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第二十話 親子喧嘩

作品をのぞいていただきありがとうございます。


最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。

第二十話 親子喧嘩



 「さぁ! 始めようぜ! これが最後の親子喧嘩だぁ!」


 ギスやニアスは見えなくなった。だが、あいつらはやる時はやる奴だ。シロはやるかわからないけど――なら、俺はこっちに集中だ!


 まずは属性から探ろう。できることから潰していく。


 そしてここは闘える空間が広い。グローブ組員一同がこの空間を作ってくれているかの様だ。


 ――親父が突っ込んできた。なら、こちらは受けの体勢で応戦だ。すると殴りかかってくる。ここまでは予想通りだ。イメージ通りに親父の腕を掴んだ。


 だが、目の前から消え、掴んでいたという感覚もなくなってしまった。


 すると、俺の背後に違和感を感じる。さっきまで流れていた風が急に弱くなったのだ。振り返ると、親父がいた。そう気づいた時にはもう前に蹴り飛ばされていた。


 ――追撃は来ない。喧嘩を楽しんでいる……いや、親子喧嘩を楽しんでいるようだ。やっぱり俺のことを良くは思っていないのか。


 俺は床に手を着きながら起き上がる。


(さっきもだ。何かがおかしい)


 そう予感していた。親父のアビリティは消える。実際に聞いたわけではない。聞けるような仲じゃない。だが、能力に誤りがあるようだ。姿が消えると同時に実体ごと消えるのか? アビリティの術式を推察する能力はシロには劣るな。


 だが、仮にそうだとして、攻撃はどう当てる? 出てきたところを狙うか? おそらくそれは無理だろう。毎度の様に親父は俺に攻撃を当てるために姿を現す。それまでは攻撃できないうちは部が悪すぎる。


 だが、守りの姿勢に入るのはいいだろう。


 俺は首の高さくらいまである盾を目の前に用意した。これなら足も守れる。背後は無理だが……許容しよう。そして武器も出す。トンファーだ。まずは受けることからだ。トンファーなら素早く攻撃を受けることができる。


(どこだ……どこにいる……)


 そう思うほど緊張が増す。四方八方に気を配る。ただ見ることができるのは一箇所だけなため素早く視点を切り替える。


 次第に冷や汗もかいてくる。顎まで降りてきて、床に滴る。


 ――するとなんの予兆も無しに背後からタッという音が聞こえる。そして背中に足の様なものが触れる。蹴りだろう。俺はその足をトンファーで薙ぎ払う。


 そして親父の方を見る。親父は驚いた顔をしながら不安定な体勢になっていた。しかも無防備。――ここだ。

 


  ―――――――――――――――――――

 


 親父の腹に一発蹴りをぶち込んでやった。だが、俺は歓喜という感情より不安の感情が募る。俺の蹴りは以前よりも攻撃力とスピードがなかったからだ。感覚的に言えば――重い。


 親父を警戒しながら足を見る。


(色が濃くなっている……!)


 ズボンの生地を見ていたが、次第に上半身に目が移る。すると、全身の服の色が濃くなっていることに気がつく。


 これにより考察される状況は――水属性の攻撃。つまり、俺は炎属性で親父が水属性の相性不利だ。


 さっきは、相性もあってギスがいなくとも親父に勝てた。だが、今回は不利。勝てるか……? いいや、勝ってみせる!


 ――盾とトンファーを消し、三節棍を持った。そして、再び戦闘体勢に入る。


 親父は俺に回り込みながら近づいてくる。その予備動作は見えた。そして親父は消える。


 さっきは不意打ちを喰らいそうになった。ギリギリ受け止めることが出来たが、今回はそうはいかない。


 三節棍をブンブン振り回しとく。これで近寄りがたくなったはずだ。俺でも軌道予測することが困難である三節棍は不規則に動く。すると、近寄ることを諦めたのか親父が姿を現した。


 ――この瞬間を待っていた……!


 三節棍を頭の上で振り回しながら親父に近づく。遠心力が溜まったところで体を360°回転させ――親父に一撃を喰らわせた。

 


  ――――――――――――――――

 


 親父は再び消える。が、今回は一撃をしっかり喰らわせた。ダメージはしっかり入っている。


 そして、わかった。やっぱり親父のアビリティは「姿が消える」ではなく、「実体を消す」だ。予想は的中していた。だから、攻撃をする時は姿を現す。


(――何!?)


 親父は目の前に現れた。その唐突さに思わず冷静に対応することはできず――突きを喰らってしまった。そのまま連撃を撃たれる。


(まずい! ここをいち早く切り抜けなければ!!)


 三節棍を親父の体の裏に回し、首に引っ掛け、引っ張りながら首を絞める。俺の体に接近させたことで親父はフックしか殴りの攻撃手段は無くなった。すると、今度は逆に親父が逃げて消えた。


 よし、効いている! 属性による効果も相まって、今回はなるべく動かない方針で闘っているが――覿面だな。


 だが、次が問題だ。親父の攻撃を受ける。これができなきゃ攻撃を与えることもできない。ましてや、避けても次の攻撃が一手二手と飛んでくる。親父はすぐに退避することが出来るが、俺は出来ない。


 ――再び三節棍を振り回す。


「俺のアビリティは見えない道具を出す」。それは俺自身にも適応されるから、拙い手捌きでしか三節棍を振り回すことが出来ない。だが有効ではあるだろう。


「これは耐えられるか? 《共に別空間へ(インヴァイト・レルム)》」


 どこからか声がした。辺りを見ると親父が何食わぬ顔をしながら距離を取っていた。それだけじゃない。先程までいたグローブ組員やニアスとシロは見えなくなった。親父が作り出したもう一つの空間ということか。


(く、苦しぃ……!)


 俺は酸素がある場所を探す。だが、視覚的にわかるはずもなく、絶望を悟る。――いや、俺はめげない。ここを打開するには元の空間に戻らねばならない。


 俺は槍を出し、闇雲にだが親父に投擲した。当然当たらない。余計に息は絶え絶え、戦況は厳しさを増すばかり。


 ――するとあることに気がつく。


(余裕なくなってないか?)

 


  ―――――――――――――――

 


 さっきまで余裕がありそうだった親父は呼吸が乱れていた。もしかして――親父のアビリティは使い続けると発動者本人も呼吸ができないのか?


 なら、親父が技を解くのを待つしかないのだが……呼吸なんて整えられる場所じゃない!! だからと言って攻撃を仕掛けようとしても解いてくれるとは限らないし、余計にキツくなるだけだ。


(どうする……)


 模索していく中で策を思いつく。出来るかどうかわからないが、案ずるより産むが易し。


 ――俺は大きく息を吐く。


 ここで息を吐くという行為は自殺行為に近しいが、ただこれは死ぬためにじゃない。生きるためだ!


 次の瞬間、三節棍を消し、世界地図が入っていた筒状のケースを取り出した。そしてケースを開き、筒の口に向かって呼吸をした。


(よし……! 成功だ!)


 俺のアビリティはただ触ったものの形を真似るだけではなかった。ケースの中の空気までケースだと判定され、呼吸を吸うことが出来たのだ。


 これで親父が技を解除しても、しなくても、俺が有利なのは変わらない。


 すると、辺りにグローブ組員たちが現れた。そして呼吸ができる。技を解いたな。だが、さっきまでいた解放された空間ではない


 だが、もう残りの武器のストックがなくなってきた。ストックは消耗品だ。武器をしまうと、もう一度触らないと出せない。


 残りの武器はクレイモアって剣と今装備している指輪だ。指輪はナックルとして使えるかも。ひとまずはクレイモアを装備する。


 ――親父は素人組に攻撃を与えながら近づいてきた。そして大きく回し蹴りをした。周りに人がいたこともあって、組員を巻き込みながら接近する足はスピードが落ちたが、それでも当たってしまう。だが、このままともいかすまい!


 俺はクレイモアで親父の左腕を狙った。肩の関節を切ったつもりだったが、親父は避けようとして腕に切り傷ができた程度だ。

 


  ―――――――――――――

 


 そこを狙ってきた親父は床に手をついて上から蹴りを決めてきた。俺は足首に刃を向けて受ける。まずいと思ったのか、また消えた。


 これが決まれば動きに制限を強いることが出来たが、流石に通らないか。


 目の前で親父が出てくることを恐れクレイモアを振り回す。来ないと思った次の瞬間、藪から棒に親父が現れた。


(――まっずい!)


 無鉄砲に攻撃を受けようとしたせいで親父が攻撃する前に受けの構えを取ってしまった。親父はそれを狙ったのか、受けたところとは違う部位に攻撃を決める。


(どこに攻撃が来る!?)


 ――手だった。手に攻撃を受けたことで武器を弾かれた。クレイモアは消え、アビリティのストックは尽きた。


(ここは冷静に受けねば……!)


 親父の癖を思い出し、連撃が来ることを予想した。予想は――的中。連撃を一手一手払った。最後の攻撃は――顔面!


 ――これは的中せず。顔面で受けていた為、腹に喰らってしまった。怯んだ俺をお得意の回し蹴りで軽く遇らうかの様に足らった。喰らった俺は床に倒れ込みそうになるが手をつき受け身をとる。


 だが、何故かさっきよりも受け身が取り難くなった。どうしてだ? というかいつからだ? そう考えていると、俺が親父が別空間に移動させられた時に動きやすかった気がしたことを思い出す。


 別空間に移動させられれば属性効果は剥奪されるのか。今はまた攻撃を受けたから移動速度が落ちてるんだが。


(――は! こんなこと考えている暇は――)


 戦闘中に思考は悪手。そんなことわかっていたのに。親父は目の前に来ていた。これは攻撃を受けれない!


「――させない!」


 諦めかけた瞬間、横から素人組のエザスタが割り込んできた。エザスタの攻撃は親父に命中。攻撃しかけた親父は攻撃を止め、その場で硬直した。雷属性か。


「助かった!」


 この場では必要最低限の会話をする。そして――


「さっきの仕返しだぁ!」


 俺も親父に連撃をお見舞いしてやった。戦闘開始時よりも更に疲弊してきている。傷や汗も増してきている。これは――あと少しだ。



  ――――――――

 


 俺と一緒に攻撃をしていたエザスタは玄人組の組員に攻撃された。そのままそこで一対一を始めた。この闘いだけじゃなく、全体的に戦いの終わりが顕著に現れてきている。


「強くなったなぁ。マダグぅ」


「なんだ……? 今更父親面かよ」


 親父は息を切らしながら語りかける。対して俺は息は切れているものの、基本的に動いていなかったからか、親父よりは疲弊していない。会話という文言で取り繕っているが、おそらく本来の目的は休憩。だが、こちらとしても好都合。便乗してやるか。


「なぁ。次で終わりにしよう……勝ったやつが仲間と冒険ができるんだ。次で全身全霊を出し切る」


 今までは違った――と。確かに「いんばいとれるむ」とか言う技は次喰らったら厳しい。おそらく次でその技を使ってくるだろう。


 アビリティのストックはもうない。親父を倒せば技は解除される……それに賭けてみるか……?


「俺にしてみれば、親父は死んでくれれば良いと思っていた。だが、止められた。親父になりたくないから」


「何が言いてぇ……?」


「俺はお前の息子だ。それは認める。……だが、俺はお前じゃない!」


 そう言うと、親父は茫然とした顔でこちらを見てくる。開いた口が塞がらず、俺は今までこんな親父の顔を見たことがなかった。


 だが、次の瞬間。親父は急に笑い出した。腹を抱え、見るからに無防備に高笑いした。嘲笑……ではなかった。むしろ喜ばしいと言わんばかりの朗らかな笑顔だ。


「そぉかぁ! あっはっは! じゃあ……行くぞ!」


 悔いはない。親父はそう思わせる様な清々しい笑顔で構える。


(何一人で盛り上がってんだよ……)


 俺はここで親父を倒しても悔いでしかないだろう。だが、素人組(あいつら)と旅ができるなら、勘弁してやろう。


「――こい!」


「――《共に別空間へ(インヴァイト・レルム)!》


 この建物……世界から人一人消え去り、俺と親父だけになったかの様だ。静寂が広がった為か、親父の動作一つ一つが音でよくわかる。


 さっきこの技を使った時は俺の窒息待ちで使っていた。だが、今回は違う。親父は俺に、俺は親父に近づく。水属性によって得た重みが消された。この技を使ったからには親父は俺の目の前から消えることはできなくなった。


「――ふっ!」


 親父は攻撃を仕掛けてくる。


(これは――腹!)


 手で蹴りを受け止めた。俺は親父の脛を狙う。だが、止められた。カウンターが来ると思い咄嗟にガードをする。が、攻撃は飛んでこない。


(一手遅らせたな……!)


 そう予測した途端に、肘打ちが飛んでくる。肘ということは上半身。一番狙いやすいのは――


「ここ!」


 腹だ。部位は狙い続ければダメージは広がる。受け止めることが出来た。


(――ここで決める!)


 そう思いながら親父の頭上に決めようとした踵落としの軌道は確実に親父の頭上に到達する。


(は……?)


 ――次の瞬間、グローブ組員一同が目の前に現れ、親父が消えた。


(――まさか!)


 俺は後ろを振り返る。すると構えをとる親父がいた。この腕の向きは脇腹。


 わかってはいる。だが、ストックは尽きた。――これは受け止め切れない!


「――本だ!」


 親父は攻撃してきた。誰の声だかわからない。なんのことを言っているのかわからない。だが、俺は直感的に脇腹にアビリティを使った。


 すると、脇腹に本が現れ、攻撃を受けた脇腹は本が衝撃を吸収し、ダウンを免れた。

 


  ――――――

 


 そうか。ここは書庫だ。本なら山ほど触ってきた。


「決めろ゙ぉぉぉ!!」

 

 茫然とする俺と親父に向かって声がかかる。ギスの声だ。


「勝つのは俺だぁぁぁ!」「勝つのは俺だぁぁぁ!」


 俺はギスの声に後押しされて攻撃を仕掛ける。親父も負けまいと腕を全霊を込めて降りかかる。


 両者の手が両者の頬に直撃する。バシンという大きな音を立てながら、グローブ組員全員でそれを見守っていた。


 倒れたのは親父だった。だが、勝ったと同時に安堵した俺は、床に倒れ込んだ。そしてそのまま意識を失った。


 勝敗は引き分けだった。だが、親子喧嘩は――俺の勝ちだ。


  ―



       〜 第二十話 完 〜

ご愛読ありがとうございます。


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