第二話 後遺症
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
少年は影をみた。
二人の影だ。
少年はその影を追いかける。
どんどん遠ざかる影を追っていく。
追いかける理由は、彼らに疑問があったからだった。
少年はその疑問を解くために。追いかける。
最初の影をみたところに辿り着くと、
その影を追いかける歩みを止め、視線をかえる。
次に目に写ったのは神社だった。
自然と少年は鳥居の中に惹かれる。
固唾を飲み再び歩み出す。
スンスン パンパン スッ
祠の前でニ礼ニ拍手一礼。
この動作を少年はいつのまにか行なっていた。
すると視界はぼやける。
必死に抵抗するが途中で抵抗を止める。
そして
そのまま気を失った。
少年は気がつくと知らない所にいた。
――ここは? どこだ? まだ記憶も視界もぼやけるな。
青年が眼を覚ます。
賑やかな声、明るい景色。
そのどれもが曖昧且つ新鮮なものだった。
青年の意識が朦朧とする中で、ある一人の少女が少年に声をかけた。
「起きてくださいませ。シルベル様。今宵はあなた様の王誕日祭ですよ」
青年の意識は明晰となる。
「ああ…そうだ、僕は…ボク…ぼく…?」
――青年は疑問に思った。
自分の一人称をなぜ間違えたのか。
だが、青年にとってはそんな問いは些細なことに過ぎまいと気を引き締めた。
「いや、いいか。私は……国王であるのだから」
青年は王であるが故、そんな小さいことはどうでも良かった。いや、誰もそんなことで興味をもつわけではないが、王という役職に酔っていた。
――青年はマントを広げ、孤高に立ち上がる。
――――――――――――――――――――――――
――うちはネルの背中を追って歩く。
今はまだ、どこに行くのかも知らされていない。聞いてもピンとこないからな。
まずついたのは、ベガスディク大陸中央部にあるモーレン宿場。まずはここでチェックインをする。
モーレン宿場の周りにはここが夢の中であることを忘れるくらいの壮大な牧場が広がっていた。
ネルは牧場で飼われている牛のような動物の乳製品を買いにショップを見る。
そしてうちは、買い物とかどうでもいいし金管理ができないので、その牧場を自由に見て周ることにした。
最初に目にしたのは、そこら辺に飛んでいる鳥だった。柵の中には、牛1匹しか見当たらない。
疑問に思っていると横から笑顔でお婆さんが寄ってきた。
「どうしたんだい?」
「何でここには牛がいないんですか?」
「うし? ここにいる動物のこと? 牧場が広すぎて、レインブァー達が奥にいってしまっただけだよ」
レインブァー。さっきもその言葉を目にした。看板に、レインブァーと書かれてあった。やっぱ牛みたいなもんだろ。
何故ならその看板はネルが入って行った店の中の商品の至るところに書いてあったからだ。
うちは着想した後、その場を後にする。はずだった。
「何してんだい! さっさと柵から出な!」
さっきのおばあちゃんの声だ。おばあさんの視線の先を見つめると、小粒程度に人影が見える。ばあちゃん目いいな。
「こ――くん―よ、ば―ぁ!」
なんか言ってるぞ?
「ねぇ、ばあちゃん。あいつ何してんの?」
「ばあちゃんって言うな! わからん。じゃが、レインブァーはストレスを溜めすぎると死んでしまう。だから、極力自由にさせておる。じゃがあやつが柵に入っておるからわしもレインブァーもいい迷惑じゃ」
そうだな。ここにとっては大損害だろう。なんたって他の柵よりもあの牛の柵が一番大きいからな。
……だが、うちには関係ない。もちろん可哀想だと思う。うちの善意が苦しんでいる。
全部憶測だけど、あいつは絶対ヤバいやつだ。この世界のヤバいやつは平気で人殺しとかしてそうだ。うちが柵から出ろって言ったら喧嘩ふっかけてるって勘違いされそうだ。そしたら死にそうだ。そういう世界なのだろう。
ここの住人ではないうちは、ここで死んだらどうなるんだ。元の世界に戻るのか……? それともそのまま死ぬのか……? 少なくとも、もう新庄を連れ戻すことはできないかも。
……ごめん。誰かも知らないばあちゃん。ヤバい人を押しつけちゃって……。赤の他人とはいえ、流石に自責の念に駆らちゃうなぁ……。
「……なぁ、腕には自身あるか? あの輩を外に出してくれ。そうしたらあんたと一緒にいた嬢ちゃんが欲しがってた商品を無料で買わせちゃる。」
「まかせろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そうだよな! そういえばうち、下手に出るの得意だもんな! いつもみたいに学校の先輩に媚び打って落ち着かせるみたくやりゃいいんだ! あと、空手やってたからワンチャンあるかも! 何より、ネルが手に取っていた商品の中にチーズケーキが入ってた! やるしかないだろぉ!
うちは大きく柵をまたがり、その人影から目を離さなず近くに来た。人影は大きく手を振りながらこちらを睨みつけてきた。
「てめぇ! こっちくんなあ゙!」
うわぁ、なんか吠えてるよ……怖いなぁ。現実にいたら絶対蛇足してでも避けるね。
「あのぉ! 退いてくれないっすかぁ? そんなに近くでレインボー見たいの? 珍しいの?」
「れ、レインボー…?」
うちは、奴が困惑している隙に、奴の手首を掴み、柵の外へ出そうとした。
「あ? やんのか?」
そういうと、奴のものすごい力でうちの方に手のひらを見せ、うちの手首を掴み返した。掴まれただけなのに脳から力が抜けるような違和感を感じた。何かされた。
うちはそう感じ、奴はもう攻撃しないのだと感じだが、奴の進撃は止まらない。
すぐさま掴んだうちの腕を回しながら捻り、拘束を外し、逆にうちが拘束させられていた。危機を感じるとともに、うちは捻られた方向へ肩を回し、ダメージを軽減。そのまま前に腕を伸ばし、奴を吹き飛ばす。
奴もそれには対処できなかったものの、少ししか吹っ飛ばない。体感がいいな。
「何すんだぁ!」
奴は手首を気にしながらいう。やっぱり怒っちゃったか……ちょっと不覚! 本当は下手に出てやろうって息巻いてた。
けど、うちが大嫌いな奴の一位が態度が悪いやつ! こいつがまさにそう! 態度が悪いってことは、親しくなりたくないってことだ。つまり、そいつの存在を認めてないってこと!
学校の先輩は辛うじてうちみたいな奴は褒めてくれてはいた。が、こいつは敵意剥き出し。そりゃうちだって機嫌が悪くなるわ!
「せっかく後ちょっとだったのによぉ! お前のせいで台無しだ! 落とし前、つけろよ」
何を言っているのかわからん。後ちょっと? なんかしようとしてたところを邪魔したのはちょっと申し訳なさを感じるけど、人の牧場でなんか企んでるやつの計画を邪魔して何が悪い! うちは悪くない、うん。
「なぁ、ばあちゃん、どんな手ェ使ってもあいつ出して欲しいっつった?」
「ん? おお、頼むわい。じゃけど、ありゃもうダメじゃ。もう完全に戦意が激ってるじゃろう」
「なるほど、よーし。やるゾッ!」
ここは一応、夢の中……なんだよな。つまりは、ここで何しようと、現実世界にはなんら影響はないのか。じゃあ、こいつはNPCみたいなもん? 痛そうな攻撃しても気は楽になるよな。
……でも、正直体がゾクゾクしている。
うちは右足を大きく前に出し、左足を強く踏み込み、その勢いで前進。右手を握りしめ、そのまま奴の頬にぐーパン。
思ったほど自分の殴りが弱くはなかった。奴は上に吹っ飛んだ。そのままうちは、前に加わる勢いを殺し、上に向かって二段蹴り。
蹴りが入ったと思ったのも束の間、奴は下を向かされたのにも関わらず、右の前腕だけでうちの攻撃を軽く受け止める。
奴の動きを警戒するため着地するとともに、後ろを向き、腕でクロスを作りながらジャンプし、後退。
こんな戦闘をしたのは初めてだった。そう、初めてのはずなのに体が勝手に動いた。だが、それだけではない。
なんだ? 体が覚えている。何かノスタルジックな感覚だ。右のストレートには左に避けると体が教えてくれる。そうやって習ったような……
……ちょっと自分でも何言ってんのかわからなくなってきた。
奴は後退の仕方がジャンプだったうちの反省を利用し、着地前にうちを狩にきた。
奴の右ストレートがうちの腹に直撃。水月だった。悶絶するほどではなかったが、柵の外へ出されたのはうちだった。
やつはうちを追撃しに柵の外へ来た。
柵の中から出せたと悦ぶが、追撃してきたことに気がつく。
うちはがむしゃらに足をバタバタさせると、奴の顎に炸裂。奴は床に倒れ込み、気を失った。うちは安堵し、深呼吸でほっとした。
この殴り合い騒動をおばあちゃんがネルに伝えてくれ、駆けつけてきてくれた。
短時間の攻防の末、宿に泊まった。
宿はあのおばあちゃんが経営していたから、宿代もチャラにしてもらえた。しかも、チーズケーキが無料になった! いやもう、最高でしたね。
――――――――――――――――――――――――
数時間後
就寝時、うちは、興奮していた。
その所為か、寝られなかった。
昔から憧れてた。
血の気が沸る男同士での殴り合い。
良くも悪くも痛い拳。
戦闘狂とでもいうべきか、厨二病というべきか。
でも、楽しかった。
心臓の鼓動が全身を脈打つのがわかるほどに。
現実だと、人を殴るなんて言語道断。
学生ならば尚更だ。
初めての実戦にも関わらず、闘い抜いた。
しかも、相手の耳はカリフラワー耳だった。
その実績で、うちには戦う才能があると自負した。
もっとやりたい。
ゲームでは得られないほどの快楽。
それをもっと得ようと考えてしまった。
そして夜が明けた。
うちらは、目的の場所へと向かった。
――――――――――――――――――――――――
やっとの思いでロードブルク大陸の北部に来た。
って言っても、ロードブルク大陸は一番北部のベガスディク大陸の真南をちょっと歩いただけみたいだからやっぱ寒い。
うちらが向かっているのは、この世界での最都会の王都であるロードブルクだ。
うちらはその装石具を買いにこの王都へ来た。店先に並ぶ装石具の数に、思わず足が止まってしまった。どれも高そうなのに山ほどある。
ちなみに、装石具はピンからキリまで。うちは勿論ネルもあまりお金を持っていなかったから、その、ピンの装石具を買いに来た。
ちなみに、この国は君主制らしく、うちと同い年の子が王様らしい。
くそ、うちはゲームしてばっかだけど王は忙しいのかな……羨まじい゙!
王都に着くと、待っていたのは立派な城塞に佇む兵士二人。奴らは銀の甲冑を見に纏い、ハルバードを装備した典型的な兵士だ。
うちらは門に連れて延びている長蛇の列に並んだ。
「ここからは立ち入り検査がある。君、なんか変なの持ってないよね?」
「上から降ってきたばっかのうちにそんな余裕ないよ」
「まだそんなこと言ってんの?」
与太話じゃないんだけどな。
うちが見たのはお尻のようだった。お尻の上は胴体がありそうだったが、雲が邪魔で見えなかった。そもそも、あれが雲ではなかったかもしれない。上にあったから雲やろって考えたけど、霧だった気もする……
そんなこんなでうちらの番が来た。
「えぇ…」
兵士らはなぜか困惑気味だ。
「お前ら…自分達の立場わかってんのか?」
立場?下民は入れませんとか?
「いいえ? 僕ら何かしました?」
門の前では大声出しちゃ行けないのかな。
「のぞきだろうが! それも大胆に入ったらしいな」
そんな怒ることないじゃん。無論のぞきは良くないけど……
いや待てよ。なんでこんな遠くまで伝わっているんだ? 電話はないよな? 新たな技術?
「いや! あれは不可抗力ですよぅ!」
「不可抗力で風呂を覗くやつがあるか!」
うちらは軽く一蹴され抵抗する間もなく、変な力で拘束された。
「ん? ちょまて、わたしも!? なんでぇ!? わたしがのぞくわけないだろぉ!」
「はいはい。やってない奴らは皆んなそういうんだよ。話は城で聞きますからねぇ」
そうして王城へ連れてかれた。というより拘束された。
連れてかれている間は暇じゃなかった。なにしろ見るものが皆、目新しいものばかりだったから。
特にそそられたのは装石具だった。やっぱりシェアナンバーワンは伊達じゃなかった。
中でもパンクレーションという装石具に見入った。それはガントレットで手にはめて使うもので、シリーズものらしい。それがこの世で2つしかないんだと。ネルの博識だ。
パンクレーションの中に装石具が詰め込まれているらしく、黄金に輝くそのボディは、きめ細かく繊細な細工が施されていた。
だが、市場の商品というわけではなく、王に捧げるものとして、運ばれていただけだった。残念。あれ欲しかったのに。
――――――――――――――――――――――――
――そんなこんなで、王城についた。
うちらは、王の御前に差し出された。ここは君主制の国。うちらは今から裁かれるのだ。
目の前には容姿端麗な王と側近の女メイド。うちらの隣にはうちらを連れてきたおっさん。この差は何だ。
「汝ら、名はなんと申す?」
こいつが王様? イケメンだな。肉を削いでやりたい。最も、そんなことしたら死刑だろうけど。
「……ネルです。」
「亜月眞月権左衛門です。」
なんか変な目でネルがこっちを見てきているが、こういう時は偽名を使うのがセオリーじゃないのか? まぁ、確かに不自然なのは否めない。昨日まで夜通しでモン◯ンやってたからな。咄嗟に出てきた名前がこれになってしまった。
「そうか。変な名前だな。特にそこの女子。」
さらにネルの目がかっぴらいたが、うちのせいじゃないよね。
「こいつらは、覗きをしたのだな」
「おっしゃるとおりでございます、シルベル様」
「それでは、文句もあるまい! 死刑ぇぇ!」
何でぇぇぇぇ!! 覗きごときで重すぎない! まぁ確かにいけないことだけどさぁ。
「ちょっと待て! 私は麗しい女の子だ! 心も女だぞ! タイプの人は竹内涼真だ! そんな奴がのぞきするわけないだろ!」
「女だからって覗かないとは限らないだろ。今そういう世の中になってきてるらしいしな。それにしても竹内涼真? 誰だそいつは……はぁぅぐっっ! あ、頭がぁっ!」
「無礼だぞ女!」
すると次の瞬間、王が関節をつけ外す仕草をした。
胸の奥がざわつく感じがした。
「そうだ!! もっと私を女呼びしろ! 女を強調しろ! ガハハ!」
は? え、竹内涼真!? なんで日本人の名前がネルの口から!?
いや!! そんなことどうだっていい! 見つけたっ! 見間違いなわけない! 王のあの仕草、あいつが毎日のように腕の関節をつけ外す仕草をやる奴がこの世にいっぱいいるわけねぇ! 顔が変わっても、お前しかしないよなぁ! 新庄!!!!!!!
〜 第ニ話 完 〜
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