第六話 いざ尋常に、勝負!
俺はキョロキョロと辺りを見回した。
そうして見つけ出す。畑の一角にポツンと設置された、小さな小屋――。
俺の考えが正しければ、あそこにはある。
このダンジョンを攻略する、重要な鍵となるものが――
「――あそこに行こう!」
「え? ……あ、ちょっと待って!」
子どもの軽やかな身体で走り出すと、保育士は慌てて後を追ってくる。小屋に辿り着けば、扉を開いて中を覗き込んだ。
「やっぱりだ……」
包丁にまな板、カセットコンロ。シンプルではあったが、間違いない。
そこは、厨房だった。
「ここは……」
追いついた保育士が辺りを見回している。俺はすぐに厨房内を歩き、冷蔵庫へと向かう。
全身の力を振り絞ってなんとか開いた扉の中には、大量の食材が所狭しと置かれている。
「すごい、大体の具材が揃ってる……」
「えっと……もしかして……」
「うん」
「料理をしたらいいんだよ!」
子どもの舌でも苦くない、ピーマンの料理。それを作れば、俺の舌でもピーマンを問題なく食べることができ、美味しいと思えるはずだ。
俺は冷蔵庫の中から迷いなく具材を取り出していく。
その手際を不思議そうに見ていた保育士に「はい!」と豚肉を渡すと、彼女は瞳に困惑の色を浮かべる。
「ぶつ切りにしてくれる? ぼくはピーマンを切るから」
「え! わ……分かった!」
包丁とまな板を手に反対側の調理場へと向かった保育士。俺は服の袖を捲り、食べかけのピーマンに向き合う。
保育士が言っていたピザのピーマンは輪切りだ。
俺の記憶が正しければ、ピーマンは輪切りよりも縦切りをした方が苦味を感じにくい。
「出来るだけ、薄く、薄く……」
「だ、大丈夫? 包丁を使うのは危ないんじゃ……」
「大丈夫! おうちで、お母さんのお手伝いしてたから!」
心配げな保育士の声に背中で応えながら、俺はピーマンを薄切りにしていく。
試しに一本食べてみると、やはり苦いが先ほどよりはマシになったように思えた。
「すごい、上手だね……」
豚肉を切り終えた保育士が感心した様子で呟く。俺はそんな彼女にキャベツを渡し、自分はニンジンを手に取った。
「はい、ざく切り!」
「わ!」
渡されたキャベツをよいしょと受け取った保育士は、その大きな一玉をじっと見つめ――
「――ふふ。なんだか楽しいね」
小首を傾げ、ふっと頬を緩めて笑う。
俺はその発言にきょとんと瞳を瞬かせてから、自分のニンジンを握る手を見た。
そうだ。俺が今しているのは、少し変則的ではあるけれど、望んでいたリアルダンジョン攻略。
心が浮き足立つような感じはずっとしていた。
そうか、これが――。
社会人になってからずっと忘れていた――楽しいという気持ち。
「……うん!」
にっこりと笑顔で頷いた俺は、まな板に向き直る。トントンと鳴る音が心地よい。
材料を切り終えれば、後は調理するだけ。
味噌にみりんに豆板醤。フライパンで炒めていけば、厨房内が食欲を唆る香りで満たされる。
大人も子どもも大好きな、甘辛く濃い味付け。ピーマンを程よく混ぜ込んで、出来上がったのは――。
「……回鍋肉だ!」
ここまで読んでくれて、ありがとう。
俺の旅路はまだまだ続いていく。
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俺が自分の心と向き合えるように――勇気を、分けてくれないか?