第二十八話 迷い入道雲
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
「あれ……?」
森を突き進む中でシロが見当たらないことに気がつく。周囲を見渡しても霧でシロがいるのかどうかさえわからない。
後ろからはどんどん人の波が押し寄せる。早く行かないと、という念に駆られたネルが俺を呼ぶ。
シロのことは多少は信用しているし、大丈夫だという結論に至り、俺も先を急いだ。
――――――――――――――――――――――――
「――ここどこだよぉぉ!!!」
うちは地面に手を着いて絶望した。ここがどこだかわからない上に、仲間を探そうにも霧で周りがよく見えない。泣きっ面に蜂だった。
さっき、ミミックらしき宝箱の中にもう一度入ろうとしたが既にロック済み。何度も殴って無理やり入ろうとしても手の甲が痛くなるだけ。
そもそも、考えてみれば敵陣地にある物を迂闊に触るんじゃなかった。
ってか、ミミック? 確かに夢世界ってファンタジーっぽいとは思ったものの、別にそこまでとは思ってなかった。スライムとかゴブリンとか、未だに見てないし。
そう思いながら左の壁に沿って歩く。周りが見えなくてなんだか避難訓練みたいだな、と学校を思い出し感傷に浸っている。道中、鼠の鳴き声やなんかゴニョゴニョみたいな音にビビる。見られていなくてよかった。
気づけば円形の広い空間に出ていた。 こういう所で何か出るんだよなぁ(フラグ)。うち、怖いの無理なんだけど。なんも来ないでくれぇ。
「ヒュードロドロ」
「――ひいっ!」
後ろからは典型的な脅し言葉が聞こえてきた。さっき、アバウトな思考を持ったことで怖いというボルテージが上がったせいか、こんなんでも怖がってしまった。
赤面しながら後ろを振り返ると、ファンタジーとは類似している一つ目の……妖怪? 巨体に似合う筋肉と髪の毛を持つそれは、生前どこかで見た、だいだらぼっちみたいだな。あ、死んではないか。
「何だ、ワゾウスキかよ。びっくりさせんなよな」
「誰じゃ、ワゾウスキって!」
「何だよ。じゃ、お前は何なんだ?」
「何なんだって……わしぁはこの森の主であり守護神、大雲入道じゃ!」
名前からして見越し入道の方が似ているな。だいだらぼっちほどデカくもない。だが、何故か一つ目だ。まぁ、そこは許容範囲内ということで。
「お前みたいな古典的な妖怪、うちしかビビらないぞ?」
「ようかい? ようかい……ではないと思うぞ?」
妖怪じゃない? じゃあ何なんだ? そう言おうとする前に大雲入道が食い気味に話し出した。
「そんなことより、お前さんじゃろ! わしを伽藍堂にする痴れ者は!」
「は? 何言ってんだよ」
言っている意味がよくわからない。今うちはこいつに敵意を向けられているのだろうが――何もしていないはずだ。
「戯け! わしを愚弄するか! その強大な霊気を放つしてわしを騙せると思うな!」
霊気? 全くもって意識していなかったが、うちには何か凄まじい能力が秘められているのか……!
「ふっ。流石やのぉ、大雲入道とやら。頭は腐っても目は腐らないということか」
大雲入道の古典的な口調に乗ってあげ、鼻を高くして事を語る。だが、大雲入道は話を聞くに顔が強張り、周りの空気が上に上昇する。
「やはり! わしの見立て通り! この場で死に値する」
すると、大雲入道はそのでかい手をうちに向かって振り落としてきた。
「――あっぶね! 何すんだよ!」
“あっぶね”とは言ったものの、果たしてこいつに実態はあるのだろうかと疑問に持つ。何せ、名前からして雲。攻撃するにしろ受けるにしろ、お互いに戦うことができるのだろうか。
いやそもそも、何故こいつはうちに攻撃をするのだろう。
「あ」
そう言えば、大雲入道の問いに同意したことから怒り出していたな。その事に気がついたうちは『待てと』と宥める。だが、言うことを聞く筈もなく。大雲入道はうちに手を叩きつけた。
アビリティにより痛くはない。だが、攻撃は通っていると思う。だが、その代わりに――
(――息が出来ない!!)
何とか足掻こうとする。だが、なす術がない。手を首に当ててみる。深呼吸をしてみる。そうする毎に息苦しくなる。
ならば、と思い、大雲入道の手から逃れる。奴の動きは鈍く簡単に逃れることができた。そして直ぐに呼吸をする。息は荒れて目眩はするが、何とか正気を保つ。
向こうは攻撃手段がある。だが、こちらは無い。どうする。
「なかなかやるよのぉ。ならこれはどうじゃ」
この状況を脱する術を考えていると、大雲入道の両手の色の濃さが薄くなっていく。より正確に言うならば、霧が水に凝固していくようだ。
大雲入道は水の手を大きく振り翳し、うちはその手の中に入れられる。
さっきの霧の手のように息はできない。だが、それ以上にダメージを受けた事を感じる。水だからか? だとしても、こちらが攻撃を与えられないのは依然として変わりない。ん〜。逃げよう!
うちは大雲入道の奥の道に向かって走り出す。顔色を窺いながら唸りを上げる。これは流石にまずい。呼吸もできない、攻撃も与えられない。うちに何ができるってんだよ!
すると、目が霞む。気がつけば呼吸もしてなかった。酸欠か……? 目も痛い。くそ。気絶しそうだ。……いや、もういいか。……ねちゃお。
うちは地面に倒れ込み、そのまま気絶――いや、これで気絶したら、うちは大雲入道に殺されるだろう。正確に言えば、大雲入道の意図せず霧で死ぬ。
だが、新庄はどうだ? 交通事故で意識が戻らないまま新庄の両親を泣かせるのか? うちは助けてもらって助けないのか? 恩を仇で返すにも程がある。
いや、恩を仇で返すのは強ち間違っていないかもしれない。うちは新庄の顔面に一発喰らわせてやらないといけない。
そうして、あいつを取り戻させてやるんだ。目ぇ醒めろ、って。帰るぞ、って。言ってやらにゃいけないだろ。
確かに今は喧嘩別れの踏ん切りがまだついていないけど、絶対に取り返して見せる。
それに、クハパリはどうなる。依頼を受けた身ではあるが、仲間だ。そこまで思い入れはない。だが、仲間だ。それにクハパリの境遇にうちは同情してしまったし、これから思い出を作りたいと思ったじゃないか。
なら、答えは明白だ。自分で誓った約束を守れないほど、うちは怠惰だ。でも、それでも、自分を助けてくれる仲間は見捨てたくない!
――手を地面につけ、朧気な意識の中立ち上がる。腕は痙攣を起こし、目は半開き。もう片方の腕には力が入らない。それでも、体を起こす。
もう嫌だ。何で中学生のうちがこんなことをしなければならないのかと思う。卑屈でひ弱なうちが何で、と。
そして、確かに願った。こんな日常的でつまらない日々に飽き飽きしていた。自問自答する。すると、答えが返ってくる。恩返し、それが理由だった。
助けてもらった身でありながら、自分は助けない。そこまで落ちぶれてはいるかもしれないが、そこまで落ちぶれたくはない。
その姿を見て絶句する大雲入道が微かに見える。
「やはり、お前さんは……! いや、面を拝ませてもらった時から明白じゃった。その霊気、あの方の霊気であるからに、わしに敵意を向ける筈もない――わしの負けじゃ」
勝った……のか? いや、見逃してもらったの方が正しい気もするが、まぁいいか。
――そのままうちは気絶した。
――――――――――――――――――――――――
――目の前には地口教の信徒が木材やらパイプやらを運んでいる。何に使うんだ? これ。
「ありゃ、何を運んでんだ?」
小声でギスターナに聞いた。ギスターナすら知らなそうだが、シロに魂を教えた人がギスターナだし。
「木材とパイプだ」
「見りゃわかんだろ。何に使うかって意味だよ」
「あぁ、そう言うね。あれだよ、ゴールデンアカマムシだよ」
「何だゴールデンアカマムシって。いや、今はゴールデンアカマムシを深掘りするつもりとか微塵もないから」
地口教の動きを見ていると、何やら一人おじさんをお姫様抱っこで運んでいる信徒を見つけた。
「何あれ、おっさんがおっさん運んでるけど。あれこそ何してんだよ」
「あれがゴールデンアカマムシだ。魂装するのに祈りが必要なんだよ。それを知っているのがゴールデンアカマムシなんだよ」
「マジで……!? マジでいたのかよ……! 適当こいてたのかと思ったわ」
「いや適当」
俺はギスターナを蹴り付けた。痛いと叫ぶが俺は止めないぞ。
――ふと、あることに気がつく。クハパリが連れ去られた時にヌベツミたちが乗っていた飛空挺が見当たらない。
もしかすると、その飛空挺もアビリティによるものなのだろうか。飛空挺を出すアビリティがあったとしても“アビリティ=夢”説はどう説明できる?
いや、今は関係ないか。
うちの目線はゴールデンアカマムシに釘付けだ。絵面が滅多に見ない光景だからな。すると、ゴールデンアカマムシを連れた信徒が木の箱? の中に入って行った。
その木の箱は宝箱のようにも見え、しかも舌がついている気もする。
ギスターナに聞こうと思ったが、また出鱈目をいうかもと思いマダグに聞いてみた。
「――ミミックだ。ミミックの中に入ると繋がっているもう一体のミミックの口の中から出てくる――ワープ装置みたいなもんだ」
実物を見たのは初めてだった。昔話や童話なんかに偶に出てきていたが、思っていたよりキモかった。
ミミックはモンスターだが、最近はモンスター自体、見なくなった。もっと言えば、海の主に会って以来、滅多に見なくなった。
それにしても、あのミミックはどこに繋がっているんだ? 無論、お嬢様のところだろうけど、肝心のお嬢様はどこにいるのだろうか。
もう既に魂装をするための台の上に乗せられているのだろうか。はたまた、監禁されているのだろうか。
――いや、お嬢様よりもクハパリだ。ヌベツミがクハパリに用があるのは目的は聖書を見る事のはずだ。取られればクハパリ自体は用はなくなる。
――! もしかすると、もう殺されているのか!?
「おい……! 居ても立っても居られないって……!」
マダグの肩に手を当てて静かに暴れた。揺られる頭を押さえながら慰撫する。
「落ち着けよ……! クハパリのことだろ? 人質にするはずだ。なら、生かされている」
「人質……!? 余計落ちつかねぇよぉぉぉ……!」
もういい。もう俺一人でも行ってやる。
そう息巻いて信徒たちに近寄ろうと前を見ると――既に信徒を殴っている執事さんが見えた。
「はぁぁぁ!?」
今までの俺の葛藤は何だったんだと思うほど好き勝手に暴れており、信徒たちは執事さんの存在を確認してしまっていた。
「あの野郎――! えぇいお前ら! 行くぞ!! 突撃ぃ!!」
後ろで待機していた仲間達は咆哮しながら地口教へ突撃。不意に襲撃を受けた信徒は臨戦態勢に入るが、ぎこちなく応戦する。
「どうせあのミミックしか宛がないんだ! ニアスも! 行くぞ!!」
唖然としていた俺に声をかけたギスターナを筆頭に仲間たちは信徒へ走る。中にはネルがおり、ネルが大声を出すとともに信徒たちの耳から血が流れる。
その内にギスターナ達が信徒を攻撃する。お陰で信徒の大半に致命傷を与えることができた。
俺は我を取り戻しギスターナ達の後を追う。
――――――――――――――――――――――――
――何だ? 何だこの感触。……覚えがある。一ヶ月ぐらい前だ。
気持ちがいい。一ヶ月前以外にも、こんな夢を見たことがある。何だったかな。……あき?
誰だっけ……? そいつ……。
いや、そんなのどうでもいいか。それにしても本当に気持ちがいいなあ。
あ、思い出した。クハパリだ。ん? クハパリ? 誰だっけ? そうだ。クハパリだ。忘れちゃ駄目だろ。
でも、何でクハパリなんだっけ? 感触……。頭の方に感じるなぁ。あ、膝枕だ。
え? 膝枕? マジかよ。今これ膝枕されてんの? もしかしたらクハパリが……!?
うちは目を開けた。目を開ければそこにはうちに逢えて嬉しがっているクハパリが――
「おっはー」
目の前には意外と不細工なクハパリがいた。
「あれ? クハパリ? なんか整形した? あのままでも可愛かったのに。何ならあのままの方が可愛かったのに」
霞んでいた目がだんだん戻ってきた。すると、目の前のクハパリを確認することができた。
「大雲入道じゃねぇかぁ!!」
〜 第二十八話 完 〜
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