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ルークルイリス物語  作者: 梅雨前線
王都地図作成編
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第七話 作戦会議

「場所を変えようか」


 ソフィは周りを見ながら言った。食事の時間ではないが、食堂の大広間の方には学生が数人いる。危険な話ではないとは思うが、周りに聞かせる話でもないだろう。ソフィも気を遣ってそう提案をしてくれたのだと思う。


「そうだね・・・。なら、いいところがある」


 アスティは立ち上がった。給仕が皿を片付けるためテーブルに来る。給仕に礼を言い、アスティとソフィは食堂を出た。ちらちらと視線を感じる。やはり食堂を出て正解だろう。


 アスティはソフィを引き連れ、廊下を進んだ。人気の無い棟に入る。使われていない部屋が多くある。その奥に目当ての場所があった。


「着いたよ」

「ここは・・・エウドクス教授の部屋か」と、ソフィは扉に掛かった木の板に書かれた名前を見て言った。


 コンコンと、アスティは木でできた、細工が彫られている扉を二度叩く。重たい木の音が静寂の廊下に響く。しばらく待ったが部屋の中からは反応がない。


「留守かな?」

「いや」

 アスティは何やら鞄をごそごそと探った。


「多分、寝ているだけだと思うよ」

 アスティは鞄から銅でできた鍵を一本取り出し、鍵穴にさす。がちゃりと鈍い音を立て鍵が開いた。


「なんで君が教授の部屋の鍵を持っているのかは、今は聞かないでおくよ」

 ソフィは少しあきれたように呟いた。


「変な意味はないよ。エウドクス教授は夜の観測が長引いた日は寝ている事が多いからね。鍵を預かっているんだ」

 アスティはそう言って丸いドアノブを持ち、扉を開いた。


 部屋に入ると、そこには足の踏み場がないほどに本や手書きで何かが書かれた紙が散らばっていた。大きな窓には遮光性の高いカーテンがかかっており、中は薄暗かった。窓の前には大きな観測に使っているのであろう木でできた円形の道具がある。部屋の端に置かれているソファの上で何かがもぞもぞと動いた。灰色の薄い毛布が床に落ちる。


「エウドクス教授、失礼します」

「おや・・・アスティ君かい。それにお隣は・・・これは失礼、ソフィロス殿下ではないですか」

「突然すいません教授。アスティに連れてこられまして・・・」


挨拶を済ませたソフィは小声になりアスティに尋ねた。


「ここでやるのか?」

「ああ。エウドクス教授は信頼できる人物だよ。問題ない。それにここには僕たち以外の人間は滅多に来ないから、作業するのにもうってつけだ」


 アスティは、いそいそと部屋を片付け来客用の椅子を探しているエウドクスに聞いた。


「エウドクス教授。しばらく部屋を使わせてもらってもいいでしょうか?」

「それは構わないが、何をするんだい?例の王子殿下の頼み事に関係するのかな?」


 アスティはとある観測の日に、エウドクス教授へソフィの頼み事の話をしていた。


「ええ。王都の地図を作ろうと思いまして」


 エウドクスの顔から笑みが消えた。か細い目から僅かに覗く栗色の瞳がアスティを見つめる。


「なるほど・・・。確かにその方法なら問題は解決しそうだね。しかしアスティ君、念のため教団には気が付かれないようにしなさい」

「そうですね・・・。確かに、地図作りが教団から異端認定されないという保証はないか」

 アスティは考えながらそう言った。


「では僕が流通を担おう。僕の名で印刷、出版すれば教団も手は出しにくいはずだ。アスティの名を残すことは難しくなるが・・・」

 ソフィは腕を組み、そう提案した。


「教団は新しいことを嫌うからね、それがいいだろう」とエウドクス教授も賛同する。


「僕もそれで構わない。名前が残らないことは少し残念だけどね。それに僕だと流通の伝手が無いから、結局はソフィに頼るしかないんだよ」

 アスティは苦笑いを浮かべながらそう言った。


「ふむ・・・」

 エウドクスは少しの間何かを考え、そしてアスティとソフィを交互に見ながら言った。


「いいだろう。この部屋は好きに使って構わない。作業もここを使いなさい」


「ありがとうございます」

 アスティはほっとした表情で答えた。エウドクスは頷き、「私は隣の部屋にいるよ」と言って隣の部屋へ行った。


「そうと決まれば、だ」

 ソフィは、エウドクスがなんとか引っ張り出した木の椅子に座って言った。

「地図を作る方法を教えてくれアスティ。必要な道具があればこちらで揃えよう」


「そうだね。僕も実際には作ったことはないけれど、原理は分かっているつもりだ。重要なことは距離と角度。この二つだと思う」

「距離と角度?」

「ああ、測量をするのさ。そのためにはいくつかの道具がいる。準備を頼めるかい?」

「それは問題ない。僕に任せてくれ」

「あと、印刷業者は・・・」

「それも大丈夫だ。僕の知り合いに印刷業を営んでいる商人がいる。活版印刷の技術を使って娯楽本を印刷し自分の商店で販売している、腕のある商人だ。アスティ、君の名前は隠して依頼をかけておくよ」

「ありがとう。よろしく頼む」


 アスティはそう言うと鞄から皺のついた薄茶色の紙を取り出し、いくつかの物の名前と数字を書いてソフィに渡した。

「これが必要なものとその量だ」


 ソフィはアスティから紙を受け取る。流れるような文字だが、丁寧で読みやすい。


「長めの木の棒に羅針盤、大量の紙とインク・・・それに羊皮紙か。これならすぐに準備できると思うよ」

「それはありがたい。明日にでも始められるね」とアスティは言った。


「それにしても・・・」

 ソフィは受け取った紙をポケットに入れ、呟いた。

「地図を作る、か。本当に君は常識外れのことを考えるね」


 アスティは立ち上がりながら答えた。


「これも一つの真理の探究だよ、ソフィ。新しい何かが見つかるかもしれない。最初はただの君からの頼み事だったけれど、今では楽しみな気持ちの方が大きいのさ。まるで東の港町へ旅行にでも行くような高揚感だよ」

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