の自分と全く同じ事をしているなどとは夢にも思わずに……
というわけで、サクッと世界観を明かして、次からまた物語を進めていこうと思います。
「次回っていつだよ?」とか、そんなこと言わずに待っていてくださると嬉しいです。
ゲームの実況プレイとか新しい趣味に目覚めつつ、今後とも更新頑張っていきたいと思っています。
今後もよろしくお願いします。