第九話 ぼくが女の子!?
たどり着いたダンジョンで俺は、度肝を抜く羽目になる。
「……なんじゃこりゃぁ!?」
自分の服装が――女の子のそれに、変わっていたからだ。
「ゆうせいくん? 大丈夫?」
「は! あ、えっと、だ、大丈夫……!」
思わず漏れ出てしまった素の自分を何とか押し殺し、俺は改めて自分の姿を見た。
白いフリフリのスカートに、ブラウスらしき上着。どこからどう見ても、やっぱり女の子のそれだ。
隣を見れば、かいとも短髪にそぐわないワンピース姿になっていた。
これは一体、どういうことなのか——。
「我が家のダンジョンがどうして出来てしまったのかは、誰にも分からないんです」
「そうなんですね……」
かいとの両親の言葉に頷いたのは、件の保育士だった。
俺、かいと、保育士の三人は、揃ってかいとの自宅に来ている。
降園後、保護者代わりに着いてきてくれている保育士には、感謝してもしきれない。
実際、この姿で夜に彷徨くのはあまりにも目立つので、当然と言えば当然ではあった。
しかし、俺の両親の不在が露呈したときの保育園の混乱は相当なものだったな――と、俺は今更ながらに思い出す。
大人からの質問攻めを「大丈夫です!」の一点張りで強引に突破。
やがて保育園に通うことが決まるまでの間も、保育士たちの心配性ゆえのアプローチはしばらく続いていたな――と思い返していた俺は、ちらりと横目に見たかいとの姿に、違和感を抱く。
「……」
母親たちの会話を、一見いつもどおりの顔で聞いている――今日初対面の俺に〝いつも通り〟が分かるのか、という点は棚に上げるとして――彼は、どことなく上の空な気がして。
「あの……」
会話が談笑に発展しかけていた大人たちを遮り、俺はおずおずと片手を上げる。
「とりあえず、入ってみてもいいですか? かいとくん達も、もう何度も入ってるんですよね?」
「うん。びっくりするかもしれないけれど……危険なことは起きないから、安心してくれていいよ」
びっくりするけれど、危険なことは起きない――まさかこんなダンジョンだったとは。
「……いや、だろ? こんな格好……だから攻略しに来てくれた人も帰っちゃうんだ」
「確かにまぁ……ちょっとびっくりするね……」
入った途端女の子の格好になる世界。一体それは、どんなストレスや悩みが根底にあるのか——。
俺はスカート姿のまま、じっと考え込んだ。かいとはそんな俺の隣で、所在なさげに佇んでいる。
「……あのさ」
「うん?」
「女の子になっちゃうだけなら……女の子が攻略に来れば、いいんじゃないの?」
「ううん。だめなんだ」
「だめ?」
かいとはワンピースの裾を引っ張りながら答えた。
「ママがここに入ると、髭が生えて、男の人みたいになるんだ」
「え……!?」
つまり、こういうことだ。
このダンジョンは、女が入れば男のようになり、男が入れば女のようになる。そんなダンジョンの中で、俺たちは何らかの悩みを解決しなければいけない。
ならばその悩みの根底とは――。
「……ねぇ、かいとくん」
「うん?」
「……あのね。……上手く、言えないんだけど」
「うん」
「君は……好きなの?」
かいとの視線が、真っ直ぐにこちらを向いて静止する。
ワンピースの裾を持っていた手も、固まったままだ。
「……好きって、なにが?」
にへら、と笑ってそう問い返す姿に、俺は――僅かな、痛みを覚えた。
ここまで読んでくれて、ありがとう。
俺の旅路はまだまだ続いていく。
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俺が自分の心と向き合えるように――勇気を、分けてくれないか?