第二十一話 友の旅立ち
作品をのぞいていただきありがとうございます。
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――ライグとマダグが倒れた後、
書庫内での抗争も終戦を迎えていた。されど、未だ闘っている組員の人数には差が生まれていない。このままでは勝敗は決まることすら儘ならないだろう。
そんな場所にストレイダーズが一人、ネルが向かった。
「うぇぇ。結構殺伐としてんねぇ」
手を日除にしながら書庫の中を展望するネルは道に沿って進んでいく。入り口に着くと倒れている組員を避けながら扉へ近づく。
扉を叩くと轟音を鳴らしながら扉が開く。それに気を取られた組員の注目は目の前の敵から一斉に扉へと移る。
「こんくらいなら、一人残らず気絶させれそうだね」
そういうとネルは叫びだし、書庫にいる玄人組の耳から血が吹き出しどんどん倒れていく。そしてそのまま、ネルが全てを掻っ攫い、この戦いは終わった。
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「――はっ! もう一人……」
うちは飛び起きた。眠っていたのか……? 感覚がないから、視点が切り替わったようだった。
(でも……)
戦場であった一階の開放された空間とは違い、ここは閉鎖されている部屋だ。本棚に囲まれており、枕はクハパリの匂いの膝――
「クハパリ!?」
「あ、おはよー」
「……おはよ」
首を上に曲げるとクハパリの目までが見えた。完全にクハパリですね。はい。
「えぇと、結果はどうなったの……?」
「ネルちゃんが残った玄人組全員を気絶させて収まったよ」
「そっちじゃなくて……マダグとライグは……?」
「ん? わかんない」
まぁそうだよな。戦場にいたわけでもないし。
「ってか、クハパリ達ってどこいたの?」
「あの意味わかんない道場でお茶飲んでた」
「はぁ……」
意味わかんない道場って――擎慄頼のことだよなぁ。師範代といつの間にお茶を出してくれる様な仲になったのか?
「みんなは今どこにいんの?」
「玄人組は縄で縛られてて、素人組は机とか本棚を直したり、ネヴァキュベートに『もう安全だヨ』って言いに行ってるって」
ネヴキュベートかぁ。行くことは少なそうだなぁ。この件を解決したし、擎慄頼で修行に勤しむことになると思うからね。
「そもそも、ネヴキュベートってどんな所なの?」
「ネヴキュベートと言えば! って聞かれれば、歴史的遺産が有名かな。街の中に大きい剣が刺さってるんだって。昔、神様が戦った戦場跡地に設立した国らしいよぉ」
街の中に剣。ロマン溢れるいい設定だ。いつかウルト○マンみたいにでっかくなれたらその剣抜いてロードブルク城を薙ぎ払ってやりたいもんだ。
「ね゙ぇ! なんで私もやらないといけないのぉ!」
うるさい。そう思いながら横を見るとそこには思わぬ光景が広がっていた。それはネルがニアスに膝枕をしてあげると言う、えにも言えない光景があった。需要と供給が釣り合ってないんじゃないか?
「何してんの……?」
「見りゃわかるでしょ」
「なんで膝枕してんの……?」
「こ っ ち が 聞 き た い」
ニアスはぐっすり眠っている。若干キレ気味のネルは今にも猛り出しそうだ。なるべくちょっかいは掛けないようにしよう。
そう思いながらうちは立ち上がった。部屋から出ると階段が見えた。階段を下り一階のフロントに向かった。
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階段は手すりに掴まりながら一歩ずつ進んでいく。多分アビリティのおかげで痛くないんだろうけど……攻撃は喰らっていたから歩くだけでも不自由だ。
そっか。アビリティもうわかったのか。じゃああのクソダサい技は使わなくとも強力な技を使える様になるよな。ふー、よかった。
一階で最初に目に写ったのは――
「お、シロさん。起きたんすね」
(誰!?)
一方的に名前を知られているけど……うち、こいつのこと見たことないぞ? 青に橙が混じった、見覚えのない髪色だった。こんな髪色なのに覚えてなかったじゃ失礼だぞ!?
「あんた……誰?」
「エザスターテスって言います。マダグ達にはエザスタって呼ばれているんですけど、僕、闘う前にネヴキュベートに呼びかけに行ってたんで分かんないですよね」
「うん」
「え?」
やっべ、失礼な態度とっちゃった。そのせいで心なしか騒々しかった一階が静寂に包まれた様だった。
うちは、この気まずさを回避するために話題をかえた。
「ところでマダグは……」
「マダグなら机の上でおねんねっすわ」
うちは……エザスタ? に会釈をしてマダグの元へ向かった。探す途中で玄人組が縄括りにされている現場を目撃したから煽ってやった。あの玄人組の組員達の顔は痛快だったなぁ。だが、ライグだけはすかした顔をしていた。気持ち悪かった。
「いてぇよぉ〜……かゆいよぉ〜」
情けない言葉を連ねるマダグの上半身は服を着ていなく、代わりに身体を隠しているのは包帯だった。乳首とかギリギリ見えそうで見えなかった。
だが、うちを見た瞬間キリッとした目つきに豹変し、勇敢な口調に早変わりした。
「あ、起きたかい? シロ。いい朝だねぇ」
「いや、見てたからね?」
「……」
先ほどのエザスタといい、今といい、うちが空気を壊しているんだとようやくわかった。
「そんなことより、ライグとは決着ついたの?」
「……あぁ。親子喧嘩の勝敗は引き分けに終わったが、先に倒れたのが親父だったから実質俺の勝ち。それは親父もわかってるはず。あと、ネルがこっち側だったからグローブ同士の闘いもこっちの勝ちだ」
「そうじゃなくて、腹割って話したのか……?」
「話した。……けど、心残りはもちろんある」
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――マダグが起き上がった後、マダグはライグの元へいち早く向かった。話に聞くとライグは一日中起きていたらしい。マダグがライグと話した時もだったそうだ。
「よぉ、さっきぶりだなぁ」
相変わらずライグは笑っていた。だが、嘲笑ではなく嬉笑。それ故に気味が悪い。マダグはそう思っていたそうだ。
「俺らの勝ち……ってことでいいんだよな……?」
「あぁ。俺ら、焼くなり煮るなり好きにしろ」
俺ではなく俺らと言っていたことに違和感を覚えたマダグだったが、気にせず本題に入る。
「なんで……母さんを殺した?」
「お前の母さんはな……もしかしたら俺とマダグのことを殺そうとしていたのかもしれないんだ」
「もし……? 仮の話で母さんを殺したのか……?」
「そうだ……」
マダグの心は怒りに支配されそうになる。だが、ニアスの言葉を思い出し、惜しい思いをグッと堪え、話を進める。
「その情報どこから聞いたんだ……?」
「『無名の商人』ってやつからだ」
マダグは心底安心し、胸の奥で息をついた。だが、同時に怒りが増す。素性も知らない商人の言葉を簡単に信じきり、自分の愛する妻を殺した、飛んだ精神病質者を父親に持ってしまったからだ。
「ごめんな……俺はお前の父親になれなかった」
今更なんだと思うマダグ。だが、マダグは考えを改めた。「親父は俺のことが嫌いなんじゃなく、嫌われたと思われたから素っ気ない態度をとっていたのだ」と。それでもマダグは許すことはできない。マダグはその場を後にし、休息に勤しむのだった。
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「え? そんだけ? そりゃ悔いは残るだろ」
「また今度も話すよ。だが、今は仲間達と冒険がしたい。余計に深掘っても釈然としない気持ちが増すかもしれない」
それはいいとして……『無名の商人』。何者だ? そいつがいなかったらマダグ達は仲違いをする事はなかったんじゃないか?
憶測が飛び交う中で、マダグがある提案をする。
「あ、言い忘れてたけど、俺らがシロ達にあげるって言った事務所あるだろ?」
「――! 嫌だぁ! あげるって言ったからには貰うぞぉ!?」
「いや、そうじゃなくて……地下にニブラ鉱の牢屋があるんだよ。そこに玄人組を預けるからな」
「ニブラ鉱?」
「色々効果はあるけど……ここではアビリティを使わせなくする鉱石って意味な。そしたらアビリティで逃げられないだろ?」
そうか。アビリティで牢屋を溶かすとか透かすとか、色々な方法で脱獄ができるのか。確かにニアスも脱獄する時アビリティで出ていたな。……ん?
「――そんな便利な物があるなら、なんでロードブルク城の牢屋にはそれを用いらなかったんだ?」
既にうちの目の前からはマダグが消えていた。質問をできない現代っ子。この世界は厳しいねぇ。
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――うちらは書庫イスベルトを後にして、貰えるという事務所へと向かっていった。
「ここ?」
「そう」
書庫で感覚が麻痺ったのか、結構狭い事務所だ。1LDK二階建てくらい。文字で聞く分には申し分ない。流石に書庫がデカすぎたな。周りには土地なんていくらでもあるのにこの広さ。ネヴキュベートには歩いて10分程度。
道場に通うための建物兼倒したやつを牢屋に放り込むための事務所だな。牢屋に放り込んだやつの飯は……まぁ後ほど考えよう。
だが……
「グローブ組員沢山いるのに、なんで牢獄の方が広いんだよ!!」
地下へと広がる牢獄は想像を絶するほど広く、マンション一階分ぐらいあった。普通のギャングでもこんなに牢屋は使わないだろ! という話をマダグにしたところ――
「ネヴキュベート跡地だったからな。三翼戦争で崩壊した城を別の場所に移したんだ。通常はネヴキュベートの牢屋として保管されるはずだったんだが……親父が国を脅したんだ」
そういうのはちゃんとギャングなんだなぁ。というか、ここでも三翼戦争が出てくるか。剣が刺さってるって言う話も三翼戦争の産物だろう。
それにしても剣。大きい剣って言ってたけど、大きさによってうちのネヴキュベートへ行きたい度が変動する。大きければ大きいほどいい。富士山ぐらいがベストだ。
何故大きければいいのかと言うと、地面に刺さって抜けない剣はどうにも強そうに見えない。質量=強さ。エクスカリバーだってミスはする。もし、全然強くない人を主人に選んだら豚に真珠。エクスカリバーが活躍しないとか世も末だ。
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――事務所の部屋紹介をされたところで報酬は既に貰ったということになり、マダグ率いる素人組は出立することとなった。
「それじゃあ、俺らは行くよ。また会おう」
「え? また会えるの?」
「俺らはロードブルク方面に行く。お前らはロードブルク周辺から来たんだろ? だったら北西辺りで会うかもな」
聞いた時は「一体何年後を想定していっているのか」と呆れたもんだが、ここは地球ほどデカくはない。ましては球体ではなく楕円。この世界では世界一周の価値が地球ほどではないそうだ。
「改めてありがとう。お前らがいなかったら勝てなかった」
「ワイトもそう思います。うちらがいても、結構難局していたからね」
「じゃあ、また会おう」
別れを告げるマダグは手を差し出す。うちは強く握りしめて、再会を約束した。素人組の背中を押し、旅へと見送った。
彼らが置いていってくれたのは、うちらの住居と愉快なギャング。そして何より、うちはその闘いでアビリティを確認することができた。
事務所の隅の部屋には金庫があり、中を開けてみると、大量のお金が入ってあった。「なんだよあいつ、粋なことしやがって」と、むず痒くなり感傷に浸っていた真っ昼間。置いていってくれたものはもう一つあったのかと思っていた。だが、それはグローブの活動資金だったことをライグに打ち明けられ、このお金は収監されている玄人組一同の食費代諸々となるのだった。
――傷が癒えてきた頃。書庫イスベルトはあの闘いによって失っていた活気を取り戻しつつあった。
逆に活気を失っていた玄人組にうちがあっち向いてホイの様なゲームを遊びなんとか活気が戻ってきた頃。遂に擎慄頼へ入門することとなった。
「準備できたー?」
「あぁ」 「やっぱ明日にしない?」 「できた!」
ネルの呼応には反応せず、事務所のドアを開いた。
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――擎慄頼に着いたストレイダーズ一行は師範代と顔を合わせることとなった。
「夢を得ることはできたか?」
夢を得る。師範代が言っている意味は、アビリティを確認できたかという質問だろう。よくわからないことも多々あるが、うちは清々しく呼応する。
「はい!」
「だろうな」
そういうと師範代は、組んでいた腕を解き、道場の入り口へと近づいた。背中から分かるその威圧感は道場への侵入を拒もうとする。
だが、夢を得たうちには造作もないことの様に思えた。師範代は入り口の襖を開ける。開けた瞬間立ち上げた風はうちらの顔面を貫くが如し。そして師範代はうちらの方を振り向いた。
「試練は突破された。だが、お前らに待ち構えているのは訓練ではない。己自身だ。如何なる逆境にも打ち勝ち俺を唸らせてみろ。擎慄頼への入門を許可する」
〜 第二十一話 完 〜
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