第四話 夢の国
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
うちはこの世界を舐めていたのかもしれない。
いや、さっき聞いたアビリティの内容がクソ過ぎただけかもしれないが、ここはアビリティが使える世界。
おそらく施錠ドアを開けるアビリティってわけではないと思うけど、アビリティ次第では色々なことに活用することが可能なのか。……いやセキリティ手薄すぎない?
「うちの名前は……」
「いや、わかる。さっき聞いたしな。亜月眞月権左衛門だろ」
「違うわ。うちの名前はつく……」
そういえば、ネルが竹内涼真の名前を出したら、なんかヤバそうなのが現れた様な…この夢で現世を連想させる様なものは禁句なのか。
だとするならば、今ここで明らかに純日本人の名前は禁句だな。つっても他の名前があるわけでもないけど……
刹那、うちは昔のことを思い出す。
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「白憧」
「つくも?」
「白色の白でつくも」
「じゃシロね」
「は!んだよそれ」
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これでいいか。
「シロ」
うちはニアスの手をとり、全体重を手にかけながら立ち上がる。
「じゃあもしかしてあんたもちがう?」
「いや、ネルであってる。」
少し、ニアスの口角が上がったような気がした。
「じゃぁ、さよなら。」
「え? 一緒に行かないの?」
「いかねぇわ! ……一緒にいても邪魔だろ。つるむ義理もねぇし……そもそもあんたら、二人で……その、デートしてたんじゃねぇの!?」
「え?うちはもうてっきり友達だと思ってたよ?自己紹介されたから一緒に行くと思ってたのに…あと、別にこいつは恋愛対象にはいんねぇし。」
「はぁぁぁぁ!? それはこっちのセリフなんだが!? なんで私が振られたみたいな感じなの!」
「それじゃ。もう捕まんなよー。」
「えぇ……」
そうしてうちとネルは、ニアスの背中を横目に牢屋からでた。だが、ネルの表情はなんとなく曇って見えた。
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少し歩くと、水が流れている場所に来た。多分下水道だ。
すると、急にネル止まってそのまま静止した。
「止まって……!」
「なに……?」
耳をすませばうちの呼応が小さく響き渡る。
それと同時に足音が聞こえる。
看守か?
やっぱ看守見つかると元も子もないし。こっからは沈着に。
「私の後に続いて」
そう言うとネルは看守の視線をくぐり抜け、看守の背後に回る。
看守が完全に油断した、その瞬間。ネルの腕が、音もなく首に回った。
看守の顔がピンク色になり、蟹みたいに泡を吹き出だすと、ネルは手を止め先へ進む。うちはその後ろでスタンバイ。
これをずっと続けていた。事は順調に進んでいたのだが……
「おい、お前ら囚人か」
また看守がいたらしい。そこで、ふと、ネルの顔を横目で見る。ネルはここにくる道中も毎回看守の視線を観察しながら進んできた。
慣れているようだ。それは、何だか格好が良かった。だからネルを見た。だが、ネルは止まっていた。まるでサバンナの中央で虎と出会した兎のように。
息をするのも忘れていた。音を立てたら終わる。それだけが、頭の中を占領していた。ネルの視線は一点に集中されていた。うちはその先を見つめた。看守がいた。それも視線はこちらを向いていた。動いたらと考えると脳裏に映るのは『死』だった。
怖かったのは顔だけではなく、看守の佇まい、屈強な体格、鳥肌が立つ。
ネルは振り返り、うちの手を掴み全力疾走。看守はうちの後を追う。うちの足はガクブルで途中転んだりもしたが、幸いなことに、看守は歩いてこちらに接近する。
余裕そうだった。
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外へ出た。だが、そこは見晴らしの良い崖。おまけに近くには滝があり、水飛沫がうちたちの顔に濡れることで、視界がぼやける。
「うげぇ。しんどッ!」
男の人の声だ。
だが、さっきの看守とは声色が違う。
ようやく見えたと思ったら、ニアスだった。
「お、さっきぶりぃ。」
看守が近いところまで来た。
「止まれと言っているだろ。耳糞詰まってんのか汚ねぇな。」
そう言いながら看守は鼻を小指でほじる。自然と腕に視線が行った。
だが、看守の小指は鼻の穴に入らなかった。奴の小指は小指ではなく大指だった。この夢の中では寿屋の女性といいこの看守といい体格のバランスがバグってやがる。
「なぁ!うちは犯罪を犯したわけじゃなくて、冤罪だ。というか、覗き程度で死刑はおかしいって。あいつら、のぞきって聞いただけで問答無用で死刑宣告してきたぞ!」
大きな声を出したわけではないが、うちの声が遠くの壁により木霊する。
「そうだゾ!」「もっと言ってやれ!」
取り巻きみたいでうざかったけど、代表してるみたいで気持ちよかった。
「こちらこそいいか、ここはジェントルマンの国。お前らみたいな者はこの国の秩序に欠ける」
ジェントルマンの国? キャラ濃いなぁ。なんか言い方ムカつくし。
そう考えている間に奴はゆっくりと近づいてきた。
だが、逃げられない。逃げたところで、後ろは崖。水に飛び込んだとして、無事だろうか。手のひらに紋章がある勇者とかなら、大丈夫なんだろうが。落ちたら普通に即死するな。
この夢の中に来た時の落下では死ななかったが、そこよりも高度がダントツで低いここでは死ぬと感じていた。
だからとはいえ、ここで潔く捕まるわけにはいかない。プライドもあるが、何よりうちは新庄を連れ戻しにきた。捕まったら会えはするかもだけど、なんかあった瞬間、速攻で死刑宣告されてたし、即行で打首だろうな。
やはりやるしかない。そういうと、うちは崖の方を見た。
「ニアス。お前のアビリティ、水を固めるんだよな。多分」
トイレの水を掬い、トイレにかけたことで、鍵穴で型取りをしたのだと思う。トイレの水限定のアビリティな訳ないし……多分あの滝も固められるはず……!
「え……ま、まぁ」
「だったらあれ、なんとかしてくれ」
うちは滝の方を指差した。
「とにかく!やってみてくれ。行くぞネル、ニアス!」
そういうと、うちは二人の手を掴み崖から飛び降りる。
「はぁ?! 絶対無理だって。あれ大きすぎ!」
そういいながらもニアスは滝に触れる。すると水は柔らかく弾力のある物へと変化した。うちらはそれに乗り、水の塊を滑走していく。
固めるって聞いて、プラスチックの滑り台みたいなのを想像してた。でも、違った。思ってたよりずっと柔らかくて、痛くない。……なんだこれ。
想像以上に、やさしい。頑張ってなるべく柔らかくしてくれたのか。
そのおかげで、看守はうちらを追えず、逃げ切ることができた。そこから先は覚えていない。ニアスが無事に運んでくれたのか、ネルがなんか頑張ってくれたのかわからないが、城から脱出できたのは確かだ。
――――――――――――――――――――――――
目が覚めたら教会にいた。なんでここが教会とわかったかは、別に教会の目の前にいたとか、ここの造りがそうだったとかじゃない。
うちが横たわっているベットの横に修道服?……みたいなのを着た人がいたからだ。
「助けてくれたんですか。」
「えぇ、まぁ。大丈夫なんですか? もう?」
「はい。僕は大丈夫だったのですが、ここの近くに青髪の青年と……」
刹那。うちは窓の方を見ていた。遠方には……
「国道で屁をこくどぉ!!」
「コンドルがケツに食い込んどる!!」
変なポーズをしながら駄洒落をいう、小っ恥ずかしい二人が見えた。しかもニアスに限っては牢にいたときに縛られてた縄がまだ手首にあるままだった。
「あ、あのぅ、あれは?」
うちは指をあいつらに刺しながら赤面していた。そりゃ友達のあんなもん見せられたら何とも言えない感情にはなる。
「我らが『地口教』の教えで――」
嫌な予感しかしない。
「駄洒落を神様の言葉遊びと考えているんです」
残念ながら的中してしまった。
じゃあ、あれはここの教育方針なんだ。そっか……何であいつらがやってんだ?この宗教に入ったわけじゃないよな。
ってかこの世界にも宗教なるものがあったのか。そう言えばドラクエにも教会ってあったな。あれも何かの宗教だったりするのかな。いや、待て論点からズレてる!
「な、何でやらされてるんですか…」
「まぁ!『やらされてる』なんて人聞きの悪い!あなたもやってみますか?では《イイ駄洒落をイイたくなーれ!》」
シスターの言葉を聞いた瞬間、体が外に出たがった。抵抗も虚しくうちは謎の力によって外に出され、ネルとニアスの横に行くと……
「チーターが落っこちーたー!!」
くそッ!体が勝手に動く。自我はあるのか。ってことはこれ二人にも聞かれてんのか。
ううぅ。恥ずかしい。なんかシスターが教会内で笑いながらなんか言ってるし。ここの宗教絶対おかしい…。
そっからはずっと駄洒落を言い合う大会みたいだった。誰が一番おかしい駄洒落を言えるのか勝負しているみたいに。
しかもそのやりとりが夜まで続いた。うちも途中までは何だか楽しくなっていき、幾つか案を出して実際に口にしてみた。
そこで分かったのは駄洒落を言うときだけはうちの意識が体の主体となるそうだ。おかげで小っ恥ずかしい駄洒落を言うことができたが、二人はうちの意思で言ったと気づいていない。助かります。
飽きた時には一つも面白い駄洒落などなかった。もう懲り懲りだな…ってかいつまでこれ続くんだ?まだシスターは教会で笑ってるし。ツボ浅。
すると微かに人影が見える。この世界には電気がないが空は赤く光っているため、雲はいつも茜雲で夜でも視認することができた。
うちはその人影を呼び止めようとしたが、まだ駄洒落を言っているため体が言うことを聞かない。だが呼び止める必要はなかった。なぜなら人影はこちらに向かっていた。
人影の正体ははっきりとではないが見えてきた。女の子だった。しかもこの子もうちと同じくらいの歳だ。
「こんにちはぁ。この教会に用?こんな夜分に御苦労様ぁ。中に入って。こーんなに寒い日なんだからお茶でも出すよぉ」
「ガスを外になガスな!!」
刹那的時間が流れた後、彼女は何かに気づいた。
「…あ! ごめッ! うちのヌベツミが! ちょ、ちょっと待ってて!」
そういうと彼女は教会内に入って行き、持っていた本でシスターの頭部を叩いた。
たちまちうちらの駄洒落大会は終戦を迎えた。だが、心の中にどこか大会を楽しんでいた自分がいた。
――――――――――――――――――――――――
「グリン グリン グリンピース
みんな大好きグリーンピスピス
まあるく みどりく すてきなおあじ
食べればたちまち 笑顔になるのさ〜♩」
拷問を受けていたのを救ってくれたとこ悪いが、この人結構変人だと思ってしまう。お茶入れながらグリンピースのクソ曲歌歌ってやがる。
あんまり音程が気に入らないし…多分自作だ。
ってか、この世界にもグリンピースは存在するんだ…あの牧場の牛たちのことをレインボーって言ってたから、名詞も変わってるって思ったけど……もしかして品種で呼んでたのか?
だとしたら、牛って言ったときにあのお婆さんはなんで顔色を曇らせたんだ?すると隣の部屋から出てきた少女はうちたちにお茶を差し出した。
カップにまでぬくもりを感じたこのお茶をうちたちは警戒もせずに飲み干した。
「もう一杯!」「もう一杯!」「もう一杯」
お酒かと思うぐらいのお茶への食いつきに彼女は戸惑った。あの寒さの中、あまり動きもせずにずっと外で駄洒落を言い合っていたんだ。
流石に堪える。ここでの救いはこの子と温かいお茶だけだ…作詞するんなら、お茶の歌じゃ?そう思いながらうちたちはコップを突き出す。
「外寒かったもんねー。こーんな中、外にほっといちゃってごめんねぇ?うちのヌベツミがぁ」
「いやもう、まったくです。」
うちはエスパーの力を手に入れたのかもしれない。今彼女は、どっちの意味で言っているんだろうと絶対思ってる。
うち的には全くそんなこと思ってないですよって言おうと思ったんだけど、言葉足らずだった。けど、今更訂正するつもりもない。
初対面の人相手にこんな仕打ちは礼儀知らずにも程がある。怒ってはないけどね。楽しかったし。
「それより、ニアスの腕に縛られている縄を取とるために鋭利なもの貸して欲しいんですけど……」
言った後に気がついた。
これ言っちゃダメなやつだ。
〜 四話 完 〜
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