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第一話 オネンネの時間

作品をのぞいていただきありがとうございます。


最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。


(※改稿することが多々あります。すみません)




 ――ピピピピッ! ピピピピッ!


 あ……あぁッ……眩しッ!


 そう思いながら床に足をつけた。なにも変わらない日常が再始動する。


 またあの夢だ。毎日見るあの夢。うちがどこかで誰かに助けてもらう夢だ。……指示語ばっかでわかりづらいか。


 原因はおそらく、うちの友達だ。


 その友達に人生を変えさせてもらった。気づいたらうちの二言目にはいつも下ネタが来るようになっていた。……犯人の顔は容易に浮かぶな。


 だが最近、うちの一番仲のいい友人は、交通事故で意識がなく重体だそうだ。そいつの名は新庄真琴。今は影村医院という場所で治療を受けているらしい。


 うちはその報告を受けた時、スマホを握ったまま動けなくなった。胃の奥がグチャっと音を立てた気がした。


 喧嘩別れをしてしまったのだ。


 うちはまだ、その影村医院に訪れたわけではない。地図アプリは何度も開くがその度にそっと閉じた。


 その事件があったから、自責として人を助ける夢を見てしまうんだと思う。


 ふと時計を見ると時刻は午前八時を回っている。感傷に浸っていたが、学校に行く時間になった。カバンを持ちシュウマイを口に詰め込み、ドアノブを捻って外に出る。学校の近くまでくると知っている顔がちらほら出てくる。うちはそいつらに会釈をし、校門まで来るとペースを下げる。



――――――――――――――――――――――――

 


 学校に近付くと、見知った顔がちらほら。会釈して校門へ向かいながら歩調を落とす。


 教室に入ると、やっぱり新庄はいない。まあ、当然か。うちは自分の席である主人公席の惜しい位置に座り、寝る。けど机が硬すぎて寝られない。


 そこへ、二人のクラスメイトが登校してきた。


「〜だってよ!」


「え? じゃあ新庄も?」


「多分だよ、私も人から聞いただけだから……」


 普段は他人の会話なんて聞かないクールなうちだが、沢城神社や新庄という単語を耳にしたことで次第にうちの意識は赤尾さん達の会話に惹き込まれていた。


「沢城神社しかダメなの?」


「美代、行くつもりじゃないよね?」


「いや、怖いの無理だから行かないよ」


「要するにね、こう。夢の中に行きたいって願うだけ。そしたら本当に行けるんだって。意識あるままで。」


 うちにわかりやすく説明したみたいな口調だな。沢城神社? 都市伝説か? 夢の中に新庄?


 ――いやいや、そんな馬鹿な。


 


――――――――――――――――――――――――


 


 ホームルームが終わるや否や、うちは席を立つ。目指すは多目的室。定番の場所と化していた。既に二人颯斗と恵太が壁にもたれていた。新庄とうち、四人組の仲だ。


「ねぇ」


「んぁ?」


 恵太は気の抜けた声で呼応した。


「沢城神社の噂。知ってる?」


「ん? あー……いや、知らん」


「俺も知らない」


 恵太が視線を逸らす。嘘ついてる奴のすることだ。

 

「女子曰く、沢城神社で手合わせるだけで夢に行けるんだと。んで、新庄がそこにいるらしい」


 恵太の眉が上がりそのまま硬直した。


「あ、そういや最近配信してた人気Vtuberもそこで目ん玉ほじくってたな。」


「言い方! ……まぁ、あながち間違いじゃないか」


 颯斗がツッコむ横で、恵太は完全に顔を背けた。――この反応。怪しい。


「なぁ、お前ら暇だろ。夜の肝試し的な感じで行こうぜ」


 その誘いに、颯斗は即食いついた。


「おぉ! いいね行こ!!」


 恵太が慌てて颯斗の口を塞ぐ。モゴモゴ言っている颯斗を抑えながら恵太は言った。


「いやぁ……これから俺ら用あってさぁ…」


 いや、ぜってぇ嘘だろ。今口を手で隠したよね?


 そう思うと、うちの思考に稲妻が走るように閃いた。


「当たったのか!」


「はぁ? 何言って――」


「惚けんなよ! でも、明日はやらせろよ!!」


「ちょっ、おま――」


 チャイムが鳴る。


 ――あ、移動教室だ。忘れてた。


 うちは教室へ走った。


 


――――――――――――――――――――――――


 ――放課後になった。うちは一人で帰る羽目になった。


 だが……いや、マジか。うちにはあいつが何を言いたかったのかがわかる! ケイタのやつ最新ゲーム機当てたと言うことだ! 正直羨ましい。


 でも、それより新庄のこと。沢城神社の話。

もし本当に会えるなら、行かない理由はない。


 うちにとって新庄は、幼馴染で、馬鹿みたいに濃い存在だ。代わりなんていない。「借り」もあるしな。


「……あ、そういや」


 「借り」で、ふとあることを思い出した。新庄の家にゲームのカセットを置いてきた。


 ――取りに行くか。めんどいけど。


 うちは覚束ない足取りで新庄の家に向かった。

 


――――――――――――――――――――――――

 


 新庄の家に行き、母親に事情を説明し、中へ通してもらう。部屋に入った瞬間、鼻をつくフローラルと妙な匂いが駆け巡る。


(……イカっぽい……いや、考えるな)


 部屋を見回すと写真が貼ってある。

 うち、新庄、恵太、颯斗。昔の写真だな。


 うちはこういう物は持っていない。写真に収めると言うことにあまり関心がないからだ。だが、気恥ずかしいと思うと同時に、良い物だとも思う。


 隣の写真には幼い新庄と家族らしき人が写っている。真ん中に写るのは新庄。ここで言う新庄は友達の新庄真琴だ。真琴の左肩に手を置いているのはお父さんだろう。見たことがある。うちから見てお父さんの左側はお母さんだ。さっきも見たけどあまり変わっていないなぁ。でも……


「あれ、二人兄妹だっけ?」


 真琴の右に座るのは女の子。昔の友達という可能性もあるけど、それにしては七五三の時に撮った写真のようだ。これは五歳か?


 今の目的とは関係ないので、引き続きゲームソフトを探す。

 

 机に紙が置いてあった。何枚も重なった紙。そこには大きく「大吉」と書かれてある。


 うちの脳内に駆け巡るは沢城神社。


 うちは早々に家へ帰り、カバンを投げ、五円玉とスマホだけ持って外へ飛び出す。沢城神社へ。


 スマホは地図用。五円玉は賽銭用。……五円はご縁だった気がする。


 けど……ないよりはマシか。


 神社に着くとすぐに賽銭を入れ、二礼二拍手一礼。


 願うことは一つ。


 「神様……どうか、友達を返してください」




 


 ――やっぱり何も起きない。


「はぁぁ……」


 ため息をついた瞬間、違和感。身体が軽い。いや、落ちてる。


 


――――――――――――――――――――――――


 


「うばぁぁぁぁぁぁ!? 死ぬ!? どうしよぉぉ!!」


 叫んだ声は風に飲まれ消えていく。けれど叫びながら、気付いた。


 景色が綺麗だ。


 本物だ。ここは夢の世界。うちは夢の世界にいる。


 鼓動が全身を叩くように鳴る。恐怖じゃない。興奮だった。落ちても死なない。根拠はないのに、その確信だけがあった。着地した瞬間、地面にひびが入った。けど痛くない。


 そして気付く。


 周囲には大勢の女性。

 視界のほとんどを占めるのはタオル姿の巨体の女性。


「きゃーー!! 変態よーー!!」


 叫びに合わせ、全員がうちを見た。

 ジャブが飛んでくる。

 殴られて――理解した。


 


 ――女湯(露天風呂)だ。


「待ってくださいよ!! 誤解ですって!!」


 両手を振り必死に否定するが、次はボディーブロー。壁まで吹っ飛び、石壁にひびが入る。意識が揺れるのに――痛みはない。


 


 その時、少女が現れた。うちを軽々と担ぎ、そのまま走る。体感じゃうちは軽いはずだが、少女は同い年くらいに見える。それなのに抱えたまま走るなんて、相当力がある。


 うちは安心したのか、そのまま意識は落ちた。


 


――――――――――――――――――――――――


 


 目が覚めると、洞窟の中だった。狭く、家具もなく、焚き火だけが灯っている。つまり――避難場所ってことか。


 近くには、うちを運んだ少女。


「ねぇ、なんで運んでくれたの?」


 素直に気になったことを聞いた。


「親切心……かな。死んだお母さんゆずりの」


 視線は落ち、地面に指先で線を描いている。嘘が混じってる気がする。でも、助けてくれた事実は本物。


「私はネル」


 名前を聞いて、あぁファンタジー世界だと実感する。


「ところで、ここどこ?」


 尋ねるとネルは眉をひそめた。


「ここはベガスディク領土の観光地だよ? 観光じゃないなら何しに来たの?」


 ――終わった。知らないのバレたか?


「あ、あー……空の上にあるケツからプリッと来たんだよ」


 ――言葉が口から出た瞬間、理解した。


(うち、今めちゃくちゃアホなこと言った)


 ネルは冷めた顔で言った。


「信じるわけないじゃん。そこまで馬鹿じゃないよ」


 心が刺さる。いや、折れる。


「まあいいや。ここ寿屋っていう温泉街。近くに火山あって、日本刀があるって噂。行ったことないけど」


「いやもっと世界観……とかを教えて?」


「は? ……じゃあ簡単に。ここベガスディク領土北部。世界の端。村もない。この大陸=ほぼ寿屋。以上」


(あ、ここ超有名スポットなんだな。)


 ふとネルが何かを思い出した顔をしてこちらを見た。


「……ねぇ、予定ある?」


「ないけど…」


 ――反射的に答えた。


 けど、正直に答えない方が良かったかもしれない。


「じゃあ冒険しない? 君、家ないでしょ。知識も無いし、一人より二人のが楽しいでしょ」


 ――怪しい。怪しいけど……正直、選択肢が他にない。何故ならうちはこの世界について何も知らない。元の世界で電車も碌に乗れなかったうちは、この世界をどう歩けるというのだ。


「まぁ、いいか」


「よし! 焚き火消えそうだし行こ!」


 こうして、うちはネルと旅を始めることになった。


 ただ、やっぱりこの人どこか怪しい。


 用心はしとこう。

 


        〜 第一話 完 〜

ご愛読ありがとうございます。


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