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小さな触覚の生えた兄の言うオチ

あるとき勇者がいった。

「僕は舞おうを退治しにいきます!」

王様はいった。

「よし、行け!」

魔王退治に勇者はでかけました。そして

「おりゃー!!とりゃー!!」

次々とモンスターを倒していく勇者。

「グハハハハ、俺様はドラゴンじゃ。人間め殺してやるぞ」

「なんだと!やれるもんならやってみやがれ!ぼくは勝つ!」

「必殺ースーパーダッシュ剣ー!!!!!!!」

「ぐおおおおおおおおおおっ!やるじゃないかーっ、ではつぎはこっちからいくぞー」

「かかってこいー」

「超炎だーっ。ぼぉおおおおおおおおおお」

「ぐあーっあついーっ!!ちくしょう、このままじゃまけちゃうよー」

勇者が諦めかけたその時!!

「ドラゴンくらえ!魔法ホノオだー!!」

「ぐおおおおっ!なにものだーっ!」

「おれは賢者だ!勇者をたすけにきたぜ!!」


 …… …… …… …… ……


 ノートに書きなぐられた作品を読み終えた俺は彼に正直な疑問を投げかけた。

「なんて言ったら良いのか、君本気なんだよね?」

 目の前に緊張した面持ちで俺を見る二十六歳の男。不精ヒゲを生やし、髪は長くチリヂリで、最近風呂にすら入っていないのが丸分かりな程のきつい体臭が漂ってくる。そんな彼は小説家になる事を夢みて俺の所属する出版社に自分の作品を持ち込んできた。一編集者として持ち込みは大歓迎だ、大歓迎なのだが……。男は無精ひげの生えた顎を触りながら答えた。

「はい、真剣なんです。それで僕の自信作はどうでしたでしょうか」

 自信作……これでか。俺は呆れを通り越して笑いが込み上げて来るのを押さえるので精一杯だった。作品はどんなに酷くとも笑う事は失礼にあたる。取り敢えずアドバイスをして帰って頂こう。

「まず文章的な事なんだけどね、三点リーダの使い方が間違っている。それに感嘆符が多すぎる。これでは稚拙に見えてしまうし、感嘆符の効果が薄れてしまう。使うなら少量でここぞという時に使わないと」

「三点リーダ? 感嘆符? あの、それは一体なんの事でしょう」

 こいつ……そんな基本的な事も知らないで持ち込みなんかしてきたのかよ。俺は心底呆れてしまった。面倒臭いが親切な俺は、ノートに記号などを書き込みながら丁寧に説明していった。

「いいかい? 三点リーダっていうのは【……】これだ。そして感嘆符は【!】コレの事。あと、感嘆符や疑問符等の後には、読みやすい様に一文字分の空白を開けると良い。台詞の最後の部分や文の終わり以外でね。それと誤字が多いね。誤字は読み直せば発見出来るのだからよく読み直そう」

 俺はわかりやすい言葉を選びながら彼にアドバイスを続けた。灰皿に置かれたタバコがジリジリと灰化している。

「圧倒的に描写が少なく、状況が把握しづらい。これだと自己満足作品と言われても仕方ないよ。あー描写ってわかるかい?」

 男は俯き加減に首を横に振った。こんなんでよく小説家を目指そうという気になったものだ。俺は一度タバコの灰を落とし、肺一杯に煙を溜め込んだ後、説明の続きを話し始めた。

「ふぅ……いいかい。描写っていうのは、簡単に言えば状況説明の事だ。何処で誰がどんな様子で何をしようとしているのか。場面場面で何があるのか、それと空気感や温度感、音なんかもわかるような書き方をすると尚良しだ」

「はぁ、そうですか」

 男はやる気のなさそうな、適当な相槌を打ってきた。

 こいつ……俺が丁寧に説明してやってるというのに、なんだこのやる気のない態度は。少し頭に血が上る。顔は熱く火照り始め、夏の蒸し暑さが更に俺をイラつかせた。蝉の鳴き声が俺の耳を劈く。ジリジリと音を立て順調に寿命を終えようとしているタバコの灰をもう一度落とすと再び肺に煙を溜め、タバコを灰皿に押し付け消した。

「描写がないから全ての場面が唐突であり、映像が見えて来ないんだよ。それにキャラクターも個性がないよね。勇者と賢者? どっちがどっちの台詞か全然わからないよ。台詞もリアリティーのカケラもないんだよね。はっきり言ってセンスないよ」

 イライラしていた俺は少々厳しめに現実を叩き付けた。男は唇をかみ締めている。悔しいのだろう。だが俺はそんな男に同情する事なく更に言葉を続ける。

「ストーリーも面白味ないよね。オリジナリティーがないっていうか。読者がこれを読んでどう思うか想像した事あるかい? こんな作品に読者が時間を費やすと思うと可哀想だよ。 これって、純粋なファンタジーとして書いたんでしょ? でもギャグ小説にしか見えないよ」

 まぁ、ギャグ小説だったとしてもこんな作品認められる筈もないけどな。俺は他に突っ込みどころ満載の小説に対して小説とはなんたるかを説いてやりたかったが、こんな作品にばかり構っている程暇な訳もなく、一通りの批評を終えるとノートを男に突き返した。

ゆっくりと椅子から立ち上がり去り際に男に言ってやった。

「もっと勉強してから来て下さいよ」

 やれやれ……ろくでもない時間を過ごしてしまったな。この俺を鳥肌立たせる程の天才って中々現れないよな。最近素晴らしい作品に出会ってな――!?


「あ?」


 何か鈍い嫌な音が聴こえた。それに伴い背中に激しい痛みが、背中が燃える様に熱い。一体何が起きたんだ? 俺は自分の身に起きた出来事を確認する為に、自分の背中を確認しようと背後を振り向いた。そこには――。


「お、お前が悪いんだ。ぼ、僕の作品を馬鹿にするからっ!」

 ついさっきまで目の前にいた男が、紅い液体に染まった手で握られた鋭利なナイフで俺の背中を刺していた。


 ――痛てーな、ちくしょう……。


 視界に映る景色がぐにゃりと曲がり、俺の体は膝からゆっくりと落ちる。

そして――視界が全くの闇に包まれた。


「う、うわぁぁあああああああっ!」

「きゃぁっ!!」

「お、おい。救急車だ!!」

「やばいぞ、かなりの出血だ!!」

「さっき逃げた奴を追え!」

「そうだ、警察も呼ぶんだ!!」

「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!!」

「大変だ!! 人が刺されたぞ!!」

「おい、救急車は呼んだのか!!」

「応急処置だ!」

「だれかータオル持って来い!!」

「おい、俺の声聞こえるか!? しっかりしろ!!」

「救急車はまだかっ!!」


 あぁ……だから言ってるだろ……。描写……入れろって……。

誰の台詞か……わからねーよ……。感嘆符も……多いんだよ――。


 薄れていく意識の中、俺はそんな事を考えていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 独特の登場人物・展開である。 [気になる点] よく意味がわからない。なにを伝えたい作品なのだろうか。 [一言] どういう作品なんだか、読み取れませんでした。
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