第十四話 男と漢 ドキドキサウナ室
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
――あれは拳銃を持つ手!
「避けろ! ニアス!」
そう言いながらニアスに向かって飛び出した。だがあの至近距離。間に合うはずがない! 頼む……避けてくれ!
――カチッ!
その音が出た瞬間鳥肌がたった。銃のトリガーを引く音だ。銃口はニアスの頭に向いていた。あの至近距離で外すわけがない。
だが、その音が出たと同時に放たれるはずの音は放たれていなかった。
音はトリガーが引かれた音だけであり、発砲音、つまりはバンという音が出なかった。これは銃弾が発射されなかったことを意味する。
弾切れか? 好都合だ……!
ニアスに向かっていた体を素早く方向転換させ、うちは奴の手に目掛けて蹴りを入れた。
奴はニアスに夢中になっていたのかうちのことは気がついていなかった。カチャという音と共に手の形が変わっていった。あれは自然体。ということは銃を離した。
いや、おそらく銃ではないのだろう。カチャという音がするし構え方も銃っぽいが、この世界には銃があるのかはわからない。
蹴りの反動で倒れそうになったうちは地面に手を着いてもう一足で奴の顔面に回し蹴りを入れた。
――うぐっ!
ここの世界の住民は革靴を履いていたが現実の革靴のような分厚いものではなかった。対してうちはスニーカー。底が硬く頑丈に作られているため遠心力によって強化された蹴りは一線を画す。
スニーカー……?
――はっ!
思いついたぞ! 今の技を《スニーキック》と名付けよう! 即興だからダサいかもだけど由来は完璧だ。今、奴に近づいてもうちは気づかれていなかった。スニークという言葉に由来するスニーカーは革靴と比べて音が少ないのだ。
これを祈ってもう一度やってみよう!
うちは再び奴に近づいた。奴からは鼻血が出ている。やはりさっきの蹴りが効いた証だ。そして今から技名+祈りの蹴りを見せてやる!
「我が一足に強大な力を宿せ!」
――いくぞ! そう思った瞬間奴が何かを言おうとした。
「待て! 俺は別に――」
「《スニーキック》!」
すると足が白く広範囲に光り、奴はゴキゴキという音を立てて白目を向きながら蹴られた方向とは逆の方向に奴は倒れていった。
え? 何? 何言おうとしたの!? 気になりすぎる!
「え? なんか言おうとしてなかった?」
「やっぱり?」
ネルも気づいたらしい。……というか今更出てくるのかよ。
ということで、うちらはこいつから話を聞き出すために待機した。
――――――――――――――――――――――――
――シロ達が擎慄頼から離れて3時間後。
「よぉ! メト。やってるかぁ?」
シラゾノが擎慄頼にやってきた。だがシラゾノは何か異変を感じ取る。目の前には師範代。腐れ縁という奴だろうか。幼少の頃を共に過ごしたシラゾノはは師範代のことをメトと読んでいるのだ。だが、ニアスは見当たらない。
「やってねぇよ。」
シラゾノが探しているのはニアスだ。船の中でシラゾノはニアスに擎慄頼を紹介したはずだがニアス達はいなかった。
「え? 何でヨ?」
大体予想はつく。一度ここには来ただろう。砂に足跡があったのだ。跡の数と歩数の幅の計算からすると四人。ここから少し遠くにはもう一人の跡があるが集団で行動しているのは四人。シロ一行だ。
そして予想というのはシロについてだ。ニアスはシロについていた。だからいつでもどこでも一緒なのだろう。あの二人の匂いはどこか同じものを感じる。おそらく同室で過ごすほど仲がいいのだろう。そんなことを思っている。同室で過ごすのは図星であるが同室の理由はお金がないからであった。そのため実際より余計に仲良し判定を受けた。
シロはアビリティを持っている。が、夢がない。
前にニアスが言った。アビリティとはその人が少しだけ願った夢の形であると。つまり幻想を抱くものこそアビリティを有するのだ。世間では風の噂に過ぎないと侮辱する風潮があるがそれは本当だ。
シロは五感者であるためアビリティを持っているが、今はまだアビリティを持つに値しないのだ。
「あいつには夢がない……」
メトは夢を持つものにしか知恵を授けない。それはつまらないからという理由もあるが、そもそもメトはアビリティを使った戦い方を教えるための師範なのだ。
「そんなこと言ってるといつまで経っても弟子ができないんじゃないのか……?」
シラゾノは心配する。今までメトは弟子を取ったことはあるが片手で数えられる程の人数だ。どこからメトが飲み食いをできるお金が出てくるのかがわからない。
「横にいた意地っ張りそうな女の子も夢がなかったが……穏やかそうな女の子は鍛え甲斐がありそうだ」
「それ……ただお前が可愛い女の子に手取り足取り教えたいだけじゃないのか?」
「それも……あるかもな」
シラゾノは「これは確実にあの女の子のこと気に入ったな」と思ったのだった。
――――――――――――――――――――――――
――うちらが銃の奴を倒しちゃってからニアスが手の痛みに慣れ始めた頃。
「うう……うぅ」
そう言いながら目を段々と開ける銃の奴。それに警戒しながら観察をするうちらの周りには不穏な空気が漂っていた。
「お前……少しは手加減しろよ……」
奴はうちに蹴られたところを触り、痛がった。わざとじゃなかったんだ。多少はアドレナリンのせいもあってか力を入れ過ぎちゃったかもしれないけど。
「お前のとこのギャング、悪名高いそうじゃん。そんなの相手に手加減とか……」
これがうちにできる最大限の言い訳だった。
「グローブのことか……? 確かに俺らはグローブだけど、ちょっと違うんだ」
「え?」
「俺の名前はマダグローブ。マダグでいい」
……!! うちらはこいつを知っているクレイデンに掲載されていた犯罪者だ。見た目はクレイデンに掲載されている通り、手には二つの指輪が填められていて、結構イケメンだ。
「お前らが知ってるグローブは玄人組って呼ばれる……一世代前のグローブだ。俺の親がそれだ」
「じゃあマダグは?」
「俺は素人組。だから過激なグローブは一世代前のグローブ達のことなんだよ」
「え? 何でそんな制度あるんだよ。ギャングってやりたい放題な奴らの集まりじゃないの?」
「別に制度ってわけじゃない。お前らの言い分はよくわかる。俺もそれには賛成だ」
「やりたい放題って思想に?」
「そうだ。玄人組はやんちゃしてたよ。人殺しなんて当たり前。中には一日一回誰かを拷問しなきゃ気が済まない、なんて奴もいた」
「俺らは別にそんなのに賛成した覚えはないぞ!」
「わぁてるよ、話聞け。素人組はそれに反対した奴らの集まりだ。俺らの世代のグローブと、一世代前だけど素人組に反対している奴も入ってる」
「要は親子喧嘩ってこと?」
「まぁそんな感じだ」
そして玄人組がここ大書庫イスベルトの最深部にある本を奪いに行こうとしていたらしい。擎慄頼で亡くなったあの人は素人組の人だった。
そしてその玄人組を止めるために素人組が立ち上がったというわけで、マダグ達はイスベルトの中で客を非難させていたようだ。マダグはうちらに避難させようとしたが何も聞いていなかったから最終的に暴力沙汰になってしまったという。ちゃんと聞いてればこんなことにはならなかったのに。やっちまったぜ。
あと、グローブはマダグの親父のライグローブから取った名前らしい。
「鍵、持ってきてよかったね」
クハパリがさっきのニアスとうちの言い合いが作った空気を紛らわそうとしたのか、ポジティブなことを言ってくれた。
「よかったの? 狙われちゃうよ?」
まぁ亡くなっちゃった人の死体を探られて見つけられるよりはマシか。……でもなんかムカつく。
――――――――――――――――――――――――
うちらはマダグと一緒に書庫の門を潜った。入り口を叩くと巨大な扉が開いた。そのまま中に進む。中は何をエネルギーとして発しているのかがわからない光が神々しく光っていた。
マダグが避難させたって言ってたけど……全然静かじゃないぞ。グローブの奴らがいるのか? 図書館ではお静かにってのがマナーだぜ。……この世界にはそんな常識ないのか?
目の前にはアンドロイドっぽいお姉さんがいる。クハパリが話ていた探している本を持ってきてくれる機械か。
それにしてもこの機械、容姿端麗だ。もちろん機械だから叶うことはないけど、現実にいたら娶りたいぐらいだ。まぁ一番娶りたいのはクハパリなんだけどね。
ん? 体の横の形が歪だな。……鍵穴? あー、それもクハパリが言ってたな。うちらが持っている鍵を入れると最深部への扉が開かれる……みたいな。
「おい! マダグ! 一般人は避難させとけって言ったろ!」
マダグの名を呼んで叱るやつが現れた。こいつもグローブの素人組の一員だろ。マダグのことをあだ名で呼んでるし叱ってるし。
「ちげぇよ。……えーと、協力してくれるってことでいいんだっけ?」
協力? まぁ図書館行ってこいとは言われてたけど、協力するって話だったか?
「あぁ。報酬をくれるって話だったしな」
そーーーなの? 知らないんですけど? まぁこっちとしては願ってもない話だけど……。
「ってことだ。こいつらも含めて作戦会議だ。全員戻ってきたらやるぞ」
そういうとその場複数名のグローブが気合の入った声で呼応した。
すげぇ統率力だ。一応マダグが素人組のリーダーなのか? っていうか、多分こいつの親がグローブのリーダーなんだよな。何にせよ統率者として向いていなきゃこの統率は図れない。
「それまでどうしてよっか?」
クハパリ質問を投げかけた。図書館は別に好きでも何でもないけど回ってみたい。こんな巨大なんだ。これを見るのもいい経験だろう。それにわからないこともたくさんある。
「一階から回ろうよ!」
「そうだな。あ、でも俺読みたい本があったんだぁ! 同行はパスで!」
ニアスは意外と読書家なのか。最初に会った時といいやっぱり連れないよな。でも、マイペースと褒めるべきかもしれない。この自分勝手のおかげでニアスは自分の考えを一貫することができると思う。現にうちらは何度もニアスの考えに同調してきた。今回は許してやるか。
「ネルは?」
「私? 寝てようかなぁ。本に囲まれてると嫌気がさす。尤も別に眠いわけじゃないけど。」
こいつに関してはニアスと同じく自分勝手だけど褒めるところがない。こういう奴を怠惰というのだ。ニアスは本を読んで学をつけようとしている。小説も学問に精通しているからな。こいつはただ寝ているだけだ。寝る必要がないのに。
「じゃあ行こっか!」
クハパリが微笑みながら笑った。
――うちはその瞬間胸がドキッとした。
――――――――――――――――――――――――
一階を見終わった後、二階に上がる階段を見つけた。うちはなるべく息を切らしていると悟られないようにゆっくり呼吸をした。体力がない奴って思われたくない。中学生特有のプライドというやつだろうか。
クハパリは息を切らしている。あまり体力がないのか。じゃあ戦闘の時に何時もいないのは正解かもしれない。
――うちはネルの荒い息に目を奪われていた。
「わはぁ! 見て見て! グリンピース大豆丸の本だよ! 私これ好きだったんだよねぇ!」
――でしょうね……。
「わはぁ! 見て見て! お菓子を作る12のコツだよ! 私これ好きだったんだよねぇ!」
――でしょうね……。
「わはぁ! 見て見て! 男と漢ドキドキサウナ室だよ! 私これ好きなんだよねぇ!」
――え?
そう聞くとどんな本なのかが気になってしまった。内容を確認するべく男と漢ドキドキサウナ室を取ろうとした。
――その瞬間、クハパリの手が触れてしまった。
慌てて手を下げて照れながら男と漢ドキドキサウナ室をお互いに譲り合った。いつもならこんな本は譲りたくもなかったのに……。
お互い歩き出した。気まずさによる静寂も続いた。
異様な暑さを感じた。顔の火照りだった。暑い。うちは咄嗟に手で頬を触った。
――さっきから何だこの感覚!? さっきも胸がドキっとした。この感覚は猫の動画を眺めている時以来だ。
そんな感じで、他の階を移動しつつ色々な作品を見てみた。中には三翼戦争について書かれた文献や地口教の教えなんかの本もあった。結構色々この旅で学んだことがあるから、こういう学んだものが出てくると嬉しいなぁ。
「――ねぇ。何だと思う? この部屋」
そう言いクハパリは立ち尽くした。そしてうちの歩みも止まった。何という禍々しいオーラ。うちは直感で分かった。
「最深部に続く扉……かな」
そして――分かった。何故こんなでかい扉がこの図書館に存在するのか。在庫が山ほどあるから保管しているわけではない。重要な情報が入った資料を保管するためでもない。
――奥にあるのは装石具なんだ。それも禁忌とされるような、何か邪悪なものを閉じ込めるための……。
〜 第十四話 完 〜
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