第二十七話 前回の反省を活かして作戦会議
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
今日の格言
【ンナポォ】
――目の前は見慣れない景色だった。室内。しかも、子供部屋のような壁紙、椅子、棚で装飾されている。玩具箱が置いてあり、この部屋に置かれた私は、そういう年頃だと思われているのだろうかと考えてしまう。
私が乗っているのはふかふかのベッド。素肌でシルクを感じていた。隣にはもう一人。確か――パリカノティタの大会の三階で観望していた人だ。名前まではわからない。
まだ、寝ぼけ眼だった。何が起こっていて、何でここにいるのかがわからない。
「あ、あの……すみません。起きてください」
横にいる貴族の人の肩を掴んで揺らしながら起こす。いち早くこの状況を確認しなければならないというのに、この何とも小さくも美しい肩に魅力されていた。
彼女はハスキーな声を上げながら起きてくれた。私は起きてくれたという安心とここがどこだかわからないという不安が混在してしまっている。
「あと……あと十分。じゅっぷ〜ん……」
貴族といえども、こんなにだらしない貴族がいるのか。そう思うと同時に、危機的状況下にあるという事実が不安を加速させる。
「え、いやっ……! ここ、どこかわからないんですよぉ」
私はもっと肩を揺らした。
「お願いしますってぇ〜!!」
次第に肩を掴む強さが増す。
「いやぁ! 痛い痛い! イタタタッ! ――わかた! 起きる! 起きるよぉ!」
貴族といえども、こんな口調の貴族がいるのか。そう思うと、もう貴族とかそういう偏見は止めようと思った。
起き上がったこの人は急に辺りを確認し始めた。すると、苦い顔をして口を開く。
「え!? ここどこ!? 私達子供だと思われてるの!?」
思わず笑みが溢れた。涙が出てくる。ツボに入って前が見えない。
「ははっ! 同じ! 同じだぁ! 私も同じこと思ったぁ!」
何だか吹っ切れた。不安だとかそういうのは。自分がこうやって色々考えていることがバカらしくなった。それに困惑したこの人は慌てふためいた。
「いや、これ誘拐でしょ!? 地口教だっけ!? あ、地口教でしたわよね……?」
「いや! 誤魔化せてないからぁ!」
すると、この人も笑った。その笑いを見て私も笑った。
「私、クハパリ!」
「私はコクバ……ロッテス」
まだ少し緊張しているのか、名を名乗るのにも若干の躊躇が見えた。ま、気にすることはないよね。
すると、どこかから大きく籠った声が聞こえてきた。
《あー、あ。私はヌベツミ。クハパリは知ってますよねぇ!》
私はコクちゃんの体の前に守るように手を差し出した。コクちゃんは怯えている。こういうところは女の子だ。
《もう正直クハパリには用はなくなったんですけど、コクバロッテス様は準備が整い次第、装石具にしますんで、もうちょっと待っててくださいねぇ!》
(は? もう用はなくなった……?)
私は部屋中を隅から隅まで探した。
「ない……!」
今の今まで肌身離さず持ち歩いてきた、守り抜いてきた私の聖書が、私の手元から無くなっていた。
「最後のページ……! 見たの!?」
返事はない。一方的に伝達する装石具を用いられているようだ。
いや! そんなことよりも! もう用はなくなった!? 私が連れ去られている理由は十中八九聖書だ。手元からなくなっているし。
聖書は中身を見ると最後のページが即時発動。今は何ともないけれど……最後のページには何が記されてあったの……?
――――――――――――――――――――――――
――戦闘後、落ち着いたジュナーラを宥め、話を聞いてもらえることとなった。「漢に二言はねぇ」と、本当にこいつらギャングか? と思ってしまいそうになるほどに、物分かりが良かった。
……と、思ったら、冷蔵庫には飲みかけのお酒があった。こいつが暴れた理由ってこれか、と納得してしまった。
「いい年して、何を今更言いてぇのか知らねぇが、まぁ行ってやるよ」
「本当!? ありがてぇ。あ、ってか、いいの?」
「何がだ?」
「トンズラがどうのこうのって言ってたけど……」
そういえば、ジュナーラは護衛の仕事をトンズラしようとしていたようだった。ジュナーラはうちが倒したから言うこと聞くようになったけど、本人の意見も尊重したいしね。
「酔ってて、負け腰だったんだよ。それに、ロードブルクへは行けないんだ。ここでチケットをゲットしないと世界を旅できねぇ」
こっちは条件とかがなくて安心した。
あと、気になったからジュナーラにアビリティの術式を聞いてみた。すると案の定、物質を同じ質量のものに変える能力だった。クローゼットが刀になったのも、灰皿が硬貨になったのも、アビリティのせいだった。
――ジュナーラはハイププァルと面会を果たすことができた。他のグローブメンバーが聞く中で積もる内容だったためグローブ組員は耳を塞いでいたが、最初は気まずくてまともに会話することができなかったらしい。
それは、ジュナーラから聞いた話でありうち自身は外で待機していた。すると、話が終わったようで、ジュナーラがうちのことを呼びにきた。階段をつたって下へ降りていくと、待ってたみたぜ、みたいに胡座をかいているハイププァルがいた。
「さて、地口教の居場所を知りたかったんだよな?」
「うん。あ、ここまできてなんだけど……ハイププァルは地口教の居場所が本当にわかるの?」
「わからねぇ」
「は!?」
想定外だ! ここまでこいつを信じて従ってきて、闘いまでしたのに。とんだ無駄足だったのか!?
確かにわかるなんて一言も言っていない!? こいつめ、嘘こきやがったな?
「まぁ聞けって。俺の能力は人の位置を1cm刻みの座標で調べることができる。だから人名まではわからなくとも、何人か集合してたらなんとなくでわかる。お前が見た時、地口教って何人いた?」
こんな無防備にアビリティを教えてしまっていいのだろうかと思っていたが、嘘を教えるって質じゃないよな。まぁ、でもなんか見てみたいかもー!
「あんまり良く見えなかったけど……去っていく時に七人くらいだったかなぁ。それと、クハパリとお嬢様合わせて九人くらい?」
「わかった。任せろ」
すると、ハイププァルは目を瞑り手を前に出した。その姿はまるでインドの呪術師のようだ。様になっている。これは一体……どうなっちゃうんだぁぁ!?
「見つからないぞ?」
「ダメェェェ」
「は?」
「いや、なんでもないよ。ラマヌジャン」
「ハイププァルな。ってか、地口教だろ? 宗教なら一箇所にめっちゃ集まってんじゃねぇか?」
地口教って人気あるのか? そもそも、私宗教ハイッテルネ、みたいな人ヌベツミ以外に見たことないんだよな。まぁ、でもなんか見てみたいかもー!
「見つかんないんなら……そうなんじゃない?」
すると、再びハイププァルは目を瞑り手を前に出した。その姿はまるでサングラスをかけたマジシャンのようだ。これは一体……どうなっちゃうんだぁぁ!?
「あ、いた」
「ダメェェェ」
「……なんなん。それ」
「いや、なんでもないよ。マリック」
「……。ここから真南に50人ぐらいか……? だが、おかしい。ここは森以外何もないはずだ。仮にこれが地口教の奴等なら何が目的だ……?」
「いや、そいつらだよ。多分」
「確証はあるのか?」
「何にもないところで屯ってんだろ? 怪しい以外の何者でもないだろ」
ギスターナから魂の話は聞いた。魂がアビリティのような異能、魂噐が魂を持ってる人、または物体。魂装が魂噐を用いて装石具を造る技法だったはず。まぁ、今覚えてても仕方がない。うちらはただ救うだけだから。
幸いなことに魂装をするには装石具を魂噐に適応しなけりゃなんないらしい。その期間は三日。もう既に一日経った。残り二日。明日には出発しよう。
「わかった。ありがとう」
うちはハイププァルを横目に事務所を去った。ハイププァルは悔いのない顔をしていた。すでにジュナーラは事務所付近にも居なく、独り乏しく帰った。
――――――――――――――――――――――――
――会場に帰ってきた。すると、ジュナーラが会場のドアを力尽くで開けるところを見た。うちはジュナーラの後を追い、会場へ入った。
「ねぇ。一人で帰んないでよ。寂しかったんだけど」
ジュナーラの背後まで近づいたうちは卓の前で力強く声をかけた。びっくりしたジュナーラはこちらへ振り向き、困惑した表情でこちらを見つめる。
「え? いや、これから作戦会議だぞ? 遅れたら指揮に関わるだろ」
「え? 作戦会議?」
聞いていないぞ? そう思っていると、卓上の前にぞろぞろと人が集まる。中にはストレイダーズ(うち以外)を連れたネルがやってくる。
(あの野郎! 報告が面倒くさいからってサボりやがったな!?)
ストレイダーズのリーダーはネルだ。確かネルにリーダーを丸投げしたのはうちだけど、それはリーダーとしての責任を持ち合わせていなかったからだ。でも、ネルはリーダーを承諾した上で報連相である報を怠った! クハパリを助けたらネルの寝込みを襲ってやる。そう決意した。
「みんな揃ったよな? じゃあ今から作戦会議を始める!」
ニアスが何故か仕切り出した。そして、何故かそれに周りが乗じた。いつの間にニアスがこんなに仲良くなったのかと思い、村で腫れ物にされていたと言う事実が嘘みたいだ。
「誰に似たのかなぁ? このこのぉ!」
ニアスに近づき肘で胸を続いて煽った。すると、照れくさそうに「しらねぇよ」と言われた。もしかしたら本当にうちに似てきたのかも……。
(いやいや、自惚れてはいけない)
「あ! また! 鼻の下伸びてるぞ……?」
(――嬉しいものは嬉しいけどね!)
そんなやり取りをし、明後日の方向を見つめていると、執事さんが急かしてきた。
「それで、シロさん。場所は結局わかったんですか?」
今一番焦っているのはこの人だ。ネルはクハパリを信用しているから……って言ったら、執事さんがお嬢様を信用していないみたいに聞こえるけど、それは言葉の文で、仲間と執事は立場が違う。だから、ネルは今はそこまで焦っていない。なんなら、若干の余裕が見えている。どうやら自分なりに考えていたらしい。
「多分、わかりました。十中八九ここから真南の森に50人ぐらいらしいです」
多分、って言った瞬間、執事さんの顔が曇ったけど、深呼吸をして落ち着いた。そんな不確定な証言で信用できないと思ったらしいが流石だ。
「ここから真南の森っていうと……ランドル入道の森か?」
選手の一人がそういうと、他の選手の数名が頭を抱え始めた。そんなにやばい森なのかと聞くと、ただ道に迷いやすいというだけらしい。
「森なんて一直線に走ったらいいだけじゃないの?」
「木々がデカすぎて隙間がないんだよ。だから、真ん中に行くまで結構かかる。実質迷路だな」
入道って木がでかいからか? だが、ゲームで迷路なら何回もやったことがある。左に沿っていけばいずれは辿り着く、みたいなことを聞いたことがある。
そんなことかと甘くみていると、もっといい情報が入ってきた。
「それなら、俺は木を溶かせることができる。だから一直線で進むことができるはずだ。あと、ランドル入道の森って霧が発生してるだろ? あれもなくせるかもしれない」
だったら、もっと攻略が楽になってしまったねぇ。こりゃ勝ちは確定か。悪いなヌベツミ。今回はうちのメッちゃんが強すぎたわ。
すると、マダグが手を挙げて発言をした。
「いや、俺の周りには霧は欲しい。勿論、行く時には周囲確認で使ってもらって構わないが、俺のアビリティと相性がいい。霧は敵にも味方にも有効だ。だから、俺の闘ってる所にはやめてくれ」
メッちゃんはグッとポーズで反応した。
するってぇと何かい? こりゃ結構イージーゲームだな。勝ったわ。飯食ってくる。
――――――――――――――――――――――――
――その後、作戦会議は長引いた。ちょっと何言ってるのかわからなかったし、うちは着いて行くだけでいい、と言われたから、作戦内容は聴かなかった。勿論、作戦は大事だよ? 前の闘いで痛いほど知った。でも、今回は別だ。
只今、例のランドル入道の森? って所にやってきた。みんな、表情が強張っている。特に執事さん。今にも走り込みそうだ。
「それじゃあ、行くぞ!」
すると、みんなが呼応する。そして、メッちゃんを筆頭に前へ突き進む。メッちゃんが木々を溶かしてその後を追いかける。霧のせいで前が見えないが、グローブ、執事さん、選手の皆、そしてストレイダーズ。みんながついてきているのがよく分かる。
いや、これはネルのおかげかもしれない。いつもよりもなんだか環境音とかが聴こえやすい。感度を上げるってやつだろう。
「ん?」
横脇の道に何かが見えた。みんなが前へ進む中、うちは横脇の道を進んだ。どうせ直ぐ戻る、だなんて思って、その何かの正体を掴んだ。
宝箱だ。いかにもファンタジーって感じの木の宝箱だ。
「うっひょー! テンション上がるねぇ!」
うちは迷わずその宝箱を開いた。すると――目の前が何も見えなくなった。
「え? 何!? 前見えないんだけど!」
うちは体を揺らし、必死に抵抗する。へそのあたりに違和感を感じる。歯型のようなものだ。それよりも上半身にはヌメヌメする感覚がある。
(こりゃもしかして、本当にファンタジーかもしれない……)
武者震いが止まらなくなり、余計に焦った。抵抗するほど、奥へとどんどん引き込まれていく。すると、奥に一筋の光が見えた。気がつけば最奥まで進んでいた。
(ようやく宝箱から出ることができたぁ! いや、出ることができた物は物ではないかもしれない)
そう思い、徐に後ろを振り返ってみた。すると、牙が生え、舌が生えた宝箱――ミミックがいた。
「ぎゃぁぁぁ!」
うちは走り出した。ヌメヌメの体を引き摺りながら森の奥へと進んでいく。だが、一つ気がついたことがある。
「ここ、さっきの場所じゃなくね……?」
〜 第二十七話 完 〜
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