第十三話 宙を舞う鍵
作品をのぞいていただきありがとうございます。
最後まで楽しんでいただけるように頑張ります。
(――血!? 千鳥足なのは今にも倒れそうだからか!)
うちらはすかさず血を流した男の人に近寄った。ニアスはその人の頭と体を支えて、状況を聞き出しやすいように彼が安心して話せる体勢を取らせた。
彼が安堵すると目を瞑り今にも気絶しそうだった。けれど、気を保ったのかニアスの顔を見た。
「グローブだ……。大書庫イスベルトに……乗り込んできやがった……」
「グローブ……?」
うちがそう呟くとニアスが教えてくれる。
「ギャングは世界各国にいる。ここネヴキュベートにもだ。ネヴキュベートの中で悪名と名高いギャングがグローブだ。」
グローブは手に装着する物の方ではなくギャング名だったのか。この人は書庫からここまで歩いてきたのか……。距離があると聞いていたのに……すごいなぁ。そしてそのギャングが書庫に乗り込んできたと……。
――ギャングが書庫に乗り込んだ!? 何のために? うちらも……乗り込もうとした訳じゃなくても行こうとはしてたけど。ただ単に入りたかったのか?
「これを……! 書庫の、最深部の鍵だ。奴らに渡してはならない……!」
彼は手に持っていた鍵をニアスに手渡す。それをニアスは真摯に受け取り、彼の手を握り包んだ。
「大丈夫だ。俺らが必ずこの鍵を守ってみせる!」
ニアスのぞんざいな振る舞いで安心したのか、そのまま彼は気を失っていった。……死んだ訳じゃないよな? うちは彼の腕を借り手首の脈を測った。
――死んでいる……
クハパリは同情し悲しそうに何かを祈る。こんな時でも冷静にお祈りをする。修道女の鏡だ。ネルもこのような場では馴染んでいた。普段から素行が目立つ彼女でも、こんな時には慈悲をかける。ニアスはその人の手をそっと地面に撫で下ろした。
ん? ちょっと待て。これ厄介ごとを押し付けられている気がするんだが……。
「なっ――!」
うちはニアスから鍵を奪った。そしてそのまま明日の方向に向けて力尽くで放り投げた。空中で舞う銀色の鍵は最初こそ輝いており場所も明確だったが、辺り一帯は草むらが生い茂っておりいつの間にか行方不明なっていた。
「……いっけね☆ 手が滑った!」
そう言いながらウィンクをするうちにニアスは茫然自失。刹那の静寂が流れた後にニアスが我に返った。
「お前ぇ!! 何してんだ! あれは彼が死に際に残した物なんだぞ――」
適当に相槌を打ちながらニアスが落ち着くのを待った。ニアスは恐らく目の前で人が死ぬのが初めてなんだろう。
ゲームで多少の耐性はついてたけど、やっぱりリアルとなるときついものがある。段々と呼吸が荒くなり不規則になって、体が冷たくなっていくんだ。生々しいにも程がある。しかもそれが想像できてしまう。うー、怖ぇ。
――ニアスが落ち着いた。
「こうするべきだ! あいつは守ってくれって言ったんじゃない。渡すなって言ったんだ! うちらが持っていたらそのグローブって奴らに追いかけ回されるだけだぞ。『この倒れてるやつに近づいた鍵を持っている者達』って追われるより、あいつらに草むらの中を探させた方がマシだ!」
「船の中に人の心を忘れてきたのかよ!? 彼が守ってくれと言ってなくとも彼は俺らに手渡したんだ! 察しろよ! 大体彼の死体の近くに投げるのが一番悪手だ。だったら海とかに投げるべきだった!」
「そもそもうちらは関係ないだろ! 人が死んで同情するのはいいが任されたからって何主人公ぶってんだよ!」
うちらの言い合いにネルが横で止めようとしてくれている。ニアスに夢中で目の前しか見えていなかったがクハパリもオドオドと心配をしてくれている。
殴り合いの喧嘩には発展しないとは思うが止めるのは必然だろう。だが、うちはネルの行動にも腹を立てている。ここで今白黒ハッキリしておいた方がいい。この世界は頻繁に人が死にそうだ。この先他人や身内が死んだ時の行動をすぐに選択することができるからな。
今回に関してはうちが正しいと思っている。確かに彼がここまで歩いて鍵を死守したことをそこら辺に捨てただけならグローブの奴らにすぐ取られて彼が死守してきた意味がなくなってしまう。尊厳破壊だ。
だが、そもそもうちらはこの事件に関係がない。グローブに恨み嫉みを持っているわけでもこの死んでいった人との仲のいい記憶もない、ましてや初対面だ。
何でニアスがこんなにこの人の死に執着があるのかはわからないけど、そのせいでみんなが死ぬのは最悪だ。もちろんニアスも含めてだ。
「――ってゆうか、お前こそ何で目の前で人が死んだのに冷静でいられるんだよ!」
「なっ!……それは――」
反論しようとしたが横から聞き覚えのある……めちゃくちゃ最近……っていうかさっき聞いた声が聞こえてきた。
「その事件を解決したら弟子にお前諸共迎えてやってもいいぞ。」
擎慄頼の師範代だ。
「任せro 」
うちは自信満々に答えた。
――――――――――――――――――――――――
ニアスは不満そうだった。最後まで答えが聞けなかったからか、うちの掌を返す速さが尋常ではなかったからか。恐らく両方だろ。
あの後うちが一人で必死に鍵を探す羽目になった。どこにいったのかは目で追って大体の場所は把握していたから鍵が落ちた場所を手で探ることになった。見つけた時には手が土で汚れており洗いたいと頼んだが許してはもらえなかった。
それにしても何で擎慄頼の師範代はあんなことを言い出したのだろうか。何だっけ……大書庫イスベルト……? そこを気に入っているのか? わからない。でも本は読んでそうな感じだった。……別に本を読んでいたって書庫が大好きなわけじゃないと思うけどね。
また移動して、時には休憩をしたりクハパリにマッサージをしてもらって――ついに大書庫イスベルトに到着した!
「ここが大書庫イスベルト……!」
大きく聳え立つ石門は圧巻の威圧感を発しており、巨大な要塞のようにも見えた。大きさは200m離れていればやっとテッペンが見える程だ。最長の建物には巨大な時計があり学校を彷彿とさせるような形だ。辺りは森に囲まれており、今うちらがいるところだけ植物が生えていなかった。
「この中に入るとね、目の前に案内人がいて指定した本やキーワードを探して目の前に出してくれるらしいよ。それで、案内人は機械仕掛けで心も思考も持たずただひたすらに本を探してくれる機械ってだけだって。今私たちが持っているその鍵をその機械の穴に差し込むと最新部への扉が開くらしいんだ」
クハパリが悠長に説明してくれた。どこかの回覧板とかで見たのかな。
「へースッゲェ」
「でしょお!」
うちは棒読みで薄い感想を述べた。するとクハパリは自信満々げにそう言ってきた。別にクハパリが作ったわけじゃないけどね。
でも、やっぱりこの世界には機会があるんだな。けど電気なんてなかったぞ? カンケルに捕まった時は電流が流されて麻痺したんじゃなくて、なんかクリームのようなものが塗ってあった。
そもそも太陽も月もない。朝は太陽がなくとも明るくて、晴天は水色をしている。夜になると赤い色をした空になり不穏な空気が漂うが辺りが見えないなんて支障はない。
――一体何がこの世界のエネルギーなんだ。
そう思っていると横から音もなく誰かがやってきた。
「誰だテメェら」
彼は警戒の目でこちらを見つめる。だが警戒しているのはこちらも同じ。彼は何かを持っている。自然体ではないのだ。服の裏に手を置いているから何を持っているのかはわからない。が、服の裏に隠せるぐらいのサイズだろう。恐らくナイフやメリケンサックといったところか。こいつがグローブってヤツなら本当にグローブを持っているかもしれない。
いや! もしかしたらこいつもアビリティを持っているかもしれない! 忘れていた。やはりまだこの世界に馴染めていない。今まで戦ってきた奴らがアビリティ持ちだけどそもそもアビリティを知らなかった時期に戦ったやつと、でかい機械と、でかいイカだったから忘れていた。いや、敵地味だな。
だが……だとしたら何だ? アイテムを最小化できる能力だったら服の裏に最小化した剣やハンマーを隠せるかもしれない。だったらあの体勢にも合点がいく。
それかポケットを四次元にする能力が!? どこかで聞いたことがある。だとすると服の裏のポケットを四次元にしてそこからアイテムを取り出していると考えると、これまたあの体勢に合点がいく。
いや待て、ただアイテムを出そうとしているだけで、想像しているのとは別にアビリティがあるのかもしれない。だとしたらなんだ?
アビリティ持ちとアビリティ持ちの戦いは初めてだった。だから刹那の思考で多数の考えが浮かんだ。こういう時のノウハウがわからない。
そんなことを考えているとグローブの一員と思われる男がいった。
「――無視しやがって……! まぁいいここから退せばいいだけだ!」
無視? 無視したつもりはない。もしかして考えている間に何か言っていたのかな。ごめんちゃい。
すると奴の服に隠していた手が動く……が彼は何も持っていない。じゃあさっきの行動は何だ!? まさかうちらに武器ありの敵と思われるための行動か?
奴はこちらに走り込んできた。びっくりしたうちは後方に移動してしまったがニアスは違った。ニアスも奴に走り込み、奴の拳を受け止めた。そのまま腕を流していくのかと思っていた。
――血!?
ニアスは手から血を出していたのだ。切り傷だ。奴は武器を持っていないはずだろ!? 拳で殴って切り傷ができるか!?
そう思い奴の拳を見てみた。
――何だその手……!
奴は殴ったのではない。通常拳で殴る際には人差し指と中指を主に使用する。そのため必然的にその指が相手に向くはずだ。だが、奴の指の向きは下を向いている。というか拳ではない。代わりにニアスに向けられていたのは筒を持つような手の形だった。
(何かを持つような仕草、なのに何も持っていない……?)
その現状である仮説が浮かんだ。
(道具を透明にするアビリティか……!!)
これは言うべきなのか……? 一方的にアビリティを知っているというアドバンテージにするか、知られていないと思わせて実は知っていたと言う状況にするべきか。クソッ! 研鑽が足らなすぎる!
……いや、なるべく傷を増やして戦わない方が人数的にも強く出られるだろう。
そう思いうちは大声で奴にもニアスにも聞こえる声で言った。
「もしかしたらだけど! そいつ道具を透明化させる能力かもしれない! そうだとしたらそいつが使うのはナイフ類だ! 剣先があると思って避けろ!」
余計だったか……? いや、むしろ好都合か。もしこの説が違っていてそのことに後からうちらが気付けば、相手は「あいつ、まだアビリティの術式を間違っているぜ」と思わせることができる。そうすればその油断を突いて倒すことができるかもしれない……!
ニアスは承知の顔になり一旦後ろへ退いた。だが、額に汗をかいていた。ごめんな、ニアス。痛い思いをさせてしまった。ナイフで刺されるなんてどれほど痛いのだろう。
と、思っていたが、奴がハンマー投げのようにブンブン回ると左腕に何か違和感があった。そしてそのまま右に吹っ飛んだ。
何をされた……!? やはり全くわからない! 一旦うちも距離を取ろう!
そう思い後方へさがった。
――説は間違っていたのか? いやでも、途中までは仮説は合っていたはずだ。一様に決めつけるのは良くないな。もう少し観察だ。
辺りを見てみよう。辺りには草木に囲まれている……が、近くにはない。……! ネルとクハパリめ! いつものようにどこか行きやがって! 今回に関してはクハパリは誰かを呼びにいくようなことはできないと思うからただ逃げただけだろう。
他には……何もない。と言うことは何か機転の効かせた攻撃はできないだろう。石ころを投げるとか。
すると奴がまた走り込んできやがった。またナイフを刺そうとしているのか?
そう思っていた。だが、ナイフが当たるような距離ではないのに体が後方へと吹っ飛ばされた。
(今回も違うかもしれない。でも、何か案を出さなきゃやられる!)
そう思い口にした。
「わからないけど! ……透明なアイテムを取り出す能力じゃないか!」
「今度は本当?」
わからない。わからないんだ。ただ仮説ってだけだ。でも、さっきよりは確信がある。芯に近づくほど確信が出てくるんだ。アビリティ持ちとの対決って毎回こうなのか? お願いだ、当たっててくれ。
そう思い奴の方をみた。苦い顔をしていた。何なら舌打ちまでしていた。……これは当たりか? 当たり……だよな!
(よし! あとは押し切るだけだ!)
もしかしたら演技で苦い顔をしていたのかもしれないが、この際もうどうだっていい。ただ自信がついた。
ニアスが奴に向かって砂を投げた。奴は目をくらませて目を弄る。その間に前蹴りをして吹っ飛ばし怯ませた。そしてまた突っ込んでそのまま連突きをする。
いいぞいける! このまま押し切れ!
そう思った次の瞬間ニアスは奴に隙を突かれ押された。尻をついたニアスとうちが見たのは奴が親指と人差し指を少し丸め、他の指を丸めた手の形だった。
それは、拳銃を持つ手だった。
〜 第十三話 完 〜
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