第十六話 反抗期
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
――作戦続行だ。
扉が閉じ切ろうとしていた時、誰かもう一人が書庫へ入ってきた。おそらく玄人組に潜入していると話に上がっていたギスターナだろう。
扉が閉じ切った後、うちらはライグに向かって走り出した。ライグの背後まで近づくと、ライグはうちらの存在に気がついた。
ニアスが殴り掛かろうとするも、その突きを避けてニアスを押し、後ろに下がった。
「……くはは! やはりそうか……。おかしいと思っていたんだ。――ここで殺してやるよ! マダグも! お前らも!」
カキンという音が聞こえた。多少距離のある窓から見える光景は、既に素人組と玄人組が交戦している最中。元々武装していた素人組が勝ると思ったが、流石はギャングと言うべきか、玄人組も素人組も負けず劣らずだ。
戦いの火蓋は切られた。
――と思った。でも、目の前にはもうライグはいなかった。
逃げた!? それとも超高速移動のアビリティ?
「親父の能力は透明化だ!」
それ今言う!? お金がな――いや、責めるのは後だ。後で泣きじゃくる程度に責めてやる。
「属性を付与する! 属性相性には気をつけろ!」
ギスターナは手で印を結んだ。すると、うちの胸の奥で何かが生まれた様な気がした。属性。何だ?
「そういえば! 属性ってどうしたらわかるの!?」
「そ れ は……殴ってみりゃわかるぜぇ!」
そういうと、ギスターナはマダグの顔に一発ぶっかました。マダグもそれをわかっているかの様に受け入れた。
「――ぐはっ!」
いや、訂正しよう。マダグはわかっていなかったかもしれない。戦いの最中だって言うのに結構強めで殴っていた。日頃の恨みってことか?
「ギス! ……やったなぁ?」
「――かはっ!」
マダグもギスターナに向かって一発ぶっ放した。
だが、何も起きなかった。属性による相性はなかったらしい。ということは、属性が噛み合っていない――それだけがわかる。
……あれ? ない……! 鍵がない! うちが持っていたのに! なくした……? いや、なくなったんだ。おそらくライグが持って行った。
――カチッ
その音とは他に轟音が鳴り響いた。もしかして……最深部の扉が開かれた……? 何で?
うちは思い出した。最深部への扉に近づいた時のあの時を。そしてわかった。うちはあの時、なぜ奥に進みたいと思ったのか。
それはみんなを守りたかったからだ。あの奥へ行ったら強くなれると思った。奥に何があるのかはわからない。それでもうちはみんなを守りたいんだ。
ライグは違う。あいつはただ強くなろうとしているだけだ。仲間なんて想っちゃいない。そんなやつの手に渡してはならない。先に手にするのはうちだ。
「ライグは多分最深部に向かっている! 後を追うぞ」
うちらは最深部へと続く最上階へと向かった。
――――――――――――――――――――――――
階段を駆け上がる際に思ったのはライグのこと。ライグは仲間のことなんて何も考えていないのだろう。
マダグは玄人組の組員について、ライグについて行っていると言っていた。それはおそらく、仲間思いや気配り屋だからと言う理由ではない。そもそもライグは組員のことなんて気にも止めていないのからな。カリスマ性だ。龍が◯くで見たことがある。真島さんと嶋野の関係と同じ様なものだろう。
そりゃ、ライグと組員の絆は素人組の様な、ストレイダーズの様な仲間との絆と比べれば高が知れているのだろう。あいつは自分の高みに酔いしれているんだ。強さの極致に辿り着きたいんだ。そんな気がする。同類ってわけじゃないけど、なぜかわかる。わかるんだ。
「見えた! ライグだ!」
マダグを筆頭に走る素人組とストレイダーズ(四人中二人不在)一行はさらに並走の速度をあげる。
ライグはアビリティを使っていなかった。と言うことは、時間制限付きでクールダウンがあるはずだ。逃げることからあまり戦いには向いていないと思われがちだが、されどギャングの親玉。ずっしりとした体格の内側には屈強な筋肉が身体の随所に見える。あれはあくまで最深部にいち早く向かうための焦りか。
マダグは並走をリードしていた。そのため一番先にライグの元へ着いたのはマダグだった。その上腕よりも長い目に見えない棒のような武器により繰り出される突きはライグへのリーチ範囲内を軽々と超えていた。
ライグは最深部の扉がある方向に吹き飛んだ。ここは一本道。長い長い渡り廊下だ。突きによりダメージを与えたものの余計に扉へ吹き飛んだため、うちはライグが横に逸れるように避けることができなかったものか、と心の中で非難した。
「あっれ? 親父ぃ……俺らのこと殺すんじゃなかったのかよ……」
言葉には棘があったものの、マダグの言い方には寸分の躊躇が見えた。
「あぁ殺すぜ。本を取ってから殺してやろうかと思ったけど、今ここで殺すことにしたよ」
本……? 何のことだ? こいつにも見たい本が存在するのか? いや、違う。最深部にあるものがその本なんだ。ここは書庫。思考する必要もなかったのかもしれない。
でも、その本で何ができるってんだ。もちろん強くなることだろう。うち自身がそう感じ取っていた。
またしてもライグは消えた。
一瞬うちの脳裏に浮かんだ情景はライグが再び扉へ向かうことだ。それだとさっきの言葉が卑怯でありつつも万策を有している者の言葉にも聞こえるが、そこまでの小悪党ではない。と、願いたい。
マダグが一歩前に出た、その瞬間だった。
――ぐはっ!
吹き飛ばされた巨体が視界を横切る。
するとそこから一番近いギスターナが動く。ライグに大きく振りかぶった足はライグに受け止められる。ただしライグの身体はその体重を受け止めきれなかったのか、またしても吹っ飛ぶ。
ライグの身体が軽いのか? いや、おそらく能力によるものだ。その理論が通ればマダグとギスターナは風属性であり、ライグは雷属性だということがわかるか。
そしてまたライグは消える。
躍動感溢れる足音が聞こえ、聞こえなくなった頃には目の前にいたニアスが殴られている。
吹っ飛びはしなかった。その代わりに身体が硬直している。ニアスは水属性か。
そしてまたライグは消える。
――次はうち……? 来るか?
そう身構えていた。左右を警戒しつつ腕でガードを作る。
――うぐっ!
背後に来ていた。そして前に吹っ飛ぶ。
うちは水属性ではないか。そう思ったのも束の間、顎を集中して殴られる。浅い脳震盪を起こした。
(まずい……)
するとライグの横から殴りを入れてきたのはギスターナ。そのままライグの頭を床に叩きつけようとしたのか頭を手の甲に接して下向きに力を入れる。
確かに頭は吹っ飛んだ。ライグの頭は床へまっしぐらだった。
だが、ギスターナの腕を空中で掴みしがみついた。そして身体を反転させてギスターナの腕を変な方向へと曲がらせた。
ゴキっという音と共に断末魔をあげるギスターナは床に這いつくばった。
うちはライグへと殴りかかった。
だが、清々しいほどに綺麗に避けられた。終いにはうちの腕を掴み頭を振る。頭突きを狙っていたのだろう。
だがうちの狙いは終わっていない。うちにはライグの背後へ忍び込むニアスが見える。
ニアスはライグの髪の毛を鷲掴みにし、後ろへ引き摺り込んだ。すると繰り出すのは床についた足からの回し蹴り。
うちには見えた。ニアスの足がライグの鼻にめり込み、ライグが鼻血を出しているのを。確かにニアスの足はライグの鼻に当たっていた。
ただし次の瞬間、ライグは消え、ニアスの蹴りが加速した。ニアスの足はライグの残像を通り過ぎた。
すると再びライグが現れ、ニアスの頭を腕で下に叩きつけた。白眼を向くニアスは戦闘不能か、そうじゃなかったとしても戦いには致命傷だった。
……ん? 待てよ……?
――――――――――――――――――――――――
やばい……負ける……? 負けるのか?
動け……動けよ……俺の足、動け!
……嫌だ。俺は親父にあんだけ策を練った。仲間も集めた。なのに……母さんを殺したやつにすら勝てねぇのかよ。
俺の心が憎悪に染まって10年……10年だ。俺の青春をこれのために注いだ。親父のことを考えただけで虫唾が走る反吐が出る気持ち悪い。そう思っていた。
たった今、俺の心は今まで憎悪から恐怖に感染する。
尻餅をついた。手先が震える。情けなくも手を床に着きながら後ろに下がる。あぁ……こんなにダサかったんだな。俺って。
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思えば、俺は誰よりも子供っぽかった。
「母さん母さん! 見て見て、ギスターナの歯」
「ちょっと、そんなのどこから持ってきたのよ」
母はいつも口下手だった。こんなことを言っておきながら表情はいつも笑顔で、俺はそんな母さんの笑顔が好きだった。
ダメよダメよと言うが、毎日のように母さんにお気に入りの公園に連れてってもらって、ちゃっかりお弁当まで用意しちゃってて、お昼はそこで食べる。公園といってもブランコがポツンと立っているだけの空き地に過ぎない。けど、なんだか弁当は味気なかった。
――俺はある日、親父が母さんを殺しているところを目撃した。
「え……?」
雨の日だった。親父の手には包丁が握られており、母さんは血を流して倒れている。二人の表情は見えない。俺は一瞬、ただちょっと血が流れちゃっただけだと思った。親父と母さんが遊んでいるうちに誤って刺しちゃっただけだと。いや、そう思いたかっただけだ。
「母さん……母さん!」
気づいた時にはもう母さんの隣に来ていた。子供の俺は知らなかった。怪我人の体を揺さぶってはいけない。死体を触ってはいけない。その他にもしちゃいけないことを沢山した。
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親父も別に殺したかったわけじゃない。それはわかってる。実際に親父は母さんを殺す前までは大人しい人だった。ギャングに関係を持たせまいとしていたから、素っ気ない態度を取っていたんだ。
だが、そこからだった。その日から親父の何かが変わり始めた。制御システムのネジが外れるかのように、急に豹変したのだ。
包丁を持った状態で、立った状態で、親父は笑っていた。それも大笑いとはいかない全てを投げ出したかのような、諦めた奴の笑い方だ。
子供の俺にはそれがトラウマでしかなかった。最近親父に会っていなかった。そのせいで、過去のトラウマが今蘇ったのだ。
母さんが死んで、ライグへの憎悪はある。でも、それよりも嫌悪が増してくるんだ。今まで大好きだった壊れたおもちゃで遊ぶような不安感がする。
怖い。来るな……こっちに来るな。親父は見えない。でも、近づいていると思ったら体の震えが増すばかりだ。俺には……こいつは倒せないのか……?
「うあああ゙あ゙!」
ギスは親父に殴りかかった。それでも威力は足りず吹っ飛びはしたが、怯まない。親父まずギスを潰そうと思ったのかギスのもう一本の腕を折った。
またも断末魔がこの廊下に響き渡る。ギスは歯を食いしばった。ギスは腕が使い物にならなくとも親父に立ち向かう。
――なんで……? こいつは怖くないのか……? 俺は怖い。怖いんだよ。それが普通なんじゃないのか。わからない。俺は……子供だ……。
ギスを見つめているうちに思い出した。
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「見て見てぇ! もうオ↑レ↓の歯、大人の歯だもんねぇ」
「いいなぁ! 俺、まだ生え変わってないんだ。もう一生歯が生え変わることはないのかなぁ……」
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あれからギスの歯はまだ生え変わっていないって聞いた。俺は子供だから怖いんじゃない……ただ怖いだけだ。でも、ギスは怖いけど立ち向かっているんだ。
俺は子供だからと自分の足が動かないことを正当化していただけだ。怖くて、痛くて、逃げる理由を探していた。
でも、ギスは違う。ギスは俺のずっとそばにいた。いてくれた。だったらわかるだろ!! ギスは俺よりも……ずっとずっと子供だ! 大人気なく自慢話をしてくるところも、勝負事になると手加減ができないところも、全部俺より子供だった!
「マダグ!!」
シロの声だ。
「お前が一番有効打だ! 頼みたいことがある!」
――そうだ。俺はこんなところでウジウジしている場合じゃない。俺が計画して、俺が決意したのに責任丸投げかよカッコ悪りぃ。ここで投げたら、こいつらが死ぬ。こいつらを守るのは俺だ。俺でありたい。
俺は立ち上がった。今も怖い……怖いさ。床から伸びる手が俺を引っ張っているみたいだ。でも、子供は立ち上がってこそ成長ができるもんだろ。
「親父……俺、反抗期って……来てねぇよなぁ……」
〜 第十六話 完 〜
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